心の色を探して

自分探しの日々 つまづいたり、奮起したり。
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どこへ行った

2018年04月24日 | 母のこと
母の手仕事は、体調のいかんによって変化する。調子がいい時は服のリメイクに結構時間を取っている。
最近は、もう外に着ないであろう春夏物の上着を家の中で羽織るチョッキに変身させたいとあれこれ痛い手を使っていた。袖をほどく作業はわたしが手伝ったのだけど、ほどいた後のしつけをかってデザインを考えるのは母だ。何度もセーターとかをチョッキに変身しているので、母の頭の中にはすでにこういう姿に、というアイデアがあるのだろう。

大きくなってしまった(脂肪がついた)お腹をカバーできるようなもの、それがいつものパターンだ。
上着についていたジッパーを外してあげたら、取った袖を利用して左右の前身頃に足す。袖ぐりには買ってと頼まれたバイヤスを使っていた。別の部屋から持ってきてと言われたミシンをコタツに置くと数日はそのままだ。
「他の人が一日とか数時間で出来るものを何日もかかるからなあ。そのたびにあっちの部屋からミシンを持ってきてもらうのも悪いし。当分はコタツが散らかるけど仕方ないよ」
そう言って、コタツに広げていた。

昨日、月曜日までの期限の仕事があったので、母のところに行ったのはいつもよりかなり遅かった。途中、買い物もしていったので、車を駐車しトランクから荷物を運び出してから家に入ると。
母が縁側の椅子に腰掛けていて、カーテンを開けていたのかクルリと振り返った。
「お前がいつこっちを見るかじっと見ていたけど、ちっとも見てくれなかったよ」と苦笑いしていた。
「あ~! なんだ窓から見ていたんだ。全然気づかなかったよ」
「お前はいつもそうだからなあ。周りのことに注意がむかないんだから」
そうなんだな、自分でもわかってる。目の前のことに夢中で周りに目がいかない。そういうことがしょっちゅうだ。これは直せと言われても簡単には直せない。

コタツにはやりかけの服が置いてある。それを指さし
「最後は手で縫おうかと思っているから・・・」と母が言う。
「わかった、あっちに持って行けばいいんだね」
「悪いね」
「いつでも言ってくれれば運ぶから」と言ってミシンを向こうの部屋の定位置へと運んだ。

仕上げは手縫いにするといった母だが、すぐにはやらず。なにやらごそごそ動いている。どうしたのかと新聞を広げて読もうとしていたわたしは顔を上げた。
「どしたの?」
「いや、眼鏡が見当たらないんだよ。コタツの上にあったんだけど。午前中に使ったのに」
一緒に探した。こたつをめくり、その周辺を探しても見つからない。その間母が心配そうに
「いよいよ、ボケてきたのかな・・・」と言う。
「なんでよ。そんなことぐらい誰にもあるでしょ」
「でも午前中はちゃんと使ったんだよ」
わたしも真剣に探した。

わたしは案外捜し物がうまい。そのわたしでもなかなか見つけることができない。時間が経つほどに母の不安そうな顔が目に付く。
とうとう、見つけた!
母が座ってるソファの脇にストンと落ちていた。
「あー、お昼食べるときにいったん服を寄せたんだ。そのとき落ちたんだな」
ふたりとも胸をなで下ろした。

しばらくして「お風呂が湧きました」という声が聞こえた。先にわたしが入ることにした。
母に「お風呂先に入るよ」と声をかけると
「今度は裁ちばさみが無い」と言い出した。大きな裁ちばさみだ。あの大きさのものが無くなるとは考えにくい。
「ハサミが足に刺さったら大変だ」
お風呂そっちのけで探した。今度はそんなに時間がかからなかった。というのは、さきほど見つけた眼鏡と同じ場所にストンと挟まっていたのだ。きっとふたつとも同時にコタツの上からするりと落ちたに違いない。

「こんな風に裁縫やってると針を探したりする時間ばかり多くて、ちっともはかどらないから。もう後は止めた」
そう言う母の言葉を背にお風呂に入った。
上がるとテレビの時代劇を見ていた母が振り返って、手を広げた。その手にはさっきもう止めたといったはずのリメイク途中の服があった。ニコニコしながら
「テレビを見ながらだから、ここまでしか出来なかったよ」と満足そうな顔で言った。

好きだからしょうがないね。こりゃ止められないわ(笑)。




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