経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

新首相に捧げる経済運営

2011年08月30日 | 経済
 日本の財政当局の政治力の凄さには恐れ入った。2年前、政権を奪取した民主党で、閣僚にもなれなかった男が、財務省の副大臣を振り出しに、宰相の座を射止めるに至るとは、誰も予想できなかったことだろう。

 野田財務相は、前原氏の出馬で、一時は当選圏外とも言われたが、新手の円高対策を取りまとめて実行力を見せつける一方、「偶然」にも、前原氏には、国税庁から脱税を摘発された企業からの献金疑惑が持ち上がり、党首選の決選投票への切符を手中にした。

 さて、そんな新首相が始めるのは、デフレ下の緊縮財政である。これまで打ち出されてきた財政当局の方針に従えば、必ずそうなる。今年度予算は、当初は政策的経費が71兆円であったが、震災対応の補正予算によって、政策的経費69.5兆円+復興費6兆円に組み替えられ、75.5兆円になっている。

 これに対し、来年度予算の概算要求基準は、政策的経費が相変わらずの71兆円なのだから、4.5兆円の歳出削減をすると宣言しているようなものだが、補正予算を勘案した前年度との比較を、財政当局がまったく説明してくれないために、世間は、そして、おそらく野田新総理も、何も分からないまま、進めていくのであろう。

 財政当局が金科玉条のごとく主張する「公債発行44兆円枠」も、今年度一次補正で、年金国庫負担の2.5兆円分に充てられる「埋蔵金」の付け替えを行って復興費を用意したために、事実上、46.5兆円に拡大している。付け替えを行えば、年金は積立金を取り崩し、保有の国債を手放さねばならないから、経済的には国債増発と変わらない。

 こうした操作を行っているために、予算書を見ても、せいぜい補正後に、歳出が71兆円から73兆円に膨らんだようにしか分からないようになっている。本当は、税収以外の歳入の枠組みを設定するのであれば、「公債発行44兆円+当初埋蔵金7兆円+年金取崩し2.5兆円」を基準にしなければならない。借金も、資産減らしも、経済的な影響は同じだからだ。

 財政当局の手口は、埋蔵金以下の部分を見えなくすることによって、歳出削減圧力をかけ、どうにも削れないとなれば、昨年度の鉄建機構剰余金のように、「こんなものが見つかりました」と言って出してくる。おそらく、来年度は、年金国庫負担2.5兆円について、2013年度の消費税増税を前提に、「つなぎ国債」で賄うといった「発見」をしてくれることだろう。

 また、財政当局は、税収増隠しもしている。来年度が2.2%成長でも、2.5兆円くらいは見込めるはずだ。その上、年少扶養控除廃止で0.4兆円の増税になること、子ども手当の削減で0.5兆円の負担増になること、毎年の厚生年金保険料アップで0.5兆円の負担増になることも忘れてはいけない。復興増税なんかしなくても、4兆円の負担増にはなる。

 あとは、来年度の復興費がどのくらいになるかである。今年度の6兆円に、4兆円の負担増分を加えた10兆円くらい用意しないと、緊縮財政になってしまう。これは、今年度の三次補正で10兆円を用意し、来年度は復興費をゼロとして、公共事業費などの従来の枠組みの中で実施することにしても、同じ話になる。

 こうしてみると、今後の日本経済は、復興増税を行えば、その分だけ財政デフレがかかる計算である。それがどのくらいで決着するかがポイントだ。加えて、巨額に積まれた復興費がどれだけ執行されるかによっても、景気は左右される。おそらく、足取り重く、回復して行くといったところだろうか。これでも、10兆円の財政デフレをかけ、年度後半にマイナス成長に突き落とした2010年度の財政運営よりはマシになるはずだ。

 野田新総理は、財政当局の力によって、その座を得た。財政当局の言うとおりにしていれば、政権を維持していくのは可能だろう。難しい与野党協議も裏でいろいろとやってくれるはずだ。しかし、デフレに苦しむ国民は救われない。20年間、毎日、辻立ちをして、国民に訴えたかったこととは、これだったのかね。

(今日の日経)
 野田首相きょう選出、復興財源、自公と協議。電力制限令を9日解除。社説・復興増税で指導力示せ。円高対策・成長戦略が急務・経済界が注文。復興資金需要伸びず。需要不足20兆円・内閣府。非正社員の不本意が増加・厚労省調査。対中姿勢に揺らぎ・比・越。掃除機の車輪が球体に。経済教室・正社員の入り口・川口大司。

※日経は財政収支の実態が分かっていない。復興増税分だけ財政デフレになるとは知らないのだろう。経済界も同じだ。円高も低成長もデフレでは変えようがない。

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