Kazuko MISAWA World

三沢かずこの青の世界 ー 作品の周辺

自分が何をしたいのか

2015-10-19 20:47:23 | 日々の思い

収穫祭という文字をよく目にするようになった。収穫の秋で、野菜も果物も味わいが深くなり、食卓がにぎやかだ。

この収穫祭と言う言葉に少し苦い思い出がある。もう15年も前の、ニューヨークの個展。!0回以上続けた海外個展のなかで、ただ一つ、後味の悪い個展だった。振り

返ってみると、周囲でなく、私自身の気持ちの迷いが原因だったと思う。ヨーロッパと、ニューヨーク、どちらで個展をし続けたいのか、揺れ動いていた。そこしかない

という切実感無かったと思う。いろいろな理由はあったけれど、オープニングに行かなかった。国内でも、個展をしていて、そちらを優先した形にしたけれど、そこに、

是が非でもニューヨークのギャラリーのオープニングに出るという、確固たる決意が欠けていたのだろう。

オープニングを放棄した作家ということで、反感を買い、個展最終に行ったニューヨークでは、オーナーに会うことはできなかった。宿泊していた大きな教会で、リスと

遊び(目だけで)、教会での収穫感謝祭の行事に参列させてもらい、異国の温かい人間愛にふれ、救われた思いだった。ほとんど誰も知らないニューヨーク、誰にも必要

とされない10日間を、日本から持っていった『中村天風』の本を繰り返し読んで過ごした。活字が頭の中をぼおっと通り過ぎていくばかりだった。

自分が何をしたいのか、を決められなかった日々、今は、あの頃に比べると、その答えが明確になっている。その分、年はとったけれど、気力というプレゼントがある。

あのニューヨーク行き、行きの飛行機に乗り遅れるという、ハプニングまであり、けっこう辛い思い出かもしれない。

 

 

           BLUE  IN  BLUE  '99-10(海) 38.0×45.5cm    アクリル キャンバス 1999

 

 

                                                                   

 


シャッターを描く

2015-10-13 07:42:40 | 日々の思い

昨日の体育の日の祝日は、よい天気に恵まれた。かなり、肌寒くなって、日中、突然に雨も降ったが、まあまあの天候だった。昨日は、教室の生徒たち有志が、岡本の駅

近くの美容室のシャッターに絵を描くという、新しい体験が予定されていたので、無事に終了してほっとしている。

岡本は、神戸でもお洒落な街といわれている。この美容室も商店街にあり、そこに、ダサイ!絵を描くわけには、絶対にいかない。というわけで、手は出さないで、口だ

け出すことに決めていた講師の私、心配が先に立っていた。私の方もかなり、仕事が集中している時期に重なって、気になりながらも、アトリエで、絵具と葛藤していた

時間を見繕って現場に行った。地色の洒落た感じのグリーンがしっかりと塗られていて、基本的なこと、オーケーだった。シャッターをながめていたら、生徒から指摘さ

れた「先生、顔に絵具ついてます!!」青の絵具がついていたらしい。アトリエからあわてて出てきたので、鏡など見ない。そういえば、電車の中でけっこう私の顔の右半

分に視線がきていたような....。以前は青いひげ状に絵具が付いていたこともあったので、私としたら、どうということはない...?

地塗りのしっかりした上に、オフホワイト系、赤系、黄色系の色が入って、口もけっこう出して、シャッターは何とか様になった。

このシャッター描き、街の中に明るさをプラスしてくれたらいいと思う。60代、70代の女性たちが頑張っている。新しい体験もでき、構想から、材料探し、作業、休

憩のお茶の準備まで、いろいろなことをやりとげて、ひとつのかたちが街に残ったと思う。

大切なこと....やはり、アート性だと思う。これだけは、遠慮なく口出ししますよ。

 

 

             フォト 2015

 

                                        

 

 

 


たまにうまくいく

2015-10-06 20:34:06 | アトリエから

未完成の作品を、一作でも仕上げにもっていこうと、気合いを入れての制作が始まった。ある程度のところまではいくのだが、その先が、まるで未知の世界だ。イメ

ージを先に決めないようにしている、描いていく段階でイメージのようなものが現れたらそのイメージに沿って表現ができていく。倉庫のような部屋から、20号の重

たい作品が見つかった。縁は、絵具の重なりでギザギザ、絵肌の凹凸もすごい。もうこれ以上、描き続けても無理かと思い、パネルに張ってある高知麻紙を剥がして捨

てようと思っていた作品だ。やってもやってもでき上がらないで、深追いしてもだめかなと思って、ようやくあきらめのついた作品である。ふと、どうせ捨てるのだか

ら、何色かいれてみよう、と筆を取った。薄く絵具をいれているうちに、何となく調子が出てきて画面のなかへ気持ちが引き込まれ始めた。できるだけ、思考を止め

て、絵具を塗る動作に集中した。

時間を置かないと、完成度を測れないが、もしかしたら、いい感じかもしれない。捨てなくてよかった。どうにもならなかったものが、ここまできた、嬉しい。

昨日、ノーベル医学・生理学賞をとられた大村智さんが言われていた。たまに、うまくいくことがあると、その他の数多くの失敗が苦にならなくなる、と。数えきれな

い失敗の経験のなかから、珠玉のような発見が導き出されるのだろう。

分厚くて、ズシリとした私の作品は、果たして、完成に近付いたのだろうか。たまにうまくいくことが、絶対あってほしい。

 

         

           WORKS   20×20cm   油彩 2015    個人蔵 (フランス)

 

         

                  


なつめの思い出

2015-10-03 20:00:41 | 日々の思い

夜の暴風でなつめの実が辺り一面に落ちている。道が赤みがかった茶色の果実の色になっている。このごろの気候はなんて激しく、突然に変化をみせるのだろう。

穏やかな日になったかと思うと、次の日は突如として空に黒雲がかかり、嵐のような風が吹いたりする。月日が経つのがあっという間で、駆け足状態に感じるのも

このメリハリのつき過ぎた最近の気候の変動が影響しているのかしら、とも思う。

なつめの実の味を今の住まいに来てから知った。それまでは、なんてまずいもの、なんの味もない粉っぽい食べ物と思っていた。小学校のころだったか...なつめ

の実をザル一杯もらったことがあった。私よりいくつか年上の男の子からだった。家に帰って、食べたら全然美味しくなかった。(後日分かった話、それは地面に

落ちていた実をザル一杯拾ってくれたらしい )それ以来、なつめには全く関心がなかった。ところが、何十年ぶりになつめを食べてみてびっくりした。美味しいの

だ。青リンゴの味に似て甘酸っぱくてなんとも言えない歯ごたえがある。粉っぽい感じなど全くしない。すっかりなつめファンになって、ゴミ出しの帰りに、なつ

めの木から一つ、二つ実をいただいている。このなつめ、ご近所の方が管理されている。どうぞ取ってくださいと言われているので、お言葉に甘えている。なつめ

は薬効高い漢方薬になるらしい。これも、今年になって知ったことだ。大棗(たいそう)という成分が、漢方の風邪薬に入っているが、これはなつめの実を乾燥させ

た生薬とのことだ。

小学生の私になつめの味は届かなかったけれど、漢方薬が大いに気になっているこの年齢になって、すっかりなつめの印象が変わった。必要な時に、物事の理解が

深まっていくのかもしれない。そういえば、落雁のような、地味な味わいも、このごろ分かるようになってきている。苦手だったものが減りつつもある....。 

 

 

              フォト 2014

 

                                                      

 


中秋の名月

2015-10-02 21:12:56 | アトリエから

先日のスーパームーンの夜、空を仰いだ人は多かっただろう。月にむら雲というけれど、むれになった雲が煌煌と月の光に照らされていて、美しい光景だった。

スーパームーンの前日、アトリエで仕事をしていて、暗くなりかけた窓をふと見たら、ラベンダーがかった柔らかな色調の空に白っぽい月が浮かんでいた。

あ、お月さんが出たんだ。そろそろ、帰り支度だ。少し、慌ただしくアトリエを後にした。自宅に入ろうとしたとき、大きな丸い、黄金色に輝く月がぼーんと家並

みの間に浮かんでいた。そうだ、もしかして中秋の名月 ! 急いで家に入り、家族を呼んで、月を見てもらった。

え、十五夜なの?お団子を作り忘れていたよ、と母親が叫んだ。もう遅い。ススキもないね、とまた言っている。確か、去年の中秋の名月には、お団子を作ったり

ススキを取ってきてお団子の横に生けた...(けっこう忙しかった)今年は、みんなで、季節の行事を忘れてしまった。仕方ない。母はまだ、ぶつぶつ言っている。

柿が、もぎ立ての柿がある。昼間、野菜直売所で買っておいてよかった。夫の提案で、柿をお団子のように三角に盛り上げて月にお供えした。小粒の柿に、月光が

反射してさえざえと美しい。

母も安心したようで、よかったね、と言った。こんな感じで、今年の中秋の名月会は幕を閉じた。次の日のスーパームーンは、月の美しさを静けさをもって、ここ

ろから堪能した。

 

             

                ギャラリー汲美 音楽からの贈り物展 (CD篇3) 12.0×12.0cm     油彩、オイルパステル 2004