797)オメガ3系不飽和脂肪酸の抗がん作用(その2):オリーブオイルとの相乗効果

図:オリーブオイル(①)に含まれる一価不飽和脂肪酸のオレイン酸やその他多くの成分(②)には、抗酸化・抗炎症作用や抗菌・抗がん作用や免疫増強作用などが報告されており(③)、これらの相乗効果によって、がんや循環器疾患や感染症や炎症性疾患を予防・治療する効果を発揮すると考えられている(④)。亜麻仁油・紫蘇油・クルミ・魚油にはω3系不飽和脂肪酸が多く含まれる(⑤)。ドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)はレゾルビンやプロテクチンなどの抗炎症性の脂質メディエーターを産生し、抗炎症作用を発揮する(⑤)。さらに、ω3系多価不飽和脂肪酸自体に抗酸化作用があり、アラキドン酸と競合することによって抗炎症作用や抗がん作用を発揮する(⑥)。がん、循環器疾患、感染症、炎症性疾患などの予防や治療において、ω3系多価不飽和脂肪酸(αリノレン酸、DHA、EPA)とオリーブオイルを多く摂取するメリットは大きい。

797)オメガ3系不飽和脂肪酸の抗がん作用(その2):オリーブオイルとの相乗効果

【地中海式食事の健康作用はオリーブオイルと魚油が寄与している】
以下のような報告があります。

Do Olive and Fish Oils of the Mediterranean Diet Have a Role in Triple Negative Breast Cancer Prevention and Therapy? An Exploration of Evidence in Cells and Animal Models.(地中海式食事のオリーブ油と魚油は、トリプルネガティブ乳がんの予防と治療に役割を果たしているか? 細胞および動物モデルにおける証拠の調査)Front Nutr. 2020; 7: 571455.

【要旨の抜粋】
乳がんは、世界中の女性の間で最も一般的な悪性腫瘍であり、がん関連死亡の原因となっている。その病因についての解明が不十分であり、有効な治療法が無いため、トリプルネガティブ乳がんは予後が悪い。
トリプルネガティブ乳がんの発生と進行を抑えることができる、副作用が少なくて有効な方法の解明が望まれている。
地中海式食事がホルモン受容体陰性乳がんの発生率を減らすこと、特に魚とオリーブオイルの消費量が多いほどホルモン受容体陰性乳がんの発生率が低いことが多くの研究で明らかになっている
この論文では、トリプルネガティブ乳がんに対する魚油、オリーブオイル、およびそれらの成分の影響を調査した過去5年間の研究のレビューを行った。
オリーブオイルに含まれるポリフェノール化合物とオレイン酸に加えて、魚油のω-3必須脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)に焦点を当てた研究を含めた。
トリプルネガティブ乳がんにおいて異常が見られるPI3K / Akt / mTOR、NF-κB/ COX2、Wnt/β-カテニンなどのシグナル伝達経路に対して、地中海式食事の成分がどのような効果を発揮するかを検討した。

地中海料理とは、ギリシャ、イタリア、ポルトガル、スペインなどのヨーロッパや北アフリカ諸国の地中海沿岸の料理で、植物ベースの食品(野菜、果物、全粒穀物、豆類など)や魚介類が豊富で、オリーブオイルをふんだんに使うのが特徴です。適量の赤ワインを飲むことも心血管リスクの低減に関与していると言われています。
地中海沿岸地域の人たちは、このような食生活のおかげで心臓病による死亡率が低いと言われています。地中海式食事ががんやアルツハイマー病などの神経変性性疾患のリスクを減少させるという研究結果も出ています。

乳がんに関しては、臨床試験と疫学研究の両方で、地中海式食事が乳がんの発生率を低下させる効果が報告されています。トリプルネガティブ乳がんの増殖や転移を抑制する効果も動物実験などで報告されています。
このような地中海式食事の抗がん作用の理由として、オリーブオイルと魚油の寄与が大きいと考えられています。

魚油に多く含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)EPA(エイコサペンタエン酸)などのω-3系不飽和脂肪酸、オリーブオイルに含まれる一価不飽和脂肪酸のオレイン酸と、ポリフェノールトリテルペンなどの成分が、相乗的な抗腫瘍効果を発揮すると考えられています。

作用メカニズム的には、トリプルネガティブ乳がんにおいて異常が見られるPI3K / Akt / mTOR、NF-κB/ COX2、Wnt/β-カテニンなどのシグナル伝達経路に対して、オリーブオイルや魚油に含まれる成分が抑制的に作用することが示されています。

【ω3系不飽和脂肪酸は乳がん治療後の生存率を高める】

EPAとDHAは、培養細胞を使ったin vitro(試験管内)の実験で乳がん細胞の増殖を抑制し、動物を使った発がん実験では乳がんの発がん過程を抑制する結果が報告されています。さらに、臨床試験でEPAやDHAを多く摂取すると乳がんの治療後の生存率を高めるという研究結果が報告されています。(J Nutr. 141(2):201-6.2011年)
この研究は米国のカリフォルニア大学サンディエゴ校のMooresがんセンターからの報告で、早期の乳がんと診断され治療を受けた3081人を対象にしたコホート研究で、EPAとDHAの摂取が乳がん治療後の予後にどのような影響を及ぼすかを検討しています。
食事内容は、追跡期間中に何回かインタビューして、質問した時点から24時間前までの全ての食事や飲み物を聞き取る方法で行っています。平均追跡期間は7.3年で、食事やサプリメントからのEPAとDHAの摂取量と、無再発生存期間と全生存率との関連を検討しています。
その結果、食事からのEPA/DHAの摂取が多い女性は、がんの再発および新たな乳がんの発生のリスクが約25%減少していました。EPA/DHAの摂取の少ない下位3分の1のグループに対して、中位3分の1のグループにおける乳がんの再発および新たな乳がんの発生リスクは0.74、上位3分の1のグループの発生リスクは0.72でした。


食事からのEPA/DHAの摂取の多い女性は、用量依存的に全死因死亡率が低下しました。EPA/DHAの摂取の少ない下位3分の1のグループに対して、中位3分の1のグループの全死因死亡率は0.75、上位3分の1のグループは0.59でした。魚油サプリメントからのEPAとDHAの摂取は乳がんの予後との関連は認めませんでした。

この論文の結論は、「食事からの魚油の摂取は、早期の乳がんにおいて再発リスクや全死因死亡率を低下させる」という内容でした。

このコホート研究は米国で行われたthe Women’s Healthy Eating and Living (WHEL) studyという研究で、直訳すると「女性の健康的な食事と生活の研究」という臨床試験です。この本来の目的は、早期の乳がんの治療後に野菜・果物・食物繊維が豊富で脂肪が少ない食事が、乳がんの予後(再発率や生存率)にどのような影響を与えるかを検討する目的で行われました。
その結果は2007 年に報告されていますが、結論は「野菜と果物と食物繊維が極めて豊富で脂肪の少ない食事は、7.3年間の追跡調査で、早期の乳がんの治療後の再発や新たな乳がんの発生や死亡率を減らす効果は認めなかった」というものでした。(JAMA 298:289-98, 2007) 
 
この時に集めたデータで、食事中からの魚油の摂取量で検討すると、魚油(つまりDHAとEPA)の摂取量が多いと、再発率や新たな乳がんの発生率や全死因死亡率が低下するという結果が得られたということです。
ただしこの場合、DHAとEPAだけの効果かどうかは断定できません。魚の摂取の多い人は、相対的に肉の摂取が少ないはずですので、肉が少ないためだけかもしれません。あるいは、魚が豊富で肉が少ない食事が相乗的に効果を発揮している可能性もあります。  

DHA/EPAをサプリメントから多く摂取したグループでは再発率や死亡率を下げる効果が認められていませんが、これは、DHA/EPAのサプリメントを摂取していたのは3000人中130人くらいしかいないため、人数が少なくて統計的に差が出ないという理由の他、サプリメントを摂取している人の中には肉を多く摂取している人も混じっている可能性もあります。食品からDHAやEPAの摂取が多い人は魚が多いので肉は少ないという関係がありますが、サプリメントからのDHAやEPAの摂取が多い人はそのような差が無いので、効果が出にくい可能性があります。


いずれにしても、早期の乳がん患者さんは、日頃から魚油(DHAとEPA)を多く摂取するような食事は、がんの再発予防と死亡率を低下させる効果が期待できるといえます。このような食事(魚が多く肉が少ない)を行っておれば、DHA/EPAのサプリメントでの摂取はさらに抗腫瘍効果を高めるはずです。

なお、DHAやEPAの摂取が乳がんの発生を減らすかどうかは、多数の疫学研究が行われていますが、効果を認めないという結果もかなりあります。この理由に一つは、米国など魚の摂取が全体的に少ない国で比較しても、魚油のがん予防効果が出にくい可能性があります。魚油の摂取が多い国での検討では、多く摂取しているグループと摂取量の少ないグループで統計的な差が出やすいようです。

例えば、米国より魚摂取が多いシンガポールの前向きコホート研究では、DHA/EPAの摂取量と乳がんの発がんリスクが逆相関する結果が得られています。また、食事の内容を調査するのではなく、血中のDHAやEPAの濃度を測定する調査法でも、血中のオメガ3系不飽和脂肪酸の多いほど乳がんの発生率が低いことが報告されています。(Int J Cancer 111: 584-91, 2004)

また、約35000人を追跡したthe Vitamins and Lifestyle(VITAL)Cohort研究では、魚油サプリメントを摂取している人は乳がんの発生が減少する結果が得られています。(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 19: 1696-708, 2010年)

したがって、日頃から食事やサプリメントからの魚油(DHA, EPA)の摂取は、乳がんの発生や再発の予防に効果が期待できると言えます。(下図)

図:亜麻仁油や紫蘇油(エゴマ油)やクルミに多く含まれるα-リノレン酸や、魚の油に多く含まれるエイコサペンタン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)はω3系不飽和脂肪酸に分類される。α-リノレン酸は体内で合成されないので必須脂肪酸になる。体内でα-リノレン酸はEPAとDHAに変換されるが、その量は少ないので、EPAとDHAも最近は必須脂肪酸に入れることもある。EPAとDHAは乳がんの発生や再発を予防する効果、抗がん剤治療の副作用を軽減し抗腫瘍効果を高める効果、悪液質を改善する効果などがあることが報告されている。EPAやDHAの摂取量が多いと乳がん治療後の再発や死亡のリスクが低下することが報告されている。

【オメガ3系不飽和脂肪酸はパクリタキセルの末梢神経障害を軽減する】

DHAやEPAが抗がん剤治療の副作用を軽減し、抗腫瘍効果を高める効果があることが多くの研究によって示されています。



培養細胞を使った実験などで、がん細胞の細胞膜の脂肪の組成においてDHAが増えると、イオンチャンネルや受容体やシグナル伝達系に変化が起こって、がん細胞の抗がん剤感受性が高まることが報告されています。そのような作用機序で、DHAを多く摂取すると乳がん細胞の抗がん剤感受性が高まると考えられています。


米国オハイオ州立大学の外科からの報告で、乳がんのハイリスク患者を対象にDHA/EPAを1日0.84, 2.52, 5.04, 7.56 gの4つの用量で投与し、血中と乳腺脂肪組織内のEPA/DHAの量が増加することが確かめられています。1日7.56gまでのDHA/EPA投与は副作用が無く安全に投与できると報告されています。(Am J Clin Nutr. 91(5):1185-94. 2010年)
 

EPAとDHAがパクリタキセルによる末梢神経障害を軽減することが報告されています。(BMC Cancer 12:355, 2012年)

知覚性末梢神経の軸索障害はパクリタキセルの主な用量制限性の副作用です。ω3系不飽和脂肪酸には神経細胞に対する保護作用と、末梢神経障害の発生に関与している炎症性サイトカインの産生を阻害する作用によって、様々な神経系疾患に対して治療効果を有しています。そこで、パクリタキセルによって引き起こされる末梢神経障害に対して、ω3系不飽和脂肪酸に末梢神経障害の発生頻度や重症度を減らす効果があるかどうかを検討する目的で、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験が行われました。


研究では、乳がん患者を無作為に2群に分け、パクリタキセルによる治療中および治療終了後1ヶ月間の間、1群にはω3系不飽和脂肪酸(1回640mg,1日3回)を摂取させ、もう1群(コントロール群)にはプラセボを摂取させました。
抗がん剤開始前と終了後1ヶ月経過後に、患者の臨床症状と電気生理学的検査を行い、末梢神経障害の程度を簡易総合神経障害スコアに基づいて評価しました。
その結果、ω3不飽和脂肪酸を摂取した30人のうち21例(70%)は神経障害の発生を認めませんでした。一方、コントロール群では神経障害の発生を認めなかったのは27人中11例(40.7%)で、この発生頻度の差は統計的に有意でした。コントロール群(プラセボ群)の方が末梢神経障害の重症度は高い傾向にありました。


パクリタキセルは乳がん、胃がん、卵巣がん、子宮体がん、非小細胞性肺がんに使われる抗がん剤で、末梢神経障害によって投与が困難になることが多い抗がん剤です。
DHA/EPAが神経障害を緩和するメカニズムとして、炎症性サイトカインやプロスタグランジンの産生を抑える抗炎症作用や、神経細胞の膜に取込まれることによって神経細胞の機能や修復を促進する作用などが指摘されています。DHAやEPAが神経細胞の細胞膜に取込まれると、イオンチャンネルや受容体やシグナル伝達に作用して、神経細胞の働きや修復が促進されるようです。

【α-リノレン酸が豊富な亜麻仁油、紫蘇油、くるみ】 
亜麻仁油はアマ(亜麻)の種子(亜麻仁(あまに))から採れる油で、紫蘇油(エゴマ油)はシソ科のエゴマの種子から採れる油です。亜麻仁油は英語ではフラックスシードオイル(flaxseed oil)といいます。亜麻仁油も紫蘇油もともにω3系不飽和脂肪酸のα-リノレン酸が豊富です。野菜にはリノール酸などのω6系脂肪酸が多いので、ω3系不飽和脂肪酸のα-リノレン酸の豊富な紫蘇油か亜麻仁油をドレッシングとして使用するのが有効です。

亜麻仁(flaxseed)は亜麻(Linum usitatissimun L)種子で、α-リノレン酸やリグナン、食物繊維を豊富に含みます。亜麻仁100グラム中に41gの脂肪を含み、α-リノレン酸23gが含まれます。食物繊維は28g、蛋白質21g、糖質は6gです。さらに、ポリフェノールの一種のリグナンを多く含みます。リグナンは抗酸化作用や抗炎症作用があり、乳がんを含め多くのがんを予防する効果があります。
亜麻仁を絞った亜麻仁油(フラックスシードオイル)には、100g中にα-リノレン酸が50〜60g含まれています。亜麻の種子と油は欧米では栄養や健康面から高く評価され、食生活に欠かせない食物として人気があります。がんの食事療法でも、欧米では非常に多く使用されています。

紫蘇油はシソ科植物のエゴマ(荏胡麻、学名:Perilla frutescens var. frutescens)の種子を絞った油で、エゴマ油とも呼ばれます。エゴマの種子はゴマと同様に煎ってすりつぶして薬味などに使用されます。ゴマの一種と思われがちですが、青じそと同じシソ科の植物です。エゴマは日本最古の油脂植物と言われ、江戸時代後期に菜種(なたね)油が広がるまでは日本で食用油と言えばエゴマ油でした。菜種油が広まってからはエゴマの生産が激減しましたが、α-リノレン酸を60%以上含むため近年その健康作用が見直され、利用が増えています。

ナッツ類ではクルミがω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸が豊富で、さらにビタミンやミネラルやポリフェノール類も豊富です。クルミは人類が最も古くから食べていた木の実と言われています。アメリカ食品医薬品局(FDA)はクルミの健康作用を確認し、1日42グラムのクルミを飽和脂肪酸やコレステロールの少ない料理に加え、カロリー摂取量がオーバ−しない場合、心疾患のリスクが抑えられると報告しています。クルミ42グラム(1.5オンス)にはω3不飽和脂肪酸のαリノレン酸が3.8グラムも含まれています。抗酸化成分を多く含み、「植物性の卵」とも言われ、良質の消化されやすい蛋白質も豊富です。

以上のように、脂肪酸には飽和脂肪酸不飽和脂肪酸があり、不飽和脂肪酸には、一価不飽和脂肪酸のオレイン酸、多価不飽和脂肪酸のω3系不飽和脂肪酸ω6系不飽和脂肪酸があります(下表)。
飽和脂肪酸とω6系不飽和脂肪酸はがんには良くない脂肪で、オリーブ油、魚油(DHA,EPA)、亜麻仁油(フラックスシードオイル)、紫蘇油(エゴマ油)はがんを抑制する油と言えます。ナッツ類ではクルミが推奨されます。
飽和脂肪酸とω6系不飽和脂肪酸と糖質を減らし、その代わりにオレイン酸やω3系不飽和脂肪酸のような抗がん作用のある脂肪を多く摂取すると、がん細胞の増殖抑制効果を増強できます

表:主な長鎖脂肪酸の種類と特徴。がんの予防や治療には、ω9系の一価不飽和脂肪酸のオレイン酸とω3系多価不飽和脂肪酸のα-リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸を多く利用し、飽和脂肪酸とω6系多価不飽和脂肪酸は減らすことが望ましい。

【ω3 系とω6 系の不飽和脂肪酸はその働きに大きな違いがある】
リノール酸 CH3(CH2)3 CH2CH=CHCH2CH=CH(CH2)7COOH では、CH3 に最も近い二重結合は、CH3から6番目のCにあります。この位置に二重結合を持つ全ての脂肪酸をω6系不飽和脂肪酸に分類します。

α-リノレン酸CH3CH2CH=CHCH2CH=CHCH2CH=CH(CH2)7COOH では、CH3に最も近い二重結合はCH3から3番目のC にあります。この位置に二重結合を持つ全ての脂肪酸をω3系不飽和脂肪酸に分類します。
最近ではω6の代わりにn-6 を用いてn-6系不飽和脂肪酸、そしてω3の代わりにn-3を用いてn-3系不飽和脂肪酸と呼ぶことが多くなっています(図)。

図:ω3系不飽和脂肪酸とω6系不飽和脂肪酸の化学構造。構造式では連結部の炭素(C)と炭素と結合する水素(H)は省略されている。メチル基(CH3)側から数えた炭素の番号はω1(あるいはn-1)、ω2(あるいはn-2)と表示する。最初の二重結合がω3の位置にある不飽和脂肪酸をω3系不飽和脂肪酸あるいはn-3系不飽和脂肪酸と言い、ω6の位置にある不飽和脂肪酸をω6系不飽和脂肪酸あるいはn-3系不飽和脂肪酸と呼ぶ。

ω6 系不飽和脂肪酸リノール酸 → γ-リノレン酸 → アラキドン酸のように代謝されていき、アラキドン酸からプロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンなどの重要な生理活性物質が合成されます。プロスタグランジンなどのアラキドン酸代謝産物は炎症や細胞のがん化を促進したり、がん細胞の増殖を速める作用があるのですが、体のいろんな生理作用に必要であるため、動物は食物(植物および肉類)からリノール酸を摂取しなければ生存できません。

ω3系不飽和脂肪酸α-リノレン酸 → エイコサペンタエン酸(EPA) → ドコサヘキサエン酸(DHA)と代謝されていきます。ただし、人間の体内ではα-リノレン酸からエイコサペンタエン酸(EPA)への変換は極めて少なく、ドコサヘキサエン酸(DHA)への変換はほとんどゼロだと言われています。したがって、α-リノレン酸を多く摂取してもEPAやDHAのような抗がん作用や健康作用は得られません。

ω3 系不飽和脂肪酸は炎症やアレルギーを抑え、血栓の形成や動脈硬化やがん細胞の発育を抑える作用があります。したがって、食物中のα-リノレン酸/リノール酸の比を上げると、血栓性疾患、脳梗塞および心筋梗塞、炎症、アレルギー、発がん、がんの転移、高血圧などの発症率が低下すると考えられています。

EPAやDHAを前駆体として生成されるレゾルビンプロテクチンという物質が、炎症の収束に重要な役割を果たしていることが明らかになっています。つまり、DHAやEPAを多く摂取すると体内の炎症を抑制し、これががん予防効果の一つのメカニズムになっているようです。

【DHAとEPAは抗炎症性メディエーターの前駆体】
DHAやEPAには抗炎症作用や鎮痛作用があります。実際に関節炎などの痛みを緩和し、CRPなどの炎症マーカーを低下させる作用もあります。
そのメカニズムとしては、プロスタグランジンE2などの炎症を引き起こす物質を生み出すω6系のアラキドン酸がω3系のDHAやEPAに置き換えられ、したがって炎症物質ができにくくなるから、といわれていました。
すなわち、ω3系不飽和脂肪酸を多く摂取すると、細胞膜中のω3系不飽和脂肪酸が増加して、アラキドン酸濃度が低下するので、その結果アラキドン酸由来の炎症促進性物質の産生が抑制されるという機序です。
しかし、最近の研究では、ω3系不飽和脂肪酸のDHAとEPAが炎症を抑える物質を生成することが明らかになっています。

外傷や感染などに反応して急性炎症反応が起こりますが、異物の排除が完了すると炎症反応は速やかに消散し、組織の修復過程に移行します。炎症反応が終了することを「炎症の収束(resolution of inflammation)」と言います。
炎症の収束は、これまで起炎反応の減弱化によると考えられてきましたが、最近の研究で、受動的なものではなく、能動的な機構であることが明らかになっています。
急性炎症の特徴は白血球の組織への浸潤に伴う浮腫、発赤、発熱、痛みなどで、これらの反応にはアラキドン酸から生成されるプロスタグランジンやロイコトリエンなどの脂質メディエーターが関与します。これらの物質によって好中球の浸潤や活性化、血管透過性の亢進などの炎症反応が起こります。

炎症の収束過程においては炎症性サイトカインの産生が抑制され、血管透過性が正常に戻り、好中球の遊走阻止や浸出液中のリンパ球の除去や、マクロファージによる死滅した細胞の除去などが起こります。この炎症の収束過程には、EPAやDHAなどのオメガ3系不飽和脂肪酸から体内で生成されるレゾルビンやプロテクチンという抗炎症性メディエーターが関与します。
つまり、ω3系脂肪酸はアラキドン酸と競合することで炎症性ケミカル・メディエーターの産生を阻害するだけでなく、DHAやEPAは抗炎症性(炎症収束性)の脂質メディエーターを生成することによって積極的に炎症を抑制する作用があるということです。
EPAやDHAの抗炎症作用やがん予防効果や心血管保護作用や脳神経系保護作用など多くの作用に、EPAやDHAから代謝されて生成される抗炎症性の脂質メディエーター(レゾルビンやプロテクチン)が関与しているようです。

【ω3系不飽和脂肪酸/ω6系不飽和脂肪酸の比を上げるとがん細胞はおとなしくなる】
細胞膜はタンパク質や脂肪酸や糖質から作られます。細胞膜の脂肪酸は食物から摂取された脂肪酸がそのまま取り込まれるため、食事中の脂肪酸の違いによって細胞の性質を変えることができます。その理由は、細胞膜の脂肪酸から作られるプロスタグランジンやロイコトリエンなどの化学伝達物質の種類が違ってくるからです。

リノール酸やγ-リノレン酸やアラキドン酸のようなω6系不飽和脂肪酸を多く取り込んだがん細胞は増殖が早く転移しやすくなります。一方、魚油に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)やα-リノレン酸のようなω3不飽和脂肪酸を多く取り込んだがん細胞は増殖が抑えられ、抗がん剤で死にやすくなります。
ω6系不飽和脂肪酸は、がん細胞の増殖や血管新生を促進するプロスタグランジンE2の原料になり、ω3系不飽和脂肪酸はプロスタグランジンE2の産生を抑えることが関連しています。
プロスタグランジンE2(PGE2)は細胞の増殖や運動を活発にしたり、細胞死が起こりにくくする生理作用があるため、がん細胞の増殖や転移を促進します。PGE2はω6 系不飽和脂肪酸はリノール酸から合成され、DHAなどのω3 系不飽和脂肪酸はPGE2が体内で増えるのを抑える働きがあります。

DHAががんの予防や治療の効果を高めることは多くの臨床的研究や実験的研究で明らかになっています。毎日魚を食べている人は、そうでない人に比べ大腸がんや乳がんや前立腺がんなど欧米型のがんになりにくいという研究結果もあります。特に前立腺がんを予防する効果は大規模な疫学研究で証明されています。
例えば、米国における47,882名の男性の食事の解析では、1週間に3回以上魚を食べるグループは、月に2回以下のグループと比較して、前立腺がんの発生頻度は7%の低下、進行した前立腺がんは17%の低下、転移のリスクは44%の低下を認めています。
スウェーデン人の6272名の男性を30年以上にわたって追跡調査した研究では、魚をほとんど食べないグループの前立腺がんの発生頻度は、魚を良く食べるグループの2~3倍でした。
DHAががん細胞の増殖速度を遅くしたり転移を抑制し、腫瘍血管新生を阻害し、がん細胞に細胞死(アポトーシス)を引き起こすことなどが多くのがん細胞で示されています。PGE2は血管新生を促進するので、PGE2産生を阻害するDHAには腫瘍血管の新生を阻害するようです。
その他にも、抗がん剤の効果を増強し副作用を軽減する効果や、がん性悪液質を改善する効果なども報告されています。がん性悪液質とは、がん細胞や炎症細胞から産生される炎症性サイトカイン(TNF-αやIL-6など)によって体重減少や食欲不振などの症状が出る状態です。DHAやEPAには、TNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインの産生を抑える抗炎症作用があります。

免疫状態を改善し、感染症の予防効果も指摘されています。手術前や手術後にEPAやDHAを1日2〜3グラム補充した食事は、手術後の炎症を軽減し、体重減少や栄養状態の悪化を防ぐ効果があるという臨床試験の結果が多数報告されています。
手術侵襲によって挫滅した組織で炎症反応がおこり、炎症性サイトカインの産生などが原因となって筋肉や体重の減少が起こりますが、EPAやDHAは炎症性サイトカインの産生を抑えるなどの作用によって筋肉の異化を抑制し、体重減少を予防し術後の経過を良くします。
このようにDHAやEPAやαリノレン酸のようなω3系脂肪酸はがんの発育を抑制し、アラキドン酸のようなω6系脂肪酸はがんの発育を促進するので、摂取するω3系脂肪酸とω6系脂肪酸の比が腫瘍の発育に影響することになります。(下図)。

図:魚油・亜麻仁油・紫蘇油に多く含まれるω3系不飽和脂肪酸はがん細胞の増殖を抑制し、肉や食用油に含まれるω6系不飽和脂肪酸はがん細胞の増殖を促進する。ω6系不飽和脂肪酸の摂取量を減らしω3系不飽和脂肪酸を増やすとがん細胞の増殖を抑えることができる。

【オレイン酸を多く含むオリーブオイル】
オリーブは地中海地域原産のモクセイ科の植物で、オリーブオイルはオリーブの果実から得られる植物油です。オリーブオイルは一価不飽和脂肪酸のオレイン酸を多く含みます。オレイン酸はω9系不飽和脂肪酸という種類に分類され、他の食用の油脂に比べて酸化されにくく固まりにくい性質を持ちます。オレイン酸はオリーブやアボカド、ナッツ類など種実に多く含まれる脂肪酸です。

オリーブの果実を絞って得られる果汁から遠心分離などによって得られた油をバージン・オリーブオイルと呼び、その中でも香りが良好で品質も高いものを特にエクストラ・バージン・オリーブオイルと呼んでいます。バージンオリーブオイルは、一価不飽和脂肪酸を豊富に含むとともに、ポリフェノール類など天然の抗酸化物質やビタミン・ミネラルを豊富に含みます。
特に、エクストラバージンオリ-ブオイルは、オレイン酸を約80%含んでおり、天然の抗酸化物質を豊富に含み、栄養価の高い最高級オイルです。オリーブオイルに含まれるポリフェノール類として、オレウロペイン、チロソール、ヒドロキシチロソールなどが知られており、オリーブオイルの高い抗酸化作用はこれらに由来していると考えられています。
 これまでの疫学研究では、オリーブオイルの摂取が多いと心臓病などの動脈硬化性疾患が少ないことが示されていますが、その理由として、一価不飽和脂肪酸としてのオリーブオイルの抗動脈硬化作用の他に、オリーブオイルに含まれるポリフェノールによる抗酸化作用や抗炎症作用が指摘されています。
多くの疫学研究において、オリーブオイルの摂取量とがんの発生率が逆相関することが報告されています。特に、乳がんや消化器系がん(大腸がんなど)の発生率が減少することが報告されています。

【オリーブオイルの摂取量はがん発生率と逆相関する】
地中海地方の人はがんや循環器疾患による死亡率が低いことが知られており、その理由として地中海地方の食事の特徴が関与していると言われています。
地中海地域の食事(地中海式ダイエット)の特徴は、野菜や果物・全粒の穀類・豆類などの植物性食品や魚介類の摂取が多く、良質のオリーブオイルをふんだんに使用することです。

ギリシャの研究では、地中海式料理を多く食べている人は、全てのがんの死亡率が低下することが報告されています。(N Engl J Med. 348(26):2599-608.2003)
ある総説では、西欧諸国において地中海式料理にすると、がんの発生率は大腸がんは25%、乳がんは15%、前立腺がんと膵臓がんと子宮内膜がんは10%、それぞれ減少するという試算もあります。(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 9:869–873.2000年)
オリーブオイルの摂取が多いほど、がんが少ないというデータが古くから数多く報告されています。特に乳がんの発生率が低下することが報告されています。
ギリシャ、スペイン、イタリア、フランスで行われた複数の症例対照試験でオリーブオイルの摂取が乳がんを減らすことが報告されています。
例えば、ギリシャの病院の患者をベースにした症例対照試験では、乳がん患者820人とコントロール1548人の比較で、オリーブオイルの使用頻度が1日1回の群に比べて、1日1回以上の群の乳がん発症のオッヅ比は0.75でした。この研究では、マーガリンの摂取は乳がんの発症リスクを増やしています。(J Natl Cancer Inst. 87(2):110-6.1995年)
スペインの症例対照研究では、762例の乳がんと988例の対照との解析で、オリーブ摂取の少ない下位4分の1に比べて、上位4分の1のグループの乳がん発生のオッズ比は0.66で用量依存性が認められました。(Int J Cancer. 58:774–80.1994年)
別のスペインの研究(100例の乳がんと100例の対照)では、上位3分の1のグループの乳がんの発生リスクは下位3分の1のグループの0.30でした。(Eur J Cancer Prev. 3:313–320.1994年)
スペイン領のカナリア諸島からの研究では、オリーブオイルの摂取が少ない下位5分の1の群に比べて、摂取の多い上位5分の3(1日8.8g以上)ではオッズ比が0.27になるという結果が報告されています、 Public Health Nutr. 2006;9:163–167.
その他多くの症例対照研究や前向きコホート研究において、オリーブオイルの摂取量と乳がんの発生率は逆相関することが報告されています。
その程度は研究結果によって様々ですが、多くの研究を総合すると、オリーブオイルを摂取しない場合に比べて、オリーブオイルを多く摂取すると乳がんの発生率は半分以下に減ることが示唆されます。あるいはもっと減るかもしれません。
乳がんの他にも、大腸がんなど消化器系がんの発生率を減らすことも報告されています。
全てのがんの発生率は、オリーブオイルを多く摂取することによって34%減少するという報告もあります
以下のような論文があります。

Olive oil intake is inversely related to cancer prevalence: a systematic review and a meta-analysis of 13800 patients and 23340 controls in 19 observational studies.(オリーブオイルの摂取はがん罹患率と逆相関する:19の観察研究における13800人のがん患者と23340人のコントロールの系統的レビューとメタ解析) Lipids Health Dis. 2011; 10: 127.(Published online 2011 July 30. doi:  10.1186/1476-511X-10-127)

【要旨】
食事中の脂質は、その量と質によって、がんを抑制的に作用する場合と促進する場合のどちらかの作用を示す。この研究の目的は、オリーブオイルあるいは一価不飽和脂肪酸の摂取ががんの発生率に影響するかどうかを評価することである。
1990年から2011年3月1日までの間に英文で発表された論文を検索し、系統的レビューを行った。
検索で38の研究を選び出し、そのうち19の症例対照研究(case-control study)を最終的にメタ解析した。対象は13800例のがん患者と23340人の対照者であった。
オリーブオイルの摂取量の最も少ないグループに比べて、最も多いグループでは、全てのがんの発生率が低く (log odds ratio = -0.41, 95%CI -0.53, -0.29) 、これは国の違い(地中海地域かそうでないか)とは関係なかった。
オリーブオイルの摂取が多いほど乳がん(logOR = -0,45 95%CI -0.78 to -0.12)、消化器系がん (logOR = -0,36 95%CI -0.50 to -0.21)が少なかった。これらの結果は、オリーブオイルががんの発生を防ぐ作用があることを示している。
しかし、オリーブオイルのがん予防効果は、それに含まれる一価不飽和脂肪酸によるものか、抗酸化成分によるものかは不明である。

この論文は、オリーブオイルと発がん率に関するメタ解析(meta-analysis)や系統的レヴュー(systematic review)としては最初の論文です。
エクストラ・バージン・オリーブオイルにはポリフェノール類、フラボノイド、リグナンなどの抗酸化作用や抗炎症作用やがん予防効果を持った成分が豊富に含まれます。
また、オリーブオイルには一価不飽和脂肪酸のオレイン酸が豊富で、一価不飽和脂肪酸は多価不飽和脂肪酸に比べて酸化されにくく、オレイン酸自体に抗がん作用があるという指摘もあります。
この論文では、オリーブオイルのがん予防効果が抗酸化成分によるのか一価不飽和脂肪酸によるのは判らないと考察していますが、その両方の相乗効果かもしれません。いずれにしろ、オリーブオイルを多く摂取すると多くのがんの予防に有効だと言えます。

以上の多くの研究から、オメガ3系不飽和脂肪酸の多い魚油と、オレイン酸やその他の抗がん成分を多く含むオリーブオイルを多く摂取することは、がんの予防や治療に有効と言えます。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 796)オメガ3... 798)食事から... »