神戸に赴任してから2週間が経過した。
当然の事だとは思うのだが、やはりここ2週間はお客からの信用がなかなか得られなかった。そのせいか、私を試したり牽制するような言葉が会話の節々に見え隠れしていた感は否めない。
少々寂しくもあるが、お客側の視点に立てばきっと至極当然の事なのだろう。
ところが、半ば覚悟していた事ではあるのだが、今週に入ってからお客からの要望が突如急増した。
もしかすると私に少し安心してくれたという事なのかもしれない。
もしかすると、自分の半期評価を達成させるために私を上手く誘導しようとしているのかもしれない。
その真意は分からない。
が、今週に入ってから急にドタバタし始めたというのが現実だ。
一方で、お客さんの相手をする前にやらなくちゃいけない事は依然、眼前に高くそびえている。
現場の一人一人と面接し、個人が抱える問題や悩み、達成したい事、夢を聞き出し、それを私が中長期的に考えている理想像とリンクさせなければならない。
品質の安定化のために、トレーニングに厚みを持たせて、同時に各種ドキュメントの整備などもしていかなければならない。
さらには各種データ分析を通して、何が問題で、何がそれを引き起こしていて、あーだこーだ四方山云々かんぬんを達成させなければならない。
卓袱台をひっくり返して「バカモーン!」と飛雄馬を殴る一徹の気持ちが分からなくもなかったりするようなしないような。
その日の帰り道。
仕事であれだけ色んな人と話をしたというのに、いざ帰路についてみると、妙に寂しさが込み上げてきた。
もしかすると、神戸という慣れない地にいるからなのかもしれない。
もしかすると、この山々に囲まれた暗い夜道がそうさせているのかもしれない。
もしかすると、独り暮らしを始めたせいなのかもしれない。
それにしても自分は何でこんなに独りなのか。
その根源となっている仕事に対して何でこんなにも頑張っているのか。
何でもっと気楽に物事を考えられないのか。
と、同時に、そんなネガティブな自分にも嫌気がさした。
「あーもー。多分、腹減ってるからなんだよな」
そう自分に言い聞かせながら、一人ラーメン屋に入った。
どうやら関西では有名らしいのだが、そこは
来来亭というラーメン屋。
わりと普通な感じだ。
しかし、まず入って気付くのが元気な店員。
声も大きいし、ハキハキと喋るし、お客さんにも懇切丁寧に対応している。
「仕事頑張ってんなぁ」
なんて思いつつ、ふと見上げると、こんなものがあった。
「情熱・・・ねぇ」
その瞬間「何でこんなに仕事を頑張らなくちゃいけないのか」と悩んでいた自分と、そこの店員の仕事を頑張っている姿が重なった。
少し忙しくなってきたぐらいで腐り始めていた自分。
一方で、本当に楽しそうに、活き活きと仕事をしている店員たち。
私に欠けていた何かが、そこには確かに存在した。
なんて事を考えていたら、ラーメンが来た。
スッキリ透明醤油ベースのスープに背脂チャッチャ系のラーメンだ。
一口目はそんなにおいしいとは思わなかったが、二口、三口とスープを口に運ぶと、これがなかなかどうして、病み付きになりそうだ。
もしかすると、仕事も同じなのかもしれない。
最初の一口目はそんなに上手く事は運ばない。
でも、二口、三口と続けていけば、少しずつ味が出てくる。
病み付きにはなりたくないけど、でもそんなものなのかもしれない。
「大丈夫、まだまだ頑張れるよ」
背脂チャッチャでお腹も満たされた頃には、いつものポジティブな自分が戻っていた。
気付けば暗い夜道も、そんなに寂しくなくなっていた。