数千年前にネアンデルタール人が住んでいたネアンデルタール (ネアンデル谷) にメットマンという小さな町があり、そこに面白いホテルを見つけたので、隣接するデュッセルドルフで講演をするのを機に泊まってみました。「田舎の農園ホテル・ホェーネ」という名前が示すように、原型は18世紀半ばに建てられた農場です。この地域は旅人や商人が行き交う交易路上にあったので、ある時小さな旅館が建てられました。
ホテルの外観 1 & 2
ホテルの外観 3 & 4
その旅館と農場をロイチャー家が1970年に入手して現在まで所有しているのですが、全施設が融合、拡張、そして改装されたのがこんにちの農園ホテルです。建設工事の際は、改築のために壊されたこの地域の古い家屋の壁や塀の石を集めて再利用したそうです。現在3代目の経営陣ファミリーだそうで、その当主の創造的な意欲により、人の目を引くホテルになっています。例えば塔らしき物も立っていて、何となくお城に似せて設計したようです。
ホテルの外観 5 & 6
ホテルの外観 7 & 8
一部は軽い斜面になっている広大な敷地にはホテルとレストランの他、ウェルネスやスポーツの為の施設も充実していて、長く滞在して休暇や余暇を過ごすのに適したスパリゾートです。
屋内プール ・ 全敷地の図 (パンフレットより)
さらに、田舎の農園ホテル・ホェーネは気候中立なオーガニックホテル、 通称「ビオホテル」なのです。ビオホテルとは、〈世界で唯一、宿泊するお客さまの健康と環境への配慮に関する厳しい基準を規約とするビオホテル協会の認証を受けた宿泊施設。 ドイツ・オーストリアを中心にヨーロッパで、約100軒のビオホテルが稼働しています。〉(グーグル検索による) とのことです。
ロビー ・ 廊下
ロビーには至る所に、昔農場で使っていた古い器具を利用した装飾を施してあります。少々事務的なお姉さんが、迷路みたいな建物の中を部屋まで案内してくれます。レンガむき出しの一角もある私の部屋は雰囲気が良くて結構落ち着きますが、暖房を節約しているのでしょうか、少々寒いのです。ダブルルームなので洗面台が二つ並んでいるし、シャワーとバスタブもあります。洗面室とトイレが別室なのは、この国では珍しいことです。今は寒くて使えませんが、笹に囲まれたテラスが付いています。冷蔵庫の中の無料の飲み物はもちろん全てオーガニック製品です。
私の部屋 ・ テラス
さて、このホテルに興味を持った訳はお城に似た外観であるということだけではなくて、レストランで寿司も供することです。
夕食時にレストランに行ってみると、そこはだだっ広いホールのような空間で、西洋料理のビュッフェ形式に加え、一部実演によって温かい料理も食べさせる、といったシステムです。寿司のビュッフェは小さな巻物だけのようです。全体的に雑然とした雰囲気で、スタッフはチョロチョロ動き回って料理を運んだりテーブルを片付けたりするだけ。それぞれの客に心を込めて給仕しているという感じはまったくありません。
レストランの寿司を供する一角
私はビュッフェの料理は無視して、ノンアルコールのヴァイツェンビールを頼んだ後、アラカルトで味噌汁と鶏の唐揚げ、そして寿司の大きな盛り合わせを注文しようとしました。すると、私のテーブルのすぐ近くで仕事をしていてそれを聞いていた邦人の寿司職人がとんで来ました。そして言うには、「オーガニックの魚はほとんどないからその古いメニューに載っている盛り合わせは出来ない。日本人の客には前もって説明している。」とのこと。それで〈おまかせ〉で握ってもらいました。
ビール ・ 鶏の唐揚げ
味噌汁 ・ 〈おまかせ〉寿司
前述のようにここはビオホテルなので、供される飲食物はほぼ全てオーガニックの物だけです。ビールは柔らかくてコクがあって旨く、衣の味付けが薄い唐揚げはレモンとマヨネーズで食べます。赤だし汁のような味噌汁は味が濃すぎて不味い。〈おまかせ〉寿司は握りと刺身がサーモンとマグロだけで、それにアボカドの小巻物と卵焼きが付いています。マグロとサーモンは刺身も握りも美味しくありません。アボカド巻きはそれなりの味がして、卵焼きは少し甘すぎます。すし飯はまあまあですかね。日本人の寿司職人なので大いに期待していましたが、外れました。このホテルのレストランの寿司を含む日本料理のレベルは、他のアジア人が営んでいる町の〈和食?レストラン〉並みであると分かりました。
朝食場 1 & 2
朝食は別の、これまた大きなホールでとります。もちろんオーガニックの食品ばかりです。発泡ワインも提供する割と豪華な朝食なので、食に関しては特に小言を言うことはありません。
オレンジジュースとミルクコーヒー
、、、が、数人のドイツ人ビジネスマンと少しの中高年カップルの一般客に混ざって、中年の英語族ビジネスマンたちのグループが近くに居ます。時間の経過とともに加わる人も去る人もいるので正確な人数は分かりませんが、10数人は居そうです。このホテルで会議でもあったのでしょうか。引退する前の仕事で英語が必要だった私は、当時を思い出して何となく落ち着かなかったのです。
朝食の一部 1 & 2
この「田舎の農園ホテル・ホェーネ」で全部のスタッフに言えることは、みんな明るくて好感が持てるということです。しかしながら、ホテル全体として繊細さがないし高級感がない。客がどーっとやって来てビュッフェに群がる、といった感じなのです。加えて、オーガニックにこだわっていることと夕食のビュッフェ形式がネガティブに働いているのではないか、と思います。ここにはもう来ません。この後大勢の邦人が住むデュセルドルフにも宿泊するので、寿司に関して期待が高まります。
〔2022年12月〕