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経済政策と社会保障を考えるコラム


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厚生年金決算・税と保険料の二重の緊縮

2018年08月19日 | 社会保障
 アベノミクスの5年間の2012年度から2017年度にかけて、国・地方の基礎的財政収支は12兆円も改善して、赤字のGDP比は2%台となり、加えて、厚生年金の基礎的な収支も4兆円近く良くなって、収支がほぼ均衡するまでになった。8/14の日経で、プリンストンの清滝先生は、「日本の財政はかなり危ない、緊急時の対応計画を作るべき、消費増税も欠かせない」とするが、状況は様変わりしている。こうした成果を当局はアピールしないので、自ら数字を取りに行く必要がある。

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 2012年度に名目で253.4兆円だった雇用者報酬は、2017年度には274.3兆円と20.9兆円増加したが、円安と消費増税による物価上昇があり、実質では+10.6兆円にとどまる。しかも、この間に厚生年金の保険料が6.8兆円増えており、これでは、家計消費(除く帰属家賃)が低迷し、5年間でたった2.0兆円しか増えていないのも不思議ではない。金融緩和にかかわらず、物価がなかなか上がらないのも当然だ。アベノミクスの特徴は、急速な財政緊縮と消費抑圧であり、これらの更なる強化は、生活水準を下げかねない。

 既に、財政については、7/1や7/15のコラムで、再建計画を上回る改善の見通しにあることを書いたので、今回は、8/10に公表された厚生年金の2017年度決算を概観しつつ、多くの識者がお留守にしている社会保険における緊縮の状況を見て行く。本来なら、経済運営は、財政と社会保険を統合した「一般政府」の観点で眺めなければならないが、一所懸命の日本人は全体を俯瞰するのが苦手である。もっとも、厚労省の公表資料を見ても、業界の人でなければ、何を意味しているかも分かるまい。

 まず、厚生年金の基礎的な収入は、保険料、元は税である「一般会計からの受入」、制度間の調整に必要な「基礎年金勘定からの受入」の3つであり、基礎的な支出は、保険給付費と「基礎年金勘定への繰入」の2つだ。あとは、資産のやり取り、旧共済年金を実施するためのトンネル、その他の雑多な項目となる。そうした基礎的な収支の経年変化を見たのが下図であり、差が縮んできたことが分かる。2012年度だと-4.6兆円も開いていたが、保険料の引き上げと雇用拡大により、2017年度は-0.4兆円まで来た。

 2017年度については、GPIF納付金が0.5兆円あったので、これを勘案すれば、既に、実質「黒字」である。ちなみに、GPIFが運用する積立金から得られた利子・配当収入の厚生年金分は2.6兆円あり、前年度から0.2兆円増えている。しかも、2018年度4-6月期には、早くも前年同期比+0.1兆円と積み上げた。2018年度には、予算や景気の動向からすると、基礎的な収支の差は、更に0.6兆円ほど縮まると予想され、納付金なしで黒字になるのは確実である。制度的には結構な話だが、それだけ緊縮になるということだ。

(図) 


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 日本の財政当局は、まったく言及しないが、アベノミクスにおいては、「補正後の歳出規模は膨らませない」というウラ方針が貫かれており、税収増の分だけ緊縮になるようになっている。その税収増は、2018年度に1.8兆円と予想される。また、2018年度の地方の緊縮幅は、0.5兆円ほどであろう。そして、これらに厚生年金の緊縮が加わる。つまり、全体では、消費増税1%分を優に超える緊縮が、順調に成長するだけで降りかかるわけだ。

 2019年の10%消費増税については、純増税は1%分だから、大きな影響はないというのが一般的見方だが、消費増税だけしか見ないから、言えることだ。実態は、既に消費や物価を低迷させている緊縮の下地に上乗せし、2倍の緊縮にするものである。しかも、2019年は、3年に一度の厚生年金の支給開始年齢の引き上げが重なり、増税から半年後の2020年4月には、増税に伴う物価上昇で、年金の給付水準の実質的な引き下げもなされることになり、例年に増して緊縮の圧力がかかる。

 中期的には消費増税は不可欠である。しかし、それを今やれるかは、全体状況を見て判断すべきであり、「国債残高が巨大だから、当然、消費増税」と空気で決めてはいけない。2014年の消費増税は、消費の落ち込みと伸びの屈折という大打撃をもたらした。それでも成長が破綻しなかったのは、悲劇の1997年と異なり、輸出が助けてくれたからである。その輸出は、約2年間の上昇局面が過ぎ去り、春以降、伸び悩んでいる。1年後の増税時に好転しているとは、誰も言えまい。ファクツを基にした総合的見地からは、「かなり危い」のは増税だ。

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 もう消費増税を止められないとすれば、純増税分と同額の補正予算を組み、年金特会に繰り入れ、低所得層の社会保険料を軽減して、非正規への適用拡大をするのはどうか。繰入れは、成長に伴う対象者の減少で年々縮小し、長期的には財政再建に充てられるし、雇用増と出生増による年金財政の改善によって、早々に終わる可能性もある。これ以上の供給力を高める構造改革があろうか。むろん、女性と若年層を中心に格差是正がなされるのは言うまでもない。必要なのは、統合的な戦略である。


(今日までの日経)
 世界的猛暑、農産物襲う。
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1 コメント

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Unknown (@)
2018-08-24 17:11:37
世界の要人の前でヘンテコなグラフを見せて、増税延期を強行した安倍晋三が本当にこのまま2%引き上げを実施するのだろうか?総裁選が終わったら延期モードにならないだろうか?来年の参院選は2013年に勝ち過ぎた反動で苦戦が予想される。餌を用意しないと、2007年の二の舞になりかねない。財務官僚によると参院選直前でも増税延期は決定できるらしく、それを警戒しているとか。今度は貿易戦争を理由にすれば良い。1%ずつ引き上げでも構わない。

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