がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
835)油を変えるとがんが消える(その1):食事中のオメガ6:オメガ3の比率の上昇ががんを増やしている

図:微細藻類由来油・魚油・亜麻仁油・紫蘇油・くるみ油に多く含まれるω3系不飽和脂肪酸はがん細胞の増殖を抑制し、とうもろこし・大豆・サフラワー(紅花)などの多くの食用油に含まれるω6系不飽和脂肪酸はがん細胞の増殖を促進する。ω6系不飽和脂肪酸の摂取量を減らしω3系不飽和脂肪酸を増やすと、がん細胞の増殖を抑えることができる。食事から摂取する油を変えれば、がんを消滅することもできる。
835)油を変えるとがんが消える(その1):食事中のオメガ6:オメガ3の比率の上昇ががんを増やしている
【脂肪(油脂)はグリセリンと脂肪酸が結合している】
私たちは食物から様々な種類の「あぶら」を摂取しています。一般に、常温で液体のあぶらを油(oil)、固体のあぶらを脂(fat)と表記し、両方を総称して油脂と言います。油という字に「さんずい」がついているのは液体であることを意味し、ほとんどの植物性油や魚油は常温で液体であり、油になります。一方、多くの陸上動物(牛脂、豚脂、人間の脂肪など)と熱帯植物(ヤシ油、パーム油、ココアバターなど)のあぶらは常温で個体の脂です。
油脂は3価のアルコールであるグリセロール(グリセリンとも言う)1分子に3分子の脂肪酸 が結合した構造をしています。グリセロールには手(-OH)が3本あり、それに脂肪酸が結合して脂肪(油脂)になります。一般的には脂肪酸が3個ずつ結合してトリグリセリド(中性脂肪)と呼ばれます。グリセロールは全て共通するため、脂肪の種類による性状の違いは、脂肪酸の形態に依存します。(図)
図:脂肪(油脂)は3価のアルコールであるグリセロール(グリセリン)1分子に3分子の脂肪酸 が結合した構造をしている。グリセロールには手(-OH)が3本あり、それに脂肪酸が結合して脂肪(油脂)になる。 R1,R2,R3と示す脂肪酸は1 個ないし複数個の炭化水素(CH2)の連結した鎖 (炭化水素鎖)からなる。脂肪酸の鎖(R1, R2, R3)の構造の違い(飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸など)によって油脂の性状が違ってくる。
脂肪酸は複数個の炭化水素(CH2)の連結した鎖(炭化水素鎖)からなり、その鎖の両末端はメチル基(CH3)とカルボキシル基(COOH)で、基本的な化学構造はCH3CH2CH2・・・CH2COOHと表わされます。
脂肪酸には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があり、飽和脂肪酸では、炭化水素鎖の全ての炭素が水素で飽和しています。一方、不飽和脂肪酸では炭化水素鎖中に1個ないし数個の二重結合(CH=CH)が含まれます。不飽和脂肪酸中で二重結合の数が2個以上のものを多価不飽和脂肪酸と呼びオメガ3系とオメガ6系があります。(図)
図:脂肪酸は飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられ、多価不飽和脂肪酸にはオメガ3系とオメガ6系がある。
【オメガ3 系とオメガ6 系の不飽和脂肪酸は働きに違いがある】
リノール酸 CH3(CH2)3 CH2CH=CHCH2CH=CH(CH2)7COOH では、CH3 に最も近い二重結合はCH3から6番目のCにあります。この位置に二重結合を持つ全ての脂肪酸をオメガ(ω)6系不飽和脂肪酸に分類します。
α-リノレン酸CH3CH2CH=CHCH2CH=CHCH2CH=CH(CH2)7COOH では、CH3に最も近い二重結合はCH3から3番目のC にあります。この位置に二重結合を持つ脂肪酸をオメガ(ω)3系不飽和脂肪酸に分類します。
最近は、ω6の代わりにn-6 を用いてn-6系不飽和脂肪酸、ω3の代わりにn-3を用いてn-3系不飽和脂肪酸と呼ぶことが多くなっています(図)。
図:メチル基(CH3)側から数えた炭素の番号はω1(あるいはn-1)、ω2(あるいはn-2)と表示する。最初の二重結合がω3の位置にある不飽和脂肪酸をω3系不飽和脂肪酸あるいはn-3系不飽和脂肪酸と言い、ω6の位置にある不飽和脂肪酸をω6系不飽和脂肪酸あるいはn-3系不飽和脂肪酸と呼ぶ。
オメガ6系不飽和脂肪酸はリノール酸 → γ-リノレン酸 → アラキドン酸のように代謝されていき、アラキドン酸からプロスタグランジンやロイコトリエンなどの生理活性物質が合成されます。
オメガ3系不飽和脂肪酸はα-リノレン酸 → エイコサペンタエン酸(EPA) → ドコサヘキサエン酸(DHA)と代謝されていきます。オメガ3 系不飽和脂肪酸は炎症やアレルギーを抑え、血栓の形成や動脈硬化やがん細胞の発育を抑える作用があります。
リノール酸、アラキドン酸、α-リノレン酸は私たちの体内で合成できないので、食事から摂取する必要があります。また、α-リノレン酸からエイコサペンタエン酸(EPA)への変換は8%程度、ドコサヘキサエン酸(DHA)への変換は0.1%以下と報告されており、EPAとDHAも食事からの摂取が重要と考えられています。
【アラキドン酸からプロスタグランジンが産生される】
プロスタグランジン(PG)はアラキドン酸からシクロオキシゲナーゼ(COX)の働きにより合成されます。細胞外からの種々の刺激に反応して生体膜のリン脂質にホスホリパーゼA2が作用してアラキドン酸が遊離し、アラキドン酸からCOXの作用によりPGG2, PGH2へと変換され、さらに各種細胞に存在する特異的な合成酵素により様々なプロスタグランジンとトロンボキサン(TX)A2が合成されます。(下図)
図:ホスホリパーゼA2(PLA2)の働きで、細胞膜のリン脂質からアラキドン酸が生成される。シクロオキシゲナーゼ(COX)はアラキドン酸からプロスタグランジンを合成するときに最初に働く酵素で、COX-1とCOX-2の2種類がある。COX-1は生体の生理機能に必要なプロスタグランジンを生成し、炎症性の刺激でCOX-2から合成される大量のプロスタグランジンは炎症反応やがん細胞の増殖を促進する。
COXにはCOX-1とCOX-2の2種類のアイソザイムが知られています。COX-1は胃や腸などの消化管、腎臓、卵巣、精嚢、血小板などに存在し、胃液分泌、利尿、血小板凝集などの生理的な役割を担います。
一方、COX-2は炎症性刺激や増殖因子やサイトカインなどの刺激により、マクロファージ、線維芽細胞、滑膜細胞、がん細胞などで誘導され、炎症反応や血管新生やがん細胞の増殖を促進します。
炎症ががんを悪化させるのは、炎症刺激がホスホリパーゼA2を活性化し、プロスタグランジンE2の産生を増やすためです。(下図)
図:炎症性刺激によってホスホリパーゼA2が活性化され(①)、細胞膜のリン脂質からアラキドン酸が生成される(②)。アラキドン酸は炎症刺激によって誘導されるシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)によってプロスタグランジンH2に変換され(③)、さらにプロスタグランジンE2が大量に産生される(④)。プロスタグランジンE2はがん細胞の増殖・浸潤・転移を亢進し、血管新生やアポトーシス抵抗性を増強し、抗腫瘍免疫を抑制する(⑤)。
【DHAとEPAは抗炎症性メディエーターの前駆体になる】
ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)には抗炎症作用や鎮痛作用があります。プロスタグランジンE2などの炎症を引き起こす物質を生み出すアラキドン酸がDHAやEPAに置き換えられ、炎症物質ができにくくなるのが一つの理由です。オメガ3系不飽和脂肪酸を多く摂取すると、細胞膜中のオメガ3系不飽和脂肪酸が増加してアラキドン酸が減少するので、アラキドン酸由来の炎症促進性物質の産生が低下するという機序です(図)。
図:食事からω6系不飽和脂肪酸のリノール酸やアラキドン酸の摂取が多いと細胞膜のアラキドン酸(細胞膜の図の青で示す)の量が増え、プロスタグランジンE2の産生量も増え、炎症やがん細胞の増殖や転移が促進される。ω3系不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)の摂取量が多いと、DHAやEPA(細胞膜の図の赤で示す)がアラキドン酸と置き換わるのでプロスタグランジンE2の産生は低下し、炎症やがん細胞の増殖・転移は抑制される。
外傷や感染などに反応して急性炎症反応が起こりますが、異物の排除が完了すると炎症反応は速やかに消散し、組織の修復過程に移行します。炎症反応が終了することを「炎症の収束」と言います。
炎症の収束は、これまで起炎反応の減弱化によると考えられてきましたが、最近の研究で、受動的なものではなく、能動的な機構であることが明らかになっています。急性炎症の特徴(症状)は白血球の組織への浸潤に伴う浮腫、発赤、発熱、痛みなどで、これらの反応にはアラキドン酸から生成されるプロスタグランジンやロイコトリエンなどの脂質メディエーターが関与します。これらの物質によって好中球の浸潤や活性化、血管透過性の亢進などの炎症反応が起こります。
炎症の収束過程においては炎症性サイトカインの産生が抑制され、血管透過性が正常に戻り、好中球の遊走阻止や浸出液中のリンパ球の除去や、マクロファージによる死滅した細胞の除去などが起こります。この炎症の収束過程には、EPAやDHAなどのオメガ3系不飽和脂肪酸から体内で生成されるレゾルビンやプロテクチンという抗炎症性メディエーターが関与します。
つまり、DHAやEPAはアラキドン酸と競合することで炎症性ケミカル・メディエーターの産生を阻害するだけでなく、抗炎症性(炎症収束性)の脂質メディエーターを生成することによって積極的に炎症を抑制する作用があるということです。
EPAやDHAの抗炎症作用やがん予防効果や心血管保護作用や脳神経系保護作用など多くの作用に、EPAやDHAから代謝されて生成される抗炎症性の脂質メディエーター(レゾルビンやプロテクチン)が関与しているようです。(図)。
図:オメガ6系多価不飽和脂肪酸のアラキドン酸はプロスタグランジンE2やロイコトリエンなど炎症性メディエーターを産生して炎症や組織のダメージを悪化させ、がん細胞の増殖を促進する作用を持つ。一方、オメガ3系多価不飽和脂肪酸であるEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)は代謝されて抗炎症作用を示す多様な脂質メディエーター(レゾルビン、プロテクチンなど)を産生することによって、慢性炎症や組織のダメージを軽減する効果や、がん細胞の増殖を抑える効果を発揮する。
【人類はオメガ6:オメガ3比が1の環境で進化した】
私たち人類の脳が進化した要因として、旧石器時代の狩猟採集による生活の関与が指摘されています。すなわち、狩猟採取時代の食物の50%以上が動物性の食物でした。動物性食物からタンパク質と不飽和脂肪酸を得て人類の脳は急速に発達できるようになりました。初期人類は東アフリカの大地溝帯における湖から得た魚からドコサヘキサエン酸(DHA)を多く摂取して、脳が発達しました。
人類が脳の大きさを増やすことができたのは、魚などの水産物を食べるようになったからと考えられています。人類(ホモ・サピエンス)への進化が、特に土地が淡水と出会う場所に位置する東アフリカの特徴的な生態系からのDHAが豊富な食事で起こったことを示す証拠があります。
初期人類の化石が東アフリカで発見されています。東アフリカにはアフリカ大陸を南北に縦断する大地溝帯(Great Rift Valley)が存在します。大地溝帯はプレート境界の一つで、幅35 - 100 km、総延長は7,000 kmにのぼる巨大な谷を形成しています。大地溝帯の形成は約1000万年から500万年前から始まったと考えられています。
大陸が分裂するように働く力によって形成された深い裂け目に水が流入してタンガニィカ湖やマラウィ湖など多数の湖ができました。これらの湖には魚などの水産物が豊富に取れます。魚にはDHAが豊富に含まれます。すなわち、類人猿から人類への進化は、多くの巨大な淡水湖を含む独特の地質環境を形成した東アフリカ大地溝帯の領域で起こったと考えられています。
熱帯淡水魚介類の長鎖多不飽和脂質の比率は、既知の他のどの食料源よりも人間の脳の脂質比に類似しています。湖沼の食物を摂取することで、体重を増やすことなく大脳皮質の成長を開始し、維持することができたのです。
つまり、「サルは魚を食べて人類に進化できた」と言っても過言ではないのです。
図:初期人類の骨が東アフリカの大地溝帯周辺から多く発見されている。人類は大地溝帯の湖の魚を食べ、DHAやEPAの摂取が増えてから脳が大きくなったと考えられている。
脳と知能は変化に富んだ環境に暮らし、広大な領域を動き回る必要があるときに発達すると言われています。時間や空間の概念が必要だからです。狩猟は仲間との連携も必要で、このような社会生活や、集団の中で起こる緊張やストレス、多様な状況への対処も知能を発達させました。
知能の発達によって火を使うようになり、食物を火で調理することによって消化管での消化を促進し、食物からの栄養素の摂取も早くなりました。道具を使うようになってより積極的に狩猟を行うようになりました。
この脳と知能の発達が生存競争で有利になり、アフリカから出てアジアやヨーロッパに移動するようになります。氷河期が終わり、約1万年前から人類は農耕と牧畜を開始します。この農耕と牧畜によって人類は安定的に食糧を得ることができるようになりました。
旧石器時代の私たち祖先の食事のオメガ6(n-6)とオメガ3(n-3)の比率は1から2程度であったと言われています。つまり、人類はオメガ6:オメガ3のほぼ同量の食事で進化してきたのです。しかし、農耕と牧畜の開始と、さらに産業革命以後の食糧の内容の変化は、このオメガ6:3の比率を10以上に増やしています。
【農耕の開始によって人類の食事内容が大きく変化した】
旧石器時代は狩猟採集によって食糧を得ていました。穀物の栽培は約1万2千年前に中東地域(チグリス川とユーフラテス川で挟まれた地域)において始まり、すぐにヨーロッパに広がりました。日本において農耕が本格的に行われるようになったのは稲作が伝来した弥生時代に入ってからで、今から3000年から3500年くらい前と言われています。農耕が始まって以降、私たちは徐々に食事の主要栄養素組成を炭水化物にシフトしました。
産業革命は機械や動力の発明によって18世紀末から英国を中心に起こりました。機械化や燃料の進歩によって農業の生産性が飛躍的に向上し、貯蔵技術の進歩と相まって、それ以前は起こりえた飢饉(天候異変などで、農作物の収穫が少なく、食糧が欠乏すること)は先進国では起こらなくなりました。
穀物は機械による脱穀によって高度に精製され、砂糖の消費や摂取カロリーが増えています。食品中からビタミンやミネラルのような微量栄養素は減少し、食物繊維の摂取は極端に減少しています。さらに、機械化された生活と交通機関の発達と自動車の普及によって体を動かす量が減っています。
精製した糖質の摂取と運動量の減少が肥満や糖尿病やメタボリック症候群など多くの病気を引き起こしているのは明らかです。このような食事と生活環境の変化が、近代の多くの病気の発症に関連していることが指摘されています。
【牧畜によって飽和脂肪酸の摂取が増えた】
農耕と同じく人類の食生活に影響を与えたのが牧畜です。現代人は牧畜によって太らせた家畜からの肉を食べています。畜産では脂の多いときに屠殺して肉にしています。穀物で太らせた家畜の肉は体脂肪が多く、その貯蔵された脂肪酸は健康に悪い飽和脂肪酸です。
一方、狩猟で得られる野生の動物は体脂肪が少なく、飽和脂肪酸より不飽和脂肪酸の方が多いのが特徴です。脂肪組織に蓄積した脂肪は飽和脂肪酸ですが、筋肉やその他の組織に含まれる脂肪は不飽和脂肪酸が多いからです。
家畜の肉の霜降り肉のような筋肉の間に脂肪が多い肉が美味しいと好まれていますが、この脂肪は全て飽和脂肪酸です。精製した糖質と飽和脂肪酸の多い飼育した家畜の肉や乳製品の多い食事は、健康には悪い食事と言えます。
糖質を減らすと脂肪やタンパク質の摂取が相対的に多くなります。脂肪やタンパク質の摂取が増えると健康に悪いという意見がありますが、それは、飽和脂肪酸の多い、穀物で太らせた家畜の肉や乳製品であって、魚や大豆やナッツ類やオリーブオイルなどでタンパク質や脂肪を増やすとむしろ健康に良いということが明らかになっています。
農耕と牧畜によって人類は安定的に食料を得ることができるようになり、人口が増え、社会が豊かになったのは確かです。獲物を求めて移動する必要が無くなり、時間ができると発明によって生活をより便利にし、高度な文明を作り出しました。しかし、現代の食事は人類の歴史の中で最も健康に悪い食事かもしれません。
実際、精製した糖質と飽和脂肪酸の摂取増加と、ドコサヘキサンエン酸(DHA)の摂取の不足が、がん、循環器疾患、メタボリック症候群、認知症、うつ病など多くの疾患を増やしていることが明らかになっています。
【現代人は食事からのオメガ6系不飽和脂肪酸の摂取が増えている】
過去100年間で、米国のリノール酸の摂取量は、総エネルギー摂取量の3%未満から7%以上になりました。リノール酸はオメガ6系の不飽和脂肪酸です。米国では食事脂肪源が大豆油、トウモロコシ油、ベニバナ油などのオメガ6が豊富な種子油にシフトしたため、食事によるリノール酸の摂取量が大幅に増加したのです。
過去1世紀の間に、オメガ6の多い油の消費が増え、西欧諸国のオメガ6/3比を約4:1以下から約20:1に押し上げました。オメガ6/3比のこの約5倍の増加は、脂肪組織のリノール酸の増加に反映されています。米国のデータでは、皮下脂肪組織中のリノール酸の濃度は1950年代から半世紀の間に約2.5倍に増加しています(下図)。
図:米国人の皮下脂肪組織のリノール酸濃度の1959年から2008年までの経時的な変化。50年間に2.5倍程度に増加している(R 2 = 0.83; P <0.001)(出典:Adv Nutr. 2015 Nov; 6(6): 660–664.)
オメガ6の摂取量は、主に大豆、トウモロコシ、ベニバナ油などのオメガ6が豊富な種子油の消費により増加しており、後者の2つはオメガ6/3の比率が60以上です。
日本食品成分表2022(八訂)のデータによると、ω6/ω3の比率は、大豆油が8.14、トウモロコシ油が65.13、ベニバナ油(サフラワー油)はハイオレイック(高オレイン酸)タイプで63.86、ハイリノール(高リノール酸)タイプで318.05です。
ベニバナ油(サフラワー油)の在来種はリノール酸73-82%、オレイン酸9-17%です。
ハイオレイック(高オレイン酸)タイプはリノール酸13-16%、オレイン酸74-79%です。
オレイン酸はオリーブオイルに多く含まれる一価の不飽和脂肪酸です。リノール酸の取りすぎは健康に良くないということで高オレイン酸タイプのベニバナ油が主流になっています。
オレイン酸から、植物や微生物中で、ω6位に二重結合を作るΔ12-脂肪酸デサチュラーゼ によりオレイン酸の二重結合が一個増えてω-6脂肪酸であるリノール酸が生成され、ついでω3位に二重結合を作るΔ15-脂肪酸デサチュラーゼ によりリノール酸の二重結合が更に一個増えてω-3脂肪酸であるα-リノレン酸が生成されます。
亜麻仁油と紫蘇油(えごま油)はω6/ω3比は0.2くらいですが、その他の植物油はω6/ω3比は10以上です。中にはω6/ω3比が100を超えるものもあります。(下表)
表:亜麻仁油とえごま油(紫蘇油)以外の植物油はオメガ3系不飽和脂肪酸(ω3PUFA)に比べてオメガ6系不飽和脂肪酸(ω6PUFA)が多い。(参考:日本食品成分表2022:八訂)
【現代人は食事からのオメガ3系不飽和脂肪酸の摂取が減っている】
オメガ3系不飽和脂肪酸のα-リノレン酸は亜麻仁油や紫蘇油(エゴマ油)に含まれます。ドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)は魚や微細藻類など水産物に多く含まれます。α-リノレン酸は人体では合成できないので、食事から摂取する必要があるので必須脂肪酸です。
α-リノレン酸からEPAやDHAに体内で合成されることになっていますが、α-リノレン酸からEPAへの変換は10%以下、DHAへの変換は0.1%以下とほとんど起こらないことが明らかになっています。
つまり、亜麻仁油や紫蘇油を多く摂取しても、血液中のEPAは少し上昇しますが、DHAはほとんど増えません。α-リノレン酸(炭素数18、二重結合3個)からEPA(炭素数20、二重結合5個)と DHA(炭素数22、二重結合6個)に変換するのに必要な脂肪酸の鎖の長さを延ばす酵素と二重結合を作る(不飽和化する)酵素の活性が極めて低いからです。
したがって、最近はEPAとDHAも必須脂肪酸と同様の扱いになっています。つまり、食事やサプリメントでEPAとDHAを摂取しないと不足するのです。
世界の人口のほとんどは、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)のような海洋由来のオメガ-3多価不飽和脂肪酸が不足していることが指摘されています。特に、ドコサヘキサエン酸(DHA)は、脳と目(網膜)の発達に重要であるため、DHAの摂取不足は神経・精神機能と視力に悪い影響を及ぼします。
一方、脂ののった魚には100グラム当たり数グラムから20グラム程度の脂肪が含まれ、オメガ3系多価不飽和脂肪酸が1〜6グラム程度含まれています。DHA/EPAも数百mgから4グラム程度含まれています。脂ののった魚を1日100〜200g程度食べることはがんや心臓疾患の予防や治療に効果が期待できます。(下表)
表:脂の多い魚には、オメガ3系多価不飽和脂肪酸(ω3PUFA)がオメガ6系多価不飽和脂肪酸(ω6PUFA)の数倍から10倍程度含まれる。DHAとEPAも100g当たり1〜4g程度と多く含まれる。日本食品成分表(五訂増補脂肪酸成分表)より抜粋
【現代人の食事はオメガ6:オメガ3比が上昇している】
人間は、ほぼ同量のオメガ3およびオメガ6系の不飽和必須脂肪酸を含む食事を摂取して進化しました。動物の生命はn-3が豊富な環境で進化した可能性があります。
過去100〜150年の間に、トウモロコシ、ヒマワリの種、ベニバナの種、綿実、大豆からの植物油の摂取量が増加したため、オメガ6系不飽和脂肪酸の消費量が大幅に増加しました。
すなわち、食事中の不飽和脂肪酸のオメガ6:オメガ3比は、狩猟採取で食糧を確保していた旧石器時代の人類の食事では1〜2程度でしたが、近代における西洋型食事ではオメガ6:オメガ3比は10〜20程度まで上昇しています。
アメリカ人の食事はω6:ω3の比が10~20になると報告されています。一方、伝統的な日本食(大豆と魚の豊富な食事)ではその比は1~2.8にあると言われています。しかし、日本でも食事の欧米化によってω6:ω3の比が高くなっています。
さらに動物性の飽和脂肪酸の摂取量も増えています。このような食事中の脂肪酸の組成の変化が、がんや心臓病、メタボリック症候群、炎症性疾患、自己免疫疾患の発症を促進していると考えられています。
ω6:ω3の比を1~2以下にするためには、肉類は減らし、野菜はバランス良く摂取し、ω3不飽和脂肪酸の多い青背の魚(いわし・あじ・さば・さんま・まぐろなど)を食べます。野菜にはリノール酸などのω6脂肪酸が多いので、ω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸の豊富なシソ油か亜麻仁油をドレッシングとして使用するのが有効です。DHAやEPAは高熱で酸化しやすいので、魚は揚げ物や焼き魚は避け、生(刺身)か煮付けで食べることが大切です。
魚が苦手な人はDHAやEPAのサプリメントを利用します。極端にω3脂肪酸を多くとると、血液が固まりにくくなるという副作用が出ますが、DHA/EPAのサプリメントを1日2~4グラム程度で、食事の内容を変えてω3不飽和脂肪酸を増やすのであれば、問題はありません。
魚が苦手な人はサプリメントを利用するのも一つの方法です。DHAを補給するためのサプリメントが市販されています。魚の重金属汚染の問題や、高度不飽和脂肪酸は長期保存や加熱処理により酸化されやすという問題もあり、DHAをサプリメントで補給することの意義はあるようです。
また、養殖した魚は餌によってオメガ3:オメガ6の比が低下していると言う報告もあります。魚のDHAやEPAはプランクトンに由来します。天然のプランクトンの摂取が少ない養殖の魚はオメガ3が少ないという指摘もあります。
がん治療においては、サプリメントでDHAやEPAを1日3から5グラム程度摂取してオメガ6:オメガ3の比を1前後まで低下させると、がんは消滅するかもしれません。
【人間もオイル交換で健康を維持できる】
オイル交換はカーメンテナンスの基本です。エンジンオイルが古くなると、エンジンの機能が低下し、損耗します。したがって、エンジンの機能を正常に維持するためには、運転距離に応じて定期的なオイル交換が必要です。
多くの疫学研究により、肉、ラード、バターなどに含まれる飽和脂肪酸は動脈硬化症や死亡のリスクを上昇させ、反対に魚油に含まれるオメガ3多価不飽和脂肪酸やオリーブオイルはこれらのリスクを低下させることが知られています。摂取する油の違いが健康寿命に影響することは多くのエビデンスにより支持されています。
オメガ3多価不飽和脂肪酸は、最大6つの炭素-炭素二重結合を含む不飽和脂肪酸のファミリーです。最初の二重結合は、脂肪酸のメチル末端から3番目の炭素原子で発生し、そのためオメガ3と分類されます。
オメガ3多価不飽和脂肪酸は、正常な人間の成長と発達に不可欠な栄養素です。それらは人体によって新たに合成できないので、私たちはそれらを食事に頼らなければなりません。
これらの脂肪酸は、複数のメカニズムを介して生理機能を調節することができ、疾患の予防と管理における重要な役割で近年大きな注目を集めています。特に魚油に含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)は、健康状態を高め、病気を予防します。
今日、西洋型食生活に共通する多くの食品は、オメガ3多価不飽和脂肪酸が不足していますが、オメガ6 多価不飽和脂肪酸が豊富であるため、オメガ6/オメガ3の比率が非常に高くなっています。このような不均衡な比率は、心血管疾患、がん、糖尿病、神経変性疾患(アルツハイマー病や認知症など)などの疾患の発症を促進します。
多くの研究によって、オメガ3多価不飽和脂肪酸の栄養補助食品がこれらの病気のリスクを減らすことができることが示されています。その結果、オメガ3多価不飽和脂肪酸の食事摂取量を増やすことが推奨されています。私たちの食事にオメガ3多価不飽和脂肪酸が含まれていることは、人間の健康にとって明らかに重要です。
定期的なオイル交換が車のエンジンの寿命を延ばすように、人間も体に良いオイルに交換することによって健康を維持し、健康寿命を延ばすことができます。
【油を変えるとがんが消える?】
食事の内容が、がんの発生や再発、さらにはがん治療の結果に影響することが多くの研究で明らかになっています。食品の中にはがん細胞の増殖を促進する成分や抑制する成分があるからです。
食事中のいくつかの栄養素の変更が、がん治療の有効性を変える可能性が指摘されています。特に脂肪は、その種類によってがん細胞への影響が異なります。がん細胞が細胞分裂して数を増やすとき、食事から摂取した脂肪酸を細胞膜に取り込むからです。取り込んだ脂肪酸の種類によってがん細胞の性質が変化するのです。
魚油に多く含まれるドコサヘキサエン酸やエイコサペンタエン酸のようなオメガ3系多価不飽和脂肪酸、オレイン酸とポリフェノール類の多いオリーブオイルはがん細胞の増殖を抑制します。中鎖脂肪酸はケトン体の産生を増やすことによってがん細胞の増殖を抑えます。
一方、肉に含まれる飽和脂肪酸や食用油に含まれるオメガ6系不飽和脂肪酸はがん細胞の増殖や転移を促進する作用があります。
がん細胞の増殖を抑制する油の摂取を増やし、がん細胞を悪化させる油の摂取を減らすと、がんを縮小したり消滅することも不可能ではありません。がんの治療や再発予防における油の種類による影響の違いを知ることは、がん治療の効果や生存率を高める上で重要です。
新刊紹介:
【培養した微細藻類由来DHAが注目されている】
がんや認知症や循環器疾患の予防や治療にDHAやEPAが有効であることは確立しています。従って、DHAやEPAの多い脂の乗った魚を多く食べることが推奨されています。
しかし、魚のメチル水銀やマイクロプラスチックなど海洋汚染に由来する有害物質の魚への蓄積の問題は、魚食を安易に推奨できないレベルまで深刻になっています。
そこで、海洋でDHAとEPAを作っている微細藻類を培養して、培養した微細藻類からDHAとEPAを取り出せば、汚染物質がフリーのDHA/EPAを製造できます。(下図)
図:オメガ3系多価不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)は微細藻類が合成している(①)。プランクトン(②)が微細藻類を食べ、小型魚(③)がプランクトンを食べ、大型魚(④)が小型魚を食べるという食物連鎖によって、魚油にEPAやDHAが蓄積している。人間は魚油からDHAとEPAを摂取している(⑤)。環境中の水銀(⑥)が魚に取り込まれてメチル水銀になって魚に蓄積する(⑦)。DHAとEPAを産生している微細藻類をタンク培養して油を抽出すると(⑧)、汚染物質がフリーで、植物由来のDHA/EPAが製造できる(⑨)。
最近の多くの研究で、がん治療におけるドコサヘキサエン酸(DHA)の有効性が明らかになっています。植物油に含まれるαリノレン酸は人間の体内ではDHAにはほとんど変換されません。抗がん作用はエイコサペンタエン酸(EPA)よりドコサヘキサエン酸(DHA)の方が強いことが報告されています。
がん治療には1日3から5グラムのDHAの摂取が有効であることが多くの研究で示されています。通常の魚油の場合、DHA含有量は10%から20%程度です。1日5グラムのDHAを摂取するには25gから50gの魚油の摂取が必要になります。
そこで、微細藻類の中でもDHA含有量が極めて多いシゾキトリウム(Schizochytrium sp.)をタンク培養して製造したDHA(フランス製)を原料にした「微細藻類由来オイル(DHA含有量51%)」を製造してがん治療に使用しています。閉鎖環境での培養のため、汚染の心配がありません。しかも、植物由来なので、菜食主義者(ベジタリアン、ヴィーガン)も摂取できます。
詳細は以下のサイトで紹介しています。
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