唯物論者

唯物論の再構築

過剰供給vs利潤減少

2010-11-16 04:22:49 | 資本論の見直し
恐慌と過剰供給

 旧来のマルクス経済学での恐慌の説明では、利潤率低下が過剰供給を必要とし、過剰供給が富者の利潤を減少させ、さらなる利潤低下と過剰供給の連鎖により恐慌が発現する。つまり過剰供給が、富者の利潤を減少させる役割を果している。既に筆者は、資本主義において利潤率低下が必然ではないことを示している。資本主義における過剰生産恐慌は、この点での必然性を持たない。しかし資本主義は、資本家利潤の増大を自らの使命にした経済機構である。当然ながら利潤率低下が無くても、資本主義は過剰供給を必要とする。したがって過剰生産恐慌の必然性は、相変わらず資本主義に根付いているかのように見える。なるほど富者の利潤の実現に、剰余生産物の貨幣への交換が欠かせない一方で、総需要量を超えて過剰生産した商品は、その全てが換金されずに無駄な過剰生産物として残る。これにより富者の利潤の減少も成立するかのようである。しかしそうであっても過剰生産物の発生は、富者の利潤の減少を意味していない。

 過剰供給が富者の利潤の減少にならない例を以下に示す。


例証で想定する資本主義社会の初期状態

 例証にあたり、次のように資本主義社会の初期状態を想定する。

 想定1) 社会構成員は、富者1人と貧者3人の計4人。
 想定2) 貧者が生産する商品は、生活サービスや文化生活資材なども含めた人間生活そのものとしての生活資材。
 想定3) 貧者が生産する生活資材に土地を含めない。土地は生産が不可能だからである。また地代も無いものとして無視する。
 想定4) 貧者の1日の労働時間は、8時間。富者は労働に携わらない。
 想定5) 8時間で1人の貧者は、1.33人分(=4/3人分)の生活資材を生産する。
 想定6) 資本構成には不変資本部分が無い。つまり貧者3人からなる可変資本部分だけの資本構成。

 なお、以下の説明では商品1単位を1人分の生活資材で表記する。したがって上記の想定5も次のように表せる。

 想定5a) 1労働日で1人の貧者は、1.33商品(=4/3商品)を生産する。


 上記の想定だと、1日の商品生産での生産物と労働時間の内訳は、次のようになる。

貧者A・B・Cの必要生産物(=労賃)および必要労働時間貧者A・B・Cの剰余生産物(=利潤)および剰余労働時間貧者A・B・Cの生産物全数および総労働時間
3人分の生活資材1人分の生活資材4人分の生活資材
18時間6時間24時間

 貧者3人の1日の労働は、4人分の生活資材を生産している。つまり貧者3人の商品生産は、自分たち3人と富者1人の社会全体の需要を満たし、かつ無駄な供給も無い単純再生産状態にある。ちなみに可変資本比率・人間生活維持に必要な労働時間・利潤率は以下のようになっている。

可変資本比率 100%
人間生活維持に必要な労働時間 6時間
利潤率 33.33%



過剰供給でも富者の利潤が減少しない例

 最初の想定での労働生産性を1.5倍向上させる。このため想定5の内容を以下の想定5bに変更する。

 想定5b) 8時間で1人の貧者は、2人分の生活資材を生産する。

 この変更で、1日の商品生産での生産物と労働時間の内訳は、次のように変わる。

貧者A・B・Cの必要生産物(=労賃)および必要労働時間貧者A・B・Cの剰余生産物(=利潤)および剰余労働時間貧者A・B・Cの生産物全数および総労働時間
3人分の生活資材3人分の生活資材6人分の生活資材
12時間12時間24時間


 貧者3人の1日の労働は、6人分の生活資材を生産している。つまり貧者3人の商品生産は、自分たち3人と富者1人の社会全体の需要を満たすだけでなく、単純な見方で良ければ、剰余生産物を3人分の生活資材に増加した形の単純再生産状態に拡大再均衡している。つまり労働生産性向上のおかげで富者は、以前より3倍の服を着込み、3倍の食事をし、3倍の家に住めるようになる。ちなみに可変資本比率・貧者一人当たりの必要労働時間・利潤率は、次のようになる。

初期想定生産性向上後
可変資本比率   100%   100%
人間生活維持に必要な労働時間   6時間   4時間
利潤率 33.33%   100%


 実際にはもともと4人だけのこの資本主義社会だと、需要が4商品、供給が6商品の需給不一致が発生する。つまり、富者が6商品を市場に出しても、4商品だけが売れるだけであり、2商品が売れ残る。富者の手元に実体化する利潤は、相変わらず1人分の生活だけである。しかし過剰供給でも富者の利潤が減少するわけではない。富者は裕福になるのに失敗するが、ただ単に無駄な商品生産が行われただけとなる。もし富者が過剰供給で利潤減少になるのを心配するなら、彼は余剰生産物を廃棄するだけで良い。この場合でも資本主義も経済危機に陥るわけではなく、富者の恒久的な貧者支配も可能である。
 なお上記の説明は、価格と価値の乖離を意図的に無視して説明している。このために生産性向上による必要労働時間の減少が、直接労賃減少で反映する説明になっている。実際には生産性向上で必要労働時間が減少しても、労賃に反映しない。労働力商品は.その特性により、価格の下方硬直性をもつためである。したがって生産性向上により生活資材の価格が安くなれば、労賃は額面として変化しなくても、実質的に増加する。この点について別途記述する(==>価値と価格
(2010/11/16 ※2015/07/05 ホームページから移動)


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