牧師の読書日記 

読んだ本の感想を中心に書いています。

11月1日(木) 「蛙鳴(あめい)」 莫言著  中央公論新社 

2012-11-01 07:37:32 | 日記


 今年2012年度のノーベル文学賞を受賞した莫言氏(中国人)の作品。はじめ登場人物の中国名が分かりにくく読みづらかったが、途中から慣れてきて読み終えることができた。莫言氏の他の作品を読んだことがないので莫言氏のことはほとんど分からないが、個人的には今回のノーベル文学賞の候補に上がっていた村上春樹氏(1Q84,海辺のカフカ、世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド、ノルウェイーの森などを読んだことがある)よりも優れていると感じた。文学性については村上春樹氏の方が優れているのかもしれないが、莫言氏の方がテーマ性というか「人間」というものを鋭く描いていると思う。私は個人的に文学はいかに「人間」の真の姿を描くかが重要であると考えている。そのような意味でこの作品は、中国社会の闇と人間の闇に鋭く切り込んでいる。

 物語は現代中国の中で国策として行われた「計画出産」(一人っ子政策)と最近の「代理出産」をテーマにした人間模様を描いている。計画出産のために堕胎手術も行われる。タイトルの「蛙鳴」は蛙(かえる)の鳴き声だが、生まれてくることができなかった赤ちゃんの無き声、生まれてきた赤ちゃんの泣き声を、著者はタイトルに込めたと思う。この闇は中国だけの問題ではなく、日本の闇でもある。日本で多くの中絶、堕胎が行われ、尊い「いのち」が失われ、多くの赤ちゃんが鳴き(泣き)声を発することができず、無き声となってしまっている。著者はこの本を書き終えた後、「他人に罪あり、我にもまた罪あり」と書いているそうだ。日本にも悔い改めと神の赦し(贖罪)が必要だ。