渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

バトニングによるナイフの刃先

2020年06月09日 | open



友人に進呈したブローニングのコンバット
ナイフを彼はウキウキで持って来ていた。
かなりバトニングをした後に「これだけ
使ったら次の前には研がないといけませ
んかね」と言う。
「いや、研がなくて大丈夫」と私が言う
と「え?!」となっていたので、そこで
実際を見せてみた。
散々バトニングで使った大型ナイフで紙を
切って見せたのだ。
すると何の抵抗もなくカミソリのように
スーッと紙が斜めに切れる。
友人は驚いていたが、実はカラクリがあ
る。物理的な。
よく、鉈屋がYouTubeなどで散々薪割り
をした直後に紙を切って見せてカミソリ
のように切れるのを撮影していて、それ
を観た人たちが一様に「凄い切れ味」と
か驚いている。
これはトリックなのだ。

薪を縦割りにした場合、最初の入刀の瞬間
のみ刃先が木に食い込み、直後にはブレー
ドの厚みによる楔作用で、薪を切るのでは
く文字通り「割って」行くのである。
刃先は常には当たらない。
しかし、日本刀で畳表を袈裟に切る場合
は常に刃先が当たる。イグサのストロー
が楔作用で勝手に分裂して行くことは無
いからだ。
但し、刀身の断面形状により被切物の
「開き」を助長したり阻害したりする
現象は現出する。これが「抜けが良い」
「抜けが悪い」と刀術者には感知させる。

竹の真っ向唐竹割りなどは、これも縦割
りの「割り」であるように刀の厚みで
左右に引き裂いて行くので刃先は傷まな
い。
竹でも袈裟の場合は畳表のように刃先で
凹むストロー状の茎を切るよりも楔作用
はあるが、それでも刃先が常に当たる。
畳表や竹の袈裟切りは、切り進む最初に
は刃先が被切物に当たるのだが、薪の縦
割りは現象が「割り」であるので、勝手
に木片が刀身の厚みで左右に押し広げら
れて割れて行く。
薪割りで刃先は傷まないのだ。最初の食い
込みの瞬間のみ刃先を刃物として使い、
あとは薪を楔のように割り割いて行くの
である。
だから、薪割りの直後でもカミソリの
ような刃先のままなのである。

日本刀の場合は、メスのような使い方
はなく、刀身の厚みによって細胞破壊の
効果もダメージとして与える。刀は手術
用の刃物ではなく武器なのだ。
仮に日本刀が厚みのないぺったんこの刀身
だったとしたら、まったく切れ味は悪い
ことだろう。

火口用スティック割りの時も、軽く刃先
を当てて、プラハンでコンと軽くブレード
の背を叩くと、恐ろしい程にスパーン!
と板などは割れる。
特にスカンジやコンベックスグラインド
だと楔作用が強く割れ易い。




このカマボコ板スティックは予め束になる
程作っておくと、フェザーを作れば火口に
使える。
また、ミニストーブの薪にもなるが、燃焼
が異様に速いので、火を育てるにはまた
別な経験値が要る。

バトニングでは、薪を立てての縦割りでは
ナイフの刃先はほぼ傷まない。
ただし、薪を寝かせて縦に薪の腹を刃先で
打つ場合はナイフの刃先は潰れて行く。
要するに使い方だ。
刃物は物理的な現象の通りの結果になるの
で、絶対に嘘をつかない。
刃物は人を騙したり裏切ったりはしない。
常に扱う人間の己を映すのが刃物だ。

40年ほど前に散々バトニングで使用した
戦闘ナイフ。こいつは実によく働いた。


モーラのノーマルはバトニングに向いて
いないかというと、割りそのものはスカ
ンジの鎬があるので存外割り易い。
しかし、ブレードが薄いことにより厚み
があるナイフのような割れ味は発揮しな
い。刃で切って行く感覚になる。
また、ラップドタングのために、薪で
叩いていると、多分ブレードとタングの
境目あたりから折れる事故が予想できる。
これがハンドルがコルクであったり、レ
ザーワッシャーであると衝撃を吸収する
のですぐに折れたりすることはない。
ランドールがナロータングながらレザー
ワッシャーにこだわったのには意味があ
る。

北欧ナイフのモーラは、汎用簡易ナイフ
としては、そのコストパフォーマンスは
世界一かと思われる。とてつもないナイフ
だ。ハンドルもプーッコ系で握り易い。
エッヂは適正に研げば恐ろしく切れる。
また、初期出荷刃付けもよく切れる。
モーラは「買い」だ。


モーラナイフに専用の別売革カバーを
被せたら、いきなりカスタムナイフの
ようになる。これまたカッチョいい。

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