前に作っていた「阿形(あぎょう)」に彩色を試みた。鼻瘤悪尉が終わってすぐだったが、壁に飾ってある30数面の能面で彩色が終わっていないのは3個である。そのうちの一つがこれだった。
この面の原型はもともと「金剛力士像 阿形」である。あの東大寺にある像だ。この面の図面はもともとなかった。それを、阿形の写真に基づいて私が勝手に書いた図面を参考にして彫ったものである。だから、顔つきがどうも違う。
この像を正面から撮った写真はほとんどない。すべてと言っていいぐらい下から見上げた写真しかないのだ。また、色がきれいに付いた写真もない。そのため、見上げた写真を正面から見たように書いたつもりでもずいぶんと表情が違ってしまった。それをそのまま彫ったことで、後から写真と見比べても、迫力がないのだ。
これは本物の写真。似てはいるが作った面とはずいぶんと違う。しかも色がないから、見ていても違和感があるのも事実だ。が、そんなことを言ってもしょうがないので、自作の方を評価してみよう。
面の造りはやむを得ないとしても、色を塗る場合、見本がないのも困ったのだ。しかし、これもしょうがないから、これまで作っていた能面を参考にして、とにかく彩色をしてみたというところ。オレンジがかった顔は、仁王様が怒ったらこんな顔色になるのでは・・・と勝手に考えて決めた。髭や眉を黒で描いたのは、「おおべしみ」を見本にした。
この金剛力士像は、元は極彩色で彩られていたのではないかと考える。それが長い年月ではげ落ちてくすんだ地肌が出たままの状態が、我々が見ている「金剛力士像 阿形」ではないかと推測した。従って創建当時の色を再現したのが上の写真であろう・・と勝手に考えている。また、眼球を真鍮坂で作ってみたが、これも勝手に色を付けたようなもの。
いずれにしても、本物の色彩が全く分からないまま、想像で色を付けたところ、ああなってしまったというところが結論である。だから「あれはちがう」という評価は無視して、単純に彩色をしたという事実だけでご勘弁して頂きたい。
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