経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

輸出モデルから再分配モデル

2011年10月24日 | 経済
 薄氷を踏む思いというのは、欧州経済のようなものを言うんだろうね。どこかの金融機関の破綻から、いつ金融不安が起こっても不思議でない状態だ。それが些細な政治的躊躇から勃発することは、1997年の日本や2008年の米国の例でも明らかである。これを免れたとしても、金融収縮と緊縮財政によって、成長が減速することは避けられまい。

 問題は、欧州の市場に頼っている国々である。中国は、輸出の減速がはっきり出ており、来年にかけて、成長率の8%割れさえ予想されている。とは言え、新興国の経済は「若く」、大きく落ち込むことはあるまいというのが、一般的な見立てである。今日の日経の「核心」で、クルーグマンの言を引く形で、土谷さんも、そう述べている。

 果たして、そうなのか。日本経済が若かった高度成長期には、金融政策は、よく効くと言われた。金融を緩和さえすれば、設備投資が戻り、成長は再開するものだと。しかし、例外もあった。昭和40年不況と呼ばれるもので、金融緩和に転じたのに、すぐには設備投資が戻らなかったのである。

 その要因は二つあった。財政赤字に驚いて緊縮財政を取ったことと、輸出環境が悪かったことである。結局、この不況は、戦後初の赤字国債の発行による財政の転換と輸出の好転で脱することができたのだが、ポイントは、経済が若くても、金融緩和だけではダメで、呼び水となる追加的な需要が欠かせないということである。

 筆者は、日本の高度成長期に金融緩和が効いたのは、世界貿易が伸びていて、輸出を伸ばそうと思えば可能だった環境にあったことが大きいと考えている。たまたま、それが欠けていた昭和40年は不調に陥ったわけだ。設備投資を引き出すのに、目の前の需要が鍵だとする「どうすれば経済学」の見方は、こんなところでも活きてくる。

 今の中国で、いったん設備投資が減速してしまうとどうなるか。筆者は、大きく落ち込むだけでなく、復活も難しいと考える。なぜなら、設備投資を引き出すための外需も期待できないし、金利感応性が高い住宅はバブル状態にあり、公共事業も伸びきっているからである。つまり、物価が低下して金融緩和が可能になっても、「呼び水」がない。

 同様の事情は、インドやブラジルなど他の新興国でも、大なり小なり言えることだ。こうしてみると、欧州から始まる不況は、世界経済を予想以上に深刻なものにしてしまう可能性がある。そもそも、この2000年代の好調ぶりは、欧米の過剰な消費が外需となり、新興国が輸出を起点に高成長の波に乗ったものであることを忘れてはならないだろう。

 この10年に多くの新興国が離陸を果たしたが、その内実は様々である。本当の離陸は、輸出増→ 設備投資→ 所得増→ 消費増となって、自律的な成長を実現することである。その際、消費増を犠牲にすれば、一層の高成長は果たせるものの、外需に頼るという危険性を孕むことになる。その点で、中国や韓国は危うい存在と言える。

 外需に頼れなくなったときに、所得再分配の手法で浮上を図れるかどうか。今日の日経でスティグリッツが言っているような格差是正が、成長にまで結びつくかは、正直に言って分からない。「どうすれば経済学」の理論上も正しいとは思えても、所得再分配の具体策によって、どの程度の追加的需要に結びつくは異なるからだ。

 今日の経済教室は、東大の白波瀬佐和子先生だったが、要すれば、中間層の現役世代への再分配が薄く、雇用の悪化によって、その問題が顕在化してきたということだろう。処方箋としては、高齢層への再分配の削減より、成長によるパイの拡大を強調している。そうなると、政策的には、かなり高度なテクニックが必要になる。まあ、基本内容の「雪白の翼」でも参考にしてほしい。

 「欧米がダメでも、新興国があるさ」と安易に考えていると、思わぬ事態となろう。日本には、無意識に新興国に頼る気持ちがあるのではないか。新興国もダメなことが分かってから、慌てて内需創出の再分配を考えるという展開だろうか。財政再建一辺倒で、内需を管理するという考え方さえ持たない国に、再分配の在り方を説いても、ほど遠いところではあるが。

(今日の日経)
 大卒内定4年ぶり回復、製造業けん引。厚生年金保険料の上限上げ。社説・若者のため年金受給者も応分の痛みを。EU、市場にらみ綱渡り。年金改革は高所得者頼み、揺らぐ「負担に応じた給付」。世界の忍び寄る高齢化。核心・30年代とどこが違うのか・土谷英夫。スティグリッツ・政策の偏りデモ招く。中国の対東南アジア貿易額が日本抜く。経済教室・縮む中間層・白波瀬佐和子。英語で授業の拡大難しく。

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