751)高脂血症治療薬フェノフィブラートとヒドロキシクロロキンの相乗作用

図:高脂血症治療薬のフェノフィブラート(①)は核内受容体のペルオキシソーム増殖因子受容体α(PPARα)に結合する(②)。オールトランス・レチノイン酸(All-trans RA)(③)は9-シス-レチノイン酸(9-cis RA)に変換され(④)、レチノイドX受容体(RXR)に結合し(⑤)、フェノフィブラートが結合したPPARαとヘテロ二量体を形成してペルオキシソーム増殖因子応答配列に結合し(⑥)、標的遺伝子の発現を促進する(⑦)。その結果、がん細胞の増殖・転移の抑制や細胞死(アポトーシス)誘導や細胞分化の誘導が起こる(⑧)。PPARαとRXRによる細胞死誘導に対してがん細胞は細胞保護的オートファジーを誘導して、細胞を保護する(⑨)。ヒドロキシクロロキンはオートファジーを阻害する(⑩)。したがって、フェノフィブラートとオールトランス・レチノイン酸とヒドロキシクロロキンの組み合わせは、抗腫瘍効果において相乗効果がある。

751)高脂血症治療薬フェノフィブラートとヒドロキシクロロキンの相乗作用

【ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)は糖や脂質の代謝に関与する】
ペルオキシソーム(Peroxisome)は酵母から哺乳動物までのほぼ全ての真核細胞が持つ直径0.1~2マイクロメートルの単層の膜で囲まれた球状の細胞小器官です。哺乳類の細胞では1個の細胞に数百から数千個が存在し、多様な物質の酸化反応を行っています。
細胞内のペルオキシソームを増やす作用がある物質が古くから多数見つかっており、これらはペルオキシソーム増殖因子あるいはペルオキシソーム増殖剤と呼ばれています。
これらの物質がどのようにしてペルオキシソームを増やすのかという研究の結果、ペルオキシソーム増殖因子が結合する核内受容体が見つかり、「ペルオキシソーム増殖因子で活性化される受容体」という意味で「ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(Peroxisome proliferator-activated receptor:PPAR)」という長い名前になっています。

このようにPPARは細胞内のペルオキシソームの増生を誘導する受容体として発見されましたが、その後の研究で、糖質や脂質やタンパク質などの物質代謝や細胞分化に密接に関連している転写因子群であることが明らかになりました。脂質や糖質の代謝を促進するので、PPARを活性化する物質は高脂血症や糖尿病の治療薬として臨床で使用されています
歴史的には、フィブラートのような抗高脂血症薬やインスリン抵抗性を改善するチアゾリジンジオン系の抗糖尿病薬は作用機序が不明なまま臨床的有効性が認められて使用されていましたが、これらの薬が細胞のペルオキシソームの数を増やすことが見つかり、その後にPPARを活性化することによって薬効を示すことが明らかになりました。

さらに、PPARの活性化はがん細胞の増殖抑制やアポトーシスや分化の誘導作用などの抗がん作用を示すことが明らかになっています。PPARの活性化剤は糖尿病や高脂血症の治療薬として多くの種類が販売されているので、これらをがんの治療に応用する研究が行われています。

【ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体は核内受容体スーパーファミリーの一種】
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)はレチノイン酸受容体(RAR)やレチノイドX受容体(RXR)やビタミンD受容体などと同じ核内受容体スーパーファミリーに属する核内受容体の一種です。
グルココルチコイドやエストロゲンやアンドロゲンのようなホルモンや、ビタミンAやビタミンDのような脂溶性ビタミンは、遺伝子発現を制御することによって生体機能を調節しています。
このような機能は、それぞれに特異的に反応する核内受容体と、標的遺伝子のDNAにそれらの受容体が結合する部位が存在するという仕組みで達成されます。

48種類の核内受容体の存在が知られていますが、その中にはリガンド(受容体に特異的に結合して活性化する物質)がまだ明らかになっていないものも多数あります。食事から摂取する様々な成分や代謝産物や胆汁酸などがリガンドになる場合もあります。
栄養素として食事から摂取された脂質は、エネルギー産生や細胞膜の材料になるのが主な役割ですが、脂肪酸が代謝されてできる様々な物質が、遺伝子発現にも作用することが明らかになっています。

このような脂質代謝産物による遺伝子発現の調節に関わっている核内受容体としてペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(Peroxisome proliferator-activated receptors:PPARs)があります。
PPARはレチノイドX受容体(RXR)とヘテロダイマー(ヘテロ二量体)を形成して遺伝子のペルオキシソーム増殖因子応答配列に結合します。リガンドが結合していない状態ではPPAR-RXRヘテロダイマーに核内受容体コリプレッサーが結合して転写活性が抑制されています。コリプレッサー(co-repressor)というのは、核内受容体に結合してその転写活性を抑制する因子です。

PPARとRXRにそれぞれのリガンドが結合するとPPAR-RXRヘテロダイマーからコリプレッサーが分離し、転写活性を促進するコアクチベーター(co-activator)が結合します。コアクチベーターはヒストンアセチル化を促進する作用があり、DNAとヒストンの結合を緩めて、他の転写因子やRNAポリメラーゼが標的遺伝子のプロモーター領域に結合しやすくなり、転写が開始されます。このようにPPAR の活性化から遺伝子発現まで様々な因子が複雑に関与しています。

図:ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPARP)とレチノイドX受容体(RXR)はヘテロダイマー(PPAR-RXR)を形成して、コリプレッサーが結合してDNA結合は阻止されている。それぞれの受容体にリガンドが結合すると受容体の構造に変化が生じてコリプレッサーが離れ、コアクチベーターが結合して、標的遺伝子のDNAのペルオキシソーム増殖因子応答配列(AGGTCAの塩基配列が1塩基をはさんで同方向に並んだAGGTCA-n-AGGTCA のダイレクトリピート構造)に結合して転写を亢進する。

【PPARには3つのサブタイプがある】
このPPARには3種類のサブタイプがあります。
主に肝臓や心臓や腎臓や消化管の細胞にあるアルファ型(PPARα)と、脂肪細胞に主にみられるガンマ型(PPARγ)、多くの組織で発現し脂肪酸燃焼とインスリン感受性を高めるデルタ型(PPARδ)です。

PPARαは大量のATPを必要とし脂肪酸酸化の盛んな臓器(肝臓・心臓・腎臓・消化管など)に多く存在します。PPARαは脂肪酸のβ酸化や細胞内外での脂質輸送に関与する多くの遺伝子の発現を誘導するので、高脂血症改善薬のターゲットになっており、フェノフィブラート(Fenofibrate)ベザフィブラート(Bezafibrate)クロフィブラート(Clofibrate)などのいわゆるフィブラート系の薬剤が高脂血症治療薬として使用されています。ベザフィブラートはPPARαだけでなくPPARγやPPARδの活性化作用もありPPAPの汎アゴニスト(pan-agonist)と呼ばれています
また、PPARαは炎症を促進するNF-κB(nuclear factor-kappa B)の活性を抑制し、TNF-α(tumor necrosis factor-α )などの炎症性サイトカインの発現を抑制する作用も報告されています。

PPARγは脂肪組織でインスリン感受性を高めるアディポネクチン遺伝子の発現を促進し、インスリン抵抗性を高める炎症性サイトカインのTNF-αの産生を抑制する作用があります。これらのインスリン抵抗性を改善する作用によって糖尿病を治療する効果を発揮します。薬としてはピオグリタゾンが使用されています。脂肪肉腫の分化誘導の時はPPARγの活性化が有効です749話参照)。

PPARδは多くの組織で発現し、リノール酸やリノレン酸やアラキドン酸などの多価不飽和脂肪酸やアラキドン酸由来物質などが内因性のリガンドとなっています。インスリン抵抗性の改善や脂肪酸のβ酸化の亢進などの作用があります。PPARのpan-agonist(一連の受容体を活性化する特異性の低い刺激剤)であるベザフィブラートはPPARδの活性作用があります。

以上のようにPPARは物質代謝やエネルギー産生に関与しており、摂食後はPPAR-γが作用して効率的に体内に脂肪を蓄え、空腹時はPPAR-αの作用により脂肪がエネルギーに変換され消費されます。これらのPPARの作用に異常が起こると糖尿病や高脂血症や肥満を引き起こします。一般的に、糖尿病はPPARγ、高脂血症はPPARα、肥満はPPARδが深く関与しています。

また、糖尿病や高脂血症や動脈硬化を予防する効果が指摘されている大豆(イソフラボン)や赤ワイン(レスベラトロール)や青魚(ドコサヘキサエン酸やエイコサペンタエン酸)の作用の一部はPPARへの効果が関与している可能性も指摘されています。
大麻に含まれるカンナビノイドの作用もPPARが関与する場合があります。

【脂肪酸のβ酸化を更新すると寿命が延びる】
カロリー制限すると脂肪の燃焼が亢進します。このとき、カロリー制限がAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化し、活性化したAMPKは異化を亢進してATP産生を増やすので、脂肪酸のβ酸化を亢進するということになっています。
糖質制限などによるインスリン/インスリン様成長因子シグナル系の抑制も脂肪酸β酸化を促進します。
β酸化(ベータさんか)とは脂肪酸を酸化して脂肪酸アシルCoA(fatty acyl-CoA; 脂肪酸と補酵素Aのチオエステル)を生成し、そこからアセチルCoAを取り出す代謝経路のことです。脂肪酸アシルCoAのβ位において段階的な酸化が行われることからβ酸化と名付けられました。β酸化は4つの反応の繰り返しから成り、反応が一順するごとにアセチルCoAが1分子生成され、最終生産物もアセチルCoAとなります。生成されたアセチルCoAはTCA回路(クエン酸回路、クレブス回路)に送られ、酸化的リン酸化を経てATP産生に使われます。動物細胞では脂肪酸からエネルギーを取り出すための重要な代謝経路です。
脂肪酸のβ酸化はミトコンドリアで行われますが、長鎖脂肪酸はカルニチンが無いとミトコンドリアに入れませんが、中鎖脂肪酸はカルニチンの助けなしにミトコンドリアに運ばれ、β酸化で代謝されます。(下図)

さて、カロリー制限やAMPK活性化などで脂肪酸のβ酸化が亢進されますが、脂肪酸のβ酸化の亢進自体がカロリー制限と類似のメカニズムで寿命延長効果を示すことが報告されています。以下のような論文が発表されています。

Overexpression of Fatty-Acid-β-Oxidation-Related Genes Extends the Lifespan of Drosophila melanogaster(脂肪酸β酸化に関連する遺伝子の過剰発現はショウジョウバエの寿命を延ばす)Oxid Med Cell Longev. 2012; 2012: 854502. Published online 2012 September 11. doi: 10.1155/2012/854502

この研究グループは、ショウジョウバエの突然変異系統(ミュータント:変異体)を使って、寿命に関連する遺伝子の研究を行っています。ある遺伝子が過剰発現していることによって寿命が延長したショウジョウバエの突然変異系統を解析して、寿命延長効果のある遺伝子を幾つか発見しています。その中に、脂肪酸のβ酸化に関連する遺伝子のfatty-acid-binding protein(脂肪酸結合蛋白) と dodecenoyl-CoA delta-isomerase があったということです。
つまり、脂肪酸のβ酸化に関与する遺伝子が過剰に発現したショウジョウバエの突然変異系統は正常と比べて寿命が延びるという結果を報告しています
コントロールの正常のハエの平均寿命が32日に対して、fatty-acid-binding proteinの遺伝子が過剰に発現しているハエの平均寿命は58日、dodecenoyl-CoA delta-isomerase遺伝子が過剰に発現しているハエの平均寿命は42日でした。
また、正常なハエでは、カロリー制限によって寿命が31.4%延長したのに対して、脂肪酸β酸化関連の遺伝子が過剰発現しているハエでは、カロリー制限による寿命延長が12%と15%と減少していました。これは、脂肪酸β酸化関連遺伝子の過剰発現による寿命延長作用のメカニズムはカロリー制限による寿命延長作用のメカニズムと共通していることを意味しています。つまり、カロリー制限を行わないでも、脂肪酸のβ酸化を促進することはカロリー制限と同じ寿命延長効果を再現できることを示しています。
ただし、カロリー制限の寿命延長効果が脂肪酸β酸化の亢進でゼロになったわけではなく、約半分に減少した程度なので、カロリー制限による寿命延長作用にはβ酸化亢進以外のメカニズムも関与していると考察しています。
さらに、酸化ストレスや飢餓に対する抵抗性が高まっていることを示しています。つまりβ酸化の亢進したハエでは、パラコートを使った酸化障害やエサを減らすことによる飢餓によって死亡する率が減少することが示されています。さらに、このような効果のメカニズムとしてFOXOシグナル伝達系が活性化されていることが示されています。
そして、この論文の結論は「脂肪酸のβ酸化に関与する遺伝子の過剰発現はカロリー制限と同じような機序で寿命を延ばし、そのメカニズムとして転写因子のFOXOの活性化の関与が示唆された」ということでした。

【フェノフィブラートはがん細胞のケトン体産生を誘導する】
フェノフィブラートは核内のペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)に結合して、PPARαを活性化することによって、コレステロールや中性脂肪を低下させる薬です。
フェノフィブラートなどのフィブラート系薬剤は、PPARαに作動してペルオキシソームを増やして脂肪酸のβ酸化を亢進し、グルコースの解糖系を抑制する働きがあるので、がん細胞のワールブルグ効果(酸素がある条件でも、がん細胞はグルコースの嫌気性解糖系でエネルギーを産生していること)を阻害して、がん細胞の増殖を抑える効果があります。
この作用以外にも、インスリン様成長因子-1のシグナル伝達系(PI3K/Akt)を抑制する作用や、抗炎症作用や血管新生阻害作用などの抗腫瘍効果が報告されています。

フェノフィブラートの抗腫瘍効果には、本来のペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPARα)を介した機序と、それとは関係ない機序(PPARα非依存性)が知られています
フェノフィブラートがグリオブラストーマ細胞のFoxO3Aを活性化し、アポトーシスを誘導するBimの発現を亢進し、グリオブラストーマを死滅させる作用が報告されています。
このようなフェノフィブラートの抗がん作用はケトン食との併用で相乗効果が期待できることが指摘されています。
フェノフィブラートが膠芽腫や悪性黒色腫においてケトン体産生を誘導することが報告されています。以下のような報告があります。

Fenofibrate Induces Ketone Body Production in Melanoma and Glioblastoma Cells(フェノフィブラートは悪性黒色腫と膠芽腫においてケトン体産生を誘導する)
Front Endocrinol (Lausanne). 2016; 7: (PMCID: PMC4735548 )

【要旨】
ケトン体[βヒドロキシ酪酸アセト酢酸]は長期間の断食や飢餓状態において主に肝臓で産生される。βヒドロキシ酪酸は末梢組織においてATP産生を維持するための効率の良いエネルギー源となっており、重要な点は、ケトン体はエネルギー源としてグルコースよりも好まれていることである。
しかしながら、悪性腫瘍の多く、特に膠芽腫(グリオブラストーマ)のような神経外胚葉由来の悪性腫瘍は、エネルギー源としてケトン体を利用できない
この論文では、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)の合成アゴニストのフェノフィブラートが、悪性黒色腫(メラノーマ)と膠芽腫(グリオブラストーマ)および非腫瘍性細胞から構成される神経球(ニューロスフェア;neurospheres;浮遊培養した球状の神経幹細胞塊)においてβヒドロキシ酪酸の産生を誘導することを明らかにした。
予想に反して、この効果はPPARα活性と発現量に非依存的であった。
このフェノフィブラート誘導性のケトン症は増殖を停止させ、トランスケトラーゼの発現を低下させたが、NADP/NADPH比とGSH/GSSG比には影響しなかった。
これらの結果は、グリオブラストーマに対する標準治療あるいは食事療法(ケトン食)にフェノフィブラートを併用する価値があることを示している。 

長期間の飢餓やケトン食やカロリー制限したケトン食では、肝臓や、腎臓、小腸粘膜上皮細胞、アストロサイトでケトン体の産生が起こります。
今までの研究で、いかなるがん細胞もケトン体を産生し放出する現象は知られていませんでした。
神経上皮細胞由来(neuroepithelial origin)のがん、すなわち悪性黒色腫やグリオブラストーマにおいて、PPARαのアゴニストで高脂血症治療薬のフェノフィブラートを投与すると、βヒドロキシ酪酸の産生が顕著に増えることを報告しています

フェノフィブラートはがん細胞だけでなく、神経細胞とグリア細胞から構成される神経球(ニューロスフェア;neurospheres;浮遊培養した球状の神経幹細胞塊)においてもケトン体産生が認められました。
PPARαは脂肪酸分解とケトン体産生を誘導する主要な転写因子と考えられていますが、この論文の実験系ではフェノフィブラートによるβヒドロキシ酪酸産生はPPARα非依存性の現象と考えられました。その理由は、PPARαたんぱく質の量をノックダウンしても過剰に発現させてもβヒドロキシ酪酸の産生量と放出量は変化を受けなかったためです。また、PPARαの転写活性を阻害しても、ケトン体産生に対するフェノフィブラートの作用は阻止されなかったからです。
つまり、フェノフィブラートはPPARαに非依存性の経路で、悪性黒色腫と膠芽腫細胞からβヒドロキシ酪酸の産生を高めるということです。

ケトン体は単なるエネルギー源ではなく、シグナル伝達分子として作用するなど、より複雑な生理機能を持っています。
βヒドロキシ酪酸はクラスIとクラスIIaのヒストン脱アセチル化酵素の活性部位の亜鉛イオンと結合することによって酵素活性を阻害します。ヒストン脱アセチル化酵素の活性阻害は、ヒストンのアセチル化を亢進して遺伝子発現に作用することによって多様な生理作用を発揮します。
例えば、ストレス応答に関与するFOXO3A遺伝子の発現を誘導します。FOXO3Aは細胞周期を停止させ、活性酸素の消去能を高め、様々なストレス状況におけるアポトーシスを制御することによってがん抑制遺伝子として作用します。
実際に、フェノフィブラートはグリオブラストーマ細胞(LN229)において核内にFOXO3Aの蓄積と転写活性の亢進を認めています。さらに、フェノフィブラートを長期間投与することによってFOXO3Aがグリオブラストーマ細胞にアポトーシスを誘導することが報告されています

前述の論文の研究結果は、フェノフィブラートで処理された膠芽腫細胞(LN229)によって放出されたβヒドロキシ酪酸はオートクリン作用(ある細胞が産生し分泌した物質が、産生細胞自身に作用すること)によってさらにFOXO3A遺伝子の転写を誘導して活性化することを示しています。ケトン食の抗腫瘍効果を高める方法としてフェノフィブラートの併用の有効性が示唆されます。 悪性黒色腫(メラノーマ)や膠芽腫(グリオブラストーマ)のような神経外胚葉系の悪性腫瘍にケトン食とフェノフィブラートを併用することは試してみる価値があると思います。
フェノフィブラートが膠芽腫に有効であることは326話438話で解説しています。
さらにFoxO3aを活性化する方法(メトホルミン、中鎖脂肪ケトン食、L-カルニチンとアセチル-L-カルニチン、フェノフィブラート、オールトランス・レチノイン酸など)の併用も有効です。(747話

【フェノフィブラートはFoxO3Aを活性化して膠芽腫細胞のアポトーシスを誘導する】
次のような論文があります。

Fenofibrate-induced nuclear translocation of FoxO3A triggers Bim-mediated apoptosis in glioblastoma cells in vitro.(培養したグリオブラストーマ細胞におけるフェノフィブレラートによって誘導されるFoxO3Aの核内移行はBimを介するアポトーシスを引き起こす)Cell Cycle. 11(14):2660-71.2012年

【要旨の抜粋】
PPARα(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α)の強力なアゴニスト(受容体分子に結合して本来の伝達物質やホルモンと同様の作用を示す物質)の一つであるフェノフィブラート(fenofibrate)は、副作用の少ない抗高脂血症薬として広く使用されている。
フェノフィブラートによって活性化されるPPARα転写活性は、エネルギー代謝をグルコースの解糖系から脂肪酸のβ酸化へとシフトさせることが予想され、これは解糖系に依存性の高いグリオブラストーマ細胞のエネルギー代謝の弱点をターゲットにすることができる。
本研究では、25μMのフェノフィブラートがグリオーマ(神経膠腫)細胞やグリオブラストーマ(神経膠芽腫)細胞の増殖を効果的に抑制することが示された。この細胞増殖抑制作用は細胞周期のG1期での停止と少数のアポトーシスによる細胞死によって起こっていた。
25μMのフェノフィブラートで処理されたがん細胞は増殖を停止したままであったが、50μMの濃度でがん細胞を処理すると、72時間後に大量の細胞がアポトーシスによって死滅した。
このアポトーシスの発現に先立って、転写因子FoxP3Aのセリン413のリン酸化が起こってFoxO3Aは核に移行し、その転写活性が亢進してFoxO3Aのターゲット遺伝子であるBim の発現を亢進した。Bimの発現亢進は細胞のアポトーシスを引き起こす。この時、FoxO3Aの活性をsiRNAで阻害すると、フェノフィブラートで引き起こされるアポトーシスは阻止された。つまり、フェノフィブラートで誘導されるグリオブラストーマのアポトーシスはFoxO3Aの活性化が直接関与していることが示された

PPARαはペルオキシソームを増やして脂肪酸のβ酸化を亢進し、グルコースの解糖系を抑制する働きがあるので、がん細胞のワールブルグ効果(酸素がある条件でも、がん細胞はグルコースの嫌気性解糖系でエネルギーを産生していること)を阻害して、がん細胞の増殖を抑える可能性が指摘されています。
この作用以外にも、インスリン様成長因子-1のシグナル伝達系(PI3K/Akt)を抑制する作用や、抗炎症作用や血管新生阻害作用などの抗腫瘍効果が報告されています。
フェノフィブラートの抗腫瘍効果には、本来のペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPARα)を介した機序と、それとは関係ない機序(PPARα非依存性)が知られています
Bimはがん細胞のミトコンドリアに作用してアポトーシスを誘導するタンパク質で、転写因子のFoxO3Aによって発現が誘導されます。フェノフィブラートはFoxO3Aを活性化してBimの発現を誘導してグリオブラストーマ細胞の増殖抑制とアポトーシス誘導を引き起こすことが、この論文で報告されています。

フェノフィブラートによってアポトーシスが引き起こされるに先立って、転写因子のFoxO3Aのセリンのリン酸化と核内への移行が起こり、さらに、アポトーシスを引き起こすタンパク質のBimが活性化したFoxO3Aによって発現が誘導されました。
さらに著者らは、PPARαのその他のアゴニストはフェノフィブラートに比べて抗腫瘍効果は弱く、siRNAを使ったPPARα遺伝子のサイレンシングによるフェノフブラートの抗腫瘍効果の減弱は部分的であったので、フェノフィブラートによるFoxO3Aの転写活性とBimの発現亢進によるアポトーシス誘導には、PPARαを介した機序(PPARα-dependent)と介さない機序(PPARα-independent)の2つのメカニズムがあることが示唆されました。
この研究は、フェノフィブラートが転写因子のFoxO3Aのリン酸化によって核内移行を引き起こしてFoxO3Aの転写活性を高め、FoxO3AはBim発現を誘導することによってグリオブラストーマ細胞のアポトーシスを誘導することを明らかにしています。

図:膠芽腫(グリオブラストーマ)細胞において、ケトン食で産生されるβ-ヒドロキシ酪酸はヒストン・アセチル化の機序で転写因子FoxO3Aを活性化する(①)。ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)の合成リガンドのフェノフィブラートはPPARα非依存性の作用機序でFoxO3Aを活性化する(②)。フェノフィブラートがグリオブラストーマからβ-ヒドロキシ酪酸の産生を亢進することが報告されている(③)。グリオブラストーマから産生されてβ-ヒドロキシ酪酸はオートクリン機序(ある細胞が産生し分泌した物質が、産生細胞自身に作用すること)によってさらにFoxO3A遺伝子の転写を誘導して活性化する(④)。FoxO3Aは膠芽腫細胞の増殖を抑制し、アポトーシス(細胞死)を誘導する(⑤)。フェノフィブラートはPPARα依存性機序で、免疫細胞のT細胞の活性化、炎症抑制、血管新生阻害作用などによって抗腫瘍効果を発揮する(⑥)。ケトン食とフェノフィブラートの併用は膠芽腫の治療に役立つ可能性が指摘されている。

【FoxO3aは転写因子】
長寿になるには、様々なストレスに対する抵抗性が高くなっている必要があります。医学の発達によって80歳代での死亡が多くなっていますが、100歳を超えるような超高齢になるには、それなりの理由があるはずです。FOXOは様々なストレスに対する抵抗力を高める作用を担っており、カロリー制限における寿命延長や老化性疾患の抑制において重要な役割を果たしていることが知られています。
FoxOは「Forkhead box O」の略で、DNA結合ドメインFOX(Forkhead box)をもつForkheadファミリーのサブグループ“O”に属する転写因子です。
哺乳類では4種類(FoxO1, FoxO3a, FoxO4, FoxO6)あり、線虫ではDaf-16、ショウジョウバエではdFOXOとそれぞれ1種類のみ存在します。 
線虫とハエと哺乳類において、インスリン/インスリン様成長因子-1(IGF-1)シグナル伝達系は保存されており、FoxO転写因子はこのシグナル伝達系の下流する位置しています。 

FoxO1とFoxO3aは約650個のアミノ酸からなる蛋白質で、遺伝子のプロモーター領域のTTGTTTACという配列に結合します。
転写因子というのは特定の遺伝子の発現(DNAの情報を蛋白質に変換すること)を調節している蛋白質で、FoxOはストレス応答、代謝制御、細胞周期、アポトーシス、細胞分化、DNA修復、免疫機能、炎症などに関連する多くの遺伝子の発現を促しますがん抑制遺伝子としての性格ももっており、FoxOの活性化は一般的に抗がん作用があります。

FoxO3aのリン酸化にはリン酸化されるセリンあるいはスレオニンの部位によって、核外に移行して転写活性が阻害される場合と、逆に核内に保持されて転写活性が亢進される場合の2種類があります。
インスリン/インスリン様成長因子-1(IGF-1)はPI3K/Aktシグナル伝達系を亢進し、活性化されたAktは転写因子FoxO3aをリン酸化します。この場合、リン酸化されたFoxO3aは核外(細胞質)へ移行して分解されるので、FoxO3aの転写活性は抑制されます。(下図)

図:インスリン/インスリン様成長因子-1(IGF-1)はPI3K/Aktシグナル伝達系を亢進し、活性化されたAktは転写因子FoxO3aをリン酸化する。リン酸化されたFoxO3aは14-3-3というたんぱく質と結合し核外(細胞質)へ移行して分解されるので、FoxO3aの転写活性は抑制される。FoxO3aの標的遺伝子は細胞増殖を停止させ、がん抑制的に作用するので、FoxO3aの核外への移行(不活性化)はがん細胞の増殖を促進することになる。

FoxO3aは細胞周期の進行を阻害するタンパク質p27Kip1の発現を促進します。p27Kip1は細胞周期のG0/G1停止を引き起こすサイクリン依存性キナーゼ阻害因子です。
また、FoxO3aはがん細胞のミトコンドリアに作用してアポトーシスを誘導するタンパク質のBimの発現を亢進することが報告されています(326話)。
つまり、FoxO3aの転写活性を高めることはがん細胞をG0/G1期で細胞周期を止め、アポトーシスを誘導することになります(下図)。 

図:インスリンやインスリン様成長因子-1やその他の増殖因子や成長因子はPI3K/Aktシグナル伝達系を活性化し、AktはFoxO3aをリン酸化して核外に移行させて転写活性を阻害(不活性化)する。FoxO3aはサイクリン依存性キナーゼの阻害因子であるp27Kip1やアポトーシスを誘導するBimの発現を亢進してがん細胞をG0/G1期で停止させ、アポトーシスを誘導する。したがって、PI3K/Aktシグナル伝達系の活性阻害は、がん細胞の増殖抑制とアポトーシス誘導に作用する。

【フェノフィブラートとケトン食の相乗効果】
FoxO3Aのリン酸化にはリン酸化されるセリンあるいはスレオニンの部位によって、核外に移行して転写活性が阻害される場合と、逆に核内に保持されて転写活性が亢進される場合の2種類があります。
インスリン/インスリン様成長因子-1(IGF-1)はPI3K/Aktシグナル伝達系を亢進し、活性化されたAktは転写因子FoxO3Aをリン酸化します。この場合、リン酸化されたFoxO3Aは核外(細胞質)へ移行するので、FoxOの転写活性は抑制されます。
一方、フェノフィブラートはPPARαに依存性か非依存性か(どちらか、あるいは両方か)は不明ですが、Fox3Aをリン酸化しますが、この場合のリン酸化(セリン413)は、FoxO3Aを核内に保持して転写活性を高める作用があるということを報告されています。
フェノフィブラートはPPARαの転写活性を亢進することによって脂肪酸のβ酸化を行う酵素の発現を増やし、一方、グルコースの解糖系の酵素の発現を抑制する作用があります。つまり、グルコースの解糖系の亢進に依存しているがん細胞のエネルギー代謝を阻害する効果もあります。
また、ショウジョウバエの研究で、脂肪酸のβ酸化が亢進するとFOXOが活性化して寿命が延びることが明らかになっています(318話参照)。
つまり、PPARαを刺激して脂肪酸のβ酸化を亢進するフェノフィブラートはFoxO3Aの転写活性を亢進して、ストレスに対する抵抗性を増し、がん細胞においては解糖系を抑制してエネルギー産生を低下させ、さらにアポトーシスを引き起こすBimの発現亢進などによってがん細胞を死滅させる効果が期待できるということです。
さらに、フェノフィブラートには、PPARαとは関係ない機序で、PI3K/Aktシグナル系を抑制する作用も示唆されています。
βヒドロキシ酪酸がヒストンのアセチル化を介してFoxO3Aを活性化することがマウスを使った研究で明らかになっています(322話参照)。
ケトン食がグリオブラストーマに効果があることは臨床的に示されています。また、ケトン食がてんかんを抑制する機序に一つにmTORC1の抑制があります。ケトン食がアディポネクチンの産生を増やしてAMPKの活性を高めてFoxO3Aの活性を高める作用も報告されています。
また、フェノフィブラートによるBimの発現更新によるアポトーシスに対してオートファジーが発動して細胞保護的(細胞死の阻止)に作用します。オートファジー阻害剤のヒドロキシクロロキンがフェノフィブラートの抗腫瘍効果を高めることが報告されています

以上、様々な情報から、極めて難治性のグリオブラストーマの治療に、ケトン食、フェノフィブラート、メトホルミン(AMPKを活性化する)、オールトランス・レチノイン(FoxO3Aの発現を亢進)、ヒドロキシクロロキンの組合せは期待できるかもしれません。
中鎖脂肪ケトン食とフェノフィブラートとレチノイド(イソトレチノインやオールトランス・レチノイン酸)とメトホルミンの組合せを自分の体で試していますが、副作用は特に問題ありません。理論的には、脂肪酸のβ酸化が亢進し、FoxO3Aが活性化されて、健康増進や寿命延長の効果は期待できます。
アルファ・リノレン酸(亜麻仁油や紫蘇油やクルミに多い)、リノール酸、オレイン酸(オリーブオイルやアボカド)などの食事から取る長鎖不飽和脂肪酸もPPARのリガンドになります。
糖質制限+高脂肪食によるケトン食を実践するとき、抗がん作用のあるω3多価不飽和脂肪酸のDHA(ドコサヘキサンエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)とケトン体を産生しやすい中鎖脂肪酸の他に、PPARを刺激するαリノレン酸やオレイン酸を多く含む食材(亜麻仁油、紫蘇油、オリーブ油、クルミ、アボカド)を多く摂取し、さらに、β酸化を亢進するL-カルニチンフェノフィブラートを併用するとケトン食の効果を高めることができます。

図:フィブラート系の高脂血症治療薬のフェノフィブラートが神経膠芽腫(グリオブラストーマ)に対して抗腫瘍効果を示すことが報告されている。その作用機序は多彩で、PPARα(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α)の活性化を介する脂肪酸β酸化の亢進とグルコースの解糖系の抑制はがん細胞のワールブルグ効果を抑制して抗腫瘍効果を示す(①)。さらに、PPARα依存性あるいは非依存性の機序で、PI3K/Aktシグナル伝達系の阻害(②)や、転写因子FoxO3Aの活性化(③)を引き起こす。FoxO3Aの活性化はアポトーシスを誘導するBimの発現を亢進し、グリオブラストーマを死滅させる(④)。フェノフィブラートには抗炎症作用や血管新生阻害作用も報告されている(⑤)。グリオブラストーマにケトン食が有効であることが報告されている(⑥)。ケトン食はβヒドロキシ酪酸によるヒストンアセチル化亢進(⑦)やアディポネクチン産生を介するAMP依存性プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化(⑧)によってFoxO3Aを活性化する(⑨)。以上のことから、グリオブラストーマの治療にケトン食とフェノフィブラートの併用は相乗効果が期待できる。

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