GDPが2008SNAへの基準改定により大幅に変更され、2016年7-9月期は実質で523兆円から535兆円へと上方修正された。これにより、「増税から2年半後の今年7-9月期になって、ようやく、過去最多だった駆込み需要時の2014年1-3月に並んだ」という認識が、「早くも1年後の2015年1-3月期には並んでいた」に変わった。「やっぱり、消費増税の悪影響は一時的だった」と、財政再建派は喜ぶかもしれないが、家計消費が増税のために大幅に減り、低いままにある事実は変えようもない。
………
今回の改定で各需要項目がどう動いたかは、内閣府のHPを参照してもらうこととして、本コラムは、家計消費(除く帰属家賃)に着目する。下図は、重ね合わせのために、改定前の値を平行移動させたものである。これで分かるのは、改定後は、小泉政権期から東日本大震災までの値が相対的に高くなるとともに、消費増税後については、上昇傾向に更新されたことである。
緑線の消費の長期トレンドは、1999年7-9月期から2008年1-3月期までの前期比の平均値であり、年率で言えば約1.1%成長になる。改定前は、同様に計算した長期トレンドがリーマン後や大震災後のピーク近くを通って、緑線と紫線が重なる美しさがあった。改定後も、リーマン後の紫線の下方シフトはあるにせよ、この程度の成長力があると見なしても良かろうと思う。
紫線は消費増税をしていなかった場合の仮想の消費であり、現実との差は11.8兆円ある。つまり、消費増税分8.1兆円を家計から政府に移すために、その1.5倍の消費を捨てたことになる。政府の取り分を増やすため、経済をパイを小さくしてしまったのだから、経済より財政が優先されたと評せざるを得まい。消費増でGDPが大きくなっていれば、その1/3は国民負担として政府のものになることを踏まえれば、増税は更に虚しく映る。
(図)

………
今回の改定で、増税後の消費の動向は、より鮮明なものになった。素直に眺めると、2014年は反動減からの「戻り」、2015年は「下降」、2016年は「回復」という変動が見受けられる。改定前は、増税後は長らく低迷という印象が強かった。2014年の「戻り」は、長期トレンドを上回る伸びなので、もし、これが続いていたら、リーマンや大震災と同様、消費増税の悪影響も、取り戻し得る一過性のショックと言えたかもしれない。
現実は、逆に「下降」へと変わった。その原因は、輸出の失速と公共の減退にある。住宅は底入れしたものの、補い切れなかった。そうすると、「輸出さえ好調なら、消費増税は成功していた」と早合点する向きもあろうが、それは甘い。異次元の金融緩和で円安を狙っていての結果だからだ。むしろ、輸出は海外需要次第であって、通貨安で確保できると思うのは危いという教訓を得るべきである。
戦前の昭和恐慌は「嵐に向かって窓を開けた」とされ、1997年の消費増税の際はアジア通貨危機に見舞われた。これらを「不運だった」で済ましてはいけない。海外経済の状況次第で暗転するような経済政策は、愚行なのである。特に、世界的な金融緩和が進んでいる近年は、どこでバブルが弾けるか分からない。2015年に、落ち込みまで行かず、失速で済んだのは、幸運だったかもしれないのだ。
………
さて、11/20のコラムでは、消費の動向は、住宅、公共、輸出を足し合わせたものに似ていると指摘した。今回の改定で、相似は更に強まった。まるで修正を予想していたかのようである。緊縮財政によって飢餓状態に置かれる経済では、景気は追加的需要に敏感に反応する。今回も、そうなのだ。むろん、普通にしていれば、自律的に拡大するものなので、今後は、これを期待したい。幸い、11月の景気ウォッチャー調査は大きく伸び、良い側が悪い側を上回る50の節目を11か月ぶりに超えた。
今回の消費増税から得られる教訓は、輸出以外にも多くある。経済にショックを与えず、円滑に行うには、①公共事業は、増税前を抑制し、増税後に拡大すべきこと、②住宅は、駆込みと反動をなくすため、対象外にしたり、時間差課税にすべきこと、そして、そもそも、③一気ではなく、増税幅を刻むべきことなどが挙げられる。
裏返せば、公共事業は、増税機運を高めようと、増税前から出動していたり、諸外国にない住宅課税に拘り、駆け込みと反動のうねりを作ったり、成長力をまるで考慮せず、大規模な増税を打ったりだったということである。輸出の失速のタイミングは偶然だったかもしれないが、通貨安を続けていれば、必ず反動は起こるし、公共事業や住宅は明らかな戦略上の失敗で、消費の屈曲は必然と言える。
それにもかかわらず、「悪影響は一時的」と囃すのみでは、2019年10月の再増税を無防備なまま迎え、同じ困難に見舞われるだろう。実は、1997年の消費増税の際も、「戻り、減退、回復」の過程をたどり、成長を再開し、増税「後」の水準を更新するのに2年超を要した。今回も同様で、「二の舞」を演じたわけである。そして、前回は、増税「前」の水準への復帰に、3年近くかかったが、今回は4年に及ぶだろう。残された傷は、より深刻なのである。
(今日までの日経)
OPEC・非加盟国、15年ぶり原油協調減産合意。福島原発の廃炉・賠償、想定の倍の21.5兆円。名目GDP31兆円増、設備投資80兆円超す。街角景気、11月も改善。
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今回の改定で各需要項目がどう動いたかは、内閣府のHPを参照してもらうこととして、本コラムは、家計消費(除く帰属家賃)に着目する。下図は、重ね合わせのために、改定前の値を平行移動させたものである。これで分かるのは、改定後は、小泉政権期から東日本大震災までの値が相対的に高くなるとともに、消費増税後については、上昇傾向に更新されたことである。
緑線の消費の長期トレンドは、1999年7-9月期から2008年1-3月期までの前期比の平均値であり、年率で言えば約1.1%成長になる。改定前は、同様に計算した長期トレンドがリーマン後や大震災後のピーク近くを通って、緑線と紫線が重なる美しさがあった。改定後も、リーマン後の紫線の下方シフトはあるにせよ、この程度の成長力があると見なしても良かろうと思う。
紫線は消費増税をしていなかった場合の仮想の消費であり、現実との差は11.8兆円ある。つまり、消費増税分8.1兆円を家計から政府に移すために、その1.5倍の消費を捨てたことになる。政府の取り分を増やすため、経済をパイを小さくしてしまったのだから、経済より財政が優先されたと評せざるを得まい。消費増でGDPが大きくなっていれば、その1/3は国民負担として政府のものになることを踏まえれば、増税は更に虚しく映る。
(図)

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今回の改定で、増税後の消費の動向は、より鮮明なものになった。素直に眺めると、2014年は反動減からの「戻り」、2015年は「下降」、2016年は「回復」という変動が見受けられる。改定前は、増税後は長らく低迷という印象が強かった。2014年の「戻り」は、長期トレンドを上回る伸びなので、もし、これが続いていたら、リーマンや大震災と同様、消費増税の悪影響も、取り戻し得る一過性のショックと言えたかもしれない。
現実は、逆に「下降」へと変わった。その原因は、輸出の失速と公共の減退にある。住宅は底入れしたものの、補い切れなかった。そうすると、「輸出さえ好調なら、消費増税は成功していた」と早合点する向きもあろうが、それは甘い。異次元の金融緩和で円安を狙っていての結果だからだ。むしろ、輸出は海外需要次第であって、通貨安で確保できると思うのは危いという教訓を得るべきである。
戦前の昭和恐慌は「嵐に向かって窓を開けた」とされ、1997年の消費増税の際はアジア通貨危機に見舞われた。これらを「不運だった」で済ましてはいけない。海外経済の状況次第で暗転するような経済政策は、愚行なのである。特に、世界的な金融緩和が進んでいる近年は、どこでバブルが弾けるか分からない。2015年に、落ち込みまで行かず、失速で済んだのは、幸運だったかもしれないのだ。
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さて、11/20のコラムでは、消費の動向は、住宅、公共、輸出を足し合わせたものに似ていると指摘した。今回の改定で、相似は更に強まった。まるで修正を予想していたかのようである。緊縮財政によって飢餓状態に置かれる経済では、景気は追加的需要に敏感に反応する。今回も、そうなのだ。むろん、普通にしていれば、自律的に拡大するものなので、今後は、これを期待したい。幸い、11月の景気ウォッチャー調査は大きく伸び、良い側が悪い側を上回る50の節目を11か月ぶりに超えた。
今回の消費増税から得られる教訓は、輸出以外にも多くある。経済にショックを与えず、円滑に行うには、①公共事業は、増税前を抑制し、増税後に拡大すべきこと、②住宅は、駆込みと反動をなくすため、対象外にしたり、時間差課税にすべきこと、そして、そもそも、③一気ではなく、増税幅を刻むべきことなどが挙げられる。
裏返せば、公共事業は、増税機運を高めようと、増税前から出動していたり、諸外国にない住宅課税に拘り、駆け込みと反動のうねりを作ったり、成長力をまるで考慮せず、大規模な増税を打ったりだったということである。輸出の失速のタイミングは偶然だったかもしれないが、通貨安を続けていれば、必ず反動は起こるし、公共事業や住宅は明らかな戦略上の失敗で、消費の屈曲は必然と言える。
それにもかかわらず、「悪影響は一時的」と囃すのみでは、2019年10月の再増税を無防備なまま迎え、同じ困難に見舞われるだろう。実は、1997年の消費増税の際も、「戻り、減退、回復」の過程をたどり、成長を再開し、増税「後」の水準を更新するのに2年超を要した。今回も同様で、「二の舞」を演じたわけである。そして、前回は、増税「前」の水準への復帰に、3年近くかかったが、今回は4年に及ぶだろう。残された傷は、より深刻なのである。
(今日までの日経)
OPEC・非加盟国、15年ぶり原油協調減産合意。福島原発の廃炉・賠償、想定の倍の21.5兆円。名目GDP31兆円増、設備投資80兆円超す。街角景気、11月も改善。
1次速報
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2016/qe163/pdf/jikei_1.pdf
2次速報
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2016/qe163_2/pdf/jikei_1.pdf
1次速報の2016年7-9月期の実質GDPは534.5兆円で、2次速報は522.9兆円となっています。名目GDPは基準改定で大幅増となりましたが。
もしかしたら、私が間違っているのかもしれません。その場合は申し訳ありません。
1997年も消費増税だけなら耐えられたでしょ。消費増税と同時に余計な緊縮政策をやったのが問題。