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信州の赤ひげ先生 色平哲郎先生「長野モデル」の現在

2006-04-29 13:54:08 | お知らせ
★++++僻地医療で頑張る信州の赤ひげ先生からのメールをいただき掲載させていただきます。++++★

「長野モデル」の現在

先だって『長野県の医療の現状及び問題点と長野県政』というフォーラムが開かれ、
長野県民主医療機関連合会・湯浅健夫事務局長の講演を聞いた。

小泉首相の口から「長野モデル」という言葉が発せられたように保健・医療分野における長野県の「指標」は高い。
平均寿命が男性全国一位、女性は全国三位。
高齢者の就業率は、農業従事者が多いせいもあってこれまた全国一位。
さらには高齢者一人当たりの老人医療費は全国で最も低い。
いわゆる「健康余命(65歳の人が介護を必要とせずに自立して生きられる期間の平均年数)」
は男性が全国二位で女性は四位、と厚労省が喜びそうな数字がずらり。
つまり「県民が健康長寿で医療費も少ない」というわけだ。

わが県を自慢したくてこんな数字を並べたわけではない。
「長野モデル」という言い方がいつもひっかかっていた。
確かに「結果」として医療指標は高いのだが、その理由が何か、となるとボヤけてしまう。
「原因」がつかめないのだ。
ひと口に「長野モデル」といっても他の都道府県が容易に真似ることはできない。
固有の歴史や文化によって形成された特性なのだ。
普遍性のないものが果たしてモデルと呼べるのか。
湯浅氏の講演は、このあたりの事情を改めて整理してくれたので、その概要を紹介したい。

じつは医療指標の高さとは裏腹に、長野県の人口10万人当りの医療施設数は、
病院、診療所、歯科診療所、薬局とも全国平均を下回り、医療圏別でも地域的偏在が著しい。
病床数は全国三五位、診療所数は三六位、県内の全一般病床に占める民間病院のベッド比率たるや全国四五位。
施設面では全国最低レベルの「手薄さ」なのだ。
おまけに医師数は三七位で看護師の数も三〇位と下から数えたほうが早い。

では手薄いところをどうやって補ってきたか?

民間病院が少ない分を、準公的病院がカバーしている。
厚生連病院は14ヶ所あり、全県の一般病床比率の18.4%を占め、これは秋田に次いで全国二位。
医師や看護師が少ないのに対して保健師の数は全国四位。
助産師数も八位にランクされている。
ここに「地域」と密接につながった医療の片鱗がうかがえる。
保健師が医師や看護師とともに地域のなかに入っていって、住民の保健意識を喚起し、医療情報を提供してきた。
経験を積んだ助産師が、少ない産科医の代わりにお産に立ち会ってきた。
そうしたひとつひとつの積み重ねが指標の高さに結びついている。


医療資源に恵まれていなかったから、地域で知恵を出しあって医療を支えるしか方法がなかったのだ。

ここを取り違えてはならない。
医療費を低く抑えることを目的として長野の医療体制が構築されたわけではない。
医療資源の貧しさを人と人の連携で懸命に補ってきたら、たまたま、というべきか、結果として医療費が低くなった。

ところが、長野をモデル県と持ち上げる勢力のなかからは、こうした経緯をしっかりとらえることなく、
「健康長寿で医療費も低い」という結果にのみ目を奪われ、長野の上っ面をなでればよしとする意見も聞こえてくる。
いわく「もし、長野県並に医療費を抑えることができれば、約10兆円規模の医療費の削減が期待できる」とか……。
馬鹿も休み休み言ってもらいたい。
ただでさえ大赤字で呻吟している地方の医療機関は軒並みつぶれ、大破綻するだろう。

国保中央会のレポートは、長野の高齢者医療が低い要因として
『在宅医療を可能にする条件が整っており、その結果、平均在院日数が他見よりも低い』『自宅での死亡割合が高く、終末期医療における入院医療費が低い』と指摘している。

終末期の在宅医療についても、これまた「在宅医療」という言葉だけを先行させて
他地域に普及させようとしたら、大きな落とし穴にはまるだろう。

重要なのは在宅医療を可能とする「条件」とは何か。
その内実をしっかり整えなければ、患者を嵐のなかに放り出すような事態を招きかねない。

長野の平均寿命の高さを「がん死亡率の低さ」と関連づける報告もある。
独立行政法人国立病院機構大阪医療センターの井上通敏名誉院長は
「日本一長寿の長野県の年間がん死亡(10万人対)は全国平均をわずかに上回るが、年齢補正後のがん死亡率は、飛びぬけて低い。
このことが長寿と関係している」と述べている。

一般にがんは「高齢化」とともに増える。
長野は高齢化が進んでいる県だ。
はたして「がんの死亡率が低い」と断定できるのだろうか。
社会疫学的な分析が待たれる。

さて、公的医療費の伸びを抑えたくてたまらない財務省や小泉首相周辺のブレーンから 「見当違いのラブコール」を送られている田中康夫長野県知事は、あちこちに頭をぶっつけながらも、
「公共事業費の削減」「医療・福祉・教育・産業・環境等への傾斜投資」の路線は堅持している。
04年度予算では、大赤字を抱えていることから公共事業費を前年度比-22.2%、 県単独事業費-35.3%とする一方で、民生費は-1.6%、衛生費-4.2%にとどめた。
05年度県予算は四年連続のマイナス予算となり、公共事業費を削減しながらも福祉・医療等には重点配分。
田中知事就任前の二〇〇〇年当初予算案と比較すると、公共事業費が20%以上カットされたのに対し、民生費は+2.5%、衛生費は+0.2%となっている。

長野県では、いま、厳しい財政状況のなかで、何とか福祉や医療、教育、雇用、産業創出にお金を回そうとしている。
田中県政への批判はさまざまあれど、少なくとも中央政府の公的医療費削減とは反対の方向を目指しているようだ。
「長野モデル」とおだてられて悦に入っているようでは県民の付託には答えられない。

ワンフレース゛・ポリティクスの「長野モデル」に騙されてはいけない。
ポスト小泉を狙う政治家が従来の路線を継承するのなら、対抗する政治勢力はそろそろ 「もうひとつの軸」の旗色を鮮明にするべきではないだろうか。
選択肢はひとつではない。


色平哲郎
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