820)末期がんの抗がん剤治療は苦しむだけで延命効果はなく、死を早めることも多い

図:転移のある非小細胞肺がん患者において、終末期(死亡する30日以内)に抗がん剤治療を受けた患者の生存期間の中央値は4ヶ月であるのに対して(①)、終末期に抗がん剤治療を受けていない患者の生存期間中央値は9ヶ月であった(②)。終末期近くの緩和的抗がん剤治療の使用は、緩和ケアへのアクセスを減少し、病院で死亡する率を上昇した(③)。終末期に抗がん剤治療を受けていない患者は緩和ケアを早期から受け、ホスピスや自宅で亡くなることが多い(④)。終末期の抗がん剤治療は緩和ケアへのアクセスに悪影響を及ぼし、院内死亡率が高くなり、生存期間も短縮する。(出典:Curr Oncol. 2022 Mar; 29(3): 1316–1325.)

820)末期がんの抗がん剤治療は苦しむだけで延命効果はなく、死を早めることも多い

【抗がん剤の臨床試験ではQOL(生活の質)の悪影響は軽視されている】
がん治療は、「人々がより長く生きるか、より良く生きること」を目的にするべきであり、理想的には両方であるべきです。患者が気にかけているのは、自分がどれだけ長く生きられるか、そしてどれだけ元気に生きられるかということです。
副作用に苦しみながら3ヶ月程度の延命でもメリットがあると思う人もいますが、その事実に満足しない人の方が多いと思います。
新しい抗がん剤の臨床試験では、生活の質への悪影響はほとんど無視されています
以下のような報告があります。

Assessment of Food and Drug Administration– and European Medicines Agency–Approved Systemic Oncology Therapies and Clinically Meaningful Improvements in Quality of Life(米国食品医薬品局および欧州医薬品庁が承認した全身腫瘍療法と臨床的に意味のある生活の質の改善の評価)JAMA Netw Open. 2021 Feb; 4(2): e2033004.

緩和目的で治療を受けるがん患者にとって、生活の質 (QOL) は、生存と並んで治療の意思決定の重要な側面です。しかし、規制当局の承認は、QOL改善のエビデンスがなくても、生存期間の延長または抗腫瘍活性のみに基づく場合が多いのが実情です。

この論文では、2006 年 1 月から 2017 年 12 月までに米国食品医薬品局 (FDA) および欧州医薬品庁 (EMA) によって承認された抗がん剤治療が臨床的に意味のある QOL の改善を示すかどうかを調査しています。
合計で、214 の FDA 承認 (77 [36%]が 血液腫瘍) および 170 のEMA 承認 (52 [31%] が血液腫瘍) の適応症が含まれていました。この系統的レビューでは、FDA 承認の 40% および EMA 承認の適応症の 58% が QOLに関するデータを公表していました。しかし、臨床的に意味のある QOL改善を示した薬はFDA および EMA が承認した適応症のそれぞれ 6% と 11% でした
つまり、米国食品医薬品局 (FDA) および欧州医薬品庁 (EMA) によって承認された抗がん剤のうち、臨床的に意味のある QOL の改善を示したのは1割程度ということです。

生活の質の結果に焦点を当てる代わりに、多くの研究が無増悪生存期間について報告しています。しかし、無増悪生存期間の改善が必ずしも QOL の改善と関連していないことを示しています。
実際、承認された抗がん剤の中には、無増悪生存期間を延ばしても、全生存期間を延長せず、生活の質を悪化させるものもあります。このような薬は有害であると言うべきです。
患者にほとんど利益をもたらさない高価な抗がん剤が承認され、使用されているのが、抗がん剤治療の現状です。

【抗がん剤治療の副作用は年々増強している】
悪性腫瘍に対する化学療法の有効性は、A)治癒が期待できる、B)延命が期待できる、C)症状緩和が期待できる、D)効果が少ない、というように分けることができます。
A群の治癒が期待できるがんとして、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(中・高悪性度)、胚細胞腫瘍、絨毛がんがあります。
B群の延命が期待できるがんとして、乳がん、卵巣がん、小細胞肺がん、大腸がん、膀胱がん、骨肉腫、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫(低悪性度)、慢性骨髄性白血病があります。
このA群とB群に対しては、適応があれば抗がん剤治療を受けるメリットはあると言えます。治癒あるいは延命が期待できるがんに、抗がん剤を全く否定する意見は間違いです。
ただ現実問題として、抗がん剤が効く可能性が高いがんでも、抗がん剤治療を拒否する患者さんは多くいます。その最大の理由は副作用に対する恐怖です。

抗がん剤治療では、がん組織の縮小効果を高めるためには副作用が強くなっても仕方ないと考えています。患者さんが死なない範囲で、がん細胞に最大限のダメージを与えるのが、がん治療として最も効果があると考えています。
そのため、より抗がん作用(がん縮小効果)の強い薬剤の開発や、複数の抗がん剤を組み合わせるプロトコールが行われています。がん縮小効果を高めるために、抗がん剤治療の攻撃力を高める方向で年々エスカレートしているように思います。

副作用が強くても、延命効果があれば治療法として認められます。しかし、これは副作用で苦しむ期間が延びることも意味します。
以前は数ヶ月程度の延命効果しかなかったのが、最近ではがんの種類によっては数年間の延命効果が期待できるように抗がん剤治療も進歩しています。生存期間が延びることは良いことですが、副作用に対する有効な治療法は乏しいため、副作用で苦しむ人が増えることになります。

抗がん剤が少なかった頃は数ヶ月で効かなくなって治療が終了していたのが、現在では使える抗がん剤の種類が増えたため、効かなくなれば他の抗がん剤に切り替えるということを繰り返し、数年間にわたって治療が継続され、副作用で苦しむ人が増えるという結果になります。
通常の抗がん剤は半年から2年くらいで耐性ができて効かなくなりますが、使える抗がん剤の種類が増えたので、延々と抗がん剤治療が継続されます。

抗がん剤による末梢神経障害によるしびれや痛みに苦しんでいる患者さんの数は以前に比べてかなり増えています。しかし、有効な予防法も治療法もありません。末梢神経障害は命に関わらないので、我慢すれば良いと多くの医師は考えています。患者さんの生活の質(QOL)より、がん細胞を攻撃することを優先するのが標準治療の基本になっています

抗がん剤治療を経験した人が、再発などで再度抗がん剤治療を提案されたとき、以前の副作用の苦痛があまりに強かったので、抗がん剤だけは受けたくないという患者さんが増えています。抗がん剤治療を経験した患者さんの多くが、「あの副作用は二度と経験したくない」と思うほどつらいようです。副作用や後遺症で、抗がん剤治療を受けたことを後悔している患者さんも増えています。

私は漢方薬やサプリメントなどを使ったがんの補完・代替医療を実践しています。以前は、抗がん剤治療が効かなくなって主治医から匙を投げられたから「何か方法はないか」というのが代替医療を相談に来られる患者さんの理由として多かったのですが、最近は「抗がん剤治療は受けたくないから」という理由が増えています。

【末期がんの緩和的化学療法が増えている】
末期がん患者に対する緩和目的での化学療法(緩和的化学療法:palliative chemotherapy)の実施が増えている事が多くの研究で明らかになっています。
特に、死が迫った末期がん患者にも抗がん剤治療が行われている実態が明らかになっています。例えば、米国からの報告では、メディケア(Medicare)の給付を受けている転移性の進行がん患者の15%以上が、死亡する2週間前に抗がん剤治療を受けていることが明らかになっています。(J Clin Oncol. 2004 Jan 15;22(2):315-21.)

メディケア(Medicare)とは、米国の高齢者および障害者向け公的医療保険制度で、アメリカ合衆国に合法的に5年以上居住している65歳以上のすべての人が給付の対象となっています。
この報告では、1993年から1996年の間に肺がん、乳がん、結腸直腸がん、その他の消化器がんを診断されて1年以内に亡くなった65歳以上の28,777人を解析しています。

抗がん剤治療を受けたのは1993年の27.9%から1996年の29.5%に増えています。死亡する2週間前に抗がん剤治療を受けていたのは1993年の13.8%から1996年の18.5%に増えています。
ホスピスケアが受け易い環境が整っているほど、終末期の侵襲的治療は減ることが示されています。この論文の結論は「がん患者の終末期治療は侵襲性がますます増えている」となっています。末期がん患者の終末期ケアが穏やかなものでなく、患者に対して侵襲的(攻撃的)な状況が増えているという意味です。

イタリアの研究では、進行がん患者の23%が死亡する30日以内に抗がん剤治療を受けているという報告があります。(Tumori. 2007 Sep-Oct;93(5):417-22.)
この研究はイタリアのボローニャ大学病院の腫瘍部門あるいはボローニャのがん患者在宅ホスピスで亡くなった進行がん患者793例を対象に解析しています。主ながんは、肺がん(26.7%)、結腸直腸がん(14.8%)、乳がん(11.2%)でした。このうち445人(56.1%)が1サイクル以上の抗がん剤治療を受けています。
最後の抗がん剤投与から死亡するまでの期間の中央値は71日(1〜1913日)で、101人(22.7%)は死亡する30日以内に抗がん剤治療を受けていました
この論文では、余命が短い進行がん患者の化学療法の適切な使用に関するガイドラインを作成することが緊急に必要であることを提言しています。

【死の間際まで抗がん剤治療を受ける患者が増えている】
次の論文は、韓国のソウル国立大学病院からの報告です。

Cancer Treatment near the End-of-Life Becomes More Aggressive: Changes in Trend during 10 Years at a Single Institute.(終末期のがん治療はより侵襲的になっている:一カ所の施設における10年間の変化)Cancer Res Treat. 2015 Oct;47(4):555-63.

【要旨】
目的:この研究の目的は、10年以上の間における終末期のがん治療の実態を調査し、その変化を検討することである。

材料および方法:ソウル国立大学病院において緩和化学療法を受け、その後死亡した進行した固形がん患者が登録された。 2002年(n = 57)および2012年(n = 206)の2つの期間における連続した患者を対象にした。 終末期のがん治療の攻撃性(侵襲性)を評価した。

結果:患者の平均年齢は62歳であり、患者の65.4%(172例)が男性であった。最後の化学療法から死亡までの期間は、2002年の66.0日から2012年の34.0日に有意に短縮された(p <0.001)。2012年では患者の17%が最後の化学療法として分子標的薬を使用された。
死亡する前1ヶ月間に集中治療室で治療を受けた患者の割合は、2002年の1.8%から2012年の19.9%に増加した(p <0.001)。また、死亡する前1ヶ月間に救急外来で治療を受けた数も2002年の22.8%から2012年の74.8%に増加した(p <0.001)。
ホスピスへの紹介は9.1%から37.4%に増加したが(p <0.001)、紹介のタイミングは2002年の死亡の53日前から2012年では死亡の8日前に遅れた(p = 0.004)。
最終の化学療法として2つ以上のレジメでの分子標的薬の使用は、最終の化学療法から死亡までの期間の短縮と関連していた(ハザード比2.564; p = 0.002)。

結論:終末期におけるがん治療はこの10年間以上において、より侵襲性が高くなっていた


「aggressive」とは良い意味では「積極的」という意味ですが、この論文の場合は「攻撃的」や「侵襲的」という悪いニュアンスです。
つまり、終末期のがん治療は死ぬ間際まで抗がん剤や分子標的薬を使用するというように積極的になっていますが、これは、終末期に集中治療室や救急外来での治療を増やし、ホスピスへの転院を遅らせ、患者にとってはより攻撃的(侵襲的)になっているということです。このような状態は当然、QOL(生活の質)を悪くしています。

最後の化学療法から死亡までの期間の中央値は、2002年の66 日 (95% 信頼区間:49 ~ 83 日) から 2012年は34 日 (95% 信頼区間:30 ~ 39 日) に大幅に短縮されました
化学療法を受けてから 2 週間以内の死亡は 3.5% から 23.8% に有意に増加し、最後の化学療法から 8 週間以上経過した死亡は 56.1% から 28.6% に減少しました (p < 0.001)。

このような死ぬ間際までの抗がん剤治療によってかなりの延命が得られていれば、終末期の抗がん剤治療も許容されるのですが、実際は、延命効果は証明されていません。
つまり、終末期の積極的な抗がん剤治療は、お金をかけて、患者さんを苦しめ、何の延命も得られないということです。
中国からも同様な結果が報告されています。

Chemotherapy Near the End of Life for Chinese Patients with Solid Malignancies.(固形がんを持つ中国人患者における終末期の化学療法)Oncologist. 2017 Jan;22(1):53-60.

この論文では、中国における終末期の抗がん剤治療の実態を明らかにする目的で、中国を代表する6つの病院が参加して実施された後ろ向き研究の結果が報告されています。2010年から2014年の間で、進行した固形がんで緩和化学療法を受けて死亡した成人患者3350人を対象に検討しています。
このうち男性は2,098人(62.6%)で年齢の中央値は56歳(20-88歳)でした。抗がん剤治療を死亡する2週間前まで受けていたのは177人(5.3%)、死亡の1ヶ月前まで受けていたのは387人(11.6%)、死亡の2ヶ月前まで抗がん剤治療を受けていたのは837人(25.0%)でした。

死亡する1ヶ月以内まで抗がん剤治療を継続して受けていたがん患者は、そうでないがん患者に比べて、全生存期間の短縮(生存期間の中央値は7.1対14.2ヶ月:ハザード比は1.37、95%信頼区間:1.23-1.53、p <.001)、より集中的な治療(死亡する1ヶ月以内の集中治療室での治療、心肺蘇生および人工呼吸器の装着)と病院内での死亡が多いという結果でした(オッズ比1.53; 95%信頼区間:1.14-2.06; p = .005)。
しかし、サブグループの分析によると、経口剤の投与は集中治療質の入院の減少と病院内での死亡率は低下していました。
この調査では、終末期の抗がん剤治療が広く行われている実態を明らかにしました。
そして、副作用の強い静脈内投与による化学療法は、終末期に実施すると、患者の生存期間を有意に短縮することを明らかにしています。しかし、内服の副作用の弱い抗がん剤だと、そのような悪い結果はでない可能性が示唆されています

つまり、この研究では、死亡する1ヶ月以内という終末期の静脈注射による強い抗がん剤治療は延命効果は全くなく、むしろ患者の寿命を短くするということを明らかにしています。しかし、毒性の少ない内服の抗がん剤の場合は、そのような悪い効果は無い可能性を指摘しています
しかし、がん患者さんがいつ死ぬかは判りません。患者さんを助けようと懸命に強い抗がん剤治療を実施すると、副作用で集中治療室で治療を受ける結果になり、結果的に寿命を短縮しているということです。

進行がんや末期がんでは、体力や抵抗力が低下して、余命数ヶ月という段階になると、副作用の強い抗がん剤は受けない方が良いということは確かです。死の間際までの抗がん剤治療が患者の予後を悪化させている(寿命を短縮している)ことは多く指摘されています
次の論文も中国からの報告です。この報告では、抗がん剤治療が比較的効きやすい小細胞性肺がんでも、終末期の抗がん剤治療は患者の生存期間を短くすると報告しています。

End-of-life chemotherapy is associated with poor survival and aggressive care in patients with small cell lung cancer.(小細胞性肺がん患者における終末期の化学療法は予後を悪化させ、侵襲的なケアと関連している)J Cancer Res Clin Oncol. 2018 Aug;144(8):1591-1599.

【要旨】
研究の背景:終末期の抗がん剤治療に関する懸念がますます高まっている。がん細胞の抗がん剤感受性は、終末期の積極的な抗がん剤治療の決定に影響を与える可能性がある。小細胞肺癌などの抗がん剤感受性の高い腫瘍における終末期の化学療法に関するデータはほとんど無い。

方法:死亡した小細胞性肺がん患者の連続した症例143例を対象にした。臨床的要因および治療様式に関するデータは、電子カルテから得られた。 終末期化学療法、臨床的特徴、全生存期間、および積極的ケアの関係を調査した。

結果:約64%の患者が抗がん剤感受性を有していた。患者の30.8%は死亡する2ヶ月前まで抗がん剤治療を受けており、16.1%は死亡する1ヶ月前まで抗がん剤治療を受けていた。
年齢が若いほど終末期の抗がん剤治療の割合が高かった。
我々は、終末期の抗がん剤治療が、全症例だけでなく、抗がん剤感受性を示したサブグループにおいても、全生存期間の短縮に関連していると判断した。さらに、終末期に抗がん剤治療を受けていない患者と比較して、終末期に抗がん剤治療を受けた患者では、より集中的な治療を受けていた。

結論:小細胞性肺がん患者における終末期の抗がん剤治療は、生存期間の短縮とより侵襲的なケアと関連していた。医師や患者が緩和的化学療法を中止する時期を判断するために判断基準を確立する研究が必要である。

抗がん剤が効きにくい膵臓がんや肺がんのような場合には、末期がん患者に抗がん剤治療を行なうメリットが少ないことは容易に理解できます。それでは、抗がん剤治療が効きやすい白血病や悪性リンパ腫や小細胞性肺がんではどうかという研究が必要です。この論文では、小細胞性肺がんの患者で検討しています。
抗がん剤治療ががんを縮小する(抗がん剤感受性のある)患者でも、終末期の抗がん剤治療は患者の生存期間を短縮するというのが、この論文の結論です

【末期がんの抗がん剤治療は苦しむだけで延命効果はない】
体力や抵抗力の低下している時に抗がん剤治療を行なうことは、すでに低下している免疫力や体力に壊滅的なダメージを与え、生命力そのものを低下させ、死を早める結果にもなります。抗がん剤投与によって免疫力や生体防御力が低下すると細菌やウイルスに感染しやすくなり、ますます全身状態が悪化して死を早めます。
西洋医学のがん治療には、体力や抵抗力を高めて延命する視点は乏しいと言わざるを得ません。抗がん剤治療に代表されるように、病気の原因を取り除くためには体の抵抗力や治癒力を犠牲にしても構わないという考え方をしがちです。がんは小さくなったが、患者も亡くなった、ということがしばしば起こっています。

進行がんでも化学療法を使用する医者の言い分として、がんを少しでも縮小させることは延命につながり、痛みなどの症状を抑えることができると述べています。しかし、末期がんの状態で抗がん剤治療を受けると、苦しむだけで延命効果は無いことが明らかになっています。
末期がんで緩和の目的で抗がん剤治療を受けるとどうなるかという研究結果が米国から報告されています。(BMJ. 2014 Mar 4;348:g1219.)
この研究は米国の8カ所の腫瘍クリニックで治療を受けた386例の末期がん患者の解析です。216例(56%)が緩和の目的で抗がん剤治療を受けていました。

集中治療室(ICU)で亡くなった割合は、抗がん剤治療を受けなかった群が2%で、抗がん剤治療を受けた群では11%でした死亡時に心肺蘇生や人工呼吸器装着を受けたのは、抗がん剤治療を受けなかった群が2%で、抗がん剤治療を受けた群では14%でした

自宅で亡くなって割合は、抗がん剤治療を受けなかった群が66%で、抗がん剤治療を受けた群では47%でした。ホスピスなど自分が希望した場所で亡くなった割合は、抗がん剤治療を受けなかった群が80%で、抗がん剤治療を受けた群では65%でした。両群に生存期間の差は認めませんでした。

この研究の結果は、余命数ヶ月の末期がん患者に抗がん剤治療を行うと、「延命効果はなく、生活の質が低下し、在宅やホスピスで亡くなる率が低下し、ICU(集中治療室)で亡くなる率が高くなり、最後に心肺蘇生や人工呼吸器装着をされてしまう」ということを示しています。(下図)

図:末期がん患者386例中216例(56%)は,研究登録時(中央値:死亡前4.0ヶ月)に緩和的化学療法を受けていた。終末期に化学療法を受けた患者は、受けなかった患者よりも、集中治療室(ICU)で亡くなる可能性が高く(11% vs 2%)、死亡時に心肺蘇生や人工呼吸器の装着を受けることが多かった(14% vs 2%)。緩和的化学療法を受けた患者は自宅で看取られる率が低く(47% vs 66%)、ホスピスなど自分が希望した場所で亡くなる可能性が低かった(65% vs 80%)。しかし、生存期間には差は無かった。つまり、余命数ヶ月の末期がん患者に抗がん剤治療を行うと、「延命効果はなく、生活の質が低下し、自宅やホスピスで亡くなる率が低下し、ICU(集中治療室)で亡くなる率が高くなり、最後に心肺蘇生や人工呼吸器装着をされてしまう」 結果になる。(出典: BMJ. 2014 Mar 4;348:g1219. )

同様な報告は最近増えています。以下の報告は2022年の論文ですが、終末期の抗がん剤治療は死を早めることを指摘しています。

Palliative Systemic Therapy Given near the End of Life for Metastatic Non-Small Cell Lung Cancer(転移性非小細胞肺癌に対する終末期に行われる緩和的全身療法)Curr Oncol. 2022 Feb 23;29(3):1316-1325.

【要旨の抜粋】
背景: 様々ながんに対する終末期近くの化学療法の使用が増加している。これは、緩和ケアへのアクセスの遅延と、終末期医療の侵襲性の増加の原因となっている。しかも、生存には何の利益もないことが指摘されている。

方法: 2014 年 11 月 1 日から 2016 年 10 月 31 日までの間に1 ライン以上の緩和全身抗がん療法を受け、死亡した転移性非小細胞肺がん患者 90 人を対象にした後ろ向き(レトロスペクティブ)研究を行なった。

結果:患者の 22% が死亡までの30 日以内に緩和的抗がん剤治療を受けていた。コホート全体で、最後の治療から死亡までの平均期間は 94 日で、中央値は 57 日であった。
終末期近くの緩和的抗がん剤治療の使用は、緩和ケアへのアクセスを減少し、病院で死亡する率を上昇し、生存期間の短縮 (中央値:4.0 か月対 9.0 か月) と関連していた。

結論: この転移性非小細胞肺がん患者のレトロスペクティブ コホートでは、患者の 22% が死亡までの30 日以内に緩和的抗がん剤治療を受け、緩和ケアへのアクセスに悪影響を及ぼし、院内死亡率が高くなり、生存期間も短縮した。

これはカナダのケベック州のラヴァル大学 (Université Laval)からの研究報告です。
転移のある進行した非小細胞肺がんの治療において、終末期(死亡する30日以内)に抗がん剤治療を受けない群の生存期間中央値は9.0ヶ月であるのに対して、終末期に抗がん剤治療を受けた群の生存期間中央値は4.0ヶ月ということです。
つまり、終末期近くの抗がん剤治療は死亡を早めるということです。死ぬ間際まで抗がん剤治療を受けると、結果的には、抗がん剤治療を受けなかった人より5ヶ月も早く死亡するということです。(下図)

図:転移のある進行性の非小細胞肺がん患者において、終末期(死亡する30日以内)に抗がん剤治療をうけた患者の生存期間の中央値は4ヶ月であるのに対して、終末期に抗がん剤治療を受けていない患者の生存期間中央値は9ヶ月であった。終末期の抗がん剤治療は患者の死を早めている。

【終末期の抗がん剤治療はホスピスケアの機会を失う】
がんの薬物療法の進歩にしたがって,終末期に近い時期にも抗がん剤治療が実施されることがあります。多くの患者や家族が、とことん治療してほしいと主治医に要望することも多いようです。患者やその家族の心理は常にがん治療に期待しています。
しかし、がん治療は「あきらめないで、とことんやる」と最悪の結果になることが多いようです。

進行がんに対して無理な手術が悲惨な結末に終わることは多くの例で明らかになっています。患者や家族は治療しないことに耐えられず、無駄な治療も受け入れがちです。しかし、それが死を早めている場合も多いのです。
将来的に抗がん剤治療が進歩すれば終末期でもメリットがあるようになるかもしれません。しかし少なくとも現時点の抗がん剤治療では、「末期がんの状態で抗がん剤治療を受けると、苦しむだけで延命効果は無い」と言えます。むしろ「死を早めている可能性」も指摘されています。
余命数ヶ月の末期がん患者に抗がん剤治療を行うと悲惨な最後を迎えるという研究結果は多くの国から報告されています。

たとえば、緩和的化学療法が終末期ケアをより侵襲的なものにし、ホスピス・サービスの使用を減らすことが台湾から報告されています。(Oncologist. 2016 Jun;21(6):771-7.)
この研究では、台湾国民健康保険データベースを用いて、2009年1月1日から2011年12月31日に緩和化学療法を受けた転移性がん患者49,920人を対象に解析しています。
その結果、1回以上の救急外来受診、1回以上の集中治療室入院、および気管内挿管は、緩和的化学療法を受けた患者で有意に多かったという結果が得られています。(下図)

図:終末期(死亡2〜6か月前)に緩和的化学療法を受けると、化学療法を受けなかった場合に比べて、1回以上の救急外来受診(p <.001)、1回以上の集中治療室入院 (P <.001)、および気管内挿管(p = .02)が有意に多かった。 

また、緩和的化学療法を受けていない患者は、死亡するまでの6ヶ月間でより多くのホスピスケアを受けていました。つまり、終末期の緩和的化学療法は通常のホスピスケアから患者を遠ざける原因となっているということです
この研究では、侵襲的な終末期ケアの指標として死亡する前の1ヶ月間で1回以上の救急外来受診、1回以上の入院、14日間以上の入院、集中治療室での治療、病院での死亡、心肺蘇生、気管内挿管などを使っています。

終末期(死亡2〜6か月前)に緩和化学療法を受けると、辛い終末期ケアになり、ホスピスで穏やかに息を引き取る機会を失う可能性が高くなるという結果です。
本来、終末期ケアは、ホスピスや自宅などで穏やかに死を迎えることが重要です。しかし、終末期に緩和目的で化学療法を受けると、トラブルの多い侵襲的な終末期医療になって、悲惨な最後を遂げるということです。(下図)

図:終末期(死亡2〜6か月前)に抗がん剤治療を受けると、救急外来受診や集中治療室入院を受ける頻度が増える。ホスピスケアを受ける機会を失い、自宅など患者が望んだ場所で死亡する割合が少なくなる。

【臨床試験において抗がん剤の毒性(副作用)は軽視されている】
標準治療の抗がん剤治療は、「少しでも延命効果があれば、生活の質(QOL)の低下は評価の対象にしない」という考えが基本にあります。抗がん剤治療の臨床試験では、奏功率や生存期間の評価が優先され、生活の質への影響はほとんど評価されていないことが指摘されています。
最近の論文で以下のような報告があります。

Efficacy, safety and tolerability of drugs studied in phase 3 randomized controlled trials in solid tumors over the last decade.(過去 10 年間に固形腫瘍を対象とした第 3 相ランダム化比較試験で研究された薬剤の有効性、安全性、忍容性)Sci Rep. 2021; 11: 10843.

【要旨】
新しく承認された抗がん剤の臨床試験において、その安全性と忍容性が対照群よりも悪いことが示唆されている。第3相ランダム化比較試験で研究された薬剤の有効性と毒性のバランスについては、あまり注目されていない。 
Clinicaltrials.gov を検索して、2005 年 1 月から 2016 年 10 月までに完了した進行性の乳がん、結腸直腸がん、肺がん、または前立腺がんの患者を対象とした第3相ランダム化比較試験を特定した。
論文のデータから有効性と安全性のデータを抽出した。無増悪生存期間および全生存期間の有効性ハザード比が抽出された。
安全性に関しては、毒性による死亡、がんの悪化を伴わない治療中止、グレード 3/4 の有害事象について、オッズ比と95% 信頼区間 (CI) を計算した。

最初に特定された 377 件のランダム化比較試験のうち、88,603 人の患者を含む 143 件のランダム化比較試験が分析に含まれた。
これらのうち、79 件 (57%) の試験が主要評価項目を達成した。対照群と比較して、無増悪生存期間(ハザード比 0.80; 95% CI 0.78–0.82) と全生存期間 (ハザード比 0.87; 95% CI 0.85–0.89) の両方が実験薬で改善された。
毒性による死 (オッズ比 1.14; 95% CI 1.03–1.27)、がんの悪化を伴わない治療中止 (オッズ比1.64; 95% CI 1.56–1.71)、およびグレード 3/4 の 有害事象も、それぞれの対照群と比較して、実験薬でより多く発生した。
一般的な固形がんを対象とした第3相ランダム化比較試験の半数以上が主要評価項目を達成したが、半数近くで実験的治療は対照群と比較して安全性が劣っていた

つまり、固形腫瘍を対象にした治療薬の第3相ランダム化比較試験において、治療薬は無増悪生存期間や全生存期間においてある程度の有効性を認められていますが、毒性による死亡や治療中止やグレード 3/4 の 有害事象は治療薬で多いということです。
生存期間の延長の引き換えに毒性(副作用)が強くなることは抗がん剤治療においては多く経験されます。以下のような報告があります。

The Price We Pay for Progress: A Meta-Analysis of Harms of Newly Approved Anticancer Drugs(進歩の対価:新たに承認された抗がん剤の有害性のメタ分析)J Clin Oncol. 2012 Aug 20;30(24):3012-9

【要旨の抜粋】
目的:新しい抗がん剤の承認は、ランダム化比較試験によって、それまでの標準治療と比較して有効性が向上している結果を示すことが必要である。この際、毒性(副作用)に関してはあまり重視されていない。新たに承認された抗がん剤の毒性を分析する。

患者と方法:2000年から2010年の間に米国食品医薬品局(FDA)によって承認された固形腫瘍の治療薬を評価するランダム化比較試験を特定した。安全性と忍容性の3つのエンドポイント(治療に関連する死亡、毒性に関連する治療中止、グレード3または4の有害事象)について検討した。

結果:38 件のランダム化試験が分析された。対照群と比較して、毒性による死亡のオッズ比(OR)は新しい薬剤の方が高かった(OR、1.40; 95%CI、1.15〜1.70; P <.001)。毒性による治療中止のオッズ比も同様に新しい薬剤の方が高かった(OR、1.33; 95%CI、 1.22〜1.45、P <.001)。
グレード3または4の有害事象のオッズ比(OR、1.52; 95%CI、1.35〜1. 71; P <.001)も、新薬の方が高く、特に下痢、皮膚反応、神経障害などの非血液学的有害事象で発現が高かった。安全性エンドポイントと全生存期間または無進行生存期間の間に有意な相関関係は認めなかった。

結論:全生存期間や無増悪生存期間というエンドポイントの改善につながる新しい抗がん剤は、有害事象(副作用)の発生率と治療関連の死亡率も増加させる

新薬の多くは、全生存期間や無増悪生存期間は延長しても、有害事象(副作用)の発生率と治療関連の死亡率も増加させているという論文です。
つまり、抗がん剤の新薬は、延命効果と引き換えに、副作用による苦しみも増えているということです。
分子標的薬は当初、通常の抗がん剤のような毒性作用を持たずにがん細胞を特異的に標的とする最適な方法であると考えられていました。しかし残念ながら、これらの新しい抗がん療法が従来の治療法よりも毒性が高いことを示しています。

最近は、以前よりも抗がん剤による副作用に苦しむがん患者さんが増えている印象があります。20年くらい前は抗がん剤の種類も少なく、がん治療をする医師も抗がん剤治療の専門性が低かったため、効果が無いと諦めが早く、比較的早く匙を投げる印象がありました。
最近は、抗がん剤の種類も増え、抗がん剤治療を専門にする腫瘍内科医が増えたために、かなり無謀な抗がん剤治療を長期に渡って実施する例が増えています。

副作用が強いので抗がん剤治療をやめたいと主治医に相談しても、主治医から治療の継続を主張されて断れないので困っているというような相談が最近増えています。抗がん剤専門の腫瘍内科医のいる病院ほど、この傾向が強いようです。
腫瘍内科医が抗がん剤治療以外の治療法の選択肢を示さない(示せない)ことが問題だと思います。むしろ、抗がん剤以外の選択肢を否定する傾向にあります。ガイドラインに記載されていないものははっきりと否定します。

しかし、抗がん剤治療が理想のがん治療から程遠いのは明らかです。無増悪生存期間は伸びても、全生存期間は伸びない抗がん剤が多く使われています。3ヶ月程度の延命に、副作用が極めて強い抗がん剤が使用されています。奏功率や生存期間を延ばすために副作用が強くなっても構わないというのが、現在の抗がん剤治療の考えです。
この場合、無増悪生存期間や全生存期間が年単位で延長するのであれば、多少の毒性は許容できるかもしれません。しかし、実際は数ヶ月、多くは2ヶ月前後です。
以下のような報告があります。

Risks and benefits of anticancer drugs in advanced cancer patients: A systematic review and meta-analysis.(進行がん患者における抗がん剤のリスクと利点:系統的レビューとメタ分析)EClinicalMedicine. 2021 Oct; 40: 101130.

【要旨】
背景:標準治療の選択肢を使い果たした患者を対象に、実薬対照を用いない抗がん剤の無作為化臨床試験における抗がん剤の安全性と有効性を定量化することを目的とした。

方法:2000 年 1 月 1 日から 2021 年 1 月 7 日までの英文出版物の体系的な文献検索は、MEDLINE (PubMed) を使用して実行された。進行性固形がんの成人患者における抗がん剤治療を評価する臨床試験で、抗がん剤を使用しない緩和ケアのみを対照群とする全てのランダム化比較試験が含まれていた。
2 名の著者が独立して研究をレビューして選択した。公開された論文からのデータは、調査員によって抽出された。無増悪生存期間と全生存期間の全体的なハザード比を推定した。重度の毒性と有効性の相関関係が評価された。

結果:スクリーニングされた 3,551 件の研究のうち、47,432 人の患者を対象とした 128 件の臨床試験が基準を満たしていた。無増悪生存期間 および全生存期間の ハザード比は 0.58 [95%CI: 0.53–0.63] および 0.82 [95%CI: 0.78–0.85] であった。しかし、絶対的な利益は限られており、無増悪生存期間と全生存期間の増加は 2.1 か月と 0.5 か月であった。2つのアーム間のすべてのグレード、重度のグレードIIIとIV、およびグレードV(死亡)の有害事象における絶対過剰は、+13.9%、+10.2%、および+0.5%であった。重篤な毒性と有効性との間に弱い相関関係が認められた。

解釈: ランダム化比較試験で評価された抗がん剤は、積極的な治療を受けていない患者にくらべて、試験参加者に利益をもたらした。重度の毒性は有効性と有意な相関は認めなかった。

この臨床試験では標準治療を使い果たした進行がん患者に対して、抗がん剤治療を受けた群が無増悪生存期間が2.1ヶ月と全生存期間が 0.5 か月延長したので、患者に利益をもたらしたと評価しています。0.5ヶ月は15日です。15日間の延命で臨床的有効性を認めるのが標準治療です。有害事象(副作用)は増えますが、あまり重視されていません

この臨床試験は標準治療の選択肢を使い果たした患者を対象にしているので、元々生命予後が悪い患者を対象にしています。実際に、対照群の全生存期間の中央値は 11.1 か月であるのに対し、実験群(抗がん剤投与群)の全生存期間の 中央値は 11.6 か月でした。11.1ヶ月が11.6ヶ月に延長したので、抗がん剤治療に延命効果があるのは確かですが、有害事象(副作用)は10%以上増えており、果たして終末期の抗がん剤治療にメリットがあるかは疑問です。
薬の承認に使用される通常の臨床試験のレベルでの延命効果に関しては以下のような報告があります。

Clinical Trial Evidence Supporting US Food and Drug Administration Approval of Novel Cancer Therapies Between 2000 and 2016(米国食品医薬品局による 2000 年から 2016 年までの新規がん治療薬の承認を裏付ける臨床試験の証拠)JAMA Netw Open. 2020 Nov 2;3(11):e2024406.

医薬品の承認を裏付けるために使用される臨床試験の結果は、患者と臨床医が意思決定に使用できる利益と害に関する唯一の情報です。しかし、これらのデータを取り巻く不確実性について懸念が生じています。
この論文では、2000 年から 2016 年の間に初めて承認されたすべての新規抗がん剤の米国食品医薬品局(FDA)承認時に提出された臨床試験データを解析しています。

2000 年から 2016 年の間に行われた127 の臨床試験のデータに基づいて、92 の新規抗がん剤が 100 の適応症について FDA によって承認されました。127 件の臨床試験には、中央値で 191 人の参加者が含まれていました。
全体として、65 件の臨床試験 (51.2%) が無作為化され、95 件の臨床試験 (74.8%) が非盲検でした。100の適応症のうち、44の適応症が迅速承認を受け、42の適応症が血液がんに適用され、58の適応症が固形がんに適用されました。
新薬の平均ハザード比は、全生存率で 0.77 (95% 信頼区間:0.73-0.81)、無増悪生存率で 0.52 (95%信頼区間:0.47-0.57) でした。絶対生存期間の延長の中央値は 2.40 ヶ月(73日)でした

抗がん剤承認を目的とした臨床試験は、理想のがん患者を対象に行います。製薬企業が主導しているランダム化比較試験は、高齢患者や併存疾患および特定の併用薬を有する患者を除外しています。
このような利益(効果)が出やすく、リスク(副作用)が出にくい最高の条件で実施された臨床試験で承認された薬物は、高齢者や併存疾患を有する患者などを含む現実世界の集団を代表するものではない可能性があります。
つまり、高齢者や併存疾患を有する患者の場合は、臨床試験の結果と比べて、副作用は多く、利益(効果)は少なくなる可能性が高いことは常識的に推測できます

つまり、理想の患者を対象にした臨床試験で絶対生存期間延長の中央値が2.40 か月という結果は、70歳以上の高齢者や、体力や栄養状態が低下した患者や、併存疾患(循環器疾患や糖尿病など)を持っている患者の場合は、その絶対生存期間の延長は得られない可能性もあります。生存期間の短縮の可能性もあります。

この結果は、米国およびヨーロッパからの医薬品承認データの他の評価と全体的に一致しています。
2002 年から 2014 年の間に FDA が固形腫瘍の適応症に対して付与した 71 件の承認の分析で、全生存期間の延長の中央値は 2.1ヶ月でした。(JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. 2014;140(12):1225-1236.)
2003 年から 2013 年の間に FDA と欧州医薬品庁によって承認された 62 の抗がん剤の分析では、全生存期間の延長の中央値は全体で 3.43 ヶ月、血液がんの適応症で 2.61 ヶ月でした。(JAMA Oncol. 2017;3(3):382-390.)
2009 年から 2013 年の間に欧州医薬品庁によって承認された 48 種類の抗がん剤で、全生存期間延長の中央値が 2.7 か月 (1.0 ~ 5.8 か月)でした。(BMJ. 2017;359:j4530.)

承認後に実施されたその後の研究では、多くの場合、生存期間の利益が記録されていないと報告されています。
例えば、FDA の迅速承認経路を介して承認された 93 のがん治療薬のうち 15 でのみ 全生存期間の利点が認められたことが示されました。(JAMA Intern Med. 2019;179(7):906-913.)
つまり、最近承認された抗がん剤の延命効果は、理想の患者集団で2〜3ヶ月程度という事実を理解しておく必要があります

【転移がんでも抗がん剤治療で治ると思っている患者が多い】
転移のあるステージ4の進行がんは抗がん剤治療では根治はほぼ不可能です。しかし、ステージ4の進行がんでも、抗がん剤治療でがんが治ると間違って信じている患者さんが多いようです。以下のような報告があります。

Patients' expectations about effects of chemotherapy for advanced cancer.(進行がんに対する化学療法の効果への患者の期待)N Engl J Med. 2012 Oct 25;367(17):1616-25.

【要旨】
背景:転移を伴う肺がんや大腸がんに対して、抗がん剤治療が週〜月単位で生存期間を延長し、症状を緩和できるが、治癒させることはできない。

方法:全米規模の前向き観察コホート研究のCanCORS研究(the Cancer Care Outcomes Research and Surveillance study)の参加者のうち、がん診断後に抗がん剤治療を受け、診断されて4ヶ月後の時点で生存していた転移を伴う肺がんまたは大腸がん患者1193例を対象にした。
我々は、化学療法によって治癒する可能性があるという期待を持つ患者がどの程度存在するかを調査し、この期待に関連する臨床的、社会的および健康システムの要因を解析した。データは診療録のレビューに加えて、専門の面接官による患者調査から得た。

結果:肺がん患者の69%と大腸がん患者の81%が、抗がん剤治療によって自分のがんが根治する可能性は乏しいということを理解していなかった。化学療法に関する不正確な思い込みのリスクは、結腸直腸がん患者の方が肺がん患者より高かった(オッズ比1.75, 95%信頼区間:1.29〜2.37)。
主治医とのコミュニケーションが極めて良好と評価した患者の方が、コミュニケーションがあまり良好で無いと評価した患者よりも、自分は治ると誤解している率が高かった(オッズ比 1.90; 95%信頼区間:1.33〜2.72)

結論:難治性のがんの治療で化学療法を受けている患者の多くは、化学療法によって治癒する可能性が低いことを理解していない可能性が示された。自分の好みに合った情報に基づいた治療の決定を下す可能性がある。医師は患者の理解を向上させることができるかもしれないが、これは患者の満足感を犠牲にするかもしれない。

転移のある肺がんや大腸がんが、抗がん剤治療で根治する(がん細胞が体内からいなくなる)ことは、ほぼあり得ないというのが、現在のがん治療の常識です。しかし、このような進行がん患者の7〜8割は「抗がん剤治療で治癒する可能性が低い」ことを理解していないという結果です。
しかも、主治医とコミュニケーションが良好に取れていると思っている患者ほど、誤解していることが多いという事です。患者は自分の都合の良いように理解し、予後について厳しい話をするほど、患者満足度が低下するようです。
このようにがん患者は抗がん剤治療に過大な期待をもっているので、死の直前まで抗がん剤治療を受け、その結果、ホスピスでの適切な終末期ケアを受ける機会を逃しているという事になるようです。

進行がんと診断された患者の多くは、平均余命を過大評価しています。
いくつかの小規模な研究では、緩和目的で化学療法を受けている患者や、進行がんで抗がん剤治療を受けている患者を含め、患者が大きな期待を寄せている可能性があることが示されています。
これらの研究は、進行がん患者の多くが、緩和的化学療法が治癒につながる可能性があると信じていることを報告しています

【抗がん剤の効果を過大評価しているがん患者が多い】
抗がん剤の有効性は、がんが縮小したかどうかで判断されます。画像診断でがんの大きさが30%以上縮小した状態が1ヶ月以上続いた場合に「有効」と言います。画像診断でがんが消失した場合を完全寛解(または完全奏功)と言い、30%以上縮小したが消失はしていない場合を部分寛解部分奏功)といいます。
完全寛解といっても、がん細胞が完全に消滅した訳ではなく、画像で見えなくなっただけで、微小ながんが残っていることが多いので、いずれ再増殖してくる可能性があります。部分寛解の場合、その状態が長く続けば延命に結びつくのですが、死滅しないで残ったがん細胞は、その抗がん剤に抵抗性をもったがん細胞ですので、すぐに増殖して数ヶ月後にはもとの大きさに戻ることが多いので、延命には結びつかないことが多いのです。
抗がん剤を使った患者のうち、完全寛解あるいは部分寛解が得られた割合を奏功率あるいは有効率と言っています。
「奏功率が3割」とか「がん患者の3割に効く」というと、患者さんは、3割の人が治ると思いがちですが、それは間違いです。抗がん剤治療を受けた人のうち腫瘍が一時的(1ヶ月以上)に縮小する割合が3割ということです。有効率が3割でも、延命効果はなく、治癒率は0という例はいくらでもあります。

腫瘍を早く小さくする「切れ味の良い」化学療法は、患者も医者も治療効果が目に見えるため安心感と期待を持ってしまいます。しかし多くの臨床経験から、「腫瘍縮小率の大きさと延命効果が結びつかない」ことが認識されるようになり、「奏功率の高い抗がん剤が良い」という考えには多くの疑問が出されています。
進行がんでも化学療法を使用する医者の言い分として、がんを少しでも縮小させることは延命につながり、痛みなどの症状を抑えることができると述べています。確かに、進行した胃がんや大腸がんでは、抗がん剤を使った方が使わない場合より平均で数カ月~1年程度生存が延びるという報告もあります。しかし一方、抗がん剤の副作用で亡くなる人も多くいます。

健康食品やサプリメントには誇大広告がつきものです。ほとんど効果がないのに、がんに効くと思わせるような巧みな宣伝が行われています。
一方、抗がん剤は国の認可を受けた医薬品ですので、誇大な宣伝は行われていないように思われていますが、そうではありません。
6ヶ月目で比較すると20%くらいの生存率の上昇があるが、平均生存期間(生存期間中央値)は2ヶ月程度延びるだけで、2年後は非治療群と生存率で差が無くなって、4年後には両グループとも全員死亡したという場合でも、「死亡リスク低下」や「生存率が大幅に上昇」や「画期的な新薬」という表現で宣伝されているのです。

生存率が20%上がるというと、20%の人が多く治ると勘違いしている患者さんもいます。このような説明で、がん患者は抗がん剤治療に過大な期待を持ちます。そのため、副作用の説明を受けても、少しでも延命できるならと抗がん剤治療を受けています。
しかし、無増悪生存期間の延長や腫瘍縮小(奏功率)で有効性が示されても、延命効果(全生存期間の延長)が証明されていない抗がん剤は数多くあります

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