755)がん治療におけるカンナビジールとβカリオフィレンの相乗効果

図:大麻に含まれるカンナビジオールはヒスタミン受容体の5-HT1Aやペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ(PPARγ)、TRPV(Transient Receptor Potential Vanilloid)などに作用する(①)。香辛料や大麻の精油に含まれるセスキテルペンのβ-カリオフィレンはCB2の選択的アゴニストとして作用する(②)。このような作用機序で、カンナビジオールとβ-カリオフィレンは相乗的に作用して抗炎症作用・鎮痛作用・抗不安作用・抗うつ作用・抗がん作用などを示す(③)。その結果、この2つの組合せは、様々な炎症性疾患や疼痛性疾患や神経変性疾患やがんに対して相乗的に作用して治療効果を発揮する(④)。

755)がん治療におけるカンナビジールとβカリオフィレンの相乗効果

【カンナビノイド受容体はGタンパク質共役受容体】
薬用植物の活性成分の研究から、体内の受容体が発見された例が幾つかあります。その代表が、ケシの未熟果に含まれるモルヒネやコデインなどのアヘンアルカロイド(オピオイド)が結合するオピオイド受容体や、大麻草に含まれるカンナビノイド(大麻草に含まれる薬効成分の総称)が結合するカンナビノイド受容体です。
オピオイド受容体もカンナビノイド受容体も、動物が植物成分を薬効として利用するために存在する訳ではありません。もともと生体内で内因性のリガンド(受容体に結合して活性化する成分)があって特異的な受容体との間にシグナル伝達系を作っていたものが、その受容体に結合する成分が植物にたまたま含まれていたというだけです。

オピオイド受容体は、最初はアヘンに含まれるモルヒネなどのアヘンアルカロイドが結合する細胞の受容体として見つかり、その後、このオピオイド受容体に結合する内因性オピオイドとしてベータ・エンドルフィンエンケファリンなどのいわゆる脳内麻薬(内因性オピオイド)が発見されました。
そして、これらの内因性オピオイドとオピオイド受容体が生体機能の調節に重要な役割を担っていることが明らかになったのです。

大麻草(マリファナ)には500を超える化合物が含まれていますが、そのうちカンナビノイドと呼ばれる大麻草固有の成分が100種類以上知られています。カンナビノイドの一部は体の中のカンナビノイド受容体に結合することによって様々な薬効を発揮します。

オピオイド受容体もカンナビノイド受容体もGタンパク質共役型受容体(GPCR)です。
オピオイド受容体やカンナビノイド受容体に作用するシグナル分子(リガンド)は何らかの薬効や毒性を示すことになり、医薬品開発のターゲットとして可能性を持っています。
麻薬(オピオイド)も大麻も古くから医薬品として人類が使用してきました。その薬効は最初は経験的に見つかったのですが、近代の研究によって、それらの成分が作用する受容体やシグナル伝達系が存在することが明らかになってきたということです。

【内因性カンナビノイド・システムが体の働きを調節している】
大麻由来のカンナビノイドが結合する受容体が存在することは、体内にカンナビノイド受容体に作用する体内成分が存在することを意味しています。カンナビノイド受容体と反応する体内物質を内因性カンナビノイドと言います。
カンナビノイドが結合する受容体としてCB1とCB2の2種類が見つかっています。CB1もCB2も7回膜貫通型のGタンパク質共役型受容体です

1964年にイスラエルのワイズマン研究所の ラファエル・メコーラム(Raphael Mechoulam) 博士らによって、大麻の精神変容作用の原因成分としてΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)が分離され、1988年にTHCが直接作用する受容体が発見されカンナビノイド受容体タイプ1(CB1)と命名されました。
CB1は中枢神経系のシナプスに存在し、感覚神経の末端部分にも存在します。脳内に広く分布し、末梢神経系や、さらに筋肉組織や肝臓や脂肪組織など非神経系の組織にも分布しています。
数年後にタイプ2の受容体(CB2)の遺伝子が発見されました。CB2は主に免疫系の細胞に発現しています。
1992年に内因性カンナビノイドのアナンダミド(anandamide)が発見されました。アナンダミドはサンスクリット語の「内なる至福」を意味します。
さらに、2番目の内因性カンナビノイドとして2-アラキドノイルグリセロール(2-arachidonoylglycerol) が発見され、さらにいくつかの内因性アンナビノイドが見つかっています。
内因性のカンナビノイドが同定されると、それらの生合成や分解に関与する酵素や、受容体とリガンドが結合したあとのシグナル伝達経路が解明されました。
つまり、体内には内因性カンナビノイド(アナンダミドや2-アラキドノイルグリセロールなど)と、それらを合成する酵素や分解する酵素、内因性カンナビノイドが結合するカンナビノイド受容体によって内因性カンナビノイド・システムが構成されています。


内因性カンナビノイドのアナンダミドと2-アラキドノイルグリセロールは細胞膜のリン脂質からホスホリパーゼによって生成されるアラキドン酸の代謝産物です。

内因性カンナビノイドは生理的あるいは病的刺激によってオンデマンド(要求に応じて)に細胞膜のリン脂質を分解して合成・分泌されて、カンナビノイド受容体を刺激して生理作用を示します。

内因性カンナビノイドシステムの活性化は、リガンド(内因性カンナビノイド)がCB1やCB2と直接的に作用する他に、内因性カンナビノイドの細胞内取り込みや細胞内での分解の阻害によっても起こります。
つまり、カンナビノイド系は極めて複雑なネットワークやメカニズムで生体機能を制御していると言えます。

【CB2の活性化は抗炎症作用や鎮痛作用や細胞保護作用や抗がん作用を示す】
カンナビノイド受容体のCB1は中枢神経系に多く発現しており、CB1の活性化は多様な精神作用を示します。
大麻に含まれるカンナビノイドで最も含量の多いテトラヒドロカンナビノール(THC)はCB1とCB2を活性化し、鎮痛や食欲増進や吐き気を軽減する作用や筋肉けいれんを緩和する作用などがあります。しかし、THCを多く摂取すると、不眠やめまいや運動失調や気分の高揚などの副作用が問題になります。
また、肝臓では、CB1が炎症や線維化の増悪に関与しています。(425話参照)
一方、CB2のアゴニスト(受容体に結合して作用を示す作動薬)は、炎症を抑制する抗炎症作用や鎮痛作用があります。
CB1とCB2のアゴニストの混合物である植物カンナビノイドの副作用(有害作用)の多くはCB1のアゴニストによることが明らかになっており、CB1に作用せずCB2に選択的なアゴニストは有用な薬物になることが示唆されています。

 

CB2の活性化が有効な疾患として、様々な種類の疼痛、がん、神経系の炎症や変性による疾患、免疫異常、咳、炎症性疾患、心血管疾患、肝疾患、腎臓疾患、骨の異常、かゆみ(掻痒)などが報告されています。
選択的CB2受容体アゴニストによる治療効果が期待できる疾患として以下のような多くの疾患が報告されています。(Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 2012 Dec 5; 367(1607): 3353–3363.の表1より)

  • 手術後疼痛(acute or post-operative pain)
  • 慢性炎症性疼痛(persistent inflammatory pain)
  • 神経障害性疼痛(neuropathic pain)
  • 骨転移を含むがん性疼痛(cancer pain including bone cancer pain)
  • 掻痒症(pruritus)
  • パーキンソン病(Parkinson's disease)
  • ハンチントン病(Huntington's disease)
  • 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)
  • 多発性硬化症(multiple sclerosis)
  • 自己免疫性ぶどう膜炎(autoimmune uveitis)
  • エイズ脳炎(HIV-1 brain infection)
  • アルコール性神経障害(alcohol-induced neuroinflammation/neurodegeneration)
  • 不安関連障害(anxiety-related disorders)、双極障害や人格障害や注意欠陥・多動性障害や物質使用障害における衝動(impulsivity)
  • コカイン依存(cocaine dependence)
  • 外傷性脳障害(traumatic brain injury)、脳卒中(stroke)
  • 動脈硬化症(atherosclerosis)
  • 全身性硬化症(systemic sclerosis)
  • 炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease)
  • アルコール性肝疾患(alcoholic liver disease)などの慢性肝障害(chronic liver diseases)
  • 糖尿病性腎症(diabetic nephropathy)
  • 骨粗しょう症(osteoporosis)
  • 咳(cough)
  • がん(乳がん、前立腺がん、皮膚がん、膵臓がん、結腸直腸がん、肝臓がん、転移性骨腫瘍、悪性リンパ腫、白血病、神経膠腫など)

以上のように、CB2アゴニストは多くの疾患に対して治療効果を示す可能性が報告されています。

【内因性カンナビノイド・システムは細胞間のコミュニケーション・システムの一つ】
私たちの体は、外界からの刺激や情報を感知して、脳をはじめ体内の様々な組織や臓器や細胞が反応することによって、行動し生きていくことができます。このように体を動かし制御するために、体内には様々なシステムが存在します。
例えば、交感神経系や副交感神経系や内分泌系や免疫系や循環器系や泌尿器系などのシステムが存在し、これらが正常に働くことによって、健康に生きていけます。
このようなシステムを動かしたり制御するために、様々な伝達物質が使われています。伝達物質は細胞同士が連絡をとるために使われる物質です。

図:細胞間のシグナル伝達の方法として、分泌された伝達物質が、分泌した細胞自身に作用するオートクリン(自己分泌)、分泌した細胞の近隣の細胞に作用するパラクリン(傍分泌)、血液によって分泌した細胞から離れた細胞に運ばれ、そこで作用するエンドクリン(内分泌)がある。

伝達物質としては、様々なホルモンであったり、細胞の増殖を制御する成長因子や増殖因子、免疫系を制御するサイトカイン、セロトニンやドーパミンのような神経伝達物質などがあります。そのような体を制御するシステムの一つに内因性カンナビノイド・システムがあります。
つまり、内因性カンナビノイド・システムというのは、体を制御している細胞間コミュニケーション・システムの一つなのです。
多くの細胞が、このコミュニケーション・システムを使って、細胞間の連絡を取り合って、組織や臓器の働きを制御しています。このシステムの主な働きは神経組織における神経伝達の制御です。その他に、免疫細胞や消化管や肝臓や循環器系や呼吸器系などの細胞の伝達にも関与しています。

図:内因性カンナビノイド・システムは、神経伝達(①)や免疫細胞(②)の制御だけでなく、循環器系や呼吸器系や肝臓や消化管など多くの臓器の働きを調節している(③)。

内因性カンナビノイドシステムの基本は内因性カンナビノイドとその受容体から構成されます。
内因性カンナビノイドとカンナビノイド受容体の関係は鍵と鍵穴の関係と似ています。
細胞膜にあるカンナビノイド受容体(鍵穴)に、別の細胞から産生・分泌された内因性カンナビノイド(鍵)がはまり込むことによって、細胞外からのシグナルが細胞内に伝達され、細胞の働きに変化を起こします。

図:シグナル伝達物質(①)は細胞膜の受容体(②)を介して細胞外のシグナルを細胞内に伝える。細胞内では、連鎖的な化学反応(③)が起こって、遺伝子発現や細胞機能の変化が起こる(④)。

内因性カンナビノイドは細胞膜の脂質の成分であるアラキドン酸から合成されるアナンダミド2-アラキドノイルグリセロールがあります。
これらは、神経伝達物質の分泌を制御することによって疼痛や精神活動や運動機能を制御し、さらに循環系や消化管や肝臓など多くの臓器の働きを制御しています。
カンナビノイド受容体にはCB1とCB2の2種類があります。これらは細胞膜に存在する7回膜貫通型の受容体です。
CB1は脳に多く存在し、特に海馬、基底核、大脳皮質、小脳に多く発現しています。
CB1は脂肪組織、肝臓、肺、平滑筋、消化管、膵臓のβ細胞、血管内皮細胞、生殖器、免疫組織、末梢神経、交感神経などにも発現しています。
一方、CB2は、マクロファージ、好中球、単球、リンパ球(B細胞、T細胞)、ミクログリア細胞など免疫系の細胞に多く発現しています。さらに皮膚の角化細胞や神経線維、骨芽細胞や骨細胞や破骨細胞などの骨の細胞、肝臓、膵臓のソマトスタチン産生細胞、脳のアストロサイトやミクログリア細胞、脳幹部の神経細胞などにも発現しています。
最近の研究で、神経系のCB2受容体や脳組織のグリア細胞が情動的行動にも関与することが明らかになっており、CB2受容体は不安や抑うつや記憶や知覚などの感情や脳機能にも関与していることが示されています。したがって、CB2受容体は、免疫反応や炎症反応に対する作用だけでなく、不安やうつや痛みの制御にも関与しています。

図:内因性カンナビノイドのアナンダミドと2-アラキドノイルグリセロールはカンナビノイド受容体のCB1とCB2に作用して様々な作用を発揮する。CB1とCB2は様々な臓器や組織に分布している。

アナンダミドと2-AG以外にも内因性カンナビノイドシステムに作用する脂質メディエーターが同定されています。
内因性カンナビノイド・システムは他の神経伝達物質の分泌を抑制することによって神経伝達を制御するというユニークな作用機序を持っています。抑制系の神経伝達物質のGABA(γアミノ酪酸)や興奮系の神経伝達物質のグルタミン酸のシナプス間の放出を抑制するのです。
シナプスというのは2つの神経細胞(ニューロン)の接合部で、神経細胞間のシグナル伝達を行う部分です。
通常の神経伝達物質はシナプス前ニューロンのシナプス小胞に貯蔵されて、刺激が来てシナプス間に放出されます。
神経細胞に刺激が伝わると、シナプス前ニューロンから神経伝達物質が放出され、シナプス後ニューロンにある受容体に作用して神経間のシグナルの伝達が行われます。
内因性カンナビノイドはシナプス後ニューロンから放出されて、シナプス前ニューロンに逆行性に作用して、伝達物質の放出を抑制するのです。これを逆行性シナプス伝達と言います。
内因性カンナビノイドはシナプスの刺激に応じて、シナプス後ニューロンの細胞膜のリン脂質からオンデマンドで合成されて放出されてシナプス前ニューロンに作用するのです。

図:神経を伝って刺激がシナプスに達すると、シナプス小胞が細胞膜に癒合して神経伝達物質がシナプス間隙に放出され(①)、拡散した神経伝達物質がシナプス後細胞に存在する受容体に結合することで刺激が伝達される(②)。刺激を受けたシナプス後細胞では内因性カンナビノイドのアナンダミド(AEA)や2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)が合成されて細胞外に放出され(③)、逆行性シナプス伝達(④)としてシナプス前細胞に存在するCB1受容体に結合して(⑤)、神経伝達物質の産生・放出を抑制する(⑥)。

内因性カンナビノイド・システムは運動、学習、記憶、感情、薬物依存、食欲、エネルギー代謝、疼痛などの制御に重要な働きを担っています。さらに、循環器系や免疫系や消化器系の働きの制御も行っています。
栄養素の吸収やエネルギー産生に関わる消化管、肝臓、膵臓、脾臓、骨格筋、脂肪組織にCB1とCB2が分布しており、内因性カンナビノイド・システムが食欲やエネルギー産生のバランスの制御に働いています。生体が生きていくための根幹を制御するシステムと言えます。

私たちは生きていく上でさまざまな欲求を持っていますが、中でも重要だとされているのが一般的に「食欲」「睡眠欲」「性欲」のことを指す「三大欲求」です。この人間の三大欲求の制御に最も関与しているのが内因性カンナビノイド・システムです。
この内因性カンナビノイド・システムは、幸福感を高め、うつ症状や不安症状を軽減する働きもあります。鎮痛作用やがん細胞の増殖の制御にも関わっているため、がん治療の重要なターゲットにもなっています。

【大麻成分は内因性カンナビノイド・システムに作用する】
体内にカンナビノイドが結合する受容体が知られていない間は、「大麻に医学的用途がない」という意見に対して、医学的に反論することはできませんでした。しかし、カンナビノイド受容体が発見されてからは、「大麻に医学的用途がない」という意見は完全に否定できるようになりました。
すなわち、大麻が病気の治療に役立つ最大の理由は、大麻成分が内因性カンナビノイド・システムに作用するからです
大麻に含まれるΔ9-テトラヒドロカンナビノールはカンナビノイド受容体の鍵穴に合う偽鍵のようなもので、内因性カンナビノイドと同じようにカンナビノイド受容体のCB1とCB2に結合してシグナルを伝達します。
Δ9-THCがエイズや進行がんの患者の食欲増進や体重増加の作用を発揮するのは、CB1とCB2に作用するからです。
前述のように、カンナビノイド受容体タイプ1(CB1)は中枢神経系において様々な神経伝達調節を行っており、記憶・認知、運動制御、食欲調節、報酬系の制御、鎮痛、脂肪代謝など多岐にわたる生理作用を担っています。
カンナビノイド受容体タイプ2(CB2)は免疫細胞や白血球に多く発現し、免疫機能や炎症の制御に関与しています。
CB1は中枢神経系に多く発現し、CB2は免疫細胞に多く発現していますが、カンナビノイド受容体(CB1とCB2)は多くの組織の細胞に存在し、多彩な生理機能の調節に関与しています。

脳幹部にはCB1はほとんど存在しません。これが大麻に致死的作用が無いことと関連しています。脳幹部には呼吸中枢があり、モルヒネの受容体のオピオイド受容体は脳幹部の呼吸中枢にも多く存在するので、モルヒネ過剰で呼吸抑制が起こります。大麻には呼吸抑制が起こらないので、致死的な副作用が発生しないのです。

内因性カンナビノイド・システムが関与している疾患として、多発性硬化症、脊髄損傷、神経障害性疼痛、がん、動脈硬化、脳卒中、心筋梗塞、高血圧、緑内障、肥満、メタボリック症候群、骨粗鬆症、うつ病など多数の病気が報告されています。つまり、これらの疾患の治療に内因性カンナビノイド・システムの制御(活性化や阻害など)が有効である可能性が示唆されているのです。


THCに関しては合成THC製剤を使った臨床試験の結果が数多く報告されているので、臨床例での有効性がかなり判っています。神経障害性疼痛や抗がん剤治療による吐き気や嘔吐、食欲低下、筋肉の硬直やけいれんにはかなりの有効性が証明されています。また、がん細胞に対する抗腫瘍効果も一部の腫瘍で示されています。
一方、カンナビジオールは動物実験レベルの研究が多いのですが、てんかんに対する有効性は臨床試験で証明されています。その他、炎症性疾患や不安や抑うつや抗がん作用も示唆されています。

【カンナビジオールは精神作用を示さない大麻成分】
大麻草いはカンナビノイド(Cannabinoid)と呼ばれる大麻草固有の成分が100種類以上存在します。大麻は人体に対して様々な薬効を発揮しますが、その薬効は多種類のカンナビノイドやベータ・カリオフィレンなどの精油成分などの相乗効果によります。
Δ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)は大麻の精神作用の原因となるカンナビノイドです。
THCが結合する受容体としてCB1とCB2の2種類のカンナビノイド受容体が見つかっています。CB1とCB2は7回膜貫通型のGタンパク質共役型受容体です。
カンナビジオール(Cannabidiol: CBD)はΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)と並んで大麻の主要なカンナビノイドです。
CBDはカンナビノイド受容体のCB1とCB2には作用しないためTHCのような精神作用はありません。その他の受容体(セロトニン受容体の5-HT1Aなど)やイオンチャネル(TRPV1やTRPV2など)に作用して多彩な作用を発揮します。CB1やCB2やGPR55に対してはアンタゴニスト(阻害剤)として作用します。

図:大麻の薬効成分の主体は、Δ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)で、この2つは全く異なる作用機序と薬効を示す。THCは脳内報酬系を活性化して依存性があり、精神作用(気分を高揚する作用)がある。一方、CBDには精神作用はなく、脳内報酬系を抑制して薬物依存を阻止する作用がある。

GPR55はリゾホスファチジルイノシトール(LPI)を内因性リガンドとする受容体です。
大麻の作用がCB1とCB2受容体だけでは説明できないことが指摘され、GPR55が第三の受容体として推定されています。
つまり、カンナジオールはいくつかのGタンパク質共役型受容体(CB1, CB2, GPR55)の阻害作用やイオンチャネルへの作用などによって直接的な抗がん作用を発揮するようです。その結果、THCとは全く異なる作用を発揮し、THCの副作用を軽減する作用もあります。(下図)

図:カンナビジオール(Cannabidiol)は様々な受容体に作用して、その働きに影響する。図内の(+)はその受容体にアゴニスト(作動薬)として作用して受容体を刺激する。(−)は拮抗的あるいは阻害的に作用してその受容体の働きを抑制する。カンナビノイド受容体のCB1とCB2に対してカンナビジオールは阻害作用を示す。カンナビジオールはセロトニン受容体の5-HT1A受容体とTRPV1-2バニロイド受容体を活性化する。その他にも様々な受容体やタンパク質と作用して活性化や阻害の作用を示し、これらの総合的な作用によって多彩なメカニズムで抗がん作用を発揮する。(図はBr J Clin Pharmacol 75(2):303-312, 2012年のFigure 2より改変)

【カンナビジオールは副作用を引き起さずに抗腫瘍効果を発揮する】
カンナビジオールはほとんど副作用を起こさずに抗腫瘍効果を発揮することが報告されています。以下のような報告があります。 

Report of Objective Clinical Responses of Cancer Patients to Pharmaceutical-grade Synthetic Cannabidiol.(医薬品グレードの合成カンナビジオールに対するがん患者の客観的な臨床的反応の報告)Anticancer Res. 2018 Oct;38(10):5831-5835. doi: 10.21873/anticanres.12924.

【要旨】
研究の背景と目的:カンナビノイドは、がん患者の疼痛、悪心および悪液質の管理に広く使用されている。 しかしながら、まだ何らかの抗がん活性の客観的臨床的証拠は存在していない。 この研究の目的は、様々ながん患者に対する医薬品グレードの合成カンナビジオールの効果を評価することである。

患者と方法:4年間以上における通常の診療で得た119人のがん患者のデータを解析した。

結果:臨床応答は、固形がん患者の119例のうち92%で見られた。その臨床的反応は、循環腫瘍細胞の減少や、CTスキャンで確認された腫瘍サイズの減少であった。 薬学的グレードの合成カンナビジオールを使用する場合、いかなる種類の副作用も観察されなかった。

結論:医薬品グレードの合成カンナビジオールは、乳がんおよび神経膠腫患者の治療の候補である。

100種類以上存在する大麻のカンナビノイドのうち、精神作用を示すのはテトラヒドロカンナビノール(THC)のみと考えられています。THCに次いで多いカンナビノイドがカンナビジオール(CBD)です。
大麻そのものをがん治療に使用する場合、THCによる精神作用の副作用によって投与量が制限されます。
食欲低下や不眠や吐き気や疼痛や鬱状態などの改善にはTHCの薬効が必要です。
しかし、たとえ培養細胞や動物を使った実験でTHCに抗がん作用があっても、副作用によって投与量を増やせないと、がん細胞の増殖を抑制する効果は低下します。
その点、カンナビジオールはかなり大量に投与しても、副作用はほとんど起こらないので、がん細胞の死滅を目標にした使用が可能と言えます。
カンナビジオールはEGF/EGFRシグナル系(MAPK経路とPI3K/Akt経路)とNF-κB経路を阻害して、がん細胞の増殖や生存を抑制する作用が報告されています

【大麻成分の相互作用(アントラージュ効果)】
大麻(Cannabis sativa)の成分として、現在までに500を超える化合物が分離・同定されています。
カンナビノイドというのは、大麻草固有の成分の総称で、Δ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)、カンナビジオール(CBD)、テトラヒドロカンナビヴァリン、カンナビゲロール、カンナビクロメンなど100種類以上が見つかっています。
その他に、特有の香りと機能を持つ精油成分のテルペン類(リモネン、ミルセン、α-ピネン、リナロール、β-カリオフィレン、カリオフィレン・オキサイドなど多数)やフラボノイド脂肪酸ステロイドなどが含まれています。

大麻の薬効は多くの成分の総和として理解する必要がありますが、そのうちでも含有量と薬効の関係からカンナビノイドではΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)が重要で、テルペン類ではβカリオフィレンが中心に研究されています。
大麻の薬効成分の主体は、Δ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)ですが、この2つは全く異なる作用機序を有し、相乗的に一部の効果を高めたり、一部の効果を相殺する場合もあります。
さらに、他のカンナビノイドや精油成分のテルペン類などもTHCやCBDの薬効に影響していることが指摘されています。このように大麻に含まれる複数の成分が大麻の薬効を調整していることを、アントラージュ効果(Entourage effect)と呼んでいます。「Entourage」というのは「側近」や「取り巻き」という意味です。
大麻にはTHCとCBD以外に多くのカンナビノイドが存在し、さらにテルペン、アミノ酸、タンパク質、酵素、フラボノイド、ビタミン、ミネラル、脂肪酸など多くの成分が含まれています。これらの全てが薬効に関与しているので、大麻の治療効果はこれら全ての成分の相互作用で成り立っているという考えです。

医療大麻の場合、使用する大麻に含まれるTHCとCBDの比率によって現れる薬効が違ってくるという複雑さがあります。さらに、THCとCBD以外のカンナビノイドだけでなく、テルペン類などの他の成分の薬効も関与してくるので、さらに複雑になります。  
このような複雑さが、大麻を薬として認めない理由の一つになっています。しかし、この複雑さが、大麻全体を利用する医療大麻が一部の成分を利用する合成カンナビノイドより有用性が高い理由でもあります。

図: Δ9-テトラヒドロカンナビノールはカンナビノイド受容体CB1とCB2のアゴニスト(作動薬)として作用し、テルペンのβ-カリオフィレンはCB2受容体の選択的アゴニストとしての作用を持つ。カンナビジオールはCB1の働きを阻害する作用があり、さらに5-HT1A、PPARγ、TRPV、TRPAなどの受容体やイオンチャネルなどに作用して効果を発揮する。大麻はこれらの複数の成分の相乗効果によって薬効を発揮する。また、これらの成分の比率の違いによって薬効も変化する。

【カンナビノイドとテルペノイドの相乗作用】
大麻の主成分であるΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)のみでは効能が弱く、精神変容作用など副作用が強いという欠点があり、病気の治療に使うには限界があります。THCについで多く含まれるカンナビジオール(CBD)は、THCの治療効果を高め、精神変容作用を軽減する効果があり、THCとCBDの合剤の方がTHC単剤より有用であることが知られています。
CBD以外の精神作用がないカンナビノイドのテトラヒドロカンナビヴァリン(tetrahydrocannabivarin)、カンナビゲロール(cannabigerol)、 カンナビクロメン(cannabichromene)なども大麻の薬効や、THCの副作用軽減に関与しています。
さらに、大麻に含まれる精油成分のテルペン類も、カンナビノイドの効果を高める作用が指摘されています。
テルペン類とカンナビノイドは共通の前駆物質から合成されます。したがって、テルペンの中にカンナビノイドと似た作用を示すものがあっても不思議ではありません。

大麻に含まれるテルペンとしてリモネン(limonene)、ミルセン(myrcene)、α-ピネン(α-pinene)、リナロール(linalool)、β-カリオフィレン(β-caryophyllene)、カリオフィレン・オキサイド(caryophyllene oxide)、ネロリドール(nerolidol)、フィトール(phytol)などが知られています。これらは、大麻草以外の植物や香辛料などに広く含まれており、食品から摂取しています。
これらのテルペンは米国食品医薬品局(FDA)やその他の多くの国の機関で「generally recognized as safe(GRAS)」に分類されている安全性の高い食品添加物に分類されています。
大麻の抗炎症作用と鎮痛作用においては、カンナビノイドとテルペンの相乗効果が報告されています。
すなわち、カンナビノイドもテルペンも抗炎症作用や鎮痛作用があり、これらの作用においてカンナビノイドとテルペンが相乗的に作用して効果を高めることが報告されています。
動物実験などで、カンナビジオールとβカリオフィレンをそれぞれ単独で使用するより、それらを併用する方が、抗炎症作用と鎮痛作用が強くなることが報告されています。

【CB2活性化とCB1阻害は肝障害を軽減する】
以下のような報告があります。

Role of cannabinoid receptors in hepatic fibrosis and apoptosis associated with bile duct ligation in rats.(ラットにおける胆管閉塞による肝臓の線維化とアポトーシスにおけるカンナビノイド受容体の役割)Eur J Pharmacol. 742:118-24. 2014年

ラットを使った実験で胆管を糸で結紮して胆汁の流れをせき止めると、肝臓に胆汁がうっ滞して、肝細胞が傷害され、細胞死(アポトーシス)や炎症や線維化が起こります。
この実験モデルを用いて、CB2受容体のアゴニストのβ-カリオフィレン、CB1受容体のアンタゴニストのヘモプレッシン(hemopressin)、β-カリオフィレンとCB2受容体アンタゴニストのAM630の併用についてそれらの効果を、トランスアミナーゼ値、ビリルビン値、コラーゲン量、アポトーシスなどを指標に検討しています。

その結果、CB2受容体アゴニスト(作動薬)のβ-カリオフィレンを投与したマウスとCB1受容体アンタゴニスト(阻害薬)のヘモプレッシンを投与したマウスでは、肝細胞の傷害(トランスアミナーゼの上昇など)や線維化の程度が抑制されました。β-カリオフィレンの投与群では肝細胞のアポトーシスも抑制されました。
胆汁うっ滞を生じるような肝臓疾患の治療にCB2受容体の活性化とCB1受容体の阻害の組合せは治療効果が期待できるという論文です。
カンナビジオールはCB1を阻害して肝障害を軽減することは425話で紹介しています。
したがって、βカリオフィレンとカンナビジオールの併用は肝臓の線維化の抑制に有効です。

【CB2受容体の選択的アゴニストはトリプル・ネガティブの乳がんの増殖を抑える】
以下のような報告があります。

Selective, Nontoxic CB2 Cannabinoid o-Quinone with in Vivo Activity against Triple-Negative Breast Cancer.(トリプル・ネガティブの乳がんに対してin vivoで抗腫瘍活性を示す非毒性のCB2の選択的アゴニストのo-Quinone)J Med Chem. 58(5):2256-64. 2015年

【要旨】
トリプル・ネガティブの乳がんは非常に悪性度の高い性質を示し、治療に有効な標的がないため、患者の予後は一般に悪い。この論文ではカンナビノイド受容体タイプ2(CB2)の選択的アゴニストのquinone/cannabinoid pharmacophoresを合成し、ヒトのトリプル・ネガティブの乳がん細胞をマウスに移植するin vivoの実験モデルで抗腫瘍効果を検討している。
このCB2選択的アゴニスト作用を示す物質は、ヒトのトリプル・ネガティブの乳がん細胞の培養細胞に細胞死を誘導した。
キノンとカンナビノイドの組合せは、がん細胞のCB2受容体の活性化と酸化ストレスの誘導を介してアポトーシス(細胞死)を誘導する。
正常な乳腺上皮細胞には毒性を示さなかった。
以上の結果から、CB2選択的アゴニストはトリプル・ネガティブ乳がんの治療に効果が期待できる。

がんや肝臓疾患の治療に日本でも合法的に使用できる大麻成分のカンナビジオールとβカリオフィレンを併用して使ってみる価値はあります。
βカリオフィレンについては752話で解説しています。

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