お産・育児ママネットワーク パム

皆様の周産期医療・産科医療に関するご要望、ご意見をお聞かせください。合わせて私達の活動記録です。

高度医療 維持できるか

2006-03-21 23:02:55 | 新聞記事

<信濃毎日新聞 3月21日 朝刊記事より引用掲載>


県立こども病院 一般診療受け入れ
 院長、反発し退職届


県立こども病院(安曇野市)の石曽根新八院長(60)は20日、「一身上の都合」として31日付の退職届を高山一郎県衛生部長に提出した。田中知事は今県会の議案説明で、同病院で小児高度専門医療だけでなく一般的な小児科、産科診療も受け入れる意向を表明、「首脳部の一新」も示唆していた。石曽根院長はこうした動きに反発、異動を拒む形で退職を決めた。

石曽根院長は取材に対し「院長の任命権者は知事。知事が新しい人にすると決めた以上、辞めざるを得ない」と説明。同病院で一般的な診療を受け入れることについて「県全体で確立してきた小児高度医療の供給体制が崩れることを危惧している」と批判した。

沢田祐介副知事は取材に対し「少子対策にかかわる(県の)仕事を引き続きやってほしいと要請していたが、ご自身の決断であり尊重したい。今後も県の小児医療を支援してほしい」と述べた。後任は、県内出身の国立成育医療センター(東京都)部長が有力視されている。石曽根院長は信大医学部第一外科を経て、1993年のこども病院開院当初より外科部長。副院長を経て2002年から現職。



深刻な医師不足 背景  現場の声 検証する姿勢を


県内の小児高度医療を担ってきた県立こども病院(安曇野市)が、診療のあり方をめぐって揺れている。田中知事が開会中の定例県会で、高度医療だけでなく、一般の小児科や産科の診療も行う方針を表明。医師不足の中、県は「門戸開放は県立病院の使命だ」とするが、「現体制のままで方針転換しては医療水準を維持できない」と反対していた石曽根新八院長が20日、県に退職届を提出する異例の事態になった。病院が大きな成果を挙げてきた高度専門医療の水準維持は可能なのか-。病院は、開院以来の難題に突き当たっている。

「より強力なけん引車としての力を発揮していただける院長をはじめとする首脳部の一新をも考慮しております」
2月22日の県会本会議。議案説明に立った田中知事は、こども病院で一般的な小児科や産科へも門戸を開く「改革」を進めるため、開院当時から診療に携わってきた石曽根院長の交代を口にした。

「門戸開放」の背景には、深刻な産科、小児科医不足がある。県産科婦人科医会によると、県内でお産ができる施設は昨年12月時点で53カ所。この5年で約20カ所減った。こども病院がある安曇野市でも、年間400件以上のお産を扱っていた豊科赤十字病院が4月から受け入れを休止。小児科、小児外科を主に診療する医師も2004年末時点で15歳未満人口10万人当たり72.8人と、長野県は全国平均より7.1人少ない。

知事は2004年2月県会でも、こども病院について救急患者を受け入れる「より広い存在にならねばならない」とした上で、「(院長らの)抜本的な意識改革を強く行っていく」と述べていた。県立病院として地域の患者が最初に頼る医療機関の役割も担わせる-という方針のもと、ここにきて県内病院の「お産休止」も相次ぎ、一般診療へ門戸を広げる方向が浮上した形だ。

だが、石曽根院長は病院から転送され、高度医療は必要な患者のために体制を整えておくべきだと考え、県の方針とは相いれなかった。

特に影響を受けると懸念されるのは出産前後の周産期医療だ。同病院は、小さく生まれた赤ちゃんや先天的な障害のある子供と母親をケアする「総合周産期母子医療センター」として、高度医療が必要な母子を全県から受け入れ、県内の乳児・周産期死亡率の改善に大きく貢献してきた。新生児病棟のベッド利用率はほぼ満床状態。産科には6人の医師がいるが「手厚いケアを必要とするケースが多く、医師が余っている状況ではない」(病院関係者)という。

北信地方で危険度の高い出産前後の母子を受け入れている長野赤十字病院(長野市)の菅生元康副院長(第一産婦人科部長)は「こども病院へは全県から対応が難しいケースを依頼しており、周産期医療の最後のとりで。正常産を受け入れて満床になり、緊急対応を受け入れられなくなっては本末転倒」と県を批判。県内のある開業産婦人科医も「緊急時に受け入れてもらえなくなれば、医師の産科離れはもっと加速する」と懸念する。

現場の不安や慎重論に対し、県の高山一郎衛生部長は17日の県会衛生委員会で「高度で専門的な医療を提供する方針は、全く揺るがない」と答弁した。ただ、一般診療と高度医療とどう両立させるか、具体策ははっきりと見えてこない。この点を衛生委で問われた高山部長も「こども病院、県民、医師会、信大などと話すことから始める」と答えるにとどまった。

20日、石曽根院長は退職届を渡した高山部長に「周産期医療が危うくなりかねない」との懸念を重ねて訴えた。全国的な産科医不足で同病院でも近く1人減る見通しだ。高度医療の実施を前提に医師を派遣している大学が医師を引き揚げたり、退職医師の補充をしないのでは-といった見方も出て、現場に動揺も広がっている。

医師不足に対応しながら、小さな命を守る高い医療水準と能力を維持できるか-。県は現場の声を幅広く集め、課題を丁寧に検証する姿勢が求められている。


【県立こども病院】


1993年、小児高度専門医療を行うために開院、現在は小児科、小児外科、循環器科など16診療科、147床。原則的に医療機関から紹介された患者を受け入れている。2000年に増床し、産科を含む総合周産期母子医療センター発足。以前は赤ちゃんが小さく生まれてからこども病院に搬送していたが、出産直後から赤ちゃんへの治療を行える体制を整えた。開院以来、県内の出生1000人当たりの乳児(生後1年未満)死亡率の低さは全国トップレベルを維持している。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 21日 シンポジウム参加のお... | トップ | 厚生労働省主催 シンポジウ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

新聞記事」カテゴリの最新記事