セルロイドの英雄

ぼちぼちと復帰してゆきますので宜しくお願いしまする。

【映画】楽日

2006-09-03 22:53:40 | 映画ら行


"不散"

2003年台湾
監督)ツァイ・ミンリャン
出演)チェン・シャンチー リー・カンション 三田村恭伸 ミャオ・ティエン シー・チュン ヤン・クイメイ チェン・シャオロン
満足度)★★★★★ (満点は★5つです)
ユーロスペースにて

雨のそぼ降る夜、閉館の決まった台北郊外の古い映画館では、その最後の日にひっそりと往年のヒット作『龍門客棧』が掛かっている。
映画館で働く切符切りの足の悪い女性(チェン・シャンチー)と映写技師の男(リー・カンション)、雨を避ける為に映画館に逃げ込んだ日本人男性(三田村恭伸)、かつてこの映画に出ていた老俳優達(ミャオ・ティエン、シー・チュン)・・・。
ひなびた映画館をさ迷う人々を『龍門客棧』の進行とあわせて淡々と描くツァイ・ミンリャン2003年の作品。

もう一年位前になると思います。スティーヴン・キングの小説を原作にした『ライディング・ザ・ブレット』という何ともB級な作品がひっそりと公開されていたのですが、キング・ファンの僕はいそいそと、都内で唯一の上映館に足を運んだわけです。
その上映館が歌舞伎町の新宿オスカー。
キレイで機能的なシネコンが増えている中、昭和で時が止まったような少し不思議な空間なんです。
しかも平日の昼間、掛かっているのも地味ーなB級作品ということでロビーにも人がまばら。というか上映10分前になっても自分しかいなかったという・・・。
僕はそのときこの世界からちょっとだけずれた異空間に迷い込んだような非現実的な感覚を覚えました。

都会に住む人間の孤独を的確に掬い取って映像化することにかけては世界を見渡しても右に出る者はいないと思われる(いや、本当に!)ツァイ・ミンリャン。
そんな彼が映画の黄金時代を知る古い映画館への鎮魂歌を作りあげてくれました。

シネコンやDVDに圧され、打ち捨てられるしかない小汚いハコ。既に廃墟のようなその建物の中を、やはり時代に取り残されたような様子の人々が無目的にさ迷う。
人々がこぞって映画館に訪れた黄金時代を偲ばせるその大きさも、人が殆ど来ない今となっては空虚さを強調するだけで。

だけどこの映画館は、長年に渡って人々の喜怒哀楽を見守ってきたわけです。その遠い記憶が刻み付けられた場所では不思議なことも起こる。
「ここには幽霊が住んでいる」
倉庫のような場所で、本人もまた幽霊のような謎の男が迷い込んだ日本人に語りかけます。
そう、時間が止まったようなこの空間では何事も起こりえるのです。
そこはまた静かな深海のようでもあり・・・。

もう何と言って良いのかわからない、隅々まで映画館文化への愛情が詰まった静かでしかも圧倒的な映像詩。
誰にでも勧められる作品ではないけれど、僕にとっては心の深いところにしっかりと残りました。
今年の私的アカデミー作品賞最有力作。


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54 コメント

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ベスト1ですか? (隣の評論家)
2006-09-03 23:04:12
何とも静かに強く心に響く記事ですね。素通りできなかったです。

『太陽の傷』が見たい余りに、『ミニシアター回数券』を利用するつもりなのですが、あと2枚で何を観ようかと迷っているのですが。この作品に決めても良さそうな気持ちになりました。(あ、Kenさんにとっては、それ以上の想いの詰まった作品なんですよね...)

『ライディング・ザ・ブレット』は、私も平日の昼に見ましたよ。休暇中に。ブログを始める前の話ですけど、実は同じ場所に居たら面白い。

>今年の私的アカデミー作品賞最有力作

多くは語らない、それでいて力説している素敵な記事です。さすが、感服いたしました。
ベスト1です! (Ken)
2006-09-03 23:28:32
隣の評論家さんこれは是非!と強力に勧めたいところなのですが、ちょっと躊躇するところもあり・・・。



この映画、台詞がほっとんど無いし、切符売り兼雑用係のお姉さんや若い日本人が薄暗い映画館の中をさ迷っているのを延々と撮っているだけ、という風に言えないこともない、人によってはとても退屈な作品に思えるのでは、という気がします。

だけど、他のツァイ・ミンリャン作品がそうであるように、その世界観に共振できた瞬間本当にハマるんです。



隣の評論家さん、『ライディング・ザ・ブレット』観てるんですか!?本当にビックリ!

さすがこのテの作品は外さないですね。

記事にも書きましたが、僕はスティーブン・キング大好きなのです。彼の作品は相当映画化されてますが『ショーシャンクの空に』『スタンド・バイ・ミー』『グリーン・マイル』なんかの名作群の影に、膨大な数の駄作が埋もれてますよね(笑)。

最有力作ですか! (かえる)
2006-09-03 23:50:32
こんばんはー。

これはまだ新しいユーロスペースじゃなくて、さびれた映画館で上映してほしかったような気もしますー。

多くの映画監督は、映画そのものにはあふれる愛情があっても、映画館という空間を愛することを忘れてしまっている人が多いんじゃないかと思える中、こういう作品を撮ろうというその気持ちにうたれてしまいました。

ところで、日本人三田村氏の役回りがよくわかりませんでした。常連ではなくちん入者的?
映画史に残る傑作 (ガク)
2006-09-05 01:40:50
楽日はすばらしい。

もう、この切札を使ってしまったか!!って思う大傑作だった。



主役がもぎりの女と日本人の男。この交互に繰り返されるバランスはすごいよい。

演技もよい。

何もかもよい。これはたまんないな

NO1映画 楽日 (ゆめよい)
2006-09-06 01:42:57
三田村恭伸の役回りは、あれでいいんよ。異邦人なら誰でもいいかも知れんが。

浮いた存在にする必要性があるんだろう。とはいえ、蔡明亮には馴染む役者だ。

主演のシャンチーと三田村の演技が上手いから成り立ったんかも
かえる様 (Ken)
2006-09-06 23:52:57
かえるさん、こんばんは!

そうですね、浅草のほうの2番館とかぴったり合いそうですね。噂でしか聞いたことないですが・・・。

そうですね、映画館への愛情が感じられた映画って他に何があるだろう?

ジョー・ダンテの『マチネー』とかもちろん『ニュー・シネマ・パラダイス』とか・・・。

うーむ、確かにそんなに思いつかないですね。
ガク様 (Ken)
2006-09-07 00:01:11
こんばんは!

ほんとに、どこが良いか並べていくときりがなくて、結局「全てが素晴らしい」と言ってしまいたくなる、そんな作品ですよね。

この作品を観てもう1週間ほどたちますが、今でもこの映画館の様子を思い出すと何だかほっとした気分になります。

こんな風に後をひく映画、そんなにあるもんじゃありません。
ゆめよい様 (Ken)
2006-09-07 00:08:12
こんばんは!

そうですね、三田村恭伸はあの異空間を際立たせるために必要な役回りだったと僕も思います。

現実世界代表、みたいな感じですかね。

まあ、彼の風情は全然平均的な現代人ではなかったですが(笑)。

飄々とした風情が狂言回しとしても嵌っていました。
こんにちわ。 (隣の評論家)
2006-09-18 17:53:56
観て来たッスー。

そもそも観てみようと思ったキッカケは、Kenさんの記事を拝見してだったので。正直に、勝手ながらコチラの記事を載せてしまいましたが。もし不愉快なようでしたら直すので、仰ってくだされ。

浅草の映画館もあんな感じだったかなー。子供の頃は、親に『ドラえもん』等を観る為に親に連れて行ってもらってたなー。

うーん、ノスタルジー...。

古い映画館 (Ken)
2006-09-18 22:07:51
となひょうさん、有難うございます!

僕の拙い感想でこの映画の魅力を伝えきれていないような気もしたのですが、どうでしたでしょうか?

満足して頂いたら嬉しい限りです。



>浅草の映画館もあんな感じだったかなー。

古い映画館といえば、船橋に昔ピンク映画館があり、酔っ払って帰れなくなったときに面白半分に入ったのですがあれも凄かったなあ。

ピンク映画最末期の頃で何だか荒んだ雰囲気で・・・。

若かった自分にはちょっとおっかなかったのですが、今考えるとあれも福和大戯院のちょっと不思議な感じに似ていたように思います。

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