経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

年金は破綻するのか

2010年05月12日 | 社会保障
 選挙前というのに年金問題は静かである。「年金選挙」が続いてきたが、様変わりである。昨年の財政検証でも特段の問題がなかったのだから当然としても、政争の具にされないというのは在るべき姿である。

 2004年の改正前は、5年に1度、財政再計算をして負担と給付の見直しをしていたために、定期的に政治的争点とならざるを得なかった。それを解消したのが、「マクロ経済スライド」という自動調整機能である。要すれば、支え手の減少に合わせて給付を削減し続ける仕組みであり、これで年金は少子化にも頑健になった。

 導入された当時、筆者は、強力過ぎると思ったほどである。当時の基本想定で、基礎年金も含めて実質値で15%も給付を削減するものだったからだ。先日も紹介した『最低所得保障』の中で百瀬優さんが指摘するように、これは障害基礎年金の引き下げにまで波及する。「給付水準の議論は後回しにしても、破綻すると言われない制度にする」という当局の強い意思を感じたものだった。

 先日、ダイヤモンド社のサイトに野口悠紀雄先生が「年金財政は破綻する」という記事を書いておられた。内容は、おおまかに言うと、マクロ経済スライドが効かないデフレ経済の下では「破綻する」というものである。論理としては間違ってないにしても、政策的には実益のない議論のように思える。

 スライドが効かなければ、支え手が減っても給付が下がらないわけだから、破綻も在り得ようが、それに対応するには、給付の名目値は下げないという現在のルールを変更すれば良いだけのことだからである。そうするか否かは、デフレが長々期に渡って続くと想定するかという問題になる。

 また、年金積立金の運用利回りの想定が高過ぎるという指摘もされているが、想定どおりにならなければ、それを国庫負担、すなわち、税で補うほかない。保険料を上げると、その分も給付で戻らないという厄介なことになりかねないからだ。結局、「想定が高過ぎるから、国庫負担の引き上げを検討しましょう」という主張なら分かるということである。

 少なくとも、破綻を心配して、税方式化などの「抜本改革」を考える必要はない。現行制度は、それだけ良くできたものなのである。本当の問題は、給付水準を下げてしまう少子化をどうするかにある。それについては「小論」を参照されたい。

(今日の日経)
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