経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の心

緊縮20年が作った新・日本の階級社会

2018年02月11日 | 社会保障
 1997年の大規模な緊縮財政で、日本はデフレに転落し、景気が上向くと緊縮で芽を摘む繰り返しで20年が経過した。就職氷河期となり、ワーキンクプアのまま取り残され、結婚ができなかったり、子供の貧困を起こしたりして、アンダークラスは再生産されるように至り、格差社会は、階級社会へと固着する。かつての成長最優先の所得倍増路線が平等化を進めたのに対し、今の財政再建至上の緊縮が階級を形成した。実はシンプルな話でしかない。

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 橋本健二先生の『新・日本の階級社会』は、アンダークラスという名の非正規にしか就けない新たな最下層階級が日本に形成された実態を記すものだ。アンダークラスは、929万人で就業人口の15%ほど、平均個人年収は186万円と極端に低く、貧困率は38.7%、女性では48.5%にも上る。男性の有配偶者はわずか25.7%、女性の離死別者は50歳代には80.0%にもなる。むろん、生活や仕事への満足度は押しなべて低い。身長体重でも劣り、抑うつ傾向は20.0%と突出し、頼りにする人も少なく、団体への参加も乏しい。

 こうした悲惨な実態については、一般の方には衝撃的だと思う。ただ、筆者は、子供の貧困に関わったりしたので、驚きはなかった。むしろ、意外だったのは、自己責任論がアンダークラスにまで浸透しているという指摘だった。平等化も階級化もマクロ政策次第なのに、個人の努力不足と信じているのでは、政策を変えようがない。壮大なイス取りゲームに勝つことが課題なのではなく、必要なだけイスを増やすことが求められる。少ないイスを「時代の流れ」とするような分かったふうな見方こそ、最大の敵だ。

 例えば、育児休業給付は、出産した女性の3割程しかもらっていない。継続雇用が条件で、非正規やパートには無縁だからだ。これを自己責任には帰せまい。もし、条件を緩めて全員に給付するなら、現状の給付総額は4100億円なので、あと9600億円いるが、2017年度の補正後の歳出は前年度比-1.1兆円であり、減らさずに前年度並みにしていれば、実現できたことだ。少子化は「国難」とされているようだが、それよりも財政再建が優先され、格差や再分配は更に順位が低いのである。

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 政策を変えるには、多数派を形成しなければならない。橋本先生の分析では、管理職等の新中間階級、正規労働者、アンダークラスでは、格差拡大と貧困増大の事実認識では一致しているが、所得再分配政策を支持する人は必ずしも多くなく、前二者は、むしろ冷淡だとする。そして、格差社会克服の担い手として、アンダークラスの他、所得再分配を支持する傾向が強く、自己責任論に縛られない、パート主婦、専業主婦、旧中間階級を挙げ、新中間階級や正規労働者の「リベラル派」を重要な主体と位置づける。

 ここで重要なのは、結集に要する政策となろう。他の階級からアンダークラスへ分配するだけの「多数が損する政策」では広い賛同が得られない。その点、社会保険料の軽減は、非常に都合がよい。これは、年収が130万円を超えたら、いきなり18.3%の年金保険料がかかる理不尽を解消し、年収に応じて徐々に高めるよう変えるものだ。パートと正社員の壁を取り払うことで、アンダークラスと主婦層が救われるだけでなく、雇用負担の軽減が自営や中小企業のメリットにもなる。

 2017年度は2.7兆円の補正予算が組まれたが、その都度のバラマキをやめ、軽減の財源に充てれば、十分可能なものである。長期的な男性就業率は、1997年頃からは一段低く、まだ上げる余地がある。保険料の軽減によって労働供給が促進されれば、一層の成長が望めよう。加えて、出生率の向上にも結びつくので、保険料を軽減しても年金が増えることすらあり得る。少なくとも、働きたくても働けない不合理は正されるので、社会的な効率性は高まる。つまりは、すべての階級にとってメリットのある改革になるのだ。

(図)



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 自己責任論の背景には、「努力すれば、収入が得られるはず」という暗黙の前提がある。ミクロ的には正しいが、緊縮財政をかまされ、マクロの所得を減らされたら、どんなに営業マンを鍛え上げようと、全員の成績をプラスにはできない。パイを増やすことなくして、自己責任論は成り立たないのであって、名目GDPがほとんど増えなかった20年間においては、過酷な主張でしかなかった。

 日本は世界一の債権国であり、財政赤字は部門間の不均衡の問題に過ぎない。資金過不足の観点での理にかなった解消方法は、家計や消費への重課ではなく、企業や資産への課税になる。むろん、それは、政治的、思想的に極めて難しい。さすれば、次善の策は、財政赤字の管理となる。金本位制から管理通貨制度に移行したように、緊縮財政一本槍ではない「管理債務制度」の構築が求められる。

 実際、日銀が大量の国債を保有して「塩漬け」にする実態が進んでいる。これを支えるよう、利子課税の強化や、物価上昇に応じた機動的な消費増税の実施など、財政債務の体系的管理の制度を整え、巨額の債務と共存することが必要だ。不安に負けて緊縮を焦れば、強引に金本位制に戻ろうとして、デフレで政党政治を失墜させた浜口内閣の二の舞になる。目指すべきは「努力できる国」なのである。


(今日までの日経)
 投資マネー逆回転、米に続き日中急落。黒田日銀総裁続投へ。街角景気に寒波直撃。育児休業1年以上の取得「希望」68%「実現した」51%・都調べ。
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2 コメント

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Unknown (ちかみち)
2018-02-11 12:07:05
既にプライマリーバランス健全化の見通しはたっており、より大きな不安定要因足りうる金利上昇へのリスクヘッジとして、利子課税にコメントされるのは理解できます。
消費税と緊縮財政が実態経済にたいしてネガティブな効果が有ることは既に明らかと考えますが、利子課税の影響はどのように考えますか?

あまり個人では影響が予想できないのですが、債券市場の一時的混乱リスクというレベルなのか、実態経済への影響まで考慮するレベルなのでしょうか?
もちろん税率にもよるのでしょうけど。
Unknown (Unknown)
2018-02-12 08:09:56
誰かが変えると思っていますか?
上の連中に特ばかりなのに上の人や国は変えませんよ

この人のように下の人であれ考えていきましょうよ

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