15年くらい前、雑誌クロワッサンに連載していたのを一冊にまとめたもの。挿絵はイラストレーターの大橋歩。
お洒落提案系の雑誌のエッセィなので、軽く読めてちょっと考えさせられて、全体としてちょっとものの見方が深くなって心すっきりというのを読者は期待していると思う。
村上春樹氏はそういう書き方がとてもうまく、挿絵と相まって独特の村上ワードが出来上がっていると思う。
この時代にも深刻なことはいろいろあったはずだけど、あえてそれに触れないことで、今でも読むに堪える。不思議な感覚を味わった。ユニクロでは寂しすぎる。無印良品のようなニュートラルな世界。
ときどき、なるほどと思わされる指摘がある。たとえば16歳から21歳までにたくさんの恋愛をすると、みずみずしい原風景が心の中に残り、体内に暖炉を持っているようなもので、それからの人生を内側から温めてくれるという作家の指摘。
直接小説の材料にならないとしても、若い時の心の振幅が大きいほど、人生のいろんな場面で何とかやり過ごしていける耐性もつくのではと私は思う。
だからどうだっていうのか、と聞かれれば、ちょっとあれだけど。って、こんなはぐらかした言い方が、村上氏の真骨頂。おやおや、うつったのかな、やれやれとますます村上調。