808) 七叶一枝花(Paris polyphylla)の抗がん作用

図:七叶一枝花(Paris polyphylla)は中国やインドやチベットなどに分布するユリ科の多年草で、その根茎はがんや感染症や蛇咬傷など様々な病気の治療に古くから使用されている。抗がん作用を示す成分としてステロイドサポニンのpolyphyllin Dが最も研究されている。さらにDiosgenin、Paris saponins I, II, VI, VII, Hなど多くの成分に、がん細胞の増殖・転移の抑制、細胞死誘導、血管新生阻害などの様々な機序での抗がん作用が報告されている。近年、がん治療における七叶一枝花の有効性が注目されている。

808) 七叶一枝花(Paris polyphylla)の抗がん作用

【毒ガスからスタートした抗がん剤の開発】
最初の抗がん剤のナイトロジェンマスタードは、第一次世界大戦に化学兵器として使われたマスタードガスのイオウ原子を窒素に置き換えた化合物です。DNAやDNA結合タンパク質の特定の部位に結合して、DNAの複製を阻害して細胞分裂を止めます。
白血病や悪性リンパ腫の治療薬として効果を認められましたが、その作用機序から明らかなように細胞分裂を行っている正常細胞も死滅させるため、強い副作用が起こります。
その後毒性を弱めたナイトロジェンマスタード誘導体が開発され、シクロフォスファミドメルファランといった抗がん剤が開発され、現在も使用されています。

図:マスタードガス、ナイトロジェンマスタード、シクロホスファミドの構造式

ナイトロジェンマスタードが最初にがん患者に使用されたのは1946年です。1950年代以降のがん治療法の研究領域では、「がんはいかなるコストを払っても抹殺すべき」という考えが主流で、「がん細胞を死滅させる細胞毒を見つけて抗がん剤にする」ような研究が重視されました。したがって、細胞毒性の強い抗がん剤が多く開発され、現在も使用されています。

しかし、細胞分裂を阻害して増殖しているがん細胞を死滅させようとする抗がん剤の最大のデメリットは、正常細胞にもダメージを与えて強い副作用を引き起こすことです。骨髄細胞(白血球や赤血球や血小板)や免疫組織消化管粘膜毛根細胞など絶えず細胞分裂を行っている正常細胞もダメージを受けるため、白血球減少貧血免疫力低下消化管機能障害脱毛など様々な副作用を発症します。

【植物は様々な毒を産生する】
植物は様々な物質を合成して蓄積しています。このような植物が合成する物質には、植物の感染防御や生体防御に関連するものが多くあります。
例えば、野菜や果物に含まれるポリフェノールカロテノイドビタミンCビタミンEなどの抗酸化物質は、植物が日光の紫外線の害から身を守るために作っているのですが、人間はそれらを摂取することによって活性酸素やフリーラジカルを消去して、老化やがんの予防に役立てています。
また、昆虫や鳥や動物から食い荒らされないように、これらの生物に対して毒になるものを作っており、それらが人間の病気の治療にも使われています。毒は適量を使えば薬になるということです。

植物体に病原菌や寄生菌が侵入すると、植物細胞は抗菌性物質(生体防御物質)を生成する場合があります。このような生体防御物質をフィトアレキシン(phytoalexin)といいます。
例えば、赤ブドウの皮などに含まれ寿命延長作用やがん予防効果が話題になっているレスベラトロール(Resveratrol)もフィトアレキシンの一つです。 レスベラトロールはスチルベン合成酵素(stilbene synthase)によって合成されるスチルベノイド(スチルベン誘導体)ポリフェノールの一種で、気候変動やオゾン、日光、重金属、病原菌による感染などによる環境ストレスに反応して合成されます。 

また、アブラナ科植物のホソバタイセイに含まれる抗菌成分のグルコブラシシンも病原菌の感染から身を守るために作られます。ホソバタイセイの葉に病原性ウイルスを感染させたり機械的に傷をつけるとグルコブラシシンが多く作られてくることから、グルコブラシシンはホソバタイセイの生体防御の役割をしていると考えられています。このグルコブラシシンを人間が摂取すると、体内でインドール-3-カルビノールジインドリルメタンのようながん予防成分に変換します。

このように、植物は病原菌からの感染や、虫や動物から食べられるのを防ぐために、生体防御物質や毒になるものを持っています。このような物質は、人間でも抗菌作用や抗ウイルス作用が期待できます。
また、抗菌・抗ウイルス作用をもった成分の中には抗がん作用を示すものもあります。 熱帯地域やジャングルなど過酷な環境で生育する植物には、そのような抗菌作用や抗炎症作用や抗がん作用の強い成分が多く含まれているので、病気の治療に役立つ成分が多く含まれている可能性も指摘されています。

植物が持っている毒を間違って人間が食べると食中毒を引き起こします。スイセン(水仙)はリコリンなどの有毒成分成分を持っており、ニラと間違えて食べて食中毒を起こす事例が時々報道されています。
トリカブトは植物最強毒と呼ばれるアコニチンを含んでおり、矢尻に塗って毒矢を作ったり、殺人の目的で使用されるケースもあります。漢方ではトリカブトを弱毒化して生薬の附子(ブシ)として利用しています。毒は薬になるという例の一つです。
スイセンやトリカブトの毒も、植物が自分を捕食者から守るための毒として蓄えているものです。この毒は、毒薬にもなり、薬にもなるということです。

このような毒は抗がん剤の候補になります。
西洋医学では、分離した成分を医薬品として利用しますが、漢方治療では毒をもった植物そのものを利用します。漢方治療は体力や抵抗力を高める方法だけでなく、西洋医学のがん治療と同じように、「毒をもって毒を攻撃する(以毒攻毒)」という考え方も重視しています。植物が持っている細胞毒をうまく利用すると、がん治療に有効な漢方薬を作ることができます。

図:多くの植物は、カビや細菌や昆虫などの外敵から自分を守るため、あるいは動物から食べられないようにするために毒を持っている(①)。これらの植物毒は食中毒の原因になったり、毒薬にもなる(②)。しかし、これらの植物毒を上手に利用すれば医薬品にもなる(③)。がん細胞の増殖を阻害するために利用できるものもあり、現在使用されている抗がん剤の中にも、植物から見つかったものが多数ある(④)。西洋医学では、分離した成分を医薬品として利用する(⑤)が、漢方治療では毒をもった植物そのものを利用する(⑥)。

【漢方薬でがんを縮小できるのか?】
がん治療における漢方治療の目的は、①標準治療の副作用軽減や症状の改善といった補完治療と、②がんの抑制や縮小を目指す代替治療の2つに大別されます。 

①の標準治療の補完というのは、体力や抵抗力や免疫力を高めることによって標準治療(手術や抗がん剤治療や放射線治療)の副作用の軽減や症状の改善や緩和、治療後の回復の促進などを目標とします。 
がん治療における漢方治療の併用が再発率の低下や生存率の向上に有効であることは多くの臨床試験によって示されています。 
例えば、ステージIIIとIVの進行肺がん患者の抗がん剤治療において、中医薬(漢方薬)を併用した場合の効果を検討した24のランダム化臨床試験のデータをメタ解析した報告があります。それによると、抗がん剤治療に中医薬治療を併用すると、(1)毒性(副作用)を軽減し、(2)生存率を向上し、(3)奏功率を高め、(4)全身状態(KPS)を改善することが示されています。 

また、肝臓がんの抗がん剤治療に漢方治療を併用すると、抗がん剤のみで治療した場合に比べて、12ヶ月後、24ヶ月後、36ヶ月後の生存率はそれぞれ1.55倍、2.15倍、2.76倍に向上し、抗がん剤治療によって腫瘍が縮小する率(奏功率)は1.39倍に上昇することが、26件の臨床試験(対象患者総数2079例)のメタアナリシスで示されています。 
その他、多くの臨床試験で有効性と安全性のエビデンスが報告されています。 
つまり、がん患者さんの体調や症状の改善や標準治療の補完としての漢方治療の有効性や有用性は十分なエビデンスがあると言えます。 
しかし、多くのがん治療の専門医は標準治療以外の治療法の併用を否定するので、がん治療の副作用軽減の目的で漢方治療を積極的に利用している医師は極めて少ないのが現状です。 

②の漢方治療の抗がん作用に関しては、『漢方薬はがんに効かない』と多くの医師は断定的に否定しています。確かに、食欲増進や体力増強が効能の主体の処方のエキス製剤の場合は、がん細胞の増殖を抑制したり死滅させる効果は皆無と言えます。 
しかし、抗がん作用のある成分を含む生薬(いわゆる「抗がん生薬」)を多く使った煎じ薬は、がん細胞の増殖を抑えたりがん組織を縮小させる効果が実際にあります。 実際に、漢方治療だけで腫瘍マーカーが継続的に低下したり、画像検査で腫瘍の縮小効果を得ることは、それほど稀ではありません。 
それは、植物成分には動物に毒になるものがあり、その様な成分が抗がん作用を示すからです。現在使用されている抗がん剤の中にも、ビンカアルカロイドタキサン類イリノテカンなど植物成分から開発されたものが数多くあります。 

抗がん生薬を使った漢方治療というのは、低用量頻回投与の抗がん剤治療と類似のメカニズムで抗腫瘍活性を示している可能性があります。この低用量頻回投与の抗がん剤治療はメトロノミック・ケモテラピー(Metronomic Chemotherapy)と呼ばれる治療法です。 最近、このメトロノミック・ケモテラピーの有効性が報告されています。つまり、抗がん作用のある生薬を使った漢方治療だけでも、腫瘍を縮小させる効果はあるのです。

【植物には様々な機序で抗がん作用を示す成分が多数見つかっている】
野菜や薬草や生薬などの植物から、がん細胞の増殖を抑制したり、アポトーシスや細胞分化を誘導するような成分も見つかっています。現在使用されている抗がん剤のなかにも、植物由来成分から開発されたものが多くあります。
例えば、抗がん剤の分類の中に「植物アルカロイド」と言われるものがあります。アルカロイド(alkaloid)という言葉は「アルカリ様」という意味ですが、窒素原子を含み強い塩基性(アルカリ性)を示す有機化合物の総称です。植物内でアミノ酸を原料に作られ、植物毒として存在しますが、強い生物活性を持つものが多く、医薬品の原料としても利用されている成分です。モルヒネキニーネエフェドリンアトロピンなど、医薬品として現在も利用されている植物アルカロイドは多数あります。

抗がん剤として使用されている植物アルカロイドとして、キョウチクトウ科ニチニチソウに含まれるビンクリスチンビンブラスチンなどのビンカアルカロイド系、イチイ科植物由来のパクリタキセルドセタキセルのタキサン系、メギ科ポドフィルム由来のエトポシドテニポシドなどのポドフィロトキシン系などがあります。
イリノテカンは中国の喜樹という植物から見つかったカンプトテシンという植物アルカロイドをもとに改良された誘導体から開発されました。

図:抗がん剤として使用されている植物アルカロイドとして、キョウチクトウ科ニチニチソウに含まれるビンクリスチンやビンブラスチンなどのビンカアルカロイド系、イチイ科植物由来のパクリタキセルやドセタキセルのタキサン系、メギ科ポドフィルム由来のエトポシドやテニポシドなどのポドフィロトキシン系などがある。イリノテカンは中国の喜樹という植物から見つかったカンプトテシンという植物アルカロイドをもとに改良された誘導体から開発された。

ビンカアルカロイドは細胞分裂に重要な微小管の重合を阻害して細胞分裂を停止させます。タキサン系は微小管の脱重合を阻害して細胞分裂を阻害します。エトポシドやイリノテカンはトポイソメラーゼ(DNAの切断と再結合をする酵素)の働きを阻害して細胞分裂を阻害します。
植物には抗がん作用を示す物質が多く存在し、細胞毒性が特に強いものが抗がん剤として利用されています。単独では抗がん活性が低くても複数を組み合せると抗がん作用を強化できます。抗がん作用のある薬草を複数組み合せると、がんを縮小する効果も得られます。

抗がん剤開発の過程では、生薬を始め多くの薬草の抗がん活性がスクリーニングされてきました。しかし生薬の抗がん作用のスクリーニングの過程では培養したがん細胞を直接死滅させる効果や、ネズミに移植したがんを縮小させる効果の強いことが選択の基準とされてきたため、がん縮小率は低くても延命効果という面から有用な植物成分の多くが見逃されてきました。
植物に含まれる抗がん作用をもつ成分の多くは、腫瘍縮小率から評価すると、化学薬品の抗がん剤の効果に及ばないのですが、副作用が少なくしかも腫瘍の増殖を有意に抑制できるようなものは腫瘍の退縮につながります。
腫瘍縮小率が0であっても、がん細胞を休眠状態にもっていけるものであれば延命効果は期待できます。
このような薬剤は、従来の抗がん剤の評価法では無効と分類されるものですが、がんとの共存を目指す治療においては極めて有用と考えられます。

【古くからがん治療に使用され、最近特に注目されている七叶一枝花(Paris polyphylla)】
動物実験や臨床経験などで抗腫瘍効果が知られている抗がん生薬として、白花蛇舌草半枝蓮竜葵七叶一枝花蛇苺蒲公英山豆根紫根などがあります。他にも多数あります。
固形がんの場合、白花蛇舌草と半枝蓮の組み合わせの有効例が最も多く報告されています
白花蛇舌草(学名はOldenlandia diffusaあるいはHedyotis diffusa)はアカネ科の1年草のフタバムグラの根を含む全草を乾燥したものです。白花蛇舌草はウルソール酸とオレアノール酸を多く含みます。ウルソール酸とオレアノール酸は多くの植物に含まれる五環系トリテルペノイドで、がん細胞にアポトーシスを誘導する作用、血管新生阻害作用、毒物による肝障害から肝臓を保護する作用などが報告されています。
半枝蓮 (はんしれん)は学名をScutellaria barbataと言う中国各地や台湾、韓国などに分布するシソ科の植物です。半枝蓮はアルカロイドやフラボノイドなどを含み、抗炎症・抗菌・止血・解熱などの効果があり、中国の民間療法として外傷・化膿性疾患・各種感染症やがんなどの治療に使用されています。


抗がん作用の強い薬草として七叶一枝花(シチヨウイッシカ)も有名です。
七叶一枝花は学名をParis polyphyllaと言い、中国各地に分布しているユリ科の多年草です。高さ30~100cm、直径約1cmの直立の茎の上端に、通常7片の長楕円形の葉が輪生し、七葉一枝花とも書きます。

図:七叶一枝花はユリ科の多年草で、高さ30~100cm、直径約1cmの直立の茎の上端に、通常7片の長楕円形の葉が輪生し七葉一枝花とも書く。中国では、その根茎をがん治療に多く使用している。

薬用部位の根茎は古く「蚤休(そうきゅう)」と呼び「神農本草経」や「本草綱目」などにも記載されています。「草河車(そうかしゃ)」とも言います。つまり、2000年以上前から中国伝統医学で使用されています。
最近も七葉一枝花(Paris polyphylla Sm.)の生物活性に関する総説論文も出ています。

Bioactive secondary metabolites in Paris polyphylla Sm. and their biological activities: A review.(Paris polyphylla Smの生物活性を有する二次代謝産物とその生物活性:総説)Heliyon. 2022 Feb; 8(2): e08982.

七叶一枝花(七葉一枝花)はインド伝統医学(アーユルヴェーダ)、チベット伝統医学、中国伝統医学などにおいて重要な薬用植物として利用されています。
乱獲、生息地の劣化、貿易のための違法な収集、および伝統的な使用による野生個体群の減少により資源が減少していることが問題になっています。IUCNの絶滅危機種のレッドリストに「危急種」として記載されています。

七叶一枝花の根茎には多くの種類のサポニンが含まれており、捕食者から自分を守る目的の毒として産生しているものと思われます。この毒ががん治療に利用できるということです。
抗がん作用を示す成分としてステロイドサポニンのpolyphyllin Dが最も研究されています。さらにDiosgenin、Paris saponins I, II, VI, VII, Hなど多くの成分に、がん細胞の増殖・転移の抑制、細胞死誘導、血管新生阻害などの様々な機序での抗がん作用が報告されています。
サポニン(saponin)という名前は泡を意味する「シャボン(サボン)」に由来します。

サポニンの構造はトリテルペンやステロイドにオリゴ糖(二個以上の糖が結合したもの)が結合した配糖体です。
糖の部分は水酸基が多く親水性であるのに対して、非糖部分は疎水性であるため、同じ分子内に親水性と疎水性という両極端な性質をもった部分構造が共存しているため界面活性様作用を持つことになり、そのために水に混ぜて振ると泡立つのです。
サポニンは植物と棘皮動物(ナマコ、ヒトデ)にしか含まれません。海面活性作用があるので、毒性があります。

七叶一枝花の薬理作用として、強い抗菌・抗炎症作用(清熱解毒、消腫)を持ち、様々な細菌やウイルスに対して強い抗菌・抗ウイルス作用を発揮し、炎症を抑え、腫れを軽減する効果があります。
さらに、抗がん作用、鎮咳・去痰作用、喘息を緩和する作用、鎮静作用・抗痙攣作用などが報告されています。
このような薬効により、がん治療の他、肺炎、気管支炎、喘息、脳炎、腫れもの、蛇咬傷、小児の熱性痙攣などの治療に使用されています。

煎じ液には通常3g~15gを使用し、がん治療には15~30gを使用しています。 ただし毒性もあり、過量に服用すれば悪心、嘔吐、頭痛がみられ、ひどければ痙攣が現れると言われています。 主成分のステロイド様サポニンポリフィリンD(Polyphyllin D)には、様々ながん細胞に対してアポトーシスを誘導する効果が報告されており、肺がん、乳がん、消化器系のがん、肝臓がん、膵臓がん、膀胱がん、脳腫瘍、白血病など多くの悪性腫瘍に対して効果が報告されています。

がん治療における科学的研究として以下のような報告があります。

○ がん治療で使用される15種類の生薬について、消化器系のヒト培養がん細胞(胃がん、大腸がん、肝臓がん、食道がん)を用いて、抗腫瘍活性を検討したところ、七叶一枝花の抽出エキスが最も効果が高く、培養がん細胞の増殖を半分に抑制する濃度は10~30 マイクログラム/mlであった。Phytother Res. 2007 Nov;21(11):1102-4.

○ 七叶一枝花の根に含まれるディオスゲニル・サポニン(diosgenyl saponin)類にはマクロファージを活性化し、免疫増強作用がある。Bioorg. Med. Chem. Lett. 17(9):2408-2413, 2007

○ 中国では七叶一枝花は肝臓がんの治療に使用されている。七叶一枝花の根に含まれるPolyphyllin Dは、培養肝臓がん細胞のアポトーシスを誘導した。また、抗がん剤感受性を高める効果もある。Cancer Lett. 217: 203-211, 2005

○ 七叶一枝花の根に含まれるPolyphyllin Dは乳がん細胞に対して細胞死(アポトーシス)を誘導する効果がある。乳がん培養細胞を使った実験では、5μMの濃度で48時間処理するとがん細胞の半分がアポトーシスで死んだ。Cancer Biol Ther 4(11): 1248-1254, 2005

七叶一枝花に関する論文の数は最近増えています。(下図)

図:PubMedを「Paris polyphylla」で検索した時にヒットする論文数。最後のbarは2022年4月30日まで 合計304件

さらに、「七叶一枝花の抗がん作用」に関する論文の数は最近増えています。(下図)

図:PubMedを「Paris polyphylla and cancer」で検索した時にヒットする論文数。最後のbarは2022年の4月30日 合計98件

雲南重楼(学名:Paris Polypylla Yunnanensis)は七叶一枝花(Paris polyphylla)と同属のユリ科の多年草です。 中国・雲南省の1500m以上の高台で栽培され、中国では古来より重用されてきました。 食品としても利用されています。また、重楼エキス粉末を含有した健康食品も販売されています。
近年では、独自の成分である重楼サポニンの抗炎症、がん細胞のアポトーシス誘導効果、肝臓の解毒作用が注目されています。
抗がん効果があるとされる生薬のなかでも特に腫瘍抑制率が高いとされており、肺がん、肝臓がん、消化器系のがん、膵臓がん、脳腫瘍、白血病など多くの悪性腫瘍への有効性が示唆されています。
また、抗炎症作用があり、アトピー、乾癬など、広く炎症を抑える目的で古くから利用されてきました。

【白花蛇舌草+半枝蓮+雲南重楼(七叶一枝花)の抗がん作用の相乗効果】
がん細胞を死滅させる作用のある「抗がん生薬」の多くは感染症や炎症の治療にも用いられており、「清熱解毒薬」と言われることもあります。
清熱解毒(せいねつげどく)」という薬効を西洋医学的に解釈すると、抗炎症作用(清熱作用)と体に害になるものを除去する作用(解毒作用)に相当します。
体に害になるものとして、活性酸素やフリーラジカル、細菌やウイルスなどの病原体、環境中の発がん物質などが考えられますが、「清熱解毒薬」には、抗炎症作用、抗酸化作用、フリーラジカル消去作用、抗菌・抗ウイルス作用、解毒酵素活性化作用、抗がん作用などがあり、がんの予防や治療に有用であることが理解できます。

白花蛇舌草
の抗がん成分としてトリテルペノイドのウルソール酸(Ursolic acid)オレアノール酸(Oleanolic acid)などが指摘されています。白花蛇舌草の煎じ薬は、肝臓の解毒作用を高めて血液循環を促進し、白血球・マクロファージなどの食細胞の機能を著しく高め、リンパ球の数や働きを増して免疫力を高めます。ウルソール酸やオレアノール酸などの五環系トリテルペノイドは細胞の増殖シグナル伝達系を阻害する作用が報告されています。多くのがんに広く使用され、良い治療効果が報告されています。
さらに半枝蓮はフラボノイドやアルカロイドなど多くの抗がん成分が含まれており、がん細胞の増殖抑制作用、アポトーシス(プログラム細胞死)誘導作用、抗炎症作用などが報告されています。 最近は、人間での臨床試験も実施されるようになり、臨床での有効性が報告されています。

雲南重楼(七叶一枝花)は抗腫瘍活性の高いサポニン成分を多く含みます。がん細胞に対する直接的な増殖抑制作用や細胞死誘導作用があります。古くからがんの治療に使用され、その強い抗がん作用が多くの臨床経験で示されています。
つまり、これら3種類の組合せは、異なる成分と多様な作用メカニズムの相乗効果で、抗がん作用を高めることができます。しかも、副作用は極めて低いのが特徴です。 がんの漢方治療において、白花蛇舌草と半枝蓮と雲南重楼(あるいは七叶一枝花)の組合せは試してみる価値はあると思います。

『重楼三仙』

雲南重楼と白花蛇舌草と半枝蓮を組み合せた抗がん漢方処方

詳しくはこちらへ

◎ がんの漢方治療についてはこちらへ

 

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 807) 魚油はが... 809) 漢方治療... »