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「旅の終わり、始まりの旅」井上荒野ほか

2021-08-11 | 日記

五人の作家の短編、アンソロジー。

いずれも下北半島を旅する話。下北半島は本州の北の果て、人の思いがそこで行き止まり、いたこが口寄せする恐山もある、過去と現在が、交錯する場所。

人はそこまで来て自分を振り返り、新しい一歩を踏み出す。たとえそれが身をちぎられるほどの決別としても、土地の持つ力が後押しをする。

文庫本なので特に期待していたわけではないけれど、この中では井上荒野の「下北みれん」が面白かった。倦怠期を過ぎて最早別れの兆しのある、ゲイのカップル、若いシンゴと中年の俺。

二人は旅に出る。途中で耳の聞こえない若い女性ジーンと道連れになり、宿に三人で一泊して恐山を目指す。三人のやり取りの中に、終わるしかない男同士の恋愛の細部が埋め込まれている。捨てられるのは中年の俺。シンゴは女の子と仲良くして見せることで、関係が終わるのだと釘をさす。

これ、同性愛の場面でもそうだけど、普通の男女関係、友達関係でもよくみられる光景。仲良かったつもりでも相手はそうでもなく、別な人と親密な様子を見せられて傷つく。自分が知らない話をしていて、自分が誘われずに二人で出かけているとか。

そんな時には、いくら頑張っても流れは逆には行かない。そうやってボーイフレンドを得て、高校時代からの親友と疎遠になった苦い経験が私にもある。(私が横取りしたわけではありません。相手が寄って来ただけです。と言い訳)

またうんと年取ってからでも、お稽古ごとの中の人間関係でも、いつの間にか自分がのけ者になっていることもありそうで。

それはまあ仕方ないこと、人の気持ちは流動的。いい悪いではない。自分に何か落ち度があるわけでもない。相手はそうしたいからしているだけで、自分が原因ではない。

そこらあたりがよく書けていると思った。男が男を好きになって肉体関係を持つ。それでも二人は入籍するわけではないから、恋の終着点は同棲。同棲は不安定だから、養子縁組して身内になる手もありそうですね。想像ですが。

でもこの作品の中の俺みたいに妻子がいるとそれも不可能。一時いい思いをして人生を二倍楽しめたのだから、終わり方も痛手がある。それもまた人生。ばあちゃんはいい勉強になりました。

 

 

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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (一年生)
2021-08-11 09:53:37
おはようございます

凄い世界ですね~

差別するわけじゃないけど、今の時代そういうのが

堂々とって感じになりましたね~

昔のように少し遠慮がちにって位が

気持ちが盛り上がりそうな気もしますが。

でも生まれつき、そう言う人がいるというのは理解してあげたいとは思いますが。

お互い両刀使いで人生2倍恋愛楽しめるかも?
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Unknown (びこ)
2021-08-11 10:52:33
Blogでもありますね。私のやっている短歌界でも当然あります。短歌は人の心を詠うものですから普通より多くなりがちかも。歌人の性癖はそういうことに拘る人が選ぶ趣味とも言えますし…。

小説を書かれていて、人の心の奥まで読み取ることのできたfrozenroseさんも異性にはモテたでしょうね。
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一年生様へ (frozenrose)
2021-08-11 17:36:34
こんにちは。
同性愛って昔は変態と言う言葉で差別、嘲笑されていましたが、今はそれもまた人間の特徴として、認められるようになりましたね。
言い出さないだけで割合は結構高いのではないでしょうか。
性的暴行は異性間だけではなくて、男性間でもあるし、昔の武将は戦場に少年を連れて行って女性の代わりとしたとかを聞くと、人間の心の奥深さを思います。
縁のないことでも本には書いてある。それで私も見聞を少し広めているわけです。

人生を二倍楽しめる・・・いいですね。なかなかにスリリングな世界だと思います。
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びこ様へ (frozenrose)
2021-08-11 17:46:27
こんにちは。
引き続いてのコメントありがとうございます。
孫が逗留していて、しょっちゅう私のパソコン使っています。なかなかそちら様へコメント入れられなくて失礼しています。

短歌はものの本質を切り込むように表現するジャンルなので、異性愛も同性愛もありのままに歌われるのでしょうか。

いえいえどんな文芸のジャンルでも表現して悪いことはそんなにたくさんはないはず。自分で規制をかけたのは初めから面白くないでしょう。

短歌は殆ど不勉強で申し訳ないのですが、伝統的な花鳥風月はもう時代遅れなんでしょうね。

人間の存在に切り込み、ああそういう面もあると深く納得できる作品はきっといい作品なんでしょうね。

さて、異性にもてたかとのご質問ですがそんなことはありません。生徒数の多い学校なので、美人もたくさん。
きれいな人はさっさと彼氏作って結婚していった。勉強なんて関係ないと、勉強熱心だった私の友達がいまだに言っています。

勉強のよくできる男の子ほど理想が高くて美人が好きですね。私の狭い見聞によると。頭のいい子よりはきれいな子がモテていました。

美貌で女性の運命は変わるけれど、与えられた運命を生かすのも殺すのも自分次第と、年取ったら考えるようにしています。

同級生で頭がよくて美人の人がいましたが、早くに交通事故で亡くなりました。人の運命はそれぞれ。この年まで大過なく来たことに感謝しています。

長話でごめんなさい。中々コメントが書けずごめんなさいね。
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Unknown (ryuu57577 龍)
2021-08-12 07:49:26
おはようございます😄龍です🐉

短編集好き、アンソロジー好きの私、
読んでみたくなりました。
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ryuu57577 龍様へ (frozenrose)
2021-08-13 03:52:15
おはようございます。
各作家、軽く流しているようでそこはプロ、むしろその人のテクニックが凝縮されていて、その取り合わせがいいハーモニーになっていました。
よかったらどうぞ。
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