40)経験医療が必要とされる理由

図:漢方医学(東洋医学)は科学が未発達な時代に東洋で発達し、数千年に及ぶ経験医療を体系化してきた。人間と自然との対話の中から、人間としての自然な在り方を重視し、自己の持つ能力を活用する全人的医療を発展させてきた。

40)経験医療が必要とされる理由

現代西洋医学は、病気の原因を科学的に分析し、論理的に納得できる治療法を作り出していく「理論医学」を基盤としています。多くの先進国ではこの理論医学が合法的な医療の基礎となっています。一方、伝統医療や民間療法や自然療法といわれるものは経験的になされた治療法が長い歴史のなかで取捨選択されて残ってきた「経験医療」であり、科学的な根拠が明らかでないものも少なくありません。アメリカやドイツなどの理論医学中心の先進国においても、近年これらの経験医療が注目され利用者が増えています。「非科学的」という批判を受けがちな経験医療がなぜ必要とされるのでしょうか。

【理論医学には自然治癒力を理解できない落とし穴がある】
今日の学問の主流をなしているのは分析的科学です。17世紀の哲学者のデカルトは、問題を検討するに当たっては、その一つ一つを適当と思われる最も小さな部分に分割するという方法を述べています。この分析的な手法あるいは思考が現在の科学の基盤をなしています。したがって科学者の多くは、人間の研究を行うときにも、人間を細かく切り刻んで、臓器別あるいは遺伝子レベルの研究を行ってきました。その手法によってコンピューターを使った画像診断や分子生物学を駆使した遺伝子診断などの検査法が発達し、抗生物質や内視鏡手術や遺伝子治療のような画期的な治療が行われるようになりました。
 
体を臓器や組織や細胞というように要素に分けて考えることを要素還元主義といいます。要素還元主義の方法論では、病気が起こった場合、どの臓器に異常があり、どの細胞のどの物質がおかしくなっているのか、遺伝子のどこに異常があるのかと、原因を分子レベルまで突き止めようとします。病気の治療においては、機械の故障を修理するような考えを基本にしており、病気の原因を分析追及して、その原因に直接働きかけて病気を治すことを主眼としています。人間の体を機械のように考えたほうが分析しやすいため、現代西洋医学では心と身体を分離させて考える傾向にあります。これを心身二元論といいます。
 
このような要素還元主義心身二元論からなる機械的生命観(生命を機械に置き換える考え方)を基盤とする西洋医学では、「病気は外からコントロールするもの」という考えが主体になります。体には病気を自分で治す力(自然治癒力)が備わっているのですが、その自然治癒力に頼らなくても病気を支配できると思い違いをするほど科学と西洋医学が発達してきたので、人類はそれらに頼ることになり、自然治癒力を軽視するようになりました。

現代医学の治療手段のなかには体の治癒力を考えずに行なっていることが少なくありません。例えば、抗がん剤の効き目は目先のがんが小さくなれば、食欲や抵抗力や免疫力の低下は仕方ないと考えています。
それに対して
漢方医学は、体に本来備わっている自然治癒力を引き出して治療する方法を、数千年に及ぶ臨床経験の中から見い出してきた医療体系なのです。機械と生命体の違いは自然に治る力(自然治癒力)を持っているかどうかですが、機械的生命観に支配されているかぎり、西洋医学には体が本来持っている自然治癒力を活用する考えが起こりにくいという本質的な欠点をもっています。この西洋医学の欠点を補うことができるのは、漢方医学が経験医療を基盤にしているからだと思います、

(文責:福田一典)

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