映画 「エヴェレスト 神々の山嶺」

　　　

 

　　　　今から２０年前に発表された、第11回柴田錬三郎賞を受賞した夢枕獏による小説「神々

　　　　の山嶺」の映画化で、角川映画の４０周年記念作品でもあります。

　　　　監督は「愛を乞うひと」などを手がけた平山秀幸のメガホン。キャストは岡田准一、阿部

　　　　寛、尾野真千子、佐々木蔵之介が初共演です。

　　　　物語はヒマラヤ山脈を望むネパールの首都カトマンズで、山岳カメラマンの深町誠が発

　　　　見した1台の古いカメラは、イギリスの登山家ジョージ・マロリーが、1942年6月8日にエベ

　　　　レスト初登頂に成功したのか否かという、登山史上最大の謎を解く可能性を秘めたもの

　　　　だった・・・という挿話から始まります。

 

　　　　見始めてこれは面白くなりそうだと思ったのですが、段々とつまらなくなりました。映画の

　　　　主人公たちの行動をお客さんに納得してもらうには、その動機付けの描写が必要なので

　　　　すが、これが弱いため勝手に行動しているとさえ見えてくるのです。このあたりは練り方

　　　　の弱い脚本と演出のせいです。

　　　　山岳場面も邦画にしてはよく撮っているのですが、物語と上手くリンクしていません。この

　　　　原作が発表された時から映画化の話はあったのですが、その壮大さから映像化は不可

　　　　能と言われ続けてきたもので、その予感は当たりました。更に山男たちの描写がガサツ

　　　　な労働者集団のようでこれも不満、ラストももっと感動的に撮れる筈なのに薄いです。邦

　　　　画では珍しく製作費をかけた大作ですが、とても残念な結果になってしまいました。

 

 

 

楽しかった旅の一コマ (89) 世界で最も美しい集合住宅

 

　　　　

　　　　

　　　　

 

　　　　ロンドンの西方140キロにある都市バースは、ローマの時代か続く時代に温泉の街とし

　　　　て、貴族たちも愛した美しい町並みが今でも素敵です。このバースの街に多くの建造物

　　　　を残したジョン・ウッドの設計で、1770年頃に建てられた三日月形(クレッセント)のテラス

　　　　ハウスは、必ず立ち寄って見学したい建物。バース・ストーンの３０棟の大邸宅がカーブ

　　　　を描いて立ち並び、建物の一部がホテルや博物館になっていて、ジョージ王朝のインテ

　　　　リアが再現されています。

　　　　建物全体に１１４本のイオニア式の柱と繊細な装飾が施された曲線建築が美しいし、更

　　　　にその建物に抱かれるように広がる芝生の庭園が見ものです。世界で最も美しい集合住

　　　　宅と言われるのを、この芝生に立って納得しない人はいないでしょう。

 

 

 

 

映画 「家族はつらいよ」 ＋ 周辺雑記

 　　

 

　　　　「母と暮らせば」を作ったばかりの山田洋次監督の新作は、「男はつらいよ」シリーズ

　　　　終了から約２０年ぶりとなる喜劇です。結婚５０年目を迎えようとする熟年夫婦がメイ

　　　　ンで、夫はもうすぐ誕生日を迎える妻にプレゼントを贈ろうと欲しいものを尋ねます。

　　　　ところがその答えはなんと「離婚届」。この離婚話に息子・娘夫婦たちは大慌て、大騒

　　　　ぎをする家族の姿をコミカルに描いています。

　　　　山田監督の「東京家族」(2013)で一家を演じた橋爪功、吉行和子、妻夫木聡、蒼井優、

　　　　西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵の8人が再結集して現代に生きる新たな一

　　　　家構成する異色キャストです。

 

　　　　館内のほとんどは年配者。そんなお客さんは結構笑っていたようです。そつなく笑わせ

　　　　ているのはいいのですが、ギャグや笑の仕掛けが古い感じで少々気になりますし、俳優

　　　　さんの中で喜劇タッチの演技が出来る人と無理な人を見分けて欲しいと思いました。

　　　　随所で老婆の買い物車を出したりするショットや「東京物語」の画面を出したことについ

　　　　てもスタッフだけが喜んでいるようで気になりましたが、前作の「母と暮らせば」などより

　　　　は作り甲斐があると思いますので、このラインを出来るだけ続けて貰いたいものです。

 

　

　　　PS: 周辺雑記

 　　　　少しばかり暖かくなったのでカメラを持ってブラブラしていたら、福岡市天神の岩田屋デ

　　　　パート前で突拍子もない宣伝用ディスプレイに出くわしました。地面に突き刺さった超特

　　　　大のラグビーボールで、100メートル先の商店街から、ラグビー日本代表・五郎丸選手が

　　　　蹴り出したという設定です。

　　　　　

 

 

 

 

映画 「マリーゴールド・ホテル 幸せへの第二章」

　　

 

　　　　インドのリゾートホテルで長期滞在するイギリス人シニア男女７人が、新たな一歩を

　　　　踏み出すまでをユーモアたっぷりに描いたイギリス映画「マリーゴールド・ホテルで会

　　　　いましょう」の続編です。

　　　　キャストはジュディ・デンチ、ビル・ナイら前作でおなじみのメンバーが再び出演するほ

　　　　か、リチャード・ギアが新たに参加。「恋におちたシェイクスピア」のジョン・マッデン監督

　　　　が前作に続きメガホンをとっています。

　　　　私はうっかりしていて、映画を見始めてこの作品には前作があったことを思い出しま

　　　　した。でも前作を見ていないと判らないことはないくらい複雑なストーリーではありま

　　　　せん。前作の評判が良かったので続編が作られたのでしょう、後篇はかなり薄味だし、

　　　　年配の男女が恋とか再婚だとかに目の色を変えているのはどう考えても滑稽です。

　　　　イギリス映画でもないしインド映画でもなく中途半端な所があり、このあたりをインド

　　　　映画だと割り切って、もっと派手な演出をすべきだったと思います。楽しいのですが

　　　　何か物足りないことも感じる一本でした。

 

 

 

大映宣伝部・番外編の番外 (104) 天地 茂 さん

　　　　　　　　

　　　

　　　

 

　　　　　　 

　　　　お芝居で有名な旗本・水野十郎左衛門の子孫にあたるのが天地茂さんです。彼は名古

　　　　屋の出身で若いころから俳優になりたくて、高校卒業後の昭和２４年(1949)にコネを見つ

　　　　けてまず松竹に潜り込みます。松竹では通行人役以外は全くなしで２年後にはクビ。

　　　　改めて昭和２６年(1951)第１期新東宝スターレットに選ばれて入社しますが、ここでも中々

　　　　芽が出ず苦労します。

　　　　昭和３４年(1959)の「東海道四谷怪談」(監督・中川信夫)で民谷伊右衛門役に抜擢されて

　　　　熱演したことから注目されて多くの主演作を得ることになり、新東宝での活躍ぶりは皆様

　　　　の方が詳しいと思います。

　　　　しかし新東宝は残念なことに昭和３６年(1961)倒産、同年に大映と本数契約を結び、準主

　　　　役という約束でしたが、時代劇を中心に個性的な役をこなして行ったのです。

　　　　中でも「座頭市物語」の平手造酒役、田宮二郎の犬シリーズにおけるしょぼくれ刑事役が

　　　　評判になります。更に「眠狂四郎無頼剣」での敵役は、主役と対等の素晴らしい存在感を

　　　　見せ、あの冷静沈着の雷蔵さんをして「あれではどちらが主役だか分らない」とご機嫌を

　　　　悪くしたという話が残っている程です。

　　　　大映とは本数契約ですから並行して他社にも出演していますが、大映では２９本の作品

　　　　に出ています。

 

　　　　役柄が役柄ですから、本人もニヒルな性格の人物とよく誤解されたようですが、実際の彼

　　　　は真面目で気さくな人柄であり、夫婦は絵に描いたように円満、弟子や後輩の面倒をよく

　　　　見たそうです。因みに宮口二郎、奥田瑛二、宅間伸は彼の付け人だった面々です。

　　　　芸名の由来はファンだった中日ドラゴンズの天地俊一監督、杉下茂投手の名前から頂い

　　　　た由で、彼は映画だけではなく、テレビや舞台などでの活躍も目覚ましいものがありレコー

　　　　ドも何枚か出しています。

　　　　昭和６０年にくも膜下出血により５４歳の若さで亡くなりましたが、昭和６年(1931)生れです

　　　　から、元気だったら今年で８５歳です。