このVマークを見ると、胸が締め付けられる思いがする人が、きっと沢山おられるはずです。
20年前、あの90年5月28日の武道館公演の時。「MOUNTAIN TOP」というアルバムを発表したばかりのVOWWOW。新しいべーシストも加入しての凱旋公演。これからまだまだ、いつまでもこうしてVOWWOWのコンサートに来れるものだとばかり思って、僕もアリーナに立っていました。
「ああ、また今日、あの人たちの音が聴けるんだなぁ」
目の前にいた人が、この公演の前にどこかで見たのか「厚見のキーボードソロが見ものだぜ。凄えんだよ。」と興奮気味に話していたのが耳にはいり、それだけで僕はもう、じっとり手に汗をかいていました。
(今日まで、てっきりツアーになっていたのだと勘違いしていましたが、この武道館公演はただの一度きりでした。ですので、なぜ僕の目の前のお客さんはこの日のキーボードソロのことを知っていたのでしょうか。この件について厚見さんに、今直接伺いましたところ、この88年のツアーでこの日と同じキーボードソロをやっていたよ、ということでした。とはいえ、二年前のソロと同じものをその日にやるとは、まさか知りえないはず。ちょっと不思議な話ですが、厚見さんも「なんでだろうねえ」と仰ってました。当日のリハを見たスタッフさんだったのでしょうか・・・。僕がその話を耳にしたのは間違いないのですが・・・謎です。んー。本当に不思議です。もしや、・・・幻?そう、その日の厚見さんのソロは、きっと覚えてらっしゃる方もいらっしゃるかと思いますが、左手で、KORG M1にベースとドラムをアサインしての、あの厚見さんご本人ですら当時のインタビュイーで「調子が良くないと完璧には弾けない」と仰っていた、超絶技巧の、まさに驚愕のソロでした。)
そして、恭司さんのギターが武道館のそこかしこから聴こえてきたと思ったら、あっという間に公演は終わっていました。断片的に景色は覚えていますが、ただただ、圧倒されて終わったように思います。ハリケーンのミニムーグソロの事とかは、鮮明に覚えています(←これで「あれね」とわかる人は、けっこうなマニアさんです)。
そして、びっくりするくらい突然に、それきりVOWWOWは僕たちの前から姿を消しました。また絶対に見れると思って、あの日、武道館を後にした沢山のファンの人たちは、なんだか悪い夢を見たような気分のまま、いつしか「・・・ほんとうに、終わっちゃったのかなぁ。残念だなぁ」と、まさに狐につままれたままのような気分で、それまでリリースされた音源たちを、ただただ繰り返し聴き続けてきたのだと思います。それしか、VOWWOWに触れることは、もう出来ないと、うっすらと諦めも混じった気持ちで。
それが、まさかの、昨年のクリスマスです。ファンにとっては、本当に奇蹟が起こった夜でした。
僕のおセンチな能書きは、もういいですよね。
では、早速写真をご覧下さい。
これは、これまでには無かった光景です。二台のミニムーグ。
左が厚見さんのもの、右は、この日の為に用意されたサブではありますが「SIREN SONG」のあのサビのフレーズで使用されていました。ソロではないので、少しボリュームを押さえたセッティングになっていたのだそうです。
数々の名ソロを生んだ、このミニ。絶対に、このミニ。
そして、ギザホイール。
・・・この写真を見て、「ああ・・・このギザホイールで、あのビブラートが」と思って腰砕けになるのは、きっと僕だけではないと思います。
VOWWOWのキーボードサウンドと言えば、上のミニは勿論ですが、こちらのROLAND JUPITER-8が絶対に欠かせませんよね。
僕は今まで、いったい何台のシンセで、これを真似した音を作ったことか。僕が25年前に買ったDX7にも、当時真似して作った音が入っていました。そして、今使っている新旧二台のTRITONにも入っています。勿論、何度作っても本物にはなりえないのですが、それでも。そう、欲しくて欲しくてたまらなかったあの音は、ここから出てるんです。これが、その本物です。
厚見さんの手書きのパッチメモです。あのイントロの音は、38番です。あのソロの音は34番です。そしてそして・・・。ああ、眩暈がするです。憧れの、・・・このボタン。
これも、厚見さんのサウンドには欠かせない、メロトロン(ブラック・カラー)です。厚見さんは、 ピッチやその上の音色切り替えスイッチ、トーンなどを自在に操りながら弾くのです。厚見さんのサウンドが、同じ機材を使っている他の人と一味も二味も違うのは、たったこれだけのスイッチでも、世界中の誰もやっていないような奏法を編み出してしまうところだと思います。
当時のVOWWOWのライブサウンドを支えていたのピアノは最初がYAMAHA CP-80、そしてその後はKORG SG-1DNewだったと記憶しています。SG-1Dの”立ち”の良さは今でも厚見さんはお気に入りだということで、清志郎さんのライブなどでもよく見ることが出来ました。
この日は、数ヶ月前に購入されたYAMAHAのCP300を使用。色々とピアノの候補は上がっていたそうですが、オケの中でのヤマハらしい音の速い”立ち”もそうですが、「最後のフォルテッシモがちゃんと出るから」という理由でこのCP300が選ばれたそうです。僕も弾かせていただきましたが、確かに、強く弾いた後に、そこから、さらにもう一息強い音が出せるのです。「fff(フォルテッシシモ)」が出せるということですね。確かに、凄い迫力でした。
逆側から。ちょうどこのあたりから、あの誰もが息を飲む、「SHOCK WAVES」のイントロのラストのB♭のアルペジオが弾かれるんですね。当日は、オリジナルよりもかなりタメの効いた、ヘヴィーな演奏をされてましたね。素晴らしい低音でした。カッコよかった・・・。
厚見さんのサウンドの特徴でもあります、カスタマイズされたハモンド C-3です。僕もいままで何度か弾かせていただきましたが(こちらやこちらなど)、本当に、他のハモンドとは一線を画す音がします。
ちなみに、・・・例えこのハモンドだとしても、僕が弾いたのでは、あの音はしません。厚見さんだからこその、あの音なのは言うまでもありません。
C-3からトップにVマークが君臨するタワーを望みます。たまりませんね。
C-3の上、JUPITER-8の下に挟まれるようにセットされた DX7ll Centennial(センテニアル)。限定100台しか製造されなかった、ヤマハの100周年記念モデルです。金箔でメッキされたボタンやホイール、夜光の鍵盤。誰しも憧れたものですよね。
当時のライブでは(必ずではないですが)ハモンドではなく、このDX7のオルガンをレズリーに通して使っておられましたね。ベンドを使ったりもして。しかし、やはりこれも当時誰もやらなかったことでした。ですから、あの音も厚見さんの一つのトレードマークになっていましたよね。
そしてその反対側。CP300の上、ミニムーグの下にセットされたTRITON Extreme。そうです、これが、僕の・・・。
その奥手にそびえ立つ、レズリータワーです。この写真では判りませんが、このレズリーの下にもレズリーがあり、一番上のミニレズリーと合せて三段積みになっています。照明で工夫され、ホーンの回転がライトアップされていました。こういうところが、また、カッコいいんですよね。「レズリーが回ってるのがカッコいい」と思う感覚、無い人にはきっと無い感覚だと思いますが、ある人には「そうそう!それそれ!」なんですよね(笑)。
その逆サイドが、こちらのVタワー。トップのビジョンには、かつてはROLAND S-50(S-550)のエディット画面が表示されていましたね。暗闇で光るブルーの画面の、なんともカッコよかったこと。
今回は、特別仕様のVマーク。僕も最初見たときには「え?これ、どうやってるの!?」と思いました。勿論、このアックスの奇蹟の為の特別仕様です。この秘密は、近々明かされるでしょう。
タワー中段にあるミキサー部です。ROLANDのM-160は当時から変りません。手書きのメモも興味深いですが、フルテンまで上げられたミニムーグのフェーダーにロックを感じます。ミニは出力が十分に大きいので、本体側のアウトプットを上げれば、大抵はミキサー側では抑えるくらいでも十分なのです。また、ミキサーの使用法としても、普通は「音が割れたりしたら」と0db(や赤い線)までにとどめておく人が多いと思います。そこを、厚見さんは、
あえて、フルテンなのです。
また、FURMANの電源の下のSONYのデジタルリバーブSDR1000も、そしてその下のデジタルディレイ、ROLAND SDE-2000も、当時にも使われていたものです。
SDE-2000はミニムーグ用で、本当にこれに通すだけで音が太くなり、ディレイ音の減衰の感じも、まさに「やっぱ、これだね」という、他に代用は利かない、歴史的銘機だと思います。古い機械ですから、いつかは無くなってしまうかもしれませんからね、ディレイにお悩みの方は、見つけたら、即買いですよ。僕も二台持っています。そして厚見さんファンならば、タイムは、420mm固定ですよ。
厚見さんのミニには、このマシンの開発者、ロバート・モーグ博士の直筆のサインが入っています。博士も、この日の奇蹟を見たかったことでしょう・・・。
クリアパネルが美しいハモンドの裏側(舞台中央側)には、あのKORG RK-100カスタムと、恭司さんモデルの、あのSGが並んでセットされていました。
セットの前、舞台ギリギリには白いNOVATRON(ノヴァトロン=名前は違いますが、事実上メロトロンと同じ機構の楽器)が客席に向けてされていました。これで弾かれた「PAINS OF LOVE」のソロの美しさは、厚見さんとノヴァを上からまっすぐに照らす白い照明も最高で、まさに神掛かっていたように思います。
Vタワーの前に貼られた、セットリストです。始めてリストを知ったときは、正直しばらく何も手に付かなくなりました。
・・・嬉しすぎて。そして、想像が膨らみすぎて。
さて、いよいよ、
2009年12月25日の、厚見さんのセットの全景です。写真正面(舞台奥手側)は上から、サブのJUPITER-8、KORG M-1、一番下がメロトロンです。主が帰ってのを待って、静かにスタンバイしています。暗闇に点滅するインジケーターやLEDの明かりが、本当に美しいのです。
そして、
光が入ります。
美しすぎて、ため息が出ます。
写真ではお伝えしづらいのですが、僕には、
こんな風に見えるのです。あまりにも、まぶしいセットでした。
さて、ブログも一度に10000文字以上は書けないということもありまして、本日はここまでとさせていただきます。
そして次回は、
いよいよ、
厚見さんにご登場頂きたいと思います。
ご期待下さいね。
最後に、一点、お詫びを。
本日のブログのアップ時、僕の手違いで一番最初に頂いた書き込みが消去されてしまいました(僕は読ませて頂いた後でした。お気遣い、ありがとうございました)。どうもすみません。大変申し訳ありませんです。
ではー。
そんな事が起きるんだということを知ってから、「次を待っていてはだめなんだ。こんな思いなんてもう二度と。」と思い知りました。
今日の言葉を読ませていただきながらそんな事を思い出し、数分で完売になったチケットと、ケンさんのあまりに大きな思いに、「やっぱり行くべき人が行くべきライブだったんだ」と感じました。
長い時間をかけて少しずつ書かれていく言葉のひとつひとつにケンさんの喜びが詰まっていて、そんな喜びを聞かせていただけてとっても嬉しかったです。
二台並んだミニムーグのお写真が、とっても不思議な光景に見えました。お話いただく内容にお応えできないのが申し訳ないばかりですけど、たくさんのお写真とたくさんの思いを書いていただいてありがとうございました。
って、終わりなわけはなく、次回はいよいよ御大登場なんですね!
はい、期待、しちゃいます。
今夜はまた一段と長く書かれたのですから、きっとお疲れになったでしょうね。もしくは今頃は次回の内容を考えておられるのでしょうか。
どうぞ、温かくお過ごしくださいね。
凄いお宝な写真の数々!
ケンさんのプロとしての見識と、〝厚見さんの大ファン〟な気持ちが溢れ出ている素晴らしい記事だと思います。
キーボードのセッティングはあまりわからないワタシですが、それでも懐かしい聞き覚えのある機材の名前が所々あって『そ~なんだ!』と感動!
思わず曲を〝厚見さんメイン〟で聴き直しているところです。
(早朝VOWWOW。)
あと、あの回っていた〝レズリー〟はワタシの素人目にもそーとーカッコ良かったです~。
お忙しいのに、ここまで書きこんでいただいて本当にありがとうございました!!
本当に感動、感激しました!!!
V…あの日本当は見に行きたかった。
でも、今回この様にケンちゃんのブログで貴重な写真を掲載して頂いて本当に有り難いです。
尚且つ一枚一枚に解説を付けて頂き、本当に良かったです。
昨夜、最後まで辿り着けず今朝何度も何度も読み進めていきました。
行けなかった沢山の仲間達に全てとは言わないです。ケンちゃんが感じた事を教えて下さい。
そして、少しでも一緒に参加してきたんだって思いをさせて下さい。
時間をたっぷりかけて機材一つ一つをご紹介頂いた事、本当に嬉しかったです。
20年前、VOWWOWに出逢えていたら…また違った人生が送れていたかもしれませんね。丁度人生の転機があった頃だったので
そして、また奇蹟が訪れる時があったら、是非とも参加してみたいって思いました。
次回も楽しみにしていますね。
だって、ケンちゃんの大好きな厚見さんがご登場して下さるんですものね。
長時間ご苦労様でした。
そして、ありがとうございました。
次があるって必ず思いますよね。それが、それっきり無くなっちゃた時は本当にどうしたらいいんだろぅて気持ちになりますもんねだからこそ、この奇蹟の夜には行くべき人が行かなきゃならなかったんだと思いました
一枚一枚の写真とコメントからも、ケン坊の想いが伝わってきて、ドキドキしました。
ケン坊の想い、興奮も感動も、わたしの想像なんか遥かに超えているものなのでしょうが、それでもこうして伝えてくれるのが嬉しいです。
キラキラと目を輝かせて書いている、そんな姿が浮かんできます。
厚見さん御登場の続きが楽しみです♪
はい!期待してます。
ではー。
2009年12月25日は、本当に奇蹟の夜だったんですね。
ケン坊のお言葉から、当時の、そして、これまでの想いが伝わってきました。
…どこまで、というか、少しもわかっていないかもしれませんが、それでも読ませていただいて、胸が痛くなりました。
たくさんのお写真と、とても丁寧な説明、ありがとうございました。
いつものことながら、音を想像することも難しく、申し訳ない気持ちでいっぱいですが、今回のブログをライブ当日のケン坊と同じ想いでご覧になっている方が、たくさんいらっしゃるのでしょうね。
ケン坊と同じように「また絶対」と信じて疑わなかった方々。
ケン坊と一緒に奇蹟の夜を過ごされた方々。
そして、残念ながら参加出来なかった方々も…。
とってもとっても特別で、貴重なブログ。
お忙しい中、ありがとうございました。
お師匠さまのご登場、これまた楽しみです(u_u*)。
ではー。
もろ影響を受けていることがよーく分かります(爆死)。。
しかし、アナログとデジタルの境目が「くっきり」出ているのはホントに好きです。今日、ASIAの初来日ライブを久しぶりに聴いたんですが、やはりこの時のキーボードサウンドが好きで・・・これまた極端なアナログ・デジタル。この頃のサウンドが身にしみていることを再認識しました。。
そして、詳細な解説にも見入ってしまいました。
有難うございます。
実は、私の大好きなSHOCK~のイントロ、低音部が重厚でおまけに左手のアレンジがオリジナルと違っていたのにびっくりしたのか、高音部のアルペジオが自分の慣れ聞き親しんだ音より小さく聴こえてしまったのが、とても
引っかかってまして・・・
「あれ?何か違う・・・」と。
そうか・・・数ヶ月前に購入した新しいピアノだったんですね。
「何でだろう?」を誰にも聞けずに悩んでいたのですが、何となく自分の中で腑に落ちました。有難うございました。
前の席の方の「厚見さんのキーボードソロ話」の件。
この武道館LIVEの前の週に公開ゲネプロ(?のようなもの?)があったと思います。何かの文献(?)で読みました。
もしかしたら、前の席の方はその時ご覧になったのかも・・・?
それと、すみません。90年の武道館LIVEは5月8日とありますが、5月28日です。申し訳ありません。細かいことを言って。ごめんなさい。
ありがとうございました。
少しずつ、丁寧に綴られていくケン坊の想い、まっすぐな言葉に、
・・・胸が一杯になりました。
こんなにも、深くて、熱くて、強い想い。
こんなふうに思いを寄せるものがあるって、本当に素敵だなぁ、と思います。
と同時に、とっても羨ましいなぁ、って。
キラキラまぶしい力を分けてもらえたようで、
ちょっとモヤモヤしていたことも、なんだか、吹っ切れました。
次回は、いよいよ、厚見さんご登場!なんですね。
楽しみにしています(*´ー`)
校正と並行してお忙しい中、こんなにたくさん・・・本当にありがとうございました。
詳細な機材解説ありがとうございます。ケン坊さんでないと出来ないレベルの解説でさらに感動です。
ところで、厚見さんが使用されているVocoderは何でしょうか? M-160の下段のラックに入っているのでしょうか?
厚見さんに憧れて自分の楽器に同じようにテープを貼ったり、同じ楽器が欲しくてバイトばかりしていたのを思い出します。
あの日は本当に夢のような夜でした。
また夢の続きが見られるとうれしいですね
今ね、恭司さんの日記見てきました。読んでいて、めちゃくちゃ感動しちゃいました
あぁ~、今更ながら行っておけば良かったって。
悔やんでます。
もう二度と奇蹟は起きないんでしょうか…。
機材一台一台の詳細なご説明、ありがとうございます。
私は、キーボードは自分で弾く訳でもないし、ちっとも詳しくはなくって、「(好きなキーボーディストの)○○さんが使っていた機材」というような覚え方しかしていないのですが、ケンさんはそういう想いがもっとずっとずっと深く熱くて、そして、ケンさんのような想いを抱いていらっしゃる方はたくさんいらっしゃるんでしょうね。
古い機材が大切に使われてあるのを見ると、「おぉー」と気分が揚がりますが、厚見さんも、楽器を大切になさってきたからこそ、この日の奇蹟が実現したのですよね
厚見さんの機材、本当に神々しいです。
ライトを浴びると、さらに、ね。
この日の奇蹟を待ちわびていた方々、そして実際に目に、耳にされた方々の喜びは、いかばかりだった事でしょう
皆さんには、サンタクロースの存在が実感できたのでは
次回の、厚見さんのお話も、楽しみにしています♪
こんな写真が拝めるなんて本当に感動です。
厚見さんの姿が大好きで憧れていたので
なんとも今さらですが....とてもいい記事を
拝見させていただきました。