75)五味子はがん細胞の抗がん剤感受性を高め、抗がん剤の副作用を緩和する

図:五味子に含まれるシザンドリンは、がん細胞の抗がん剤感受性を高めることが報告されている。ゴミシンAは肝細胞保護作用によって抗がん剤の副作用を緩和する効果が期待できる。抗がん剤治療の効果を高め、副作用を軽減する効果は、五味子の煎じ薬を服用することによっても得られる。

75)五味子はがん細胞の抗がん剤感受性を高め、抗がん剤の副作用を緩和する

五味子(ゴミシ, Schisandrae Fructus)はマツブサ科のチョウセンゴミシ(Schisandra chinesis)の成熟果実を乾燥したものです。
神農本草経の 上品に収載される生薬で、口が渇く・水分を欲する・元気がない・疲れやすい・咳や喘息・腰や膝がだるく無力などの症候に用いられ、漢方薬の中でも重要な生薬の一つです。
「乾いた果実をなめると塩からく、果肉を食べると酸っぱい味があって甘く、種子を 噛み砕くと苦くて辛い味がする」と著されるように、塩からさ・酸っぱさ・
甘さ・苦さ・辛さの5種類の味を備えていることから「五味子」と名付 けられました。

五味子は咳を鎮める効果があり、喘息や風邪、その他多くの呼吸器疾患に使用されます。小青竜湯(しょうせいりゅうとう)や清肺湯(せいはいとう)などに配合されるのはそのためです。
また、滋養強壮の効果も有し、不眠や胃腸虚弱を改善するため、人 参養栄湯(にんじんようえいとう)や清暑益気湯(せいしょえっきとう)などの補剤にも配合されています。
体力や持久力を高め、疲労の回復を促進する効果も知られており、健康茶としても利用されています。運動能力や精神活動を高める効果も報告されています。

動物実験では、
様々な肝臓毒から肝臓を保護し、肝臓機能を高め、肝細胞の再生を促進することが示されています。
1980年代、五味子の肝機能改善や肝細胞保護作用、肝炎の治療に対する効果が盛んに研究されました。その結果、五味子の活性成分である
シザンドリン(Schizandrin)ゴミシンA(gomisin A)には、肝細胞障害を防ぎ、肝細胞の再生や修復を促進し、正常の肝細胞の機能を促進する効果が確かめられました。
以上のことから、
がん治療においても、抗がん剤や手術や放射線治療に伴う体力低下や肝臓障害の予防や回復の促進に効果が期待できます。

五味子には、
がん細胞の増殖を抑える効果も報告されています。
さらに最近の研究では、五味子(ゴミシ)の成分に、
がん細胞の抗がん剤に対する抵抗性(多剤耐性)を減弱させる効果があることを、米国のスタンフォード大学医学部の内科の腫瘍部門の研究グループが報告しています。その論文の要旨を以下にまとめています。

Reversal of P-glycoprotein-mediated multidrug resistance of cancer cells by five schizandrins isolated from the Chinese herb Fructus Schizandrae.(中国生薬の五味子から分離された5つのシザンドリンによる、がん細胞のP糖蛋白による多剤耐性の正常化)Cancer Chemoher Pharmacol 2008 Feb 13(電子版)
(要旨)
五味子は中国医学では滋養強壮薬として使用されている。近年、五味子は慢性肝炎患者の肝機能を著明に改善する効果が報告されている。
この研究では、
がん細胞の抗がん剤に対する多剤耐性を正常化する効果を、五味子の抽出エキスおよびその成分である5種類のシザンドリンについて、培養細胞と動物実験を用いて検討した。
シザンドリンは今まで知られている多剤耐性を阻害する医薬品とは明らかに異なる構造を有している。
培養細胞を使った実験では、5つのシザンドリンは25μMの濃度で多剤耐性の活性を阻害する効果を認め、その中でシザンドリンAが最も阻害作用が強かった。
多剤耐性を示す様々な培養がん細胞の抗がん剤に対する感受性を、数十倍から数百倍に著明に高めた。(つまり、シザンドリンAを25μM添加することによって、抗がん剤抵抗性のがん細胞が、シザンドリンを添加しない場合の数十分の1から数百分の1の濃度の抗がん剤で細胞死を起こした)
同様に
五味子の抽出エキスも25μg/mlの濃度で著明に抗がん剤耐性を阻害して、抗がん剤感受性を高めた
ヌードマウスに抗がん剤耐性のがん細胞を移植した動物実験でも、五味子を経口摂取で投与することによって抗がん剤の効き目を著明に高めた
五味子やシザンドリンは、多剤耐性を誘導する
P糖蛋白プロテイン・キナーゼCの活性や発現量を阻害することによって抗がん剤耐性を正常化し、抗がん剤感受性を高めることが示された。

以上のことから、
五味子の抽出エキスとその成分のシザンドリンは抗がん剤に対するがん細胞の耐性を正常化し、抗がん剤感受性を著明に高める効果があることが示された。
用語の解説:
【抗がん剤感受性】
治療を行う対象のがん細胞に対してある抗がん剤が効く場合、その抗がん剤に対して感受性があると言う。非常に良く効く場合は「感受性が高い」と表現する。「感受性」の反対は「耐性」と言い、抗がん剤耐性になったがん細胞は抗がん剤が効きにくくなっていることを意味する。抗がん剤耐性のメカニズムを阻止したり、がん細胞のアポトーシスを起こしやすくすることができれば、抗がん剤感受性を高めることができる。

【P糖蛋白】
細胞膜に存在する蛋白質で、細胞内の薬物を細胞外へ排出するポンプとして働く。抗がん剤が効かないがん細胞がたくさん持っていることから発見されたが、がん細胞のみならず、様々な細胞で薬物の排泄や移行性を制御している。P糖蛋白ががん細胞で増えると抗がん剤が効きにくくなる。

【プロテイン・キナーゼC】
「プロテイン」は「蛋白質」で、「キナーゼ」はリン酸基転移酵素のことで、プロテイン・kナーゼCは、ある特定の蛋白質のチロシンを特異的にリン酸化する酵素。この酵素活性は、細胞の増殖、分化(細胞の構造や機能が特殊化していくこと)、死(アポトーシス)などの細胞機能の過程におけるシグナル伝達において重要な役割を持っている。一般的に、プロテイン・キナーゼCを阻害すると細胞増殖や血管新生を阻害してがん細胞の増殖を抑えることができる。

漢方薬では、五味子は1日量2~6グラム程度を煎じ薬として使用します。
五味子のエキスを経口で投与した動物実験でも抗腫瘍効果が認められていますので、五味子を煎じ薬として服用すると、肝細胞保護作用によって抗がん剤の副作用を軽減し、かつ、P糖蛋白やプロテインキナーゼCの活性を抑えることによって抗がん剤の感受性を高める効果が期待できそうです。(文責:福田一典)

 

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