2004・8 記述文拠り
骨
ホラホラ、これが僕の骨だ、
生きてゐた時の苦労にみちた
あのけがらはしい肉を破つて、
しらじらと雨に洗はれ、
ヌックと出た、骨の尖。
それは光沢もない、
ただいたづらにしらじらと、
雨を吸収する、
風に吹かれる、
幾分空を反映する。
生きてゐた時に、
これが食堂の雑踏の中に、
坐つてゐたこともある、
みつばのおしたしを食つたこと . . . 本文を読む
2005・4 筆者覚書補遺文
文芸評論家・江藤淳氏の自殺を知ったのは、
氏の遺稿集を馴染みの本屋さんで見かけたときのことでした。
確か、それは99年、夏でしたね。
氏の著作には学生時分、大変、お世話になりました。
私にとって文芸批評家と言えば、
小林秀雄氏と江藤淳氏、
このお二方が“双璧のひと”でしたね。
分けても氏が慶應義塾在籍の折の
『夏目漱石論』には慧眼を享け、
当時 . . . 本文を読む
また安吾が囁(ささや)いてくる
また安吾が滲(し)みている
坂口安吾、この稀代の、才人のものしたものを僕は、よく好んで読む。その短編に『暗い青春』というのがあって、これはかの芥川龍之介のおい、葛巻義敏が同人雑誌を出す際、組した安吾と共にその編纂の為に寄宿した龍之介自身の家にまつわるお話しで、つまり「暗い」とは芥川龍之介の家のことを指し、そこから安吾自身の青年期をも指して「暗い青春」と名づけ . . . 本文を読む
2008/1記述
石川達三の書は、
今では亡き父の本棚にうずたかく詰まれており、
その父のお気に入りの作家として興味が起こり、
学生時分に読み綴った作家のひとりです。
この今では世間の耳目にとんとのぼりにくい作家であろう、
と想われる小説家の作で、
僕が真摯に気持ちを傾けて読み綴った作と申せば、
『生きている兵隊』。
一括りの戦争小説という枠を脱した諧謔性なるものが感じられ、
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「かの女は森の花ざかりに死んで行った かの女は余所にもっと青い森のある事を知っていた」というシャルル・クロス散人の詩文を、かの三島由紀夫は、自身、16歳で書き上げた小説に付した。ちょっと物言いで、どこか遠まわしな、けれどきちんと文脈が筋立った、と申しましょうか、すでに三島特有の文体が仄見える青年時代の作品です。
三島自身の言葉を借りれば、「リルケ風な小説。浪漫派の悪影響と若年寄のような気取 . . . 本文を読む
2004・11 記述文より
村上春樹氏は、私にとって随分長い間、異能の人のままです。以前、私は読まず嫌いの村上春樹嫌いで、つとに有名で、まして文芸仲間でも、氏の描く世界観を評価するものたちは少なく、だからますます私は、いわゆる村上ワールドから遠のくばかり。出す新作、出す新作、そのほとんどがベストセラーの上位にくるということは、それだけ広範で多くの読者の支持を得ているということ。そう考えると、 . . . 本文を読む