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経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

日本の少子化対策はなぜ失敗し続けるのか?

2020年07月26日 | 社会保障
 低所得層の非正規の女性は、育児休業給付を受けられないし、乳幼児期に保育所へ入れるのも難しい。生活苦が見えているのに、どうやって、結婚して子供を持てと言うのか。結局、これを等閑視する社会の風潮が少子化をもたらしている。山田昌弘先生の新著『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』は、その内実を、一つひとつ分解して説明をしてくれているように思う。

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 山田先生は、失敗の理由として、真っ先に、「キャリア女性の状況を前提とし、非正規雇用女性の声を聞いてこなかった」と指摘する。非正規の女性は、むしろ、多数派であるにもかかわらず、少子化対策の目玉である育休と保育の外に置かれているのだから、そうした批判になるのは致し方あるまい。少子化の大きな要因が、結婚後の出産数より、結婚の減少によることとも整合的だ。

 なぜ、外に置かれているかと言えば、継続雇用、いわば、正社員であることが暗黙の前提になっているからである。つまり、女性は、養成にカネもかけた正社員としての価値は認められても、次世代を育成する者としては評価されていない。行われているのは、少子化対策ではなく、正社員確保の対策である。非正規の女性だって、パート等で従事はするが、その程度では、雇用保険を供するには値しないと、政労使からみなされている。

 日本の女性にとって、結婚は愛より生活だ。日本では、妻に家事を任せる代わり、サイフを渡す習慣があるので、欧米のように自由なお金のために仕事を持とうという動機が薄い。家からの自立も求められず、居心地が悪くなければ、稼ぎの良い男性との出会いをひたすら待つことになる。1997年のハシモトデフレ以降は、男性ですら正社員は厳しくなったから、そんな選択は結婚を見送るのと同義になった。 

 出生率が1.82と全国一の沖縄県では、少子化対策は「成功している」ことになるかもしれないが、他方、離婚率も全国一で、母子家庭が極めて多く、子供の貧困は深刻だ。県民所得が最下位の沖縄県では、結婚のハードルは低くても、その後の生活が大変である。妻だけでなく、夫も非正規であっても、十分な子育てができるという、真の意味での少子化対策が最も求められているのは、実は沖縄である。

(図)


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 「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?」と問われれば、少子化対策をして来なかったからというシンプルな答えになる。女性正社員の確保策を少子化対策に見せかけていただけで、乳幼児を抱える困難な時期を、すべての女性にどう乗り越えさせるかの視点がない。それは、既に日本が「総中流」とは異なる階層社会になっていて、政策を形づくる上位の人々には、もはや全体の状況は見えないためであろう。ならば、失敗は続くとしか言えない。


(今日までの日経)
 GoTo、見誤った世論 政策混乱、傷口広がる。国内感染 最多966人 東京366人、拡大継続なら法的対応も。景気後退、政府が認定へ 回復は18年10月まで 戦後最長ならず。


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