前日から、今日は数十年に一度の寒波が来ると言っていた。どんなに雪が積もるのだろう、食料の買い出しもしておいた方が良いんだろうか。と思いつつも、何の準備もせずに朝となった。
夜半から雨戸がカタカタ鳴って、風が強いと知らせる。朝の部屋は今シーズン一番の冷え、風向きは・・。おっ、今日はあれが見られるかもしれない。予想では、きっとあるはず。
いつもなら、太陽が隣の家からすっかり現れるまで行動開始しない私だが、今日は早々と出かける準備を始める。 手袋、帽子、分厚いコート、カメラ、それと長靴。
予想しながら家を出、期待しながらびわ湖を目指す。
白く輝く比良の山々
麦のあおさ、
空のあおさ
びわ湖もきっとあおいでしょう
期待しながら行ったびわ湖。白波が立ちまくり、岸にはザブンザブンと打ち付けているびわ湖が見えてくると、それはもう、確信となった。
震えあがる寒さとこの風。あるな、絶対に「しぶき氷」があるな、と確信して湖岸を進む。 しぶき氷は、寒ければいつでも見られる訳ではない。氷点下の寒さ、北西の強い風、水際の木。その条件でも少し地形が違うと現れないこともある。
どこにできるかと言うと・・・
目指す岸には、やっぱりあった。
しぶき氷
つららではありません
風と波と寒さと枝の
共同作品
「何十年ぶりかの大寒波」のふれこみだったが、幸か不幸かこの辺りの冷えはそれほどでもなかった。しぶき氷は確かにできてはいたが、だいぶ小振りだ。それでもめったに見られない冬の光景を作ってくれたびわ湖に感謝する。
湖岸に下りると波しぶきがもろにかかる。凍った岩で滑ろうものならあっという間にびわ湖の餌食となる。へっぴり腰が我ながらおかしかった。
今、
まさに生まれようとするしぶき氷
こんにちは
ようこそびわ湖へ
しかし、まぁ、寒いのなんの。 早々に車に戻った。 冬のびわ湖の風物詩、でもあるしぶき氷。小さくても満足の出会いだった。 さて、ここまで来たらあのお方にご挨拶していかなくては、と向かったのがあのお方、「ビワガメ」さん。
こんにちは ビワガメさん
今日は寒中水泳ですか
えっ、修行?
そうですか、
風邪をひきませんように
覚えておいでだろうか、私のびわ湖の友人、「ビワガメ」。まだ硬い桜の芽を見上げる様に背中を出す。大きな波が来ると凍てつく水にすっぽりと隠れるが、2月のフキノトウを、3月のツクシを、4月のサクラを、5月のシャガを楽しみに修行に励んでいるのだろう。
ではまた来ますね
氷の湖岸からの帰り道、そうそう、この亀さんにもご挨拶しなければ。
カメジマさん
今日は一番の寒さですよ
あなたも修行ですか
えっ、
竜宮城に行くのですか
お気をつけて
本当の島ではないが島のように見えるので私が「カメジマ」と呼ぶ辺り。そうそう、あそこには龍神さまがおいでになる。今年はまだご挨拶に行っていない。ではおのお方にもお目にかかってこなくては。
いつ来てもきれいに掃き清められている龍神さまと龍王様。岩を穿って祀ってある祠の前に小さな石仏がお立ちになる。
おやまぁ、と目が行ったのは
おやまぁ、お揃いで
麦わら帽子ですか
よくお似合いですよ
かさこ地蔵 の様ですね
いつからこの帽子が被されているのか、それがわからないほど、ご無沙汰してしまったのだろうか。それとも、先週の雪の時、ここをお守りしている人がお被せしたのだろうか。赤いよだれかけと麦わら帽子と寒風と。この奇妙な取り合わせが微笑ましかった。
このお社の近くにもしぶき氷がある。
氷は太陽の光で輝きながら、その光を受けてびわ湖に落ちて水となり、そしてまた寒い夜に氷となって水上に現れる。
液体と個体を行き来し、水中と水上を行き来し、水と氷と言う名前を行き来するもの。指の間から滴り落ちる非力な存在のようでいて、変幻自在の能力と卓越した順応性を秘めたもの。そんなものの集合体。
一滴(ひとしずく)のびわ湖
龍神様・龍王様にお暇乞いをし、帰りに我が家御用達の湖岸に寄る。
家族と一緒にバーベキューやスイカ割りや水遊びをする岸。友人と一緒にカヤックやランチ会や車中泊をする岸。いつも静かに迎えてくれるこの岸も、今日は猛々しい。こんな岸も又、勇壮で良いものだなぁ。
予想し、期待し、確信した冬のびわ湖。いいびわ湖だった。
うぅ、本当に冷えてきた。早く帰って、熱いコーヒーでも飲もう。