荻窪鮫

元ハングマン。下町で隠遁暮らしのオジサンが躁鬱病になりました。
それでも、望みはミニマリストになる事です。

天童荒太の巻。

2013年04月05日 | 枯渇した生活に豊潤な読書を
先日、再放送で【相棒9】の第13話【通報者】を観ました。

神戸尊同様、少年が必死で幼い妹を守ろうとする、いじらしい姿に涙してしまいました。

勿論、本放送時も涙しております。同じ事で泣いてしまうのが、僕の悪い癖。

さて、260人待ちから始まり、ようやく天童荒太の新作【歓喜の仔】を図書館から借りる事が出来ました。

天童荒太の作品はほとんど読了しております。最初に手に取った作品は【永遠の仔】でした。

日本テレビ系でドラマ化されたものを観、『こりゃ原作読まなきゃ話にならん!』と書店に走りました。

未文庫化であったため、カミさんを口説き落とし家計費として単行本を買ったものです。

読後のインパクトはもの凄ぇものがありましたな。

【歓喜の仔】も、彷徨う子ども達に【これでもか】という千本ノック状態の悲劇や不条理が襲いかかります。

ここに登場するおとな達は皆現実社会にいる【自分さえ良ければ良い】という人間ばかり。

結果として、子ども達は自分達を守るためにおとなを信じず【むれて】生きるしかないのです。

僕は豊かな環境で平々凡々と生きて来ましたから、このテの物語に触れてしまいますと、己の情けない履歴にまことに汗顔の思いとなります。

しかしながら、天童荒太というヒトはこういった子どもと不条理を絡み合わせる作品が頭抜けて上手いですな。

これが重松清となりますと、一気にファンタジー色が添加されますからな。

この作品、改行がほとんどなされていないため、ずーっと文字の海であります。

これが池波正太郎の単行本だったら全十冊くらいになるのではないでしょうか。

この改行がないという文体は、天童荒太の意図に他なりません。

文字の海から子ども達の叫びを探し当てる・・・みたいな。

父・母・長男・次男・長女、と一人称・三人称は別として、順繰りに多視点で描かれている様はまさに交響曲。

スピード感も完璧で、お腹いっぱい。

どちらかというと寡作な作家ではありますが、その一冊一冊に宿った思いには、とてつもない深みがあるのです。

みんなも読んでみようず!



直木賞受賞作【悼む人】から4年ぶりの新作だそうです。