渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

映画『勇気ある追跡』(1969)

2024年08月30日 | open



母が「『勇気ある追跡』が
面白い」と言うので、久しぶ
りに観てみる事にす
る。
原題はトゥルーグリット。
「真実の気概」という意味だ。
本当にやり抜く事。
私の母も父も映画好きだ。
母などは若い時分、広島県庁
を退職して上京
してからは、
都内の映画会社に勤めて
いた。
死んだ父も映画好きで、『シ
ェーン』(1953)などは映画館
で6回観たそうだ。
そういえば、私も『汚れた
雄』(1981)は映画館で6回
観た(笑
都内で4回、横浜で2回。
『汚れた英雄』はビデオや

DVDでは物凄く残念な事が
ある。
それはフィルム上映で観る
あの独特のブルー感光表現
が、メディアでは映像がク
リアになりす
ぎて十分に表
現が活かされてい
ないのだ。
特にDVD。デジタル化で映像
がクリアになれば何でも良い
というものではない。
北野武が真似し
たブルー感光
フィルムでの
映像の色調タッ
チがDVDではただの青っぽい
だけの映像になっている。
本当は、劇場では薄い青霧

がかかったような幻想的な
色調タッチが広がった作品
だったのだ。世界初の試み。
『汚れた英雄』は映像が滅

茶苦茶良い作品だった。
あれは多くの同業界人の撮

り屋たちも唸らせたのでは
なかったろうか。
さらには、劇場用の巨大な
大画面での上映を前提に撮
影されているので、ビデオ
やDVDではダイナミックさ
は全く伝わらない。
主人公北野晶夫の自宅のオ
ーディオセットが徐々に見
えて来るシーンでは、何度
観ても劇場内にどよめきが
おきていたのが歴史の真実
だった。
それほど圧倒される「映像
力」を放つ作品だった。


さて、今夜はジンではなく水
を飲みながら『勇気ある追跡』
を観るとするか。
ジョン・ウェインの念願のア

カデミー賞主演男優賞受賞作
品でもある。
ジョン・ウェインの作品で私
が一番好きなのは『11人のカ
ボーイ』(1971)だ。
あれは隠れた名作、というか
かなり感動した。少年たちに
やり抜く心を教える老カウボ

ーイの物語。CGなど無い時代
のキャトルドライブ(膨大な
数の牛追い)のシーンが圧巻
だ。

いやぁ。映画ってほんとにいい
ものですね(笑
の人が『0093 女王陛下の草刈
正雄』に本人役で出ていた。
水野晴郎さんは日本社会に功
績を遺した。
それは、映画の件ではない。
現在日本のパトカーの全車両
の天井に識別文字があるのは、
あれはアメリカの警察の方式
を水野さんが日本に紹介して
警察にも推奨したからだ。
水野さんは米国の名誉警察官
の肩書もあった。
パトカーの天井の文字は、ヘ
リからの追尾確認の時に即ど
このどのパトカーか判るよう
にするためだ。
現在もその方式が全国警察に
踏襲されている。

本作『勇気ある追跡』の真の
主人公はジョン・ウェインで
はない。まだ21才のキム・ダ
ービーだ。父を殺した犯人を
追跡する事を保安官である
ジョン・ウェインに依頼する。
保安官やテキサスレンジャー
の軍曹からは子ども扱いされ
るが、亡き父の仕事の会計も
担当するしっかり者娘の役。


キムは『いちご白書』(1970)
出演女優だ。ノンポリ学生が
だんだんと切実な問題として
大学の不当な行動に抗議する
学生運動に感化されて行く。
大学学内に軍事施設を
建設し
ようとする大学との闘
いに若
者たちが参加していくノンフ
ィク
ション物語。
結構胸に来る愛と平和と暴力
を描いた作
品だ。
彼ら若者は権力者の暴力装置
たちの暴力にボッ
コボコにや
られひん死の重傷を負う。

日本でも繰り広げられた事だ。
東大生の女子学生などは警官
に警棒で殴り殺された。頭蓋
骨陥没脳挫傷で女学生は死亡
した。


ただ、私は思う。
主義主張やイデオロギーでは
ない。
口先では平和を謳いながら、
自らは傷つく事を避けて安全
地帯にいてピーチク言うだけ
の人間はクズだと。
自ら傷つくことも恐れず、身
を挺して真の平和を目指さな
い人間たちは、大贋物の人間
のクズだ、と。
こればかりは、時代がどんな
に変わろうとも、人間社会の
普遍性、不朽性として確固と
して確立している。

本作『勇気ある追跡』では
女の子と荒くれ保安官と軍曹
が殺人犯を追って旅するシー
ンが多くを占める。
その中でも印象的なシーンが
ある。
旅の途中で店に寄るのだ。
これは興味深い。
現代のドライブインのような
店。
経営者はバグビーさんという
プロテスタント長老派の人で、
アメリカによくある店名の

「~'S」をつけている。
日本ならば「田中一郎商店」
みたいなもの。
BAGBY’Sは看板に「食糧品と
用品」
とあるので総合雑貨屋
のよう
なものだろう。屋外だ
が屋根付きの場所で食事もで

きる。
こうした店は街道沿いだけで
なく西部劇の町にもよく出て
来る。通販品も取り扱ってい
たりする。タバコから砂糖か
ら生活雑貨すべてを扱ってい
る店が多かったようだ。
こうしたさりげない登場物が
かなりその時代の世相や社会
風土を表現しているので、時
代物映画ではそういう描写が
非常に面白い。
日本の時代劇で居酒屋でテー
ブルと椅子があるのは大嘘の
創作だけどね。実際の江戸時
代は座敷で盆に乗って飲食物
が出て来た。テーブルと椅子
の登場は最幕末、普及は明治
以降。


映画「勇気ある追跡」True Grit



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