経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

税制改革はどうあるべきか

2010年12月17日 | 経済
 今日の一面論説の菅野幹雄さんには悪いが、「消費税がない」という安易な批判で済ませてはいかんと思うね。デフレの中で、消費課税ができないのは当たり前。今の経済状況で何をすべきかという観点で考えないといけない。

 その点で言えば、企業収益が急速に回復し、カネ余り状態の中で、法人減税をするのは下策である。それだけの余裕があるなら、環境投資、省エネ投資に補助金でも出すべきだろう。二次電池などで厳しい競争をしているのに、法人税率の引き下げで薄マキをしてどうするのか。

 他方、景気回復局面では、資産価格の上昇が予想されるのだから、証券優遇税制は、廃止しないまでも、縮小すべきだった。その点、相続税の強化は適当である。将来的には、相続税でも、他の資産所得と同様に、世代間相続においては、最低でも20%の課税を行うべきであろう。巨額の国債の実質的な所有者は高齢者である。相続税は、財政再建の要となるものだ。

 個人所得課税については、景気回復が十分に所得に波及していないのだから、高所得者への増税が中心になるのはやむを得まい。残念なのは、高所得者の配偶者控除の縮小ができなかったことだろう。女性の社会進出に合わせて、「控除」から「給付」へのと変えるのは避けられない流れだ。ここは民主党の数少ない政策理念の一つでもある。これさえ達成すれば、子ども給付をバラマキと批判されなくなったのにと思う。

 さて、苦心惨憺で税制改革大綱はまとまったが、参議院は少数与党であるから、税制改革法案は、一本も通る保障がない。それがこれまでとは、まったく異なる。野党がどのような要求をしてくるかだが、常識的には、増税項目のどれかを落とせと言ってくることになろう。

 それは、財源や予算に直結することになる。野党もなかなか無責任なことは言えない。おそらく、予算の中のバラマキ項目をやめさせるという攻め方になろうが、定着しつつある子ども手当の縮小は、両刃の剣になりかねない。国民的な支持のなさ、弊害の大きさからすれば、高速1000円をやめさせることが現実的な選択かもしれない。これは、グリーン化という将来に備えることになるわけだし。

(今日の日経)
 来年度税制大綱を決定。一院制のため大連立も・小池総務会長。軽油税をトラ協に還流。シャープが液晶1000億円投資。公共事業費5%減、鉄建機構1兆円返納。医療ビザ6か月。高速1000円で財源使い切り1年早く。ECB自己資本50億ユーロ増強。中国・解消しない人手不足。電池の優位維持、支援策カギ。高島屋、秋冬物衣料復調。日米の金利差が拡大。経済教室・欧州統合の精神・田中素香。ペリー・二正面は維持できず。
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していることの認識

2010年12月16日 | 経済
 こういう社説を読まされると、さすがにゲンナリしてくるね。「前門に景気、後門に控える財政リスク」と書いておきながら、日経の主張する政策は、これを強めるものでしかないからだ。日経が自己のために、経済界の利益を代弁することは構わない。しかし、それは日本を害するものだということは、認識した上でやってほしい。言論機関にとって、立場上の悪意は許されても、無知は許されまい。

 まず、経済政策のセオリーからお教えしよう。最も重要なことは、安定的な需要管理である。日本の予算の動きは、10年度当初は10兆円削減、補正で5兆円追加、11年度は5兆円削減と、ジェットコースター状態である。移行措置を伴わないエコカー補助金の廃止は、その反映である。円高すらも、日本の不安定なマクロ政策では、デフレが続くだろうという見通しを背景とするものだ。短観での業況への不安は、稚拙な財政政策で自ら作ったものなのである。

 しかるに、社説で財政規律を守れとは、何を言っているのか。日経は、11年度は需要の足を引っ張るような予算で良いと考えているのだとしたら、「前門の景気」などと気楽なことは言わず、堂々と「経済にデフレ圧力をかけても、財政規律を守るべし」と主張すべきであろう。まさか、認識しないで書いているなんてことは、あるまいね。

 セオリーの第二は、景気回復時には税収が伸びるように、税制を整えておくことである。日本の法人税収は、リーマンショック前と比較して10兆円も落ちこんだ。逆に言えば、景気が順調に回復してくれば、10兆円増収になるということである。実際、企業収益はリーマン前に近づいてきている。だからこそ、財政の急速な改善を見越して、日本の長期金利は低くて済んでいるのである。

 日経は法人減税を強く主張しているが、それは税収に穴を開けることになる。これは日経が社説で批判する、米国のブッシュ減税の延長と、性質上、変わらないものだ。長期金利が不安なら、将来の税収を失わせる政策の主張には抑制的でなければならないだろう。米国の長期金利の上昇から得るべき教訓を取り違えている。

 法人減税の投資促進効果は限定的である。伸ばすとしても、財政で国内にデフレをかけるようでは、海外での投資が中心となり、貴重な投資需要は国外に流出する。今日の日経にある神鋼のインド投資は、それを象徴している。統計的にも、この10年、日本企業が資金を余らせ、海外にばかり投資してきたことは、第一生命研の熊野英生さんが書いた12/13のリポートが明らかにするところだ。

 日本では、していること、言っていることが何を結果するのか分からないで為されていることが多い。法人減税も、財政再建も、それぞれの御立場で、大いに主張するのは良い。問題は、その結果するものを分からないでしているので、議論の結果が高次のものにならず、単に、その時々の発言力のある者の主張が通るだけだということだ。だから、政策は方向が定まらず、揺れてばかりいて、戦略不在に見えるのである。

(今日の日経)
 神鋼、インドに鋼板工場300~400億円投じ。中印1.7兆円商談、米印の2倍。米金融緩和2つの誤算。個人増税来月から続々。国民生活白書に幕。短観、景況感7期ぶり悪化。ベトナムが党内民主化へ。スペイン格下げ検討。米FOMC金融緩和を維持。台湾シンガFTA交渉。薄型TV来年は08年並み。エコカー電池、東芝社内の技術結集。パーク24最高益。イオン10月セール2割増。大機・ユーロにドイツの責任。経済教室・欧州債務再燃・伊藤隆敏。汗水の価値。呼び捨てはスターの証。都の性描写規制成立。

※需要のあるところに投資するのは当然。中国はしたたか。増税の景気への影響も計算せねば。少子化は国民白書が作った言葉。民主化は焦らず弛まず。TVは平年水準が読みにくい。隠れ研究で復活とは不明の経営だ。パークはエコ関連よ。消費は悪くないね。通貨統合とは弱い国の面倒をみるということ。若者には汗水の場がない。
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「空気」で危機に立つ国家

2010年12月15日 | 経済
 ゆとり教育は学力を低下させてしまったが、1980年代後半に臨教審が方針を打ち出した頃から、そうなるだろうと囁かれていた。その頃には、北欧の自由な教育にも批判が出始め、米国は「危機に立つ国家」というリポートを出して基礎学力の重要性を訴えていた。日本は、一周遅れで、諸外国で失敗が表れていた改革を進めることにしたのである。

 日本の企業はカネ余りの状態にあり、日経でさえ、潤沢な手元資金を設備投資に充てないことが課題だとするほどだ。そこに、法人減税によって、更なる資金を積み上げれば、設備投資が増えるというのは、まったく解せない。効果ゼロとは言わないが、不効率であることは明らかだ。設備投資を促進なら、優遇税制や補助金の方が遥かにマシである。

 法人減税によって生み出される資金は、配当や自社株買いに使うことができる。設備投資促進のための制度との最大の違いはそこにあり、それを意図してなければ、法人減税に拘る必要はない。そして、それらを受け取る「富者」に資金を渡したところで、トリクルダウンで経済成長が加速するところか、低下してしまうことは、実証済みである。

 それは、クルーグマンの「格差は作られた」とか、先日紹介したケンブリッジ大のチャン准教授の「世界経済を破綻させる23の嘘」の2章や13章でも見てもらえば良いだろう。また、低い法人税率で金融業を花咲かせたものの、金融破綻の保証で国が借金を背負い込んでしまったアイルランドのことを思い出してもらっても良い。日本人お得意の一周遅れの改革が、また始まってしまったのである。

 来年度予算は、今年度補正後より、5兆円マイナスのデフレ予算になる見通しである。これは雇用を50万人減らす効果がある。そこまでして財政再建を至上のものとしているのに、企業への実質減税は6000億円もある。しかも、いつの間にか、環境税の平年度化規模の2400億円まで企業負担に分類しているから、本当は8400億円と見るべきだろう。

 しかも、法人税5%分は1.5兆円との算定だが、今後景気が回復することを考えれば、財務省が主張する2兆円くらいには膨らむだろう。しめて、企業には1兆3400億円の純減税ということになろうか。子ども手当の上乗せには、見合いの個人所得課税をかき集めているのに、この違いは何だろうか。外国ではしているという「空気」がそうさせるのだろう。

 緊縮財政による「小さい政府」と企業や富者への配分増という、既に失敗だと言われ始めた政策に突っ込んでいく日本。25年前、「これで学力は酷いことになる、日本人は「空気」で政策を決めるからね、次に『危機に立つ国家』とは日本だよ、失敗しても同情もされないな」と、昔、語り合っていた頃を思い出す。 

(今日の日経)
 証券優遇税制2年延長、企業減税6000億円、環境税も財源に。中国賃金2ケタ上昇。社説・無責任な民主党の介護提言。思いやり予算減額に歯止め、5年延長。繰越欠損8割9年。海保の権限強化着手。求職者生活費を世帯主以外にも。年換算の需要不足15兆円。金融円滑化法1年延長へ。台湾ドル13年ぶり高値。米消費者心理の改善鮮明。首都圏マンション昨年通年上回る。米に70型液晶TV投入。経済教室・揺らぐユーロ・有吉章。

※資産課税こそが財政再建の要だがね。成長率からすれば、もっと上がって良いはず。需要不足の記事は小さい扱い。
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ささくれだった国民の心

2010年12月14日 | 経済
 このところ、「迷走」という言葉が政策を巡るキーワードになっている。むろん、現政権を批判してのものだが、果たして、今の日本が置かれている、リーダーシップ発揮が難しい状況を分かって批判しているのかと言えば、そうでないように思う。

 法人減税の財源について、その大半を企業課税の見直しで賄い、純減分は、証券優遇税制の廃止と相続税増税で確保するというのは、それなりのコンセプトである。しかし、これもあっさり崩れて、財源なしで純粋な負担減をするようだ。こうなると、他方で個人所得課税の強化を2900億円もするのだから、企業だけが優遇されるとの恨みが出よう。

 首相は、法人減税で、「投資、雇用を拡大し、給料を増やしてもらう」と発言したが、経済界は、コミットメントを拒否している。それが難しいことは分かるし、景気回復局面であるから、黙っていても設備投資は増えるという読みもあろう。とは言え、恨みを買うと、どういう跳ね返りがあるか分からない。

 景気回復局面では、当然、配当も増える。今の勢いなら、来年は過去最高益に達する企業も多かろう。そうなれば、庶民の犠牲で配当が増えたというような、八つ当たり気味の批判を受けることになる。多少、設備投資を増やし、雇用を拡げたからと言って免罪になると思わない方が良い。

 恨みというのは怖いのだ。純粋負担減にするのではなく、証券優遇税制の廃止くらい、経済界から差し出したらどうか。このままでは、官僚叩きの次は、企業叩きになりかねない。2006年には、過去最高益の下で格差社会への批判が盛り上がった。来年は大卒内定率が過去最低になりそうな中で、批判に耐えられるのであろうか。

 国民の心は、ささくれ立っている。今日の日経を見るが良い。一面特集でも、大機でも、団塊世代や世代間格差への批判は熾烈なものだ。日本の高齢者福祉が手厚いわけでもなく、リッチなのは一部の者に限られるのに、こうなっている。失われた10年の中で、国民は不満の捌け口を探し求め、刺々しくなっているのである。

 政権が「迷走」するのは、リーダーシップのなさもあろう。しかし、政治が調整しようにも、調整を受け入れる側の各界各層のキャパシティも失われてきている。経済界が法人税の純粋負担減をゴリ押しするのは、国際競争への焦りであろうが、疲弊した日本で、自分だけがと利益の奪い合いを繰り広げれは、それがまた、対立を呼んで、国を衰えさせることになる。

(今日の日経)
 法人減税5%決定、個人増税5500億円。東芝が液晶新工場に1000億円。団塊という時限爆弾、次世代ツケ回し断て。防衛予算、ほぼ現状維持。ロシア副首相が国後訪問。寄付促進へ税額控除新設。執行部の展望なき強気。相続税率55%、繰り延べ措置拡大。税財政・行司役不在。地球回覧・米の教育成果主義。ベトナム次期国家主席にサン氏。独、徴兵制廃止。カタールLNGシェア3割に。中国、利上げ時機巡り神経戦。カネカが有期EL照明。電池材料は日本に強み。純利益6割業種で危機前上回る。三菱電機の設備投資が3年ぶり減価償却を逆転。日本は今も通商国家か。大機・真の弱者と真の格差。経済教室・通貨の量・本多佑三。

※大型の設備投資が出てきたね。戦略が変わっても予算は同じ。税の侵食は政府不信の証。政局も外交も同じ動き。相続税強化には賛成でも半分を超えるとね。米国らしい。徴兵はハイテクに合わず。増益の勢いは強い。ようやく投資が正常化。内需国家であることを忘れたから苦境に。また誤れる格差論か、やれやれ。
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優秀なエコノミストと日本

2010年12月13日 | 経済(主なもの)
 先日のコラムで、経済学は政治思想としての側面が強いという話をした。理論経済学のような高級な世界に住んでいる人達には、小さい政府を裏付けるために仕事をしているような傾向があるように思えるのだが、労働経済学や開発経済学のような這い回る仕事をしていると、さすがに、そうは言っていられなくなる。「世界を破綻させる23の嘘」を書いたケンブリッジ大のハジュン・チャン先生も、そんな一人だろうと推察する。

 チャン先生は、その最終章で、「経済を成功させるのに、優秀なエコノミストなど必要ない」として、日本や韓国などの「東アジアの奇跡」の例を挙げる。それはそのとおりなのだが、だからと言って、なぜ、奇跡が起こったかは謎のままである。ネーミングの基となった世界銀行のリポートを読んでも、数多くの要因が列挙されているのみだ。

 結局のところ、我々は何も分かってはいないのである。少なくとも、「自由にすれば、上手く行く」というのが「嘘」だということを分かっているに過ぎない。政策的には、需要管理のように、現実に上手く行っている政策を、経済理論の観点で間違っていると否定するような傲慢なことをしてはいけないという程度のことである。

 本コラムでは、それだけでは面白くないので、人間には人生という時間的制約があって、期待値に従った行動ができず、そのために、リスクがあると機会利益を捨ててしまったり、チャンスがあると過剰に投機をしたりといった、わずかに不合理な行動をとってしまうのであり、それが相互作用によって増幅され、恐慌やバブルといったマクロ的現象が起こると説明している。

 そして、不合理な行動を是正するために、不況期には需要を与え、好況期には需要を抜くことで調整し、景気変動を緩和して社会厚生を高めようというのが、本コラムの「どうすれば経済学」である。その調整には、公共事業ではなく、社会保険を用いる点も特徴だ。これは、人的な投資と貯蓄が、長い人生において必要に応じて得られるよう配分するためでもある。

 「東アジアの奇跡」については、敗戦後の日本が、絶対的な食糧と燃料の不足に迫られ、外貨獲得のために輸出重視の経済政策を採り、輸出需要で起動する成長、すなわち、輸出増→設備投資増→所得増→消費増→更なる設備投資増、という循環で成功を収めたことから始まる。この過程で、高成長に必要な高投資・高貯蓄という経済構造の改革に成功した。むろん、日本に続く、東アジアの新興国は、共通して輸出重視である。

 本当は、「東アジアの奇跡」には続編がある。日本は、高投資・高貯蓄の経済構造を得た後、社会保障を整備し、所得再分配を行うことで、中度成長にも成功した。それは、都会で吸い上げた年金保険料の積立金を使い、地方で実施する公共事業の国債を引き受けるという、やや歪な形ではあったが。

 そして、現在は、経験経済学を捨て、理論経済学に基き、「財政再建をすれば、すべて上手く行く」と信じ、せっかく輸出によって需要が生まれても、国内需要を吸い上げてしまい、企業を需要リスクで慄かせて、世界で唯一のデフレ経済を作り上げた。反面教師ではあるが、今も日本は世界の経済運営のお手本であり続けている。日本は、いつの間にか、「優秀なエコノミスト」が支配する国になった。まさに、チャン先生が言うように、「経済を成功させるのに、優秀なエコノミストなど必要ない」のである。

(今日の日経)
 新聞休刊日
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中国の止まらぬインフレ

2010年12月12日 | 経済
 日本はデフレだというのに、お隣ではインフレに悩んでいるわけで、分けてあげたいくらいだ。両者の悩む方向は違っているが、国民生活を豊かにする内需を犠牲にする政策を採ったため、不調になっているという点では、実は同じである。

 中国の消費者物価上昇率の5.1%という水準は、それほど高いとは言えない。高成長を遂げれば、この程度の成長痛はいたしかたないものだ。また、食品の値上がりが大きく、非食品は1.9%に止まっている。問題は、6.1%に加速した卸売物価上昇率の中身である。原因は、原材料、燃料の高い上昇圧力による。

 これは明らかに、元を人為的に安くしているために、原材料や燃料の国際価格の上昇を防ぎ切れずに生じている。やはり、元高を容認して、物価を冷やさなければならない。それも、急速な元高を必要とする。それによって、元の先高観を一掃し、外資の流入を止めなければならない。

 むろん、輸出企業は打撃を受け、企業収益が減って、増産投資はストップすることになるだろう。しかし、物価安定には、これこそが必要である。人手不足傾向にあるので、相対的に賃金への影響は少なく、他方、物価安定によって購買力が保たれるため、消費を主体とする成長に変化していくことになる。

 不動産価格の高騰については、元安のままでは、マネーが国外からどんどん流入するため、預金準備の引き上げや小幅の利上げでは効果が上がらない。むしろ、金利高や元の先高観から流入を促してしまう。最後は、金融の急ブレーキを踏んで止めるしかなくなり、バブルを膨張させたあげく、潰すことになりかねない。経済政策の要諦は、インフレには、早く、強く対応することである。

 中国は輸出と設備投資によって高成長を達成してきたが、これは米国の消費拡大という幸運によるものだった。既に幸運が失われているのに、これにすがろうとすると、傷を深めることになる。最高の時機は過ぎたと、すっぱりあきらめ、次の内需主導の経済作りに勤しまねばならない。中国は成功体験に引きずられ、罠に嵌りつつあるように思う。

 日本の場合、財政再建を優先し、内需を吸い上げたことでデフレに陥ってしまった。中国は、輸出企業の成長を優先し、元安を保ったために内需が育たず、歪な経済構造となってしまった。経済運営は、国民の豊かさが目標であることを忘れると、あとでツケを払わされるのである。
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自民党の取るべき戦略

2010年12月12日 | 経済
 今日の坂本英二さんの「風見鶏」は、おもしろかった。菅政権は、消費税、TPPという国家的な重要テーマを取り上げていながら行き詰まり、大連立の救国内閣で政策実現を目指す動きになっているとする。

 とは言え、消費税とTPPは、あまりに難し過ぎて、大連立になったとしても、容易に合意ができるとは思えない。それでは、何を名分として、大連立をすべきなのか、筆者は、議員定数の是正だと考える。それを成したら、解散総選挙である。

 参議院の一票の格差については、高裁段階で違憲判決が出されており、その是正は喫緊の課題となっている。しかも、従来の定数配分の考え方では是正に限界があり、選挙区制度そのものの変更が必要な状況にある。民主党は、既に案を公表しており、全定数を11ブロックに割り振る比例代表方式が有力のようだ。

 そうなると、衆議院の比例代表部分と選出方法がダブルことになる。衆議院も定数是正が求められているから、比例代表部分をなくして、その分を都市部の小選挙区に割り振ることが必要になるだろう。

 この結果、衆議院は3分の2が取りやすい構造となり、参議院は過半数が取りにくい構造となる。衆院は決断の府、参院は再考の府の役割を果たすことになり、政権のリーダーシップの発揮とそれに対するチェックというバランスが働く形となるだろう。 

 その際、衆参同時選挙が行われる場合には、衆参で重複立候補を許すこととし、衆院の小選挙区で落ちた候補者を、参院の比例で救うようにすれば、憲法改正なしに、事実上の一院化も実現することができる。

 さて、こうして政治的ゲームのルールを整えた上で、国民の審判を仰げばよい。衆参の定数是正によって、一票の格差が解消されれば、日本の多数派である大都市圏の意見が強まるから、日米同盟強化、TPP参加、消費税増税といった基本的政策は、二大政党とも同じになり、どのようなアプローチで臨むかを競うことになる。

 野党・自民党は、仮に政権を倒して、解散総選挙に追い込んだとしても、民主党と同様にねじれた参議院に直面し、同じ苦しみを味わうだけである。戦略としては、衆院で3分の2を取れるよう選挙のルールを整えることが最重要である。予算を人質に、それだけを民主党に呑ませることは、可能なことのように思われる。

(今日の日経)
 冬ボーナス2.35%プラス、昨年は-15%。ポスト京都先送り、脚注を付記。中国消費者物価5.1%上昇、原材料高で卸売6.1%、追加利上げ時機焦点。日本アラブフォーラム。風見鶏・思いつき政治の臨界点・坂本英二。相続税基礎控除4割圧縮。中外・幼保一元化はまた幻か。止まらぬ食料高騰。読書・合衆国は壮大な象徴と信念の体系・森本あんり、GS躍進は歴史的偶然・祝迫得夫、荒廃する世界のなかで、1492コロンブス、医療改革と経済成長。革命とナショナリズム。

※企業収益の回復ぶりは著しいがね。ASEANの次はアラブだよ。子ども園をおいしい制度にすれば可能なこと、要はカネの問題。こうなると日本農業も競争できる。森本さん、良いフレーズです。歴史的偶然は忘れがちだ。今日は中国も書こうかな。
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ためにする議論の人達

2010年12月11日 | 経済(主なもの)
 力があれば、成長する。当たり前のことで、無意味な言及の一例だ。ところが、「成長力があれば、成長する」と唱えると、何やら立派なことを言っているように聞こえる。この「○○力」という言葉は、ここ5年ほどの新語で、古い人間には、とても違和感がある。今の日本のリーダーには、こうした無意味な言及が好きな人が多いように思う。

 白川日銀総裁がおっしゃるには、「成長力がつけば、成長し、デフレから脱せる」ということらしく、その「力」とは、労働人口を増やすことのようである。成長の源泉を、労働人口や労働生産性に求めるのは、別段、変わった考え方ではない。だが、これは、事後的に相関が計測されるだけのことで、因果関係にはない。

 そもそも、現在の経済学には、成長に至る因果関係について確立した考え方がなく、ここがフロンティアになっている。成長に関する分析は多いが、相関関係に止まっており、何をしたから成長したかは、謎のままである。理論的にも、成長に関する様々な要素は、同時決定されると考えるのみだ。

 したがって、どのような因果関係をイメージしているかが、そのエコノミストの経済観を物語ることになる。ここは、歴史的な知識と経験がモノを言う世界だ。そこからすれば、雇用統計は明らかに成長の遅行指標であるのだから、労働人口を成長の原因にするには無理があると言わざるを得ない。

 おそらく、こんな基本的な知識を日銀総裁が知らないわけがないから、あくまで、「ためにする議論」であって、労働人口について政策的責任を持っている人に、デフレの責任を負わせようというだけのことなのだろう。その点で、経済を知らない人を惑わすだけで、問題解決に向けては、まったく生産性のない言説である。

 それでは、どうすれば良いのか。知識と経験からすれば、まず、輸出などの外挿的な需要があって、それに設備投資が反応し、これによる雇用と所得の増加から消費拡大へとつながり、更なる設備投資へと循環する。これで成長が得られるわけであり、成長の過程で物価も上昇していく。投資から消費という因果関係は、景気回復期にGDPの消費率が低下することで実証することも可能だ。

 そのため、経済政策の基本は、不況においては、金利を引き下げ、これによる通貨安から輸出を増加させるとともに、低金利で住宅投資を刺激することになる。これらの需要が設備投資を引き出すのである。加えて、財政支出の増加で需要を追加する方法も当然考えられよう。これらを組み合わせて、通常の経済政策はなされる。

 こうした経済観からすれば、今の日本経済が不調にある原因は明白である。金利は既にゼロに近いために、円安に導くこともできなければ、住宅投資を刺激することも難しい。おまけに、財政再建で需要を抜きまくっている。設備投資を引き出す国内需要がないから、今日の日経にあるように、企業はカネを溜め込むばかりであり、労働人口を増加させるどころか、採用を絞って、大卒新人の半分を路頭に迷わせようという勢いだ。

 どうして、このようなことになるのか。金融政策が効かないときには、財政需要で設備投資を引き出せば良いということになるが、成長よりも財政再建を至上のものと考える人達が、財政出動無効論や「増税すれば安心感から消費が増える」といった「ためにする議論」を展開し、煙に巻いてしまうのである。日銀総裁の「ためにする議論」は、それへの対抗戦略なのだ。

 しかも、始末が悪いことに、需要が因果を媒介する現実は、経済学の基礎である「利益を最大化する行動原理」に矛盾してしまう。需要によってマクロ経済をコントロールするケインズ経済学について、これを批判する際に言われる「ミクロ的基礎がない」というのは、このことを指している。

 現実は需要で動いているのだから、理論を修正すれば良さそうなものであるが、それをすると、財政再建や「小さな政府」といった政治的主張の根拠が失われてしまうため、なかなか、そうも行かないようだ。経済学は、科学としてより、政治思想としての側面が強いのである。

 ミクロ的基礎については、需要管理による穏健な経済政策を唱えるだけで、難癖をつけてくる輩が居てうるさいので、「どうすれば経済学」という形で基礎づけておいた。まあ、理論に拘泥するより、現実を素直に眺め、事実から理論を作るという普通の科学的手法に立ち返ってほしいと思うのだがね。

 さて、そういうことで、日本では、「ためにする議論」ばかりが飛び交い、現実的な方策は、放置されている有り様だ。それでも、「ためにする議論」と自覚してやっているうちは良いが、次第に、その理屈が本心や真理のように凝り固まり、狂信の域に入ってしまうこともある。デフレ下で緊縮財政に奔走する政治家、それを疑問にも思わないマスコミ、理論では金融で解決できると叫ぶ学者などを見ていると、そう思えてくる。

 白川さんは、「根本的な要因は需要の低迷だが…」と、ちょっと触れた後で、長々と無意味な成長力の話をしている。日銀が需要不足を指摘して財政当局を批判するわけにはいかないのだろう。何かと批判される日銀だが、少なくとも、彼は、「ためにする議論」と本心を取り違えることにはなっていないようである。

(今日の日経)
 日銀総裁、成長力底上げを、米経済楽観せず。日経電子版10万人。社会保障財源、税改革で。配偶者控除縮小見送りへ。ノーベル賞、異例の授賞式。円高での輸出数量減少率2倍に。現役世代の給付拡充。生保、人口減で新規増えず。米貿易赤字13.2%減少。韓国成長率、来年4.5%に減速。中国不動産3か月連続上昇。コンビニ既存店11月プラス。ディズニー人気で強気。企業のカネ余り一段と。ミニストがベトナムに。

※底上げも流行語だ。社会保障はそこまでは誰でも言える。ドル安は効果あり。当然、韓国もそうなる。中国はまだ過熱中。また一つ消費の良いデータ。サービス強気は景気回復の兆し。法人減税でこのカネが増えないだろうね。おでんは出すのかな。
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政策とは枠組み作り

2010年12月08日 | 経済
 悪くない枠組みだ。法人減税財源の確保策は、ある意味、ごまかしなのだが、証券優遇税制の廃止と相続税増税分を、企業負担軽減として位置づけることにしたようだ。こういう思考の枠組みを強引にでも作ることが政策調整のカギになる。財務省もさすがですな。

 経済界にしてみれば、見合いの増税なしの純粋な減税を期待していたであろうし、証券優遇税制廃止、相続税増税は、広い意味での資本への課税であるから、負担軽減という気がしないかもしれない。それでも、一般国民からは、軽減されているように見える。ここがミソというわけだ。

 今回の税制改正では、配偶者控除縮小などの一般国民向けの増税も予定されている。企業に純粋減税をしておいて、子ども給付上乗せの見合いとはいえ、こちらで増税するのでは、「国民を犠牲にして企業を助けた」という批判を受ける。法人減税には、「資本家の負担増で賄ってます」という説明がいる。

 筆者は、証券優遇税制廃止と相続税増税には賛成である。これを措置しておくことは、今後、成長が高まり、資産価格が上昇すれば、大幅な税収増が期待できるからだ。対外的な説明の4000億円よりも遥かに大きくなると見込むからこそ、財務省も出してきたということであろう。彼らは損なことはしないからね。

 あとは、法人税を5%下げられるかどうかは、経済界が欠損金控除や研究開発控除などで、どのくらい譲れるかということになる。もし、それで5%に届かなくても、「経済界の責任です」と言えるわけだから、最低限の約束は果たしたと言える。

 日経によれば、既に経産省は7000億円分は用意しているようなので、5%到達は、欠損金控除の縮小分を更に用意できるが論点だ。これについては、鈴木淑夫先生がHPで「5割制限、期間14年」の案を示されているので、十分可能性があるということだろう。

 筆者も欠損金控除の縮小を減税財源にするのは適当だと考える。法人減税は設備投資の促進には大して効果がないから、研究開発控除の縮小を見合いにするのでは、逆効果になりかねない。他方、欠損金控除の縮小で負担増になるのは、設備投資とは関連の薄い金融保険業などが対象になるからだ。

 法人減税を巡る攻防は、なかなか興味深い。これで引き下げが成って、設備投資が大して増えなければ、減税の大義名分が失われるし、減税見合いの負担増の犠牲が大きいと、経済界も結束が保てなくなる。法人減税の論議には、これで終止符を打ちたいという財務省の意図が透けて見える。

(今日の日経)
 首相が法人課税5%下げ指示。日本がトルコと原発交渉。三大都市圏の議員定数171、その他275。日本PISAで改善も下位層多く。社民シフトを米が懸念。あかつき非常時モード。京都延長論勢い増す。振興銀仮払い25%。JBICを分離・独立。環境税導入なら電気代34円上昇、ガソリン0.79円/ℓ。アフガンから英軍が来年撤収。米高官ミャンマー訪問。ノーベル平和賞19カ国欠席。NY原油一時90ドル。AR年賀状。家電OS刷新。西陣織異業種と再生。企業業績見通し修正・野村。経済教室・外交安保・添谷芳秀。

※トルコとは戦略的に付き合いたい。定数の問題は大きいね。ゆとりで量が減れば格差はできる。環境税負担の数字は大事。中国も影響力あるね。企業収益はあまり減ってない。外交安保は3連続のようだから明日としよう。

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迷走とは戦略のなさ

2010年12月07日 | 経済
 師走なのでね。予算編成関連の記事が増え、その中で政治のありようが見えてくるものなのだが、やはり「迷走」という表現になるのかな。民主党政権は、外交・安保で戦略性のなさが責められているが、それは経済でもまったく変わらない。

 子ども手当は民主党の看板施策である。バラマキと批判されようと、大規模な少子化対策の制度を導入したという点では、的がズレているとは言え、一応の評価はできる。だが、それも、来年、乳幼児への7000円上乗せに失敗すれば、評価は無に帰すことになる。それどころか、逆に少子化を加速したという評価になってしまう。

 少子化克服の鍵は、乳幼児期への支援である。だからこそ、従前の児童手当は、ここに手厚かったのである。子ども手当は、これにわずか3000円プラスしただけだったが、それでもプラスではあった。もし、来年、7000円の上乗せができなければ、児童扶養控除廃止の関係で、支援策は従前よりマイナスになってしまう。

 おそらく、最後は、配偶者控除縮小で財源を捻出し、上乗せを実現することになるのだろうが、その迷走ぶりは、社会政策に対する戦略がないことをあらわにし、信頼感を失わせている。しかも、1年ずつの時限立法では、いつなくなるかと思うと、安心して子どもを産めなくなるではないか。

 配偶者控除縮小の手法も稚拙であり、成長による所得増を見通して、その範囲内で、高所得層から順次していけば良いだけのことだ。そうすれば、バラマキの批判とも折り合う方法を提示することができる。単年度で財源をやり繰りすることしか考えないから、迷走するのである。

 法人税については、財源は証券優遇税制の廃止、損金算入の制限などの財源を充てれば十分であろう。それで1%しか下げられないとしても良いではないか。あとは、設備投資への効果を見極め、更なる引下げを考えればよい。法人減税が配当増加という形で漏れてしまうようなら、失敗ということになる。また、次善の策としては、環境税や高速料金引下げの廃止を財源にすることが考えられよう。

 いずれにせよ、税の問題も、経済成長の中で溶け込むように設計していかなければならないものだ。そもそも、歳出71兆円枠や国債44兆円枠は、前年度よりも緊縮予算になるということであり、経済にデフレ圧力を与えるものである。基礎になる戦略が間違っていては、戦術レベルの政策すべてが迷走するのも当然だ。民主党が政権交代で実現したことが、デフレ下での緊縮財政だけだったということにしてはなるまい。

(今日の日経)
 電気自動車向け投資拡大。基礎年金国庫負担1/2維持。武器輸出は見送りの公算。子ども手当財源で迷走。高速料金実質上げへ。新米10月15%安。BRICs大型増資・上場相次ぐ。ウイグル族の監視強化。中国利上げ年4回。米豪FTAでは関税猶予。TPP規制の統合緩やかに。薄型テレビ価格下落。レアアース来春輸入。1000円ティッシュ予想超え。ヘルスケアM&Aでも成果少なく。テレビCMに新顔。高島屋1%増、パルコ2ケタ伸び。棒鋼11月受注が急増。綿布、国内価格が急騰。経済教室・外交安保・北岡伸一。

※このあたりは予想どおり。TPPも少しずつ見えてきた。高級品が売れ出すのは回復の印。12月の百貨店もまずまず。住宅投資が浸透だ。中国はインフレが輸出減にも。外交安保は明日書くか。
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