811)酪酸菌(宮入菌)はチェックポイント阻害剤の効き目を高める

図:大腸内で食物繊維が酪酸菌で分解・発酵されて短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)が産生される(①)。短鎖脂肪酸は悪玉菌(腐敗菌)の増殖を抑え、善玉菌(有用菌)の増殖を促進する(②)。善玉菌と短鎖脂肪酸(特に酪酸)は腸内環境を良くするように腸内細菌叢の組成を変え、免疫細胞の働きを活性化する(③)。その結果、免疫チェックポイント阻害剤などの免疫療法の効き目を高め(④)、奏功率を上昇し延命効果を発揮する(⑤)。オクラや海藻のような食物繊維の多い食品やα-シクロデキストリンのようなオリゴ糖を摂取し(⑥)、宮入菌製剤のミヤBM(⑦)を服用して腸内の酪酸菌を増やして短鎖脂肪酸の産生を増やせば、免疫チェックポイント阻害剤の効果を高めることができる。

811)酪酸菌(宮入菌)はチェックポイント阻害剤の効き目を高める

【酪酸産生菌の補給は免疫チェックポイント阻害剤の効果を高める】
今年のNature Medicineに以下のような報告があります。

Nivolumab plus ipilimumab with or without live bacterial supplementation in metastatic renal cell carcinoma: a randomized phase 1 trial. (転移性腎細胞がんにおけるニボルマブとイピリムマブと生きた細菌補給の効果:無作為化第1相試験)Nature Medicine. volume 28, pages704–712 (2022)

【要旨の抜粋】
以前の研究では、腸内細菌叢ががん患者のチェックポイント阻害剤への反応に影響を与えることが示唆されている。酪酸菌のCBM588株は、腸内細菌叢の調節を通じてチェックポイント阻害剤の効果を増強する可能性があると私たちは仮定している。
このオープンラベルの単一施設研究(NCT03829111)では、明細胞および/または肉腫様組織型を有する転移性腎細胞がんで治療歴のない30人の患者を対象に、2:1に無作為に分けて、ニボルマブ+イピリムマブに酪酸菌CBM588を毎日服用した群(n=20)とニボルマブ+イピリムマブ治療群(n=10)で比較した。

その結果。無増悪生存期間は、CBM588を併用したニボルマブ+イピリムマブ治療患者では12.7ヶ月で、CBM588を併用しなかった患者の2.5ヶ月よりも有意に長かった(ハザード比0.15、95%信頼区間0.05-0.47、P  = 0.001)。
統計的に有意差は出なかったが、奏功率はCBM588を投与された患者は58%で、併用しなかった患者では20%で、酪酸菌CBM588の併用が、奏功率を高める傾向が認められた(P = 0.06))。
両群において、副作用(毒性)に有意差は観察されなかった。

この臨床試験の結果は、酪酸菌のCBM588がニボルマブ+イピリムマブで治療された転移性腎細胞がん患者の臨床転帰を高める可能性を示唆している。この臨床観察を確認し、腸内細菌叢と免疫応答との関係を解明するために、より大規模な研究が必要である。

米国カリフォルニア州のCity of Hope Comprehensive Cancer Centerの研究グループからの報告です。
転移性腎細胞がん患者における免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブとイピリムマブの併用療法)の効果が、酪酸菌の摂取によって高まるという報告です
Nature Medicineに掲載されているので、重要性の高い研究結果と思われます。

使っている酪酸菌はClostridium butyricum MIYAIRI(CBM)588で、日本では宮入菌として有名な酪酸産生菌です。

対象は転移性腎細胞がん患者30例(年齢中央値66歳、男性72%)です。
ニボルマブ(3mg/kg)およびイピリムマブ(1mg/kg)を3週間ごとに12週間投与後、ニボルマブ(480mg)を月1回継続する併用療法群と、併用療法にCBM588(80mg)を1日2回上乗せする群に、1:2でランダムに割り付けています。

無増悪生存期間の中央値が免疫チェックポイント阻害剤だけの場合が2.5ヶ月であるのに対して酪酸菌を併用すると12.7ヶ月にかなりの延長を認めています
部分奏効の達成率は、併用療法群の20%(2例)に対し、CBM588上乗せ群では58%(11例)と高い傾向が認められました(P=0.06)。有害事象に両群間で有意差は認められませんでした。

この研究で使っている生菌製剤CBM588というのは酪酸産生菌(宮入菌)で、食物繊維を発酵して短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)を産生するプロバイオティクスです。プロバイオティクスが腎細胞がんの免疫療法の効果を増強する可能性を指摘しています。腸内細菌を変化させてがん患者の免疫療法の効果を高められる可能性があることを示しています。

腸内に生息する微生物集団(腸内細菌叢)は免疫系の調節に関わっており、特定の組成の腸内細菌叢はがん患者で免疫療法の効果を変化させることが知られています。また、腸内の細菌株の不均衡は炎症性腸疾患などの病気に関連しており、特定の細菌が発がん性毒素を産生することによって、がんリスクの上昇や抗がん治療に対する抵抗性に関わってくることも指摘されています。

ビフィズス菌群が免疫チェックポイント阻害剤に対する応答の改善に関連していることはすでに報告されています。CBM588の投与を受けた患者では免疫チェックポイント阻害剤療法に対する応答が改善されて長く続き、しかも毒性の面では対照群に比べて差がないことが示されました。
これらの患者から採取された糞便試料の解析により、臨床応答が改善された患者ではビフィズス菌群の数が増えていることが確認され、これが無増悪生存期間の延長と免疫の活性化に結び付くことが確かめられました。

この試験は第1相試験で症例数も少ないので、対象数とがんの種類を増やして大規模な臨床試験の結果が出るまでは確定的には言えませんが、他の研究報告などから酪酸菌ががんの免疫療法に有用である可能性は高いと思います。

以下の論文は京都大学の研究グループ(Department of Medical Oncology, Kyoto University Graduate School of Medicine)からの報告です。

Association of Short-Chain Fatty Acids in the Gut Microbiome With Clinical Response to Treatment With Nivolumab or Pembrolizumab in Patients With Solid Cancer Tumors.(固形がん患者におけるニボルマブまたはペムブロリズマブによる治療への臨床反応と腸内細菌叢の短鎖脂肪酸との関連)JAMA Netw Open. 2020 Apr 1;3(4):e202895.

【要旨】
重要性:免疫チェックポイント阻害剤を使用した免疫療法は、複数の種類のがんの治療に非常に効果的であり、腸内細菌叢は免疫チェックポイント阻害剤の有効性に影響を与える可能性のある要因である。ただし、腸内細菌叢と腫瘍微小環境の免疫状態との関連は不明である。短鎖脂肪酸は、腸内細菌叢によって生成される主要な最終生成物であり、宿主の生理機能に幅広い影響を及ぼす。

目的:プログラム細胞死-1阻害剤(PD-1阻害剤)で治療された固形がん患者の糞便および血漿中の短鎖脂肪酸を評価すること。

設計、設定、および参加者:これは、2016年7月から2019年2月の間に京都大学病院でPD-1阻害剤による治療を計画したがん患者の前向きコホートバイオマーカー研究である。データは2019年10月から2020年2月まで分析された。

曝露:ニボルマブ(nivolumab)またはペムブロリズマブ(pembrolizumab)で治療された患者は、固形腫瘍バージョン1.1(Solid Tumors version 1.1)の反応評価基準(Response Evaluation Criteria)を使用した治療反応に基づいて、客観的反応を達成した反応者と非反応者の2つのグループに分類された。患者個人の食事内容の情報を収集し、 PD-1阻害剤の投与前に収集された糞便および血漿サンプル中の短鎖脂肪酸の濃度は、タンデム質量分析と組み合わせた超高速液体クロマトグラフィーを使用して測定された。

主な評価:短鎖脂肪酸と無増悪生存期間の関係。

結果:登録された52人の患者のうち、年齢の中央値は67歳(27歳-84歳)であり、23例(44%)は女性であった。 PD-1阻害剤投与後の生存者の追跡期間の中央値は2.0年(0.4年-4.1年)であった。全体の反応率(効果が認められた率)は28.8%であった。
一部の短鎖脂肪酸の高濃度は、無増悪生存期間の延長と関連していた。これらには、糞便中の酢酸(ハザード比=0.29; 95%信頼区間0.15-0.54)、プロピオン酸(ハザード比=0.08; 95%信頼区間0.03-0.20)、酪酸(ハザード比=0.31; 95%信頼区間 0.16-0.60)、吉草酸(ハザード比=0.53; 95%信頼区間0.29-0.98)、および血漿中のイソ吉草酸(ハザード比=0.38; 95%信頼区間0.14-0.99)であった。

結論と関連性:この研究の結果は、糞便中の短鎖脂肪酸濃度がPD-1阻害剤の有効性と関連している可能性があることを示唆している。したがって、腸内細菌叢とPD-1阻害剤の有効性の間の関連性に短鎖脂肪酸の関与が示唆される。糞便検査は完全に非侵襲的であるため、患者の日常的なモニタリングに適用できる可能性がある。

現在のがんの発症前の1年間の様々な食品の平均摂取頻度と摂取量、食生活の内容を解析しています。腸内細菌叢の組成は食事の構成要素、食習慣、季節性、ライフスタイルなどで変化します。腸内細菌叢の組成は、食事の内容を変えることによって変化できます。
この研究では、糞便中の酪酸の濃度はキノコ類の摂取量が多いほど高いこと、キノコの摂取量と無増悪生存期間の延長が有意に関連する結果が得られています。また、野菜の摂取も短鎖脂肪酸の量を増やしました
キノコや野菜の多い食事が免疫細胞を活性化し、免疫チェックポイント阻害剤などの免疫療法の効き目を高める機序として、短鎖脂肪酸の産生の関与を示唆しています。

【酪酸菌と乳酸菌はシスプラチンの腎障害を軽減する】
抗がん剤は正常細胞を障害して、腎臓や肝臓や消化管などの臓器障害を引き起こすことがあります。シスプラチンは腫瘍の縮小効果の高い抗がん剤ですが、腎障害や吐き気などの副作用によって使用が制限されることがあります。
酪酸菌と乳酸菌の投与がシスプラチンの腎臓障害を軽減するという報告があります

Administration of Lactobacillus reuteri Combined with Clostridium butyricum Attenuates Cisplatin-Induced Renal Damage by Gut Microbiota Reconstitution, Increasing Butyric Acid Production, and Suppressing Renal Inflammation.(クロストリジウム・ブチリカムとラクトバチルス・ロイテリの併用投与は、腸内細菌叢の再構成、酪酸産生の増加、および腎炎症の抑制によってシスプラチン誘発性腎損傷を軽減する)Nutrients. 2021 Aug; 13(8): 2792.

【要旨の抜粋】
シスプラチン誘発腎毒性は、腸内細菌叢の異常と関連している。本研究は、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri )とクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum )の補給が、腸内細菌叢の再構築を通じてシスプラチン誘発腎毒性に保護効果を及ぼすかどうかを調査することを目的とした。
Wistarラットを使用し、コントロール群、シスプラチン投与群、シスプラチン+ラクトバチルス・ロイテリ+クロストリジウム・ブチリカム併用群、およびラクトバチルス・ロイテリ+クロストリジウム・ブチリカム投与群に分けて比較された

シスプラチン治療ラットに比べて、シスプラチン治療にラクトバチルス・ロイテリ+クロストリジウム・ブチリカムを補給したラットは、腎炎症(KIM-1、F4 / 80、MPOで評価)、酸化ストレス、線維症(コラーゲンIV、フィブロネクチン、a-SMAで評価)、アポトーシス、血中エンドトキシンおよびインドキシル硫酸の濃度の有意な低下が認められた。糞便中の酪酸産生量は増加した。
さらに、ラクトバチルス・ロイテリ+クロストリジウム・ブチリカムの投与は、健康な腸内細菌叢の組成と多様性を維持することにより、シスプラチンによって誘発される腸内細菌叢による有害物質の産生を抑制した。
大腸菌や赤痢菌などの有害菌を減少させ、ビフィズス菌などの有用菌を増やした。さらに、ラクトバチルス・ロイテリ+クロストリジウム・ブチリカムの投与により、シスプラチンによって誘発される腸粘膜上皮のバリア機能の障害が軽減された。

この研究は、プロバイオティクス(ラクトバチルス・ロイテリ+クロストリジウム・ブチリカム)が、腸内細菌叢の組成を回復し、それによって尿毒症毒素産生を抑制し、酪酸産生を増強することを示した。その結果、シスプラチン誘発腎毒性を軽減した。ラクトバチルス・ロイテリ+クロストリジウム・ブチリカムの腎保護効果は、抗炎症効果を高め、腸粘膜のバリアの完全性を維持することによって部分的に媒介される。

クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum )は酪酸産生菌です。短鎖脂肪酸の産生を増やします。
ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri )は乳酸菌の一種です。乳酸やロイテリン(3-hydroxypropional dehyde)という抗菌物質を作り出し、悪玉菌の増殖を阻止して腸内環境を良くします。
酪酸や乳酸を産生する腸内細菌を補うと、シスプラチンの副作用を軽減するという報告です。

【健康長寿者の腸内には酪酸菌が多い】
最近、腸内環境を整える「腸活」が話題になっています。健康長寿者の腸内には、乳酸菌やビフィズス菌や酪酸産生菌(酪酸菌)などいわゆる善玉菌が多いことが指摘されています。食物繊維を多く摂取するとこれらの善玉菌が増えることが明らかになっています。
このように腸内の善玉菌を増やして健康と美容を高めることが腸活です。善玉菌は水溶性食物繊維を発酵させて乳酸や短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)を産生し、腸の働きを良くします

腸には体の免疫細胞の70%が集まっていると言われており、腸内で産生された酪酸は腸粘膜の抵抗性を高め、炎症を抑え、免疫機能を向上することが明らかになっており、酪酸を産生する酪酸菌が注目されています。善玉菌の代表の乳酸菌やビフィズス菌は酪酸を産生できません。

酪酸を産生することから名付けられたクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)は芽胞形性能を有する桿菌で、10%〜20%の人の腸内に存在しています。芽胞の形で環境中に広く存在していますが、特に動物の消化管内常在菌として知られています。
日本では宮入菌と呼ばれる株が有用菌株として著名であり、芽胞を製剤化して整腸剤として用いられています。宮入菌は1933年に宮入近治博士によって人の糞便から分離された菌株です。

図:宮入近治博士(1896年-1963年)は腐敗菌に対して強力な拮抗現象を示す芽胞菌を発見し「宮入菌」と命名した。宮入菌は酪酸を産生する酪酸菌(Clostridium butyricum)の有用菌株として著名であり、芽胞を製剤化して整腸剤(ミヤBM、ミヤリサンなど)として用いられている。 

宮入菌製剤は医薬品としてミヤBMとして使用されていますが、宮入菌製剤は指定医薬部外品の分類なので、コンビニやスーパーやネット通販でも購入が可能です。
宮入菌(酪酸菌)は、ビフィズス菌や乳酸菌と異なり、その名の通り腸のなかで発芽、増殖し、酪酸を産生します。この酪酸は腸内のエネルギー源として利用されているほか、腸の環境を安定に維持させ、病原菌の侵入や炎症などから守っています。

ミヤBMの効能・効果として「腸内菌叢の異常による諸症状の改善」と記載されています。酪酸菌(宮入菌)が腸内細菌叢のバランスを改善することによって、下痢、軟便、便秘、腹部膨満感などの各種腹部症状を改善します。抗生物質の服用により現れる下痢など、腸内細菌叢の異常による諸症状の改善のため医療用として使用されています。

【水溶性食物繊維が消化管内で発酵して乳酸と短鎖脂肪酸が生成する】
食物繊維はデンプンやグリコーゲンと同じ多糖類(糖が多数つながったもの)です。同じ多糖でもデンプンやグリコーゲンは消化管内で酵素によってグルコース(ブドウ糖)に分解されて体内に吸収されてエネルギー源となりますが、食物繊維は人間の消化酵素で分解されないため、エネルギー源とはなりにくいと一般には考えられています。

しかし、水溶性食物繊維(イヌリン、ペクチン、βグルカン、グルコマンナンなど)は腸内細菌による発酵によって乳酸短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)のような有機酸が生成され、これらはエネルギー源として体内で利用されています。
つまり、乳酸や酢酸やプロピオン酸は糖新生の材料になり肝臓でグルコースの生成に使われます。また、これらはTCA回路に入って分解されてATP産生に使われます。酪酸は大腸粘膜上皮細胞のエネルギー源として使われます。

図:酢酸は炭素が2個、プロピオン酸は炭素が3個、酪酸は炭素が4個の単鎖脂肪酸。乳酸は炭素数3個のカルボン酸。これらは腸内で水溶性食物繊維の発酵によって産生される。乳酸は乳酸菌による乳酸発酵で産生され、短鎖脂肪酸は酪酸菌などで発酵されて産生される。それぞれの化学物質はいろんな中間代謝産物を介してエネルギー代謝の経路に組み込まれてエネルギー源となる。酪酸はヒストン脱アセチル化酵素阻害作用があり、様々な遺伝子の発現を亢進する作用がある。

牛は草だけ食べて、大量のミルクと肉を作っています。ゴリラは霊長類で最も大きな体です。体重はオスが150kgを超えますが、食糧は主に木の葉や樹皮です。牛もゴリラも、草や木の葉の食物繊維を消化管内でバクテリアが発酵して短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)を作っています
炭水化物の発酵によって生成した酢酸やプロピオン酸や酪酸などの有機酸(短鎖脂肪酸)を吸収して、細胞内のミトコンドリアでさらに分解してエネルギーを産生しています。
これらの短鎖脂肪酸は肝臓でアミノ酸や脂肪の合成にも使われます。消化管内のバクテリアはアミノ酸も合成して草食動物に供給しています。

乳酸はエネルギー源として利用されるだけでなく、腸内pHを低下させて悪玉菌の増殖を抑制する効果があります。

短鎖脂肪酸は、体内に吸収されて糖新生やATP産生に利用されるだけでなく、短鎖脂肪酸の受容体であるGPR41(FFA3)やGPR43(FFA2)を介して生体の代謝を調節する作用や、遺伝子発現の調節作用(酪酸のヒストン脱アセチル化酵素阻害作用によるヒストンアセチル化)があります。空腹感を抑制する作用や抗炎症作用なども報告されています。
このように、食物繊維はエネルギー産生や生体機能の調節や発がん抑制など重要な役割を果たしています。

【短鎖脂肪酸はエネルギー産生や物質合成に使われる】
水溶性食物繊維は十分に発酵させれば、1グラム当たり1.5 kcalのエネルギーを産生すると報告されています。ケトン食で糖質を減らして脂肪を増やす時、水溶性食物繊維を多くとれば、エネルギーの足しになります。

短鎖脂肪酸に起因する健康への影響の1つは、腸管内のpHの低下によって病原性微生物を抑制することです。酢酸は、ビフィズス菌が腸内病原菌を阻害する能力において重要な役割を果たしていることがわかっています。プロピオン酸は運動能力を高める効果が報告されています。
さらに、酪酸は腸上皮細胞に燃料を供給し、ムチン産生を増加させ、細菌接着を阻止する作用があります。したがって、短鎖脂肪酸の産生は腸バリア機能の維持に重要な役割を果たしているようです。酪酸は結腸粘膜上皮細胞によって代謝され、残りは肝静脈によって輸送されて肝臓に入り、そこで代謝されます。
短鎖脂肪酸は、糖および脂質の代謝経路に入ります。プロピオン酸塩は主に糖新生に組み込まれ、酢酸塩と酪酸塩は主に脂質生合成に組み込まれます。

【短鎖脂肪酸は遺伝子発現や代謝を調節する作用がある】
短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)が結合する受容体として、Free Fatty Acid Receptor 2(FFA2)Free Fatty Acid Receptor 3(FFA3)が見つかっています。FFA2はGPR43、FFA3はGPR41としても報告されていますが、これらの受容体が脂肪組織や免疫組織、内分泌組織、消化管組織など広く分布し、短鎖脂肪酸が結合することによって生体の栄養摂取や代謝を調節していることが報告されています。

短鎖脂肪酸は結腸直腸がんの発症を予防することも観察されており、ほとんどの研究は酪酸に焦点を当てています。結腸直腸がんに対する食物繊維の保護効果は、微生物叢による酪酸の生成に依存していることが示唆されています
酪酸は、結腸の運動性を促進し、炎症を軽減し、がん細胞のアポトーシスを誘導し増殖を抑制します。この効果は、ヒストン脱アセチル化の阻害を介して媒介されるようです。
酪酸(butyrate)はヒストン脱アセチル化酵素阻害作用があり、遺伝子発現を制御する作用があります。(下図)

図:ヒストンアセチル基転移酵素(①)によってヒストンのアセチル化が亢進すると、クロマチンが緩み、遺伝子転写活性が亢進する(②)。ヒストン脱アセチル化酵素(③)によってヒストンのアセチル化が低下するとクロマチンが凝集して遺伝子転写活性は抑制される(④)。酪酸はヒストン脱アセチル化酵素を阻害する作用がある(⑤)。その結果、酪酸は遺伝子発現を亢進する作用がある。

【α-シクロデキストリンは酪酸産生量が最も多い】
様々な種類の食物繊維がありますが、酪酸菌によって発酵されて短鎖脂肪酸の産生量が最も多いのがα-シクロデキストリンと報告されています。
α-シクロデキストリンはトウモロコシや馬鈴薯のデンプンから酵素の働きによって作られている、天然に存在する環状オリゴ糖です。ブドウ糖(グルコース)が6個環状に連なった構造です。(下図)

図:α-シクロデキストリン(Alpha-Cyclodextrin)は6個のグルコース(ブドウ糖)がα-1,4結合で結合した環状オリゴ糖。

α-シクロデキストリンは小腸の消化酵素では全く分解されず、大腸内の腸内細菌で発酵分解される特徴を持ち、食物繊維として作用します。
他の食物繊維はグルコース(ブドウ糖)だけでなく、フルクトース(果糖)やガラクトースが連なっていたり、連なる数も様々な分子が混在しています。一方、α-シクロデキストリンはグルコースのみから構成され、混合物ではなく単一の分子です。

α-シクロデキストリンはデンプンと同様にグルコースがα-1,4結合で結合しているので、本来であれば消化性を示すのですが、環状で安定しているため小腸の消化酵素で分解されません。
α-シクロデキストリンは無傷で大腸に到達し、腸内細菌によって環が切られ、鎖状になって完全に発酵分解され、短鎖脂肪酸に変換されます。他の食物繊維に比べて、酪酸菌(宮入菌)による酪酸を作る効率が最も高いというデータが報告されています。
α-シクロデキストリンは多数の商品がネットの通販などで販売されています。

以上から、プロバイオティクスとしてヨーグルト(乳酸菌とビフィズス菌)と酪酸菌製剤(ミヤBM、ミヤリサンなど)を摂取し、プレバイオティクスとしてα-シクロデキストリンを組み合わせたシンバイオティクスで腸内の乳酸と短鎖脂肪酸(特に酪酸)を増やすと、体の治癒力を高め、寿命を延ばし、がん細胞の増殖抑制にも効果が期待できます。
さらに、日頃から水溶性食物繊維の多い食品を食べることは腸内の乳酸と短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)の産生を高め、腸の働きを活性化し、健康増進と抗老化とがん予防に有効です

図:腸内の悪玉菌(腐敗菌)は腸内のタンパク質やアミノ酸を腐敗させて有害物質を作り(①)、体の治癒力を低下し、発がんを促進する(②)。オクラや海藻類に多く含まれる水溶性食物繊維(③)は、乳酸菌やビフィズス菌や酪酸菌によって発酵され、短鎖脂肪酸(⑤)や乳酸(⑥)を作る。短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)は腸粘膜バリアの増強や大腸運動の活発化、抗炎症作用など様々な健康作用を発揮する(⑦)。乳酸は腸内pHを低下させて悪玉菌(腐敗菌)の増殖を抑制する(⑧)。ヨーグルト(⑨)は乳酸菌とビフィズス菌を供給し、医薬品のミヤBMや一般用医薬品のミヤリサンは酪酸菌を供給する(⑩)。難消化性糖質のα-シクロデキストリンは酪酸菌による酪酸産性能が極めて高い(⑪)。ヨーグルトと酪酸菌とα-シクロデキストリンと水溶性食物繊維の多い食事を組み合わせたシンバイオティクスで腸内の乳酸と短鎖脂肪酸(特に酪酸)を増やすと、体の治癒力を高め、寿命を延ばす効果が期待できる。

◎ 酪酸の産生を増やすミヤBMとα-シクロデキストリンの利用については以下のサイトで解説しています。

http://www.f-gtc.or.jp/butyrate/Clostridium-Butyricum+alpha-Cyclodextrin.html

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