経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

財政当局の理念と哲学

2011年09月29日 | 経済
 復興増税について、自民党の石原幹事長は、「理念も哲学も感じられない」と批判した由である。しかし、財政当局は、はっきり言わないだけで、明確な考え方で押し進めているように見える。それを踏まえると、自民党の対応は、なかなか難しいように思える。

 財政当局の考え方は、「もう、財源なしに補正予算は出さない」というものである。震災の発生から、一次と二次の補正予算を通して、6兆円を用意したわけだが、よく考えると、一次は予算の組み換えで対応し、二次は決算剰余金で対応している。広い意味での借金の増大は、一次の年金財源を付け替えた2.5兆円であるが、これも復興増税の対象とされている。

 更にさかのぼれば、昨年11月の管内閣での円高対策の補正予算も、税収上ブレ分で賄っているので、これも国債増発はしていない。今回の三次補正では、増税か、資産売却かの宿題を、政治がこなさなければ、復興費は出さない構図にあることは、改めて言うまでもない。ある意味、財政学者の大好きな「ペイ・アズ・ユー・ゴー」になっているのである。

 こういう仕掛けを、政治に悟られないうちに嵌めてしまうのは、経済には無知でも、政治センスは抜群の日本の財政当局らしい立ち回り方である。筆者からすれば、被災地をよそに、こんなゲームにうつつを抜かしていて良いのかと怒りを覚える。あからさまに、「財源なしに、復興費は出さない」と言えば、誰しも嫌な感じを受けるのではないだろうか。

 こうして、震災復興という、深刻かつ稀な事態でも財源を求められてしまうのだから、今後は、経済対策の際、従来のように国債増発で対応することは、およそ政治的に考えられなくなった。それは、財政規律を守る点では良いが、経済運営の機動性が失われる面もある。もし、欧米でショックが発生すれば、さっそく試されることになろう。

 こうした構図にあるとき、自民党はどういう立場になるのだろうか。自民党はバラマキを批判してきたのであるから、財源と補正のリンク論を批判するわけにもいかない。今の経済情勢では、増税の上積みや早期化を求めるのは危険である。結局、政府資産の売却に付き合わされるのではないか。政治的争点を作って、独自色を出すことは難しくなっている。

 政府・民主党の増税プランは、党内議論で揉まれるうち、増税幅が圧縮され、時期も遅らされることによって、経済運営として無理の少ないものになってきた。今後の与野党協議では、公明党に対しては、増税期間を延ばすことで、更に増税幅を圧縮する道を残しているし、復興費の中身への批判には、あえて最終局面で膨らまして削る余地も作った。なかなか上手く作ってあるのだ。

 むろん、本コラムの主張は、経済状況に合わせて需要を管理するというもので、回復を決め打ちし、予め増税をセットしておくことは、危ういと申し上げておく。来年度、もし、欧米でシッヨクが発生したときには、予備費1兆円と自然増収2.5兆円などで、補正予算が組まれるだろう。そのときに、「こんな隠し財源があったのか、去年の増税議論はなんだったのだ」と思わないことである。政治に財源探しをさせる仕掛けを作るというのが、財政当局の理念と哲学なのだ。

(今日の日経)
 パナソニックが中国で5割の電池生産、戦略製品の移管止まらず。夫の厚生年金2等分・専業主婦見直し。欧州委員長が金融取引税の導入提案。社説・中国にらむ日比戦略関係。復興増税圧縮は多難。車生産プラス震災後初、輸出堅調。産業用金属が急落。福島廃炉に1.15兆円。韓国大手企業へ世論の不満強く。セブン、和牛を専用農場から調達。トヨタがPHVを1月投入。経済教室・有期雇用も賃金で保障を・鶴光太郎

※二等分で払った形式だけ作ってもねえ。※バローゾに日米英も乗ったらどうか、皆財源には苦しんでいるのだから。※韓国のプロ・ビジネスも束の間かも。※流通も車も着実に変わっている。

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2 コメント

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政治家がしたり顔で「財源」論 (KitaAlps)
2011-09-29 09:20:14
 近年、急に、政治家やマスコミがしたり顔で「財源」論を声高に振りかざすようになり、財務省にうまく操作されてしょうもないと思ってましたが。・・・ついに、それは一種の制度として確立されてしまったようですね。
 この「制度」自体は、平時には必要なことであり、好ましいことではありますが、「非常事態」に対する例外的「制度」が一切ない状況が作り出されたということになりますね・・・
 もっとも、私は、日本が過去20年、非常事態下にあって、一貫して例外的制度が適用されるべき状況にあると思っているので、仮に例外的対応の「制度」なるものがあっても、今度は「今は例外的な状況かどうか」という判断で揺れることになりますが。
返信する
追伸 (KitaAlps)
2011-09-29 09:40:57
 世界同時不況で、米国や各国にこうした硬直的な「制度」(ルール、仕組み)があったら、世界は本当に悲惨な大恐慌に落ち込んでいたでしょう。
 これって、結局、経済政策的な発想はかけらもなくて、単なる金庫番の思考ですね。日本の悲劇は単なる金庫番が、(金庫番として極めて有能であるために)最強の影響力を日本社会に与え続けていることでしょうか。
 日本の長期停滞20年のうち、橋本財政改革以後の15年の長期停滞の原因と(逆説的ですが)財政赤字累積の原因は、財務省にある可能性が極めて高いと思います。
 状況証拠としては、とりあえずは、次のページ図1の1996年以降の「公的需要」の寄与状況でしょうか。
http://kitaalps-turedurekeizai.blogspot.com/2011/07/blog-post.html
 このほか、橋本改革についての
http://kitaalps-turedurekeizai.blogspot.com/2011/01/blog-post_17.html
 など


 
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