経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

緊縮速報・過去最大の家計のカネ余り

2020年09月20日 | 経済(主なもの)
 資金循環が公表されるつどに、お送りしていた緊縮速報だが、コロナ禍によって、「拡張」速報になってしまった。これは、しばらく続くことになるが、問題は、その後である。すぐに緊縮に戻り、成長の加速を阻害するというお定まりのパターンだろう。賽の河原のごとく、何度も同じ失敗を繰り返す。これが日本の経済運営の特徴である。偶然にも正しい経済運営をしてしまい、結果的にデフレから脱出するという幸運はあるのだろうか。

………
 日銀・資金循環における4-6月期の資金過不足は、一般政府が一気に前期比で-15.2兆円も減って、-19.0兆円の不足となり、反対に、家計は、前期比+14.1兆円の増で、+18.3兆円の余剰となった。コロナ禍で、政府が12.9兆円に及ぶ10万円給付金などの経済対策を実施する一方、家計消費が外出自粛によって前期から-6.2兆円も落ち込んだ結果である。財政赤字は大変なものだが、家計の貯蓄に移ったと思えば、赤字を「悪」とは思えまい。

 一般政府の赤字は、原数値では-26.1兆円であり、リーマンショックを受けて対策を打った2009年4-6月期の-19.3兆円より大きい。ただし、ハシモトデフレの後始末をした1998年10-12月期の-39.7兆円には及ばない。他方、今回の家計の黒字+27.9兆円は、これらのときを超え、過去最大である。一律の10万円給付金の大半が貯蓄に回り、経済対策としてはカラ回りしたことを示す。本来なら、所得に応じた再分配の仕組み作りを痛感するところだろう。

 企業(非金融民間法人)は、コロナ禍で急激に売上が落ちる中で、前期比-7.0兆円の減となり、-1.0兆円の不足に転じた。不況期には、設備投資の減退で、資金余剰に向かうものだが、今期は需要ショックの影響が出た。海外は、前期比+2.9兆円の増となって、-1.9兆円まで不足が縮小した。日本から海外への輸出が大きく減って、海外がおカネを借りて買う必要性が乏しくなったことが背景にある。

(図) 


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 10年前、緊縮財政の系譜を「壮大なる愚行」で書いたが、この国は、やっぱり、同じ過ちを繰り返してしまった。民主党政権は、リーマンショック後、さっさと緊縮に取りかかり、東日本大震災後は、復興需要で成長が加速するかと思いきや、増税を始めてしまう。復興法人税は途中で廃止されたものの、2.1%上乗せの復興所得税は2037年まで続く。前の災厄の負債を新たな災厄の下で払い続けるのだ。

 アベノミクスを振り返っても、民主党政権が仕込んだ2014年の消費増税で、デフレ脱出の最大のチャンスを潰してしまう。2017年頃の輸出ブームの際にも、波に乗ることはできなかった。日本は、危機に在っては大規模な財政出動を行うが、回復期に早々と手仕舞いをして、成長の勢いを殺ぎ、デフレにくすぶることを繰り返してきた。問題は、危機への対処ではなく、撤収の在り方なのである。

 10万円給付金で分かるように、効果的に財政出動を行い、巡航速度まで成長を加速するには、再分配の仕組みの用意が必要である。デジタル化は重要であるが、何をデジタル化するかがカギだ。縦割の是正も、一律負担の社会保険料を軽減するには、定額の負の所得税とバインドするという最大の問題に取り組んでこそ価値がある。少子化も、非正規には育児休業給付をしないという前例主義がまかりとおるのでは、解決は絶望的だ。

 政治の最も大切な役割は、アジェンダセッティングである。問題を発見できれば、半分は解決したようなものと言われる。マイナンバーカードが免許証にもなり、携帯料金が下がり、不妊治療に健康保険が使えるようになるのは、大変、結構なことだ。しかし、日本は、マクロ的な問題の解決を必要としている。残念なのは、誰もが、財政再建くらいしか、マクロ的な問題があるとは思っていないことである。 


(今日までの日経)
 戻る笑顔、緩めぬ警戒 イベント制限緩和。「最終兵器」無力化狙う米軍 南シナ海で軍事演習の応酬。家計の資金余剰、最大に 4~6月18.3兆円、給付金で貯蓄増。ステーキ丼 1日100食限定 残業も廃棄もゼロ。

※東京都の新型コロナの感染確認数は、9/1に23区外の営業規制が解除された後に増えだし、足下では小康を得ている状態なので、9/16に全面解除されて以降の動向が気がかりだ。


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