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怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「女子学生、渡辺京二に会いに行く」

2016-09-17 09:11:05 | 
このブログでも取り上げたことのある渡辺京二さん、熊本在住の在野の研究者と言っていいんでしょうか、「逝きし世の面影」は評判になっています。
そんな渡辺京二のところへ津田塾大学の三砂ちずる(「オニババ化する女たち)の著書があります)ゼミの女子学生が卒論の発表を兼ねて押しかけていきセッションを行います。
さすが津田塾大学、その卒論のレベルは高いのですが、それに加えて渡辺京二が縦横無尽というか博覧強記を披露しつつ思いがけない視点でしゃべくり倒しています。

この時点で渡辺京二齢80歳。若いころは結核で3年余り療養所に入っていたそうですしそう思うと大変なエネルギーだと思います。
まあ、こんなに好き勝手言っているんで老けないかも。
ここではたぶん出来のいい6人の発表者が発表しているのですがその問題意識と論理展開はなかなかのものです。卒業生3人の話しているんですけど3人とも大学院生なので問題意識の鋭い話です。それはそれでなかなかなのですが、たぶん自分たちの仲間内では絶対に出てこないような議論で、渡辺京二にうまく翻弄されているようになって、これはこれで面白い議論になっていました。
最後の章「無名に埋没せよ」で自分の人生を語りつつ総括的に話しているんですけど、これから大学を卒業して社会に出ていく彼女たちに「人の役に立つような人間になりなさい」というのは次の次の課題であって、人間生まれてきた以上まずは生きとおす責任があると説いています。自分が生きていくこと、これが一番大事で、この宇宙、この自然があなたに生きなさいと命じていると。
大体この人間の歴史に、いろいろな災いをもたらしたやつは、社会に役に立ってやろうと思ったやつが引き起こしてきたんでしょう。
よく自己実現などと言われるが、最初から自己などというのは実現されているんだ、大切なのはその実現されている自己を、自分のその性格を磨くこと。自己啓発などと言って自分が気が付かなかった自分に目覚めようなんて言われるけど、自分で気が付かなかった自分なんていやしないんだから。
いや~小気味いいですね。
人間は無限の素質があるなんて言うのは戦後の一つのイデオロギーで、100メートルを9秒で走るやつは奇形でピアニストは奇形!才能があってもてはやされるのはすべての人間に求められるはずはない!そんなのは虚栄の世界だと。
役人であれ企業人であれ、有能な人材として責任ある地位にどんどん上っていくことが自己実現なのか。そんな風に出世していくことは自分の大事なものを殺し、殺し、殺していくことが多いでしょう。すべての人が出世することができない以上幹部になる人しか自己実現できないことになる。自己実現なんて言うのはエリートのバイアスがかかった非常に過酷な要求なんだと。
人に惚れ込み、いろいろな人に出会えば、それぞれに人間は面白いんで、その面白さを感じ取っていく心の広さがあれば、それだけ人間は豊かになる。テレビに出なくたって無名の一生で構わないんだ、というかそれが基本。大多数の人は無名のままで、この世の中でずっと埋もれて一生を送ってきたけど、自分がすべきことを正直に、まじめに、うそ偽りなくやってきたんだ。その人たちの一生は哀れな一生ではないはずです。
そうは言っても才媛の津田塾を卒業しようとする人は、卒論でもわかるように知の世界、思想の世界に引き入れられてしまっている。こういう知の世界に一遍触れた以上これからも一生本を読んで勉強を持続していきなさい、とこれはある意味暖かいエールでもあり、厳しいはなむけの言葉です。
80歳の好き勝手に生きてきた爺さんのたわごとかもしれませんが、今さら金も名誉も求めていないでしょうから世のしがらみもなく、ある意味深い学識と経験が社会に媚びない小気味のいい言葉になっています。
コメント
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