573)ジスルフィラムとオーラノフィンのプロテアソーム阻害作用

図:がん細胞は遺伝子異常や栄養飢餓や低酸素や炎症などによって変異タンパク質や折り畳み不全などの異常なタンパク質が増え(①)、小胞体ストレスが亢進している(②)。異常タンパク質はユビキチンが結合して(③)、プロテアソームで分解している(④)。さらに、がん細胞はシャペロンタンパク質を増やすなどの小胞体ストレス応答を亢進して小胞体ストレスを低下させている(⑤)。2−デオキシ-D-グルコース(2-DG)はグルコースの利用を妨げる作用と、糖タンパク質の糖鎖の異常を引き起こす作用によって小胞体ストレスを亢進する(⑥)。メトホルミンは小胞体ストレス応答を阻害する(⑦)。ジスルフィラムとオーラノフィンはプロテアソームに作用して、タンパク分解を阻害する(⑧)。ジスルフィラムとオーラノフィンは酸化ストレスを亢進する作用もある(⑨)。ジクロロ酢酸ナトリウム(DCA)はミトコンドリアを活性化して活性酸素の産生を増やして酸化ストレスを高める(⑩)。メトホルミンと2-DGも酸化ストレスを高める。したがって、これらの薬剤の組合せは、小胞体ストレスと酸化ストレスを亢進してがん細胞を選択的に死滅できる。

573)ジスルフィラムとオーラノフィンのプロテアソーム阻害作用

【断酒薬ジスルフィラムの抗がん作用が注目されている】
ジスルフィラム(Disulfiram;tetraethylthiuram disulfide)は、加硫促進剤や寄生虫疾患の治療薬(軟膏)など様々な領域で利用されている汎用性の高い物質です。
ゴム処理労働者や疥癬患者が、アルコール飲料を飲んだあとに極めて強い有害反応を経験することが知られ、その原因がゴム処理過程で使用する加硫促進剤や疥癬の治療薬に含まれるチウラム・ジスルフィド(thiuram disulfides)に曝露されたことによることが70年以上前に明らかになりました。
この発見により、ジスルフィラムは断酒薬として有用であることが示され、アルコール中毒の治療薬として認可され、60年間以上前から処方薬として使用されています。
ジスルフィラムの断酒薬としての作用は、アルデヒド脱水素酵素の阻害によるためです。
ジスルフィラムを経口摂取すると、消化管内および血液内で1分子のジスルフィラムは2分子のジエチルジチオカルバミン酸(diethyldithiocarbamate)に速やかに変換され、さらにジエチルチオカルバミン酸メチルエステル・スルホキシド(diethylthiocarbamic acid methyl ester sulfoxide)に代謝されます。
ジスルフィラムのこの代謝物(ジエチルチオカルバミン酸メチルエステル・スルホキシド)は、アルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase:ALDH)の酵素活性部位のスルフヒドリル基(-SH)と反応してALDHの酵素活性を強力に阻害する作用があります(下図)。  

図:ジスルフィラムを経口摂取すると、消化管内および血液内で1分子のジスルフィラムは2分子のジエチルジチオカルバミン酸(diethyldithiocarbamate)に変換される(①)。ジエチルジチオカルバミン酸は、さらにジエチルチオカルバミン酸メチルエステル・スルホキシド(diethylthiocarbamic acid methyl ester sulfoxide)に代謝される(②)。ジエチルチオカルバミン酸メチルエステル・スルホキシドは、アルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase:ALDH)の酵素活性部位のシステインのスルフヒドリル基(-SH)と反応してALDHに結合し、ALDHの酵素活性を阻害する。 

エチルアルコール(エタノール)はアルコール脱水素酵素でアセトアルデヒドに代謝され、アセトルデヒドはアルデヒド脱水素酵素によって酢酸に代謝されます。
アセトアルデヒドはタンパク質やDNAと反応してそれらの働きを阻害するので細胞毒性があります。
アルデヒド基(-CHO)はタンパク質の側鎖のアミノ基と反応して結合します。病理検査で組織を固定する時にホルマリン(ホルムアルデヒドの水溶液)やグルタールアルデヒドを使用します。これは、ホルムアルデヒドやグルタールアルデヒドのアルデヒド基が組織のタンパク質のアミノ基と反応してタンパク質を架橋して凝固させる作用を持つからです。
「タンパク質の架橋」というのは、異なるタンパク質分子に橋を架けるようにして結合させることです。架橋されたタンパク質は正常の働きを行うことができなくなります。
したがって、このような毒性の強いアセトアルデヒドを早く分解する必要があります。この有害なアセトアルデヒドを無害な酢酸に代謝する酵素がアルデヒド脱水素酵素です。
アルデヒド脱水素酵素の阻害剤であるジスルフィラムはアルコールの代謝でできるアセトアルデヒドの分解を阻害することによって、アセトアルデヒドの有害な症状がでるので、アルコールを飲めなくするのです。

図:エチルアルコール(エタノール)はアルコール脱水素酵素でアセトアルデヒドに代謝され、アセトアルデヒドはアルデヒド脱水素酵素によって酢酸に代謝される。ジスルフィラムはアルデヒド脱水素酵素を阻害する。アセトアルデヒドは毒性が強いので、細胞や組織にダメージを与える。アルデヒド脱水素酵素は抗がん剤抵抗性にも関与しているので、ジスルフィラムはがん細胞の抗がん剤感受性を高める。

ジスルフィラムの抗がん作用はかなり古く(1970年代ころ)から研究されていますが、2010年代からその抗がん作用がかなり注目されるようになっています。
ジスルフィラムの断酒作用はアルデヒド脱水素酵素の阻害によるのですが、アルデヒド脱水素酵素はがん幹細胞のマーカーになるほど、がん幹細胞ではアルデヒド脱水素酵素は重要な働きをしており、この酵素を阻害すると、がん細胞の抗がん剤感受性が亢進することが明らかになっています。(522話543話参照)
ジスルフィラムはがんの代替療法の領域では数年前から利用されており、その抗がん作用のメカニズムも多くの報告があります。(419話参照)
私も2014年頃からがん治療にジスルフィラムを積極的に利用していますが、確実な抗がん作用を認めています。比較的安価であり、アルコールさえ飲まなければジスルフィラムは極めて副作用の少ない薬です。
(注:ドセタキセルのように溶解にエタノールを使う薬があるので、点滴を受けているときは、エタノールフリーであることを確認することが重要です)

【ジスルフィラムの抗がん作用がNatureに掲載された】
細胞内でタンパク質を分解するユビキチン・プロテアソーム系の阻害はがん治療のターゲットとして研究されています。プロテアソームの阻害剤のボルテゾミブ (Bortezomib;商品名はベルケイド)は多発性骨髄腫およびマントル細胞リンパ腫に使用されています。
ジスルフィラムがプロテアソームを阻害することは数年前に報告されています。以下のような報告があります。

Disulfiram, and disulfiram derivatives as novel potential anticancer drugs targeting the ubiquitin-proteasome system in both preclinical and clinical studies.(前臨床試験および臨床試験の両方でユビキチン・プロテアソーム系をターゲットにする新規の抗がん剤としての可能性を持つジスルフィラムとジスルフィラム誘導体)Curr Cancer Drug Targets. 2011 Mar;11(3):338-46.

【要旨】
ジスルフィラムは、アルコール依存症の治療のためのFDA(米国食品医薬品局)認可の薬物であり、50年以上にわたり臨床で使用されてきた。 ジスルフィラムとその類似体は、抗がん剤の抗腫瘍効果を高める効果や化学予防剤としての有効性を示す研究結果が1970年代から80年代にかけて報告されたが、根底にある分子メカニズムは最近まで不明のままであった。
プロテアソームを阻害し、新規な抗がん剤として使用できる薬剤の大規模スクリーニングの結果、ジスルフィラムがプロテアソーム阻害活性を有することが明らかになった。 
さらに、ジスルフィラムは発がんに重要な役割を果たすジンク・フィンガーおよびRINGフィンガー・ユビキチンE3リガーゼに対して特異的活性を有することも見出された。 ここでは、抗がん剤としてジスルフィラムを探索する前臨床および臨床研究、ならびにユビキチン - プロテアソーム系の阻害剤としてのジスルフィラム誘導体の開発に焦点を当てた研究プログラムを検討する。 

このように、がんの代替療法ではジスルフィラムの抗がん作用は広く知られているのですが、超一流科学雑誌のNatureにジスルフィラムの抗がん作用に関する論文が今月(12月14日号)掲載されています。 

Alcohol-abuse drug disulfiram targets cancer via p97 segregase adaptor NPL4(アルコール依存症治療薬ジスルフィラムはp97セグレガーゼアダプターNPL4を介してがん細胞を標的化する)Nature 552, 194–199 (14 December 2017)

【要旨】
がんの発生率は増加しており、この世界的な難題は、利用可能な薬剤に対してがん細胞が耐性を持つようになったことで深刻さを増している。
がん治療を改善する有望な手法の1つに、既存薬の転用(drug repurposing)がある。今回我々は、古くから使われているアルコール嫌悪剤であり、これまでの前臨床研究でさまざまなタイプのがんに対して有効性が確認されているジスルフィラム(商品名アンタビュース)の転用の可能性を示す。
我々が行った全国的な疫学研究からは、がんと診断された後もジスルフィラムの使用を継続した患者は、がんの診断時にジスルフィラムの使用を中止した患者よりも、がんによる死亡リスクが低いことが明らかになった。
さらに、ジスルフィラムの代謝産物であるジチオカルブ–銅複合体(ditiocarb–copper complex)が、この抗がん作用に関与していることを突き止めるとともに、この複合体のがん細胞における選択的蓄積を検出する方法、ならびに細胞と組織に対するこの複合体の作用を解析するためのバイオマーカー候補を提示する。
最後に、機能解析および生物物理学的解析から、ジスルフィラムの腫瘍抑制効果の分子標的が、細胞内の複数の調節経路およびストレス応答経路に関わるタンパク質の代謝回転に必須であるp97(別名VCP)セグレガーゼアダプターNPL4であることが明らかになった。

Natureはトップレベルの学術雑誌であり、かなりのインパクトや新規性のある発見でないと掲載はされません。ジスルフィラムの抗がん作用のメカニズム解明くらいではNatureは無理だと思います。
実際に、この論文をNatureの編集部が受け取った(Received)のが2015年10月1日で、掲載が決まった(Accepted)のが2017年11月8日になっています。つまり、投稿から採択まで2年間もかかっているのは、インパクトがそれほど強く無かったからかもしれません。最初に投稿したときはあまり評価されず、幾つかの新しいデータを追加して、やっと採択されたという感じです。
ただし、ジスルフィラムがp97(別名VCP)セグレガーゼのアダプターNPL4に作用しているというメカニズムは十分に新規性があると思います。
p97はタンパク質の分解に重要な働きを行っているユビキチン・プロテアソーム系で重要なタンパク質です。最近、このp97ががん治療のターゲットとして注目されています。
p97はユビキチン化されたタンパク質と、そのタンパク質と結合している他のタンパク質から引き離す働きをしています。
ジスルフィラムはp97のアダプターのNPL4に作用してp97の働きを阻害し、ユビキチン・プロテアソーム系でのタンパク質の分解を阻害することによって、抗がん作用を発揮しているというメカニズムです。
実際は、ジスルフィラムは多くの物質に作用するので、p97のアダプターのNPL4もターゲットの一つだという認識で良いと思います。ジスルフィラムはアルデヒド脱水素酵素も阻害します。その他にもターゲット分子が知られています。
ジスルフィラムはp97セグレガーゼのアダプターNPL4に作用してユビキチン・プロテアソーム系でのタンパク質分解過程を阻害することによって、がん細胞を死滅するというメカニズムです

【ユビキチン・プロテアソーム系はがん治療のターゲットになる】
ユビキチン・プロテアソーム系はタンパク質に付加されたユビキチン鎖をプロテアソームが認識し,ATP依存的で迅速かつ不可逆に標的タンパク質を分解するシステムです。
ユビキチン(Ubiquitin)は,アミノ酸76残基からなり,酵母からヒトまであらゆる真核細胞に存在する進化的に保存されたタンパク質です。
名前の由来は、ラテン語の“ubique=あらゆるところで”という形容詞を基にした英語 「ユビキタス(ubiquitous)」からきています。「至る所に存在する」という意味があります。
ユビキチンは不要なタンパク質、たとえば折り畳み不全などの出来損なったタンパク質や古くなったタンパク質に複数個付加(ポリユビキチン化)されることで、タンパク質分解のシグナルとして働きます。つまり、「このタンパク質を分解してくれ」という目印になります。
標的タンパク質へのユビキチン付加反応はユビキチン活性化酵素(E1)ユビキチン結合酵素(E2)ユビキチンリガーゼ(E3)によって行われます。
ユビキチン自体はあくまで目印なので、分解を行うのは他の物質です。ユビキチンが結合した不要たんぱく質をシュレッダーのように分解する酵素をプロテアソームといいます。
プロテアソームは真核生物のATP依存性プロテアーゼ複合体で、分解目印として働くユビキチンが結合したたんぱく質を選択的に壊す複雑な細胞内装置です。 

図:分解されるタンパク質はユビキチンが複数個結合し、ユビキチンが結合したタンパク質をプロテアソームが認識して、タンパク質を分解する。

【ジスルフィラムの代謝物と銅イオンの複合体がプロテアソームを阻害する】
ユビキチン-プロテアソーム・システムは細胞周期やシグナル伝達やアポトーシスなど細胞内の様々な機能の制御に関わっています。プロテオソームの働きが阻害されると細胞内タンパク質の恒常性に異常が起こり、ユビキチン化されたタンパク質が細胞内に増え、毒性の強い凝集したタンパク質によってがん細胞に対して致死的に作用します。すでに、プロテアソーム阻害剤は抗がん剤としても使用されています(ボルテゾミブなど)。
ジスルフィラムを経口摂取すると、消化管内および血液内で1分子のジスルフィラムは2分子のジエチルジチオカルバミン酸(diethyldithiocarbamate)に速やかに変換されます。ジエチルジチオカルバミン酸は銅イオンや亜鉛イオンと複合体を形成し、この金属複合体がプロテアソームを阻害する事が報告されています。

図:ジスルフィラムの代謝産物のジエチルジチオカルバミン酸は二価の重金属(銅や亜鉛)と複合体を形成する。プロテアソームはタンパク質分解活性を持った巨大な酵素複合体で、ユビキチンにより標識されたタンパク質をプロテアソームで分解する。ジエチルジチオカルバミン酸と銅の複合体はプロテアソームにおけるタンパク質の分解機能を強力に阻害する。プロテオソームの働きが阻害されるとユビキチン化されたタンパク質が細胞内に増え、毒性の強い凝集したタンパク質によって致死的に作用する。

【リュウマチ治療薬のオーラノフィンはユビキチン・プロテアソーム系を阻害する】
オーラノフィン(Auranofin)は、関節リュウマチにおける炎症反応や免疫異常を抑制して、寛解へと導く経口金製剤として1985年以降臨床で使用されています。
炎症細胞の機能抑制や、免疫細胞に作用して自己抗体の産生を抑制して、関節における炎症を抑制します。
最近、オーラノフィンの抗腫瘍効果が注目されています。米国ではがん治療へのオーラノフィンの効果を検討する第2相臨床試験の実施がFDA(食品医薬品局)から承認されています。
今まで報告されたオーラノフィンの抗がん作用のメカニズムは多様です。DNAやRNAやタンパク質の合成阻害、ミトコンドリアのチオレドキシン還元酵素やグルタチオン-S-トランスフェラーゼやプロテアソームの機能阻害、抗炎症作用(IL-6/STAT3経路の阻害、NF-κB活性化の阻害など)、ヒストン・アセチル化亢進など多くの作用機序が報告されています。(424話427話431話509話参照)
オーラノフィンには脱ユビキチン化酵素阻害作用によってタンパク分解を阻害する作用が報告されています。以下のような報告があります。

Clinically used antirheumatic agent auranofin is a proteasomal deubiquitinase inhibitor and inhibits tumor growth(臨床的に使用されている抗リュウマチ薬のオーラノフィンはプロテアソームの脱ユビキチン化酵素の阻害剤でがん細胞の増殖を阻害する)Oncotarget. 2014 Jul; 5(14): 5453–5471.

【要旨】
プロテアソームは、がん治療のための魅力的な新たなターゲットである。慢性関節リウマチを治療するために臨床的に使用されている金含有化合物であるオーラノフィンは、最近、米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けて抗がん作用に関して第2相臨床試験が実施されている。しかし、オーラノフィンの抗がん作用のメカニズムは十分に明らかになっていない。
この論文では我々は以下のことを報告する。
(i)オーラノフィンがボルテゾミブ(ベルケード)に匹敵するプロテアソーム阻害効果を示す
(ii)ボルテゾミブとは異なり、オーラノフィンは20Sプロテアソームではなくプロテアソーム関連脱ユビキチン化酵素のUCHL5およびUSP14を阻害する。
(iii)プロテアソーム関連脱ユビキチン化酵素の阻害は、オーラノフィンの細胞傷害性に必要である。
(iv)オーラノフィンは、生体内(in vivo)で腫瘍増殖を選択的に阻害し、急性骨髄性白血病患者から採取した腫瘍細胞において細胞傷害性を誘導する。
この研究は、金属含有化合物のプロテアソーム阻害特性の理解に対する重要な新規な知見を提供する。いくつかの脱ユビキチン化酵素阻害剤が報告されているが、臨床で既に使用されているオーラノフィンがプロテアソーム関連脱ユビキチン化酵素の阻害作用を有しており、がん治療薬として有望であることを明らかにした。

ユビキチンが結合したタンパク質がプロテアソームで分解される前に脱ユビキチン化酵素によってユビキチンが分離される必要がありますが、オーラノフィンはこのプロテアソーム関連脱ユビキチン化酵素を阻害することによってプロテアソームの働きを阻害するという実験結果です。脱ユビキチン化酵素は多数の種類がありますが、オーラノフィンは19Sプロテアソームに関連したUSP14 とUCHL5と言う脱ユビキチン化酵素を阻害するということです。

【オーラノフィンとジスルフィラムの相乗効果】
オーラノフィンとジスルフィラムが抗がん作用において相乗効果を示すことが報告されています。以下のような報告があります。

Two clinical drugs deubiquitinase inhibitor auranofin and aldehyde dehydrogenase inhibitor disulfiram trigger synergistic anti-tumor effects in vitro and in vivo(脱ユビキチン化酵素阻害剤のオーラノフィンとアルデヒド脱水素酵素阻害剤のジスルフィラムの2つの薬剤はin vitroおよびin vivoの実験系において相乗的な抗腫瘍効果を引き起こす)Oncotarget. 2016 Jan 19; 7(3): 2796–2808.

【要旨】
プロテアソーム関連脱ユビキチン化酵素の阻害は、がん治療のための新規な戦略として注目を集めている。関節リウマチの治療に使われている金(I)含有化合物のオーラノフィンが、プロテアソーム関連脱ユビキチン化酵素の阻害剤であることが最近報告された。
アルデヒド脱水素酵素の阻害剤であるジスルフィラムはアルコール中毒の治療に使われている。ジスルフィラムが抗腫瘍活性を有することが最近の研究で明らかになっている。
本研究では、肝臓がん細胞を用いて、がん細胞のアポトーシス誘導と増殖抑制におけるジスルフィラムとオーラノフィンの相乗効果について検討した。
その結果、オーラノフィンとジスルフィラムはin vitroとin vivoの両方の実験系において、肝臓がん細胞に対して相乗的な抗腫瘍活性を示した。
さらに、オーラノフィンとジスルフィラムの併用は、カスパーゼの活性化、小胞体ストレス、活性酸素産生を亢進した。
汎カスパーゼ阻害剤z-VAD-FMKは、オーラノフィンとジスルフィラムの併用投与によって引き起こされるアポトーシスを阻害したが、プロテアソーム阻害作用は阻害しなかった。オーラノフィンとジスルフィラムの併用によるアポトーシス誘導には活性酸素は関与していなかった。
以上の結果から、肝臓がん細胞におけるアポトーシス誘導におけるジスルフィラムとプロテアソーム関連脱ユビキチン化酵素阻害剤のオーラノフィンとの間の相乗作用が確認され、新規ながん治療法となる可能性が示された。 

この論文では、ジスルフィラム自体にプロテアソーム阻害作用があることが指摘されていませんが(すでに報告されている作用なので、なぜ言及していないのか不明です)、ジスルフィラムとオーラノフィンは異なる作用メカニズムでタンパク質分解を阻害し、さらにその他多くの作用メカニズムで抗がん作用を示すことが明らかになっています。
したがって、この2つの薬剤の組合せは、がんの代替療法として使用してみる価値は高いと思います。
私自身、数年前からこの2つを併用していますが、ジスルフィラムとオーラノフィンを併用しても副作用はほとんど経験しません。

【2-デオキシ-D-グルコースは酸化ストレスと小胞体ストレスを引き起こす】
細胞はストレスが極限に達すると死滅します。がん細胞に選択的にストレスを高めて自滅させるがん治療法が注目されています。
細胞にストレスを高める方法として酸化ストレス小胞体ストレスがあります。
酸化ストレスと小胞体ストレスを同時に亢進すると、がん細胞は自滅します
細胞内の酸化ストレスは、がん細胞の増殖や転移を抑制する方向で作用します。したがって、がん細胞の酸化ストレスを高めることはがんの治療に有効です。(505話506話参照)
がん細胞の酸化ストレスを高める方法としてケトン食、2-デオキシ-D-グルコース、メトホルミン、レスベラトロール、ジクロロ酢酸ナトリウム、アルテスネイト、高濃度ビタミンC点滴、半枝蓮、オーラノフィン、ジスルフィラムなどがあります。(507話508話509話参照)
2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)はがん細胞の解糖系とペントース・リン酸経路(Pentose Phosphate Pathway: PPP)を阻害し、がん細胞の酸化ストレスを高めます。
2-DGは小胞体ストレスを高めてがん細胞を死滅させる作用も報告されています。
小胞体(Endoplasmic reticulum)は、細胞内における分泌・膜タンパク質の品質管理において大切な小器官です。
2-DGは解糖系を阻害する以外に、タンパク質に糖鎖が着くN-グリコシル化の過程を阻害するので、糖タンパク質の生成を阻害します。
グリコシル化というのはタンパク質に糖類が付加する反応で、小胞体で行われて、正常に糖が付加したタンパク質はゴルジ体に運ばれます。

糖鎖異常の糖タンパク質は、折り畳みが不完全な異常タンパク質になり、小胞体に蓄積して小胞体ストレスを引き起こし、細胞死の原因にもなります。

【タンパク質は小胞体で折り畳まれる】
タンパク質なしでは生命は存在しません。このタンパク質が正しく機能するためには、3次元的に正しく折り畳まれる必要があります。
タンパク質はアミノ酸が複数結合した直鎖状の分子で、可能な立体構造は無数に存在しますが、細胞内では熱力学的に最も安定な立体構造を自発的にとります。このようにタンパク質が機能するために特定の立体構造に折り畳まれることを「タンパク質折り畳み(Protein Folding)」と言っています。(下図)

図:mRNAの情報に基づいて合成されたタンパク質は、特定の立体構造に折り畳まれて、機能を発揮する。

遺伝子発現においてもっともエラーが起こるステップはこのタンパク質折り畳みのところです。
タンパク質折り畳みは小胞体で行われます。
小胞体は真核生物の細胞内小器官の一つで、一重の生体膜に囲まれた板状あるいは網状の膜系の器官です。リボソームで合成された膜タンパク質や分泌タンパク質は、小胞体内やゴルジ装置で「タンパク質の折り畳み」や、糖鎖の結合などたんぱく質の翻訳後修飾を受けて正しい機能を発揮できるたんぱく質として完成します。
小胞体はタンパク質の折り畳み以外にも、脂肪合成、解毒、エネルギー代謝、細胞内カルシウムの制御、酸化還元反応を制御など多彩な機能を果たしています。
小胞体内におけるタンパク質折り畳みは「タンパク質の品質管理」のような仕事です。
異常なタンパク質を監視し、正常に折り畳まれて完成したタンパク質だけを小胞体から他の部位(細胞膜や細胞内小器官など)に移動させる働きを担っています。
小胞体におけるタンパク質折り畳みは、様々な状況(カルシウム濃度、糖鎖結合、エネルギー状態、酸化還元状態、代謝異常、炎症など)で影響を受けやすい過程です。

【折り畳みの異常なタンパク質が増えると小胞体ストレスを起こす】
細胞内のリボソームで合成されたタンパク質は、小胞体で修飾を受け、高次構造(折り畳み)を形成します。正常な折り畳みがなされたタンパク質はゴルジ体へ送られ、糖鎖がついて糖タンパク質が作られます。分泌タンパク質は細胞外へ搬出されます。

図:リボソームで作られた蛋白質は、小胞体で修飾を受けて高次構造(折り畳み)を形成し、さらにゴルジ体で糖鎖の結合などによって成熟蛋白質となって細胞外へ搬出、あるいは細胞内で利用される。

折り畳みに失敗した異常なタンパク質は小胞体にとどまります。
このような正常な高次構造に折り畳まれなかった異常タンパク質が小胞体内に蓄積して、細胞への悪影響(=ストレス)が生じることを小胞体ストレス(ERストレス:Endoplasmic reticulum stress)と言います。
小胞体ストレスの原因となる変性タンパク質は、遺伝子変異、ウイルス感染、炎症、有害化学物質、栄養飢餓、低酸素(虚血)などにより生じます。
小胞体ストレスに対して、細胞は蛋白質の産生量を低下させることで小胞体における蛋白質の折りたたみを軽減したり、分子シャペロンの量を増やすことで折りたたみ機能を向上させたり、変性蛋白質の除去効率をあげることで小胞体ストレスを取り除くように働きます。これを小胞体ストレス応答と言います。
分子シャペロン (Molecular chaperone) とは、他の蛋白質分子が正しい折りたたみ(3次元構造)をして機能を獲得するのを助ける蛋白質の総称です。
分子シャペロンには多くの種類がありますが、小胞体ストレスが負荷されたときに特異的に発現が誘導される分子シャペロンの一つがGRP78です。GRP78とは78-kDa glucose-regulated proteinのことで、分子量が78000のグルコース制御性蛋白質という意味の蛋白質で、その発現量は小胞体ストレス応答 (unfold protein response: UPR)の指標となります。

固形がんは生体内において低酸素・低栄養という環境に適応するための様々なストレスに対する耐性を獲得しています。その中でも小胞体 (ER) 内で分子シャペロンとして働くGRP78の発現亢進は、ストレス耐性において最も大きな役割を担っていることが明らかになっています。
牛蒡子に含まれるアルクチゲニンや、糖尿病治療薬のメトホルミンにはがん細胞の小胞体ストレス応答を阻害してがん細胞を死滅させやすくすることが報告されています。 

【プロテオトキシック・ストレス(Proteotoxic stress)を亢進するがん治療】
細胞にとって細胞内のタンパク質の品質管理(quality control)は重要です。
正常細胞では、不良タンパク質を分解して除去するためにプロテアソームが機能しています。
しかし、がん細胞では異常なタンパク質を増えており、これが蓄積して細胞にストレスを与えています。
急激な増殖や様々な遺伝子異常によって正しく折り畳まれないタンパク質が増えています。このような不良タンパク質の蓄積は細胞に毒性を示します。このような状態をProteotoxic stressと言います。

図:正常細胞では異常タンパク質による負荷と、タンパク質分解システム(プロテアソーム系など)がバランスを取っている。がん細胞では、過剰に合成されたタンパク質や変異タンパク質などが増えて、過剰な異常タンパク質の蓄積によるストレス(Proteotoxic stress)が亢進している。

がん細胞はプロテアソームを増やしたり、分子シャペロンを増やすことによってこのストレスを軽減しています。そこで、この応答(小胞体ストレス応答)やプロテアソームの働きを阻害すると、がん細胞は異常タンパク質の蓄積によるプロテオトキシック・ストレス(Proteotoxic stress)によって死滅します。

 

図:2-デオキシグルコースや酸化ストレスは不良タンパク質を増やす。ジスルフィラムとオーラノフィンはプロテアソームを阻害し、酸化ストレスを亢進して不良タンパク質を増やす。細胞内で異常なタンパク質が蓄積すると、その毒性によるストレスで細胞は死滅する。

変性タンパク質が過剰に蓄積し、小胞体ストレスの強さが細胞の回避機能を越えると、細胞死(アポトーシス)が誘導されます。
がん細胞においては、小胞体ストレスが強度で長期に及ぶと、細胞はアポトーシスのシグナルのスイッチが入り、自滅します。
酸化ストレスは小胞体におけるタンパク質の折り畳み異常をきたし、小胞体ストレスを亢進します。
小胞体ストレスが亢進するとミトコンドリアでの活性酸素産生も増加して酸化ストレスがさらに亢進します。
細胞の酸化ストレスと小胞体ストレスを同時に亢進すると、がん細胞は自滅します
プロテアソーム阻害剤ボルテゾミブは、異常タンパク質の分解を阻害することによって、小胞体に異常タンパク質を大量に蓄積させ、その結果、小胞体機能を破綻させ、細胞を死滅させます。
プロテオソームの働きが阻害されると細胞内タンパク質の恒常性に異常が起こり、ユビキチン化されたタンパク質が細胞内に増え、毒性の強い凝集したタンパク質によってがん細胞に対して致死的に作用するのです。
腫瘍組織内での低酸素、グルコース飢餓、低pHなど、がん細胞は小胞体ストレスを受けやすい状況にあります。したがって、酸化ストレスと小胞体ストレスを高める方法と、プロテアソームを阻害する方法を併用すると、がん細胞を自滅できます。
そのような方法としてジスルフィラム、オーラノフィン、2-デオキシ-D-グルコース、メトホルミン、ジクロロ酢酸ナトリウムの組合せがあります(トップの図)。

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