霧が深い。先ほどまで降っていたかなりの量の雨。樹木の葉が水を浴びて左右に揺れながら、微妙な緑の諧調を見せる。雨が上がると霧が出始め
る。アトリエと自宅のあるこの高台は、梅雨の時期、深い霧にすっぽりと包まれる。霧を通すと見慣れた樹木のつらなりが,幽玄な世界に様変わ
りする。神戸にいて深山幽谷に迷い込んだようだ。ある時、霧を追いかけた。デジカメを慌てて家に取りに帰り、霧を見つめてシャツターを押し
た。霧は強い風にドンドン、ドンドン吹き飛ばされ、シャッターを押した時すでに流れ去っている。とうとう電池も切れて、柵にもたれかかって
ガックリとなった。
私の抽象画に輪郭は必要ないので、霧の光景は気になるものの一つだ。この霧の流れる感じ、湧き上る感じが作品に現れたことがある。いつもな
がらに感覚は後から不意にやってくる。昨年100号の作品にそんな感性がのぼってきた。あのときの霧、と感じた。追いかけて、追いかけて、よ
かった、とこころから思った。
WORKS 2013-1 91.0×72.7cm 油彩 FANGO美術館 『太陽の島シチリアに於ける日本の芸術展』出品 2013年(イタリア)