KEIJYU's Second Short Story

圭樹の妄想にお付き合いいただきありがとうございます。

My Boy Vol.2

2017-10-04 00:05:28 | K.Black



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――ちょこんとテーブルから顔だけが出ている。

 家に初めてきた小さな客。



 あれから、何とかつかさをトイレに連れて行き、シャワー、着替えを済ませ、今はこいつの汚れたパンツを洗濯中。



「飲むか?」

 やっと泣き止んだこいつの前に、牛乳の入ったコップをコトンと置いた。

 小さな頭は、俯いたまま横に揺れる。



「お前、つかさっていうの?」

 今度は縦に揺れた。



「ママは、”ゆう”?」

 縦に小さくコクン。



「パパは?」

 恐る恐る聞いてみる。



 すると、つかさがゆっくりと俺を指さした。



「……けいじくん……ってママが……」



「嘘だろっ! おいっ!」

 思ったより大きな声が出てしまい、つかさの肩がビクッと上がった。



「あ、ごめん。脅かすつもりじゃなかった」

 咄嗟につかさの頭を撫でる。それにしても……



「はーっ」

 溜息しか出ない。こいつが俺の息子? 息子って? そんなことまったく聞いてない。社長に何て言えばいいんだよ。いや、そもそも本当に俺の息子? 由宇、なに言っちゃってんの? 由宇は嘘をつくような奴じゃない。でも、はいそうですか、と信じるわけにはいかないだろ、由宇!



「……けいじ、くん?」

 どうやら途中から言葉が口から出ていたようだった。つかさがこちらを不安そうに見ている。



「そうだ! 由宇は? ママはどこに行った?」

 俺を見上げていたつかさが固まった。



「ママ……ママが……けいじくんの、とこ、ろにって……」

 みるみるうちに目に水が溜まっていく。



「あー、分かったから。男だろ、泣くなって 」

 困って頭をくしゃりと撫でてやると、つかさはシャツの袖で目を擦った。



「……ないて、ない、もん……」



「ん」

 もう一度、牛乳を差し出してやるが、やっぱり首を横に振るつかさ。ったく、その強情さは誰に似たんだよ。



「それで、ここまでどうやって来たんだ?」

 そう尋ねると、つかさは黙ったまま、ポケットの中からくしゃくしゃに丸まった紙と鍵を取り出し、テーブルの上に置いた。

 鍵は見覚えがあった。由宇が持っていたここの鍵だ。『K』が象られた革製のキーホルダーにつけられている。

 丸まった紙を広げると、由宇の文字でここの住所とつかさの家からここまでの行き方が大きなひらがなで書いてあった。



「お前ひとりで?」

 無言で首は縦に。



「……えらかったな」

 素直に褒めると、つかさはまた下を向いた。



 微妙な空気。何を話していいか分からない。由宇のことを聞きたいが、また泣かれてもなぁ。しかも由宇にそっくりなその大きな目でさ。

 

 しばらく続いた沈黙を破ったのは、漫画のようなあの音。



 グーーーーッ。



「お腹、すいたのか?」

 つかさに聞くが何も答えない。



「何か言えよなぁ」



 グーーーーーッ。



「プハッ。それが答えかよ。何か食う?」

 子どもに食べさせられるようなもの何かあったかなぁ、と冷蔵庫の中身を思い出そうとしていたとき、つかさが上目使いでこっちを見た。



「……オ……ライ……」

 小さなつかさの声。



「ん?」



「……オムライス」



「オムライス?」



「……ママがいってた……けいじくんの、オムライス、は、おいしいって……」



「由宇が?」

 小さな頭が縦に動く。



「ん、ちょっと待ってろ。今、うまいの作ってやる」

 久々に誰かのためにキッチンに向かった。



 確かに由宇にはよくオムライスを作ってやったな。あいつ、俺より料理ができなかったぞ。つかさはちゃんとご飯を食べさせてもらってたのか?



「卵はあるだろ、鶏肉、玉ねぎ、人参、意外とあるじゃん。あと……ピーマン、か」

 冷蔵庫の中から材料を取り出し、切り始めた。



「つかさー?」

 俺の声を聞いたつかさは、ぴょこぴょこ歩いてキッチンまでやってきた。



「お前、ピーマン大丈夫?」

 予想に反して、つかさは『うん』と答えた。



「ママが、ピーマン食べないと大きくなれないって」

 

「プッ! よく言うよ。あいつ、ピーマン食べられないくせに」



「……ママ、ちいさくして、オムライスにいれたらたべられるって、いってた、よ」



「……ふーん」



 あいつ、よく言ってた。『啓司くんのオムライスならピーマンも食べられる』って。子どもみたいな笑顔で。何だよ、俺のこと、忘れてないじゃん。じゃあ、何が不満で出て行ったんだよ、あいつ。ずっと長い間考えても分からなかった、今も心の奥で燻っていた疑問が蘇った。



 と、同時に閃いた。



「あ、そか」

 つかさか? こいつができたから、お前はいなくなったの? そういうこと? 由宇。



「ん?」

 手を動かしながらもぼんやりと考え事をしていたら、Tシャツの裾がツンツンと引っ張られた。



「どした? まさか、またおしっこ?」

 つかさはプルプルと首を振った。



「……おてつだい、する」



「お、おう、じゃ、ここにスプーンがあるから持って行って」



「はい」

 素直に返事をし、スプーンをテーブルに置くつかさ。躾ができている。絶対、俺の子じゃない。



「食っていーぞ」

 出来立てのオムライスをつかさの前に置く。つかさは大人しく座って、まっすぐ背筋を伸ばし、両手を合わせた。



「……いただきます」

 つかさはぺこんとお辞儀をし、スプーンで小さめの一口をすくって頬張った。お上品だ。絶対に、絶対に俺の子じゃない。



「うまいか?」

 つかさの顔を覗く。もぐもぐと動く口。一口目がコクリと喉を通った後、小さな瞳が一回ギュッと閉じ、そのあと、パーッと明るく開いた。



「うんっ!」

 初めて見るこいつの笑顔。前歯をむき出しにニターーッって笑う。その顔は、まるで、まるで。



――やっぱり、俺の子、か。



「あーっ、もう! 考えるのやーめた、面倒くさい!」

 俺の二度目の大きな声でまたびっくりするつかさ。不安そうな顔をするから、同じ顔でにんまり笑ってやった。



「あ、わりぃ、わりぃ。早く食っちまおうぜ」

 勢いよくオムライスを口にかっ込む。つかさも一緒にスプーンを口に運んだ。



「っうめっっ! 俺、天才! お前もそう思わねぇ?」



「うん! けいじくんのオムライス、おいしいっ!」



「当たり前ー!」

 そう言いながら食ってたら、2人の皿はあっという間に空になった。 



「「ごっちそうさまー!」」

 2人で合掌。それと同時に鳴る、エントランスからのインターホン。画面には、仕事の迎えに来たマネージャーの顔。



「わ、もうそんな時間かっ! やべっ」

 どうせあっちで着替えるから、と洋服はそのままで、慌ててキャップを被る。 『すぐ行く』とインターホンに返事をし、最近お気に入りの赤いワンショルダーバッグを引っかけて。



――また、ツンツンとTシャツの裾を引っ張られる感覚。



 そうだ、こいつがいた。つかさの前で屈み、目線を合わせる。



「一緒に来るか?」

 

「……いい、の?」



「一人でここにいるか?」



「……ううん」



「ん、じゃ」

 俺が手を差し出すと、つかさもおずおずとその手の上に自分の手を重ねた。



「けいじくん?」



「ん? 何だよ」



「けいじくんがえらいひとにおこられない?」

俺の方を心配してくれるつかさ。つかさの方が不安だろ。



「まぁ、なんとかなるだろ」

 ギュッと握ってやる。つかさも小さな力なりに握り返してくれた。



「ん」

 そのまま手を繋いで、玄関を出た。



「じゃ、行くか」

 2人で並んで廊下を歩き、エレベーターに乗り込む。



――これが、つかさと2人で歩きだした、初めの第一歩。

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