先週末、岡山県で公演を終えた『ヘレン・ケラー〜ひびき合うものたち』の旅班は山口県防府市を経由して関門海峡を渡りました。
5月14日(月) 純心女子高校(長崎県) 同校体育館
5月16日(水) 山口大学教育学部附属光中学校(山口県) 同校体育館
5月18日(金) 島前交流公演(島根県) 島前高校体育館
長崎純心女子中学・高校
春の旅公演で唯一の九州での公演です。
毎年秋には九州で長い旅をする風のメンバーにとっては馴染み深い場所。長崎に着くととても懐かしく感じました。
純心女子中学・高校の体育館に前日の日曜日に舞台を組みました。教頭先生には夜遅くまでお付き合いいただき、生徒さんを迎える準備万端です!
当日は午前中の公演。登校してくる生徒さんたちの好奇心いっぱいの様子にこちらも楽しみになります。
聖母マリアを理想とする女子教育に力を入れている学校とのこと。シスターでもある校長先生のヘレン・ケラーとアニー・サリバンについてのお話は生徒さんへの願いが詰まっていました。話に引き込まれた雰囲気の中で開演。
生徒の皆さんの繊細でしっかり人と向き合う心が伝わってくるような2時間でした。
公演後の片付けをしている時、一年生の担任をしている先生が、主演の高階ひかりと倉八ほなみに聞きたいことがあると体育館を訪ねてきました。
今は親から自分の好きなことをやりなさいと言ってもらえる子が多いが、自分が何をしたいのか夢を見つけにくい時代。生徒の背中を押してやりたいが、どう夢を持たせてやれるのか…。演劇に情熱を傾ける2人が、いつ何をキッカケにこの道に進もうと思ったのか知りたい。生徒を想う先生の真剣さが伝わってくる出来事でした。
終演後は午後も授業があるため限られた時間でしたが、演劇部の皆さんとバックステージツアーを行いました。道具にふれながら出演者との話も弾みました。「前からヘレン・ケラーには興味があったけど、2人が出会う前にどんな葛藤があったのか、始まりの始まりを見られたのがよかった。」という生徒さんもいました。
生徒さんたちにとって今が始まりの時。たくさん悩んで、本当に自分の望むことを見つけて欲しいと思います。この学校にはちゃんと向き合ってくれる先生がいるはずです。
山口大学教育学部附光中学校
前日にトラックを置きに学校へ到着すると、学校の目の前が海…!
町はお祭りで賑わっていました。
昨年の山口大附属中での公演の好評に続いて、こちらでは初めての風の公演。担当をして下さった荒瀬教頭先生はなんと旅公演の座長、緒方一則の高校時代の後輩という方でした。
公演前に演劇クラブ、言語クラブの皆さんが舞台見学をしました。部活動とは別に文化祭に向けてのクラブがあるそうです。お互いに話しながら見学したり機材に触ったり、文化祭に向けての熱心さが伝わってきました。
公演中の体育館はとても暑かったけれど、一人一人が何かに出会おうと求めてそこにいると感じました。
カーテンコールの場での生徒会長さんからの言葉です。「まず、皆さんの演劇を見てプロだと思った。せりふを話す時は身体中で表現し、せりふのない時は視線や反応など細かいところから伝わるものがありました。文化祭での発表に生かしていきたい。」
この言葉を聞けば、光中の舞台発表が自分の身体で立ち、人との間に生まれるものを大事にしている貴重な経験の場であることがわかります。
公演後には先生方からの希望により、緒方が生徒さんに向けての講話を行いました。また片付けを手伝ってくれた男子・女子バスケ部と野球部の生徒さんはとても元気で積極的に劇団員に話しかけてくれました。素敵な笑顔の中学生たちと最後まで大いに盛り上がりました。
島前交流公演
七類港からフェリーで約3時間。キラキラ輝く海を越え、力強い岩場と木々の島が見えてきました。
島根県隠岐諸島の海士町、西ノ島町、知夫村の3島は島前(どうぜん)と呼ばれています。その中でも一番小さな島、知夫村で7年前に風の『星の王子さま』を公演しました。その時にお世話になった方々を訪ね、人の繋がりから生まれた今回の3島合同公演。
海士町にある隠岐島前高校の体育館を会場として、同校の先生方のご協力のもと今までにない交流公演の場が実現しました!
昼間の公演では海士中学、西ノ島中学、知夫中学、隠岐島前高校の皆さんが観劇しました。
「島前高校が地域の皆さんにとって身近な存在でありたいと思います。島と島が様々な違いを超えて繋がっていきたい。」という校長先生のお話を受けて開演しました。
客席の皆さんの、舞台の出来事を観察する熱く深いまなざしを感じました。
終演後には中学校の全校生徒さんと、高校の有志の生徒さんが舞台見学をしました。舞台の道具にふれ、照明や音響の操作を体験する生徒さんの生き生きとした姿を見て、先生方も驚いていました。船やバスで帰る中学生の皆さんを見送った後も、高校生の皆さんと劇団員との話が尽きることなくお互いに知り合うことができた時間でした。小学生の時に『星の王子さま』を見た子たちとの再会もあり、演劇の場が子どもたちの心に日常とは違う次元で鮮明に残っていくことを改めて感じました。
その夜は一般公演を行いました。小さな子どもたちを連れた家族や、私たちが島に着いた時に話しかけてくれた人、『星の王子さま』でお世話になった方々、演劇を見てみたかったという人たち、そしてツアーメンバーの家族や私たちの友人も隠岐の島まで駆けつけてくれてビックリ!
今回の2公演の主催者、海士町役場の濱中さんが開演前に挨拶をして下さいました。「私は昼間の公演で自分の家族のことを思いながら見ました。皆さんにもぜひ自分にとっての何かと重ねながら見ていただきたい。」終演後にお会いした方々の温かい笑顔や言葉から、交流公演を企画して下さった役場の方々の想いが観客席の皆さんにしっかり通じたのではないかと感じました。
私たちはいつも公演が終わると間もなく次の公演地へ向かいますが、今回は島ならではの交流の時間を創ることができました。
翌日、学校の寮におじゃまして島前高校の「ヒトツナギ部」の皆さんと交流しました。
人と繋がるという人生においてとても大切なことを求めてこの学校へ来た若い人たち。彼らの強い意志と自由な広がりを持つ考えは、人との真の出会いを求め続ける私たちの演劇活動と深く通じるものでした。
そして海士町の「ないものはない」(この島にないものはたくさんある。でも人間にとって本当に必要なものはここにある)という精神を島の人たちと出会うことで学びました。
私たちが演劇の場を創り旅を続けるのはなぜか?
私は自身にとっての大切なこと、考え、生き方をつかの間の出会いの中で人と交わしたい。そして人と繋がりたいからだと思いました。
まだ始まったばかりの“旅”について一人一人が考え公演に向かっていける一週間になりました。
文:稲葉礼恵(パーシー役)