シネマ歌舞伎『野田版・研辰の討たれ』

君が僕を歌舞伎の世界に迎え入れてくれて、
初めて僕が書いた「研辰の討たれ」という芝居の中で
君は仇討ちをされる役を演じ、追い詰められた君が、
刀を研ぎながら 涙を流して、
シラノ・ド・ベルジュラックさながらに語る。

「生きて生きて、まあどう生きたかはともかくも、
それでも生きた緑の葉っぱが枯れて、真っ赤な紅葉に変わり、
あの樹の上からこのどうということのない地面までの、その僅かな旅路を
潔くもなく散っていく、まだまだ生きてえ、死にたくねえ、生きてえ、生きてえ
散りたくね、と思って散った紅葉のほうがどれだけ多くござんしょ」

君が回復していたら再演してくれるだろうこの芝居のこの台詞を
どんな思いで演じてくれただろうか。
でも、その願いはもう叶わない。
君が僕と初めて会った日のように坂道の下から歩いてきたかと思うと、
瞬く間に坂の上に消えて行ってしまったのだから。
僕にできるのはあの時のように茫然と君の背中を見送るばかりだ。


↑・・・2012年12月9日日経新聞の野田さんのコラム
　手元に置いてて、昨晩眺め

そして、本日行ってきました・・・（涙）
シネマ歌舞伎『野田版・研辰の討たれ』

平成17年歌舞伎座での映像です・・・。
昔なんだけど『今』だし、『今』ここにいない人が
居ない事がやっぱり信じられない・・・。

真っ赤な紅葉一面のバックに、この（↑）のセリフを言われる
勘三郎さんに・・・・
さっきまで大爆笑してた映画館（ほとんど満員状態）が
水を打ったように静まり返る・・・。

胸が『ギュ・・』とくる・・何度きいても『ギュ・・』とくる
セリフです・・・（涙）

終盤・・橋之助さん演じる『良観和尚』は
あの有名な『良寛さん』にかかってるのかな・・・。
紅葉一面圧巻の舞台美術・・・・
　　裏を見せ 表を見せて散るもみぢ・・・を思い出しました・・・。

あっさり『執着』のないように感じられるこの一句を思いながら
『研辰』のこのセリフの『執着』の凄さを思う・・・。
やっぱり凄い舞台です・・・。
シネマ歌舞伎って凄いよ・・・マジで！（ありがたい・・・）

・・・・しかし・・・よく笑ったわ！！（涙）