毎日がしあわせ日和

ほんとうの自分に戻れば戻るほど 毎日がしあわせ日和

冬至に寄せて ~ 星野道夫とムーミンの世界

2013年12月22日 14時18分45秒 | 大好きな本・映画・ほか

きょう、冬至。

一年で一番日の短い日。



いつもだったら「カボチャどう料理しようかな~」とか すぐそんな話にいっちゃうんですが(^_^;) 、きょうはちょっと違うところから。



奈良にいたころは あまり氣にしてなかったんですが、この南紀の山里は なにせ山の中、普段からお日さまが隠れるのが早い。

しかも、天氣が変わりやすく、冬は特に 一日中からっと晴れる日が少ないのです。

朝方陽氣な青空でも、午後には雲がかかることが多くて。

その分、雲の隙間から神秘的な「天使の梯子」を拝めることも多いから、冬の午後も大好きなんですが、寒風に吹きつけられながら 薄曇りの枯れ野原を散歩しているときなど、やはりお日さまの光や温もりが恋しくなります。

ましてや きょうの短いお日さま時間、一番日が高いはずの1時前後の日ざしもほんのり柔らかく、3時を過ぎたらたちまち薄暗くなり始める。

なんだかもの悲しい氣分ですが、そんなとき「さあ、これから日一日と またお日さまの顔を出す時間が長くなっていくんだ」と思うと、一転して 晴ればれと明るい氣持ちになれるんだなぁ(^^)

1月、2月と 寒さはますます厳しくなっていくけれど、少しずつ長くなっていく昼間の時間が、やがてくる春を楽しみに じっと静かに時を過ごす心を支えてくれる。

そして 春になったとき、そんな冬の記憶が この上なくなつかしく愛おしいものとして 思い出されるんですね。



アラスカの豊かな自然を撮り続け、1996年 カムチャツカでクマに襲われ逝去された写真家・星野道夫さんの「長い旅の途中」という本に、こんな一節があります。



  “あと、十日もすれば、冬至。

   この土地で暮らす人々にとって、その日は、氣持ちの分岐点。

   極北のきびしい冬はこれから始まるのだが、太陽の描く弧は、少しずつ広がってくる。

   そして人々は、心のどこかで、春の在り処をしっかりとらえている。

   今日も、太陽は、わずかに地平線から顔をのぞかせただけだ。

   沈んでいった夕陽が、少しの間、凍てついた冬の空を赤く染めている。

   やがて闇が押し寄せてきて、長い夜が始まってゆく。

   陽の沈まぬ夏の白夜より、暗黒の冬に魅かれるのは、太陽を慈しむという、遠い記憶を呼び覚ましてくれるからなのかもしれない。

   忘れていた、私たちの脆さを、そっと教えてくれるのだ。”



深く深く染み入るような言葉。

失われるからこそ 愛おしさが増す。

寂しさの中から浮かび上がるあたたかさ。

日頃当たり前のように思っているものが どれほどかけがえのないものかを思い出させてくれる、長い冬の夜。


星野道夫さんの文は、味わっても味わっても味わいつくせないほど深くて 滋味溢れていて、私のひそかな心の宝物です。



もうひとつ、冬至といえば思い出すのが、トーベ・ヤンソン作「ムーミン谷の冬」。

わたしが生まれる前から両親が用意してくれていた、岩波・少年少女世界文学全集に収録されていて、故・岸田今日子さんがムーミンの声を演じておられたアニメですっかりムーミンの世界に夢中になった私が初めて読んだ ムーミンシリーズの一冊です。

ムーミンたちは 冬は冬眠するので、本来は春から初冬までのお話しかないはずなんですが、なぜかひとりだけ冬眠から覚めてしまったムーミントロールが 初めての冬を経験する、シリーズ長編では唯一の(短編にはクリスマスのお話もあるんですが)冬の物語。

私は最初にいきなりこれを読んでしまったので、ムーミンと冬景色が心の中でしっかり結びついてしまっているんですね(^^ゞ



家族はみんないくら起こしても起きてくれず、たったひとりで生まれて初めての冬を過ごすことになった ムーミンの不安や孤独。

とはいえ、まったくひとりぼっちなわけではなく、おなじみちびのミイもなぜか起き出して 盛大に冬をエンジョイしており、また これまで出会ったことがなかった冬の住人たちとも少しずつ知り合って、いろいろな体験をしてゆくわけですが。



お日さまがかえってくる前の日の晩に燃やす 冬の大かがり火と、冬の間だけ姿を現す生き物たちが 火のまわりをはねまわって踊る 黒い影。

北欧の長い暗黒の夜を 寒さと寂しさに耐えながら過ごしたムーミンが、「明日はお日さまが出る」と聞かされて、胸をときめかせながら待ちに待ったあげく、水平線に糸のように細いひとすじの赤い光を見たときの 躍り上がるような喜びと、それがあっという間に沈んで消えてしまったときの落胆。

お話の世界にすっかり入り込み、ムーミンに心を添わせて一喜一憂しながら おしまいまで読み終わったとき、自分もムーミンと共に 長く暗く厳しい冬を味わい抜いて 春を迎えたような心地になっているのです。

フィンランドと日本では 冬の表情もまるっきり違うのでしょうが、それでも 冬独特の自然から伝わる氣配や そこで暮らす生き物たちの思いは、共感とともに胸の奥にしっかりしまい込まれ、時が経つほどに熟成して、今もふとしたおりに 冬に寄せる自身の思いと相まって なつかしく浮かび上がってきます。




占星術的には、冬至は エネルギーの切り替えポイントに当たるのだとか。

新年の決意の前の 深い内省のときなのだそうです。

今夜は熱いミルクティーでもお供に、星野道夫さんの本や「ムーミン谷の冬」など読み返しながら、じっくり物思いにふけるとしましょうか。






















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