傾城水滸伝をめぐる冒険

傾城水滸伝を翻刻・校訂、翻訳して公開中。ネットで読めるのはここだけ。アニメ化、出版化など早い者勝ちなんだけどなぁ(^^)

傾城水滸伝が生まれた経緯(いきさつ)

2020-09-25 09:55:04 | 解説・楽しみ方
傾城水滸伝が生まれた背景を考えてみたい。

作者の曲亭馬琴がもともと水滸伝のファンであったことが発端なのだが
本家の水滸伝が既に人気のあった書物であったことが背景にはある。

商業小説家である曲亭馬琴としては、売れると踏んだから書いたのであって、
というか売れるように書いたということをベースに考えるべきだろう。

どうすれば売れるのか。と考えた馬琴は、中国の物語である水滸伝を
より多くの人々に読んで(買って)もらうためには
読みやすい物語りに作り変えることがポイントだと思った筈。

そこで、まず日本を舞台にして描こうと決めたと思われる。
今でも中国は近くて遠い国。
江戸時代の庶民が、今以上に中国の情報を持っていたとは考えにくい。
そこで、覚えにくい中国の名前や地名ではなく、
普段から聞きなれた日本の地名、文化、歴史で
水滸伝のストーリーの面白さを描くことになった。

まずは、日本を舞台としたのが一つ目の選択。

それによって、曲亭馬琴の洒落心が一気に展開することになった。
傾城水滸伝の人名などは遊び放題だ。

足高蜘蛛平(あしだかくもへい)、戸蔭の土九郎(とかげのどくろう)
渋川栗太夫(しぶかわくりだゆう)、早道葉四郎(はやみちはしろう)などなど

しかし、日本に設定を移し替えたことでいくつかの不具合が生じる。

まず、時代設定。
江戸にするのが最も簡単だが徳川幕府の世の中で
表現の自由などあるわけもない。
実在の藩や武将の名前を使うことはもちろんのこと
それを匂わすことさえも首が飛ぶ可能性がある時代。

全くの架空地域を作り上げる選択肢もあっただろうが
それではそもそも舞台を日本に置き換えた意味が全く無くなる。
そこで、馬琴は考えた。

その結論が、平安末期から鎌倉時代。
勇者達を源氏の縁ある者たちとし、
敵を北条(義時)氏とした。
源氏も北条もとっくの昔に滅んだ家。
誰でもが知る歴史物語を下地にすることで
ぐっと話が分かりやすくなった。

この時代設定が馬琴の巧さの二つ目。

そこで馬琴は考えた。
水滸伝の話の筋は、勝負をして負けた者が勝った者の
下に入り、そして大きな群が作られていくのだが、
どうも当時の日本人の感情では割り切れないとこがある。
「潔(いさぎよ)くない」という感情。

で、それを解決し反転する妙案を考えた。
それが主人公達の性別逆転だ。
女性は男性に比べて、
その頃から現実的な考えであったのだろうと思われる。
忠義のために命を投げ出す男の美学を傷つけず、
図太い女の生き方をうまく利用して
日本人にも水滸伝の話の筋を納得できるようにした。

これにより傾城水滸伝は、非常にユニークな小説として
誕生することになった。

まず性別逆転ありき、ではなかったのではないか
というのが翻刻中の現在の私の考えである。

はからずも性別逆転がしっくりする時代が今なのでしょう。

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