あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

夢は第2の人生である 第37回 

2016-10-22 10:57:47 | Weblog


西暦2015年師走蝶人酔生夢死幾百夜


ふと見ると目の前の白い花にウスバキチョウが止まって一心不乱に蜜を吸うておる。北海道のそれも大雪山系・十勝岳連峰の高山地帯にしか棲息しないはずの天然記念物がどうしてこんな里山にいるのかと私は訝しく思った。12/1

じつは訝しく思うが早いか、それとも遅いか分からないうちに、私は夢中で、透明な翅を持つその高貴な蝶の黒い胴体を、むんずと捕まえ、右手の人差指と中指で両の羽を抑えながら、左手の親指と人差し指で、むぎゅうと胸を押すと、暫く指を押し返していた彼女は、ぐったりとなった。12/1

ここ数年の間に、東京では日本人が激減し、海を渡って、赤白黄色黒色の異民族の人々が押し寄せてきたので、犯罪が激増し、私たち捜査1課の刑事たちは、容疑者の捜査や取り調べに必要な英語、スペイン語、中国語、韓国語、アラビア語の習得に追われていた。12/2

今日は公衆衛生の日なので、われわれは公園のトイレを掃除し、トイレットペーパーをとりつけた。しかし私は便器に降りかかった巨大なウンチに手を触れることだけは、どうしても出来なかった。12/3

久しぶりに、ファッションショーを見た。聞けば私の妹が、その新ブランドの店長を務めるというのだが、大丈夫だろうか? 彼女は嬉しさゆえに、まるで蝶のようにフワフワと舞いあがっている。12/3

クーデターにかかわった劇団の幹部たちは、東京から安曇野まで逃れてきたのだが、北アルプスの山麓で、いよいよ最後の時を迎えようとしていた。12/4

私は、シロナガスクジラだ。久しぶりに湾内に入って遊弋していると、管理人が飛んできて、「きみきみ、ここはドックなんだから、勝手に泳ぎ回っては困る。君の番号は110番なんだから、その番号の場所に停泊しなさい」と怒った。12/6

小学館から頼まれて、ビルの小集会ホールで環境問題について講演しようと「夕張炭鉱では!」と声を張り上げたら、右傾化する会社に対する抗議集会も同じ会場で開催されていて、拡声器が「打倒相賀!」とシュプレヒコールを絶叫するので、夕張炭鉱どころではなくなり、ほうほうのていで引き揚げた。12/6

念願のミステリートレインが、いよいよ発車するようだ。どこか私の見知らぬ素晴らしい土地へ連れて行ってくれるとうれしいな。12/7

耕君が一人で特急に乗って、田舎の親戚まで旅立つことになったので、駅に停車している電車の中まで見送りに行ったら、先頭の1号車の1番の席に、巨大なライオンが寝そべっている。困った困った。12/9

新人も超ベテランも、同じひとつのスポーツを楽しむことができるので、その奇跡のような平等性を、私は掌中の珠のように慈しんでいた。12/10

実際茂原印刷のスポーツ選手は、超カッコ良かった。秋冬には、真っ赤なスウエーデン刺繍のセーターを着て、運動場で日向ぼっこをしていると、大勢の女子が「サインしてえ!」と近寄って来るのだった。12/11

国賊といわれて村八分になり、夜逃げする途中で、高校生のA子に出会ったら、「どこにでもいくから連れて行って欲しいの」といわれて、B市の安ホテルに泊ったら、私のすがれた胸にしがみついてきた。12/11

痛い痛い、猛烈に歯が痛い。しかし朝起きたら、痛みが消えてしまっているかも知れない。するとこの痛みはなんなのだ。嘘か眞か、予兆か警告か、心臓からの便りか。12/12

案ずることはない、「南無阿弥陀仏」と唱えておれば、それでいいのじゃ、と誰かの声がした。12/13

南の島のヤシの樹の下で、まず私がジャンプして、右手で2枚の布を放り投げると、それが落ちてくるところを捕まえた息子が、今度は左手で放り投げる。私たちはそんな動作をいつまでも繰り返していた。12/14

疲労困憊した私が、テントに潜り込んで寝ていると、いつの間にか見知らぬ女が私の傍に横たわっているので、「どうした?」と云うてやると、いきなり抱きついてきたので、どうしようもなく2人は獣になってしまった。12/16

我われは苛烈な戦闘の後で、とうとうギシック号を占拠して、無期限ストライキに突入した。その翌日はガ島に上陸して大学の寄宿舎を封鎖し、しばらくはそこで待機することにした。12/17

敵が来襲してきたので、私はいつものように家ごと飛びあがって応戦しようとしたが、なぜか重くて駄目だったので、仕方なく私だけで空に舞い上がったが、時すでに遅く、万里の長城のような巨大なものが、空を覆い尽くして迫ってきた。12/19

突如白刃をきらめかせている3人の侍に取り囲まれた私は、おもむろに抜刀しながら、こやつらも侍のはしくれ、いっときに3人が押し寄せることはないだろう。しからば1人ずつ退治するまでのことじゃ、と青眼に構えた。12/20

仕事がなくて喰うに困っていた私に、同文社の前田さんからメールがあって、これから始まる「失われた寺社仏閣全集」の取材とライターをやってほしいという。「これは面白そうだ、まずは鎌倉の大慈寺から行きましょう」と提案したら、そういうのもあなたの好きにやってもらいたいといわれた。12/21

「ただしこのシリーズは毎月1冊のペースで刊行し、全100巻にまとめたいので、原稿締め切りは毎月末にしてもらいたい」というので、「ちょっと待ってください、せめて1ヶ月半にしてください」と頼んだら、「まあいいでしょう」という返事だったが、いつまで経っても肝心のギャラの話がない。12/21

税金取りが差し押さえにやってきた。私の虎の子の現金は、庭の草上の食卓の上に全額置かれていたのだが、彼らはまさかそんなことがあろうとは夢にも思わず、部屋の中をあらさがししてから引き揚げたので、私は九死に一生を得たのだった。12/22

猛烈なブリザードが吹き付ける冬のアイガー北壁の一角にあって、1ミリも身動きできず、私は何昼夜にもわたって一匹のヤモリのようにへばりついていた。12/23

王の一族は、先祖代々近親結婚が続いて蒲柳の質が相続され、、長男も次男も子宝に恵まれなかったので、仕方なくそれぞれに養子を取ったのだが、その養子の動物的活力が新たな騒動と禍の元になって一族の混乱は末永く続き、やがて滅びた。12/24

忘年会へ行こうと部下のTと新宿を歩いていたら、交差点に懐かしの女が青ざめた顔で立っていたので、Tに先に行ってくれと頼んで女の手をそっと握ると、氷のように冷たい。
とりあえず伊勢丹の前のきっちゃてんに入ったが、客はいないし、誰も注文を取りに来ない。
仕方なく2階に上がって、自分でコーヒーとアイスクリームを作り、急な階段をそろそろ降りて1階の席まで戻ると、女はいない。代わりに取引先のS社の大勢の連中が、すべての席をうずめつくして大騒ぎしている。12/25

我われは次第にその村人たちと仲良くなり、時々彼らの家で御馳走になったり、彼らと連れだって町へ買い物に行くようになった。12/26

その大きなヘリが墜落したために、2匹の羊が潰されて死んでしまった。ついでに残るⅠ匹も殺してやろう、とヘリから出てきた乗組員が羊に襲いかかると、その羊はメエエ、メエエと鳴きながら必死に抵抗したので、町の人々は拍手喝采した。12/27

愛犬ムクと愛猫ノラを谷間で遊ばせ、私だけ一気に山頂に駆けあがって一息入れていると、下の方からなにやら悲鳴のようなものが聞こえてきた。山頂から覗き穴で眺めてみると、谷間を巨大な獣がうろつきまわっている。12/27

熊だ!ヒグマだ! ムクとノラが危ない! どうしよう。しかしこんなに離れていてはどうしようもない。ひたすら無事を祈りながら、なおも覗き穴に目を凝らしていると、白い小さな動物がこちらに登ってきた。

あれはノラだ。愛猫の後には槿毛色の愛犬ムクが、その後ろからはウサギやイノシシ、さらにその後ろからは、なんと獰猛なヒグマが山頂めがけてしずしずと登ってくるではないか!12/27

おや健君じゃないか。なに、お父さんの夢を全部録画してあげるって? そりゃあいいねえ。いまは毎晩夢を見たと思ったらすぐに起き出して、電気をつけて枕元の手帖に殴り書きしているから、オチオチ寝られやしない。どうか全部録画しておくれ、と私は息子に頼んだ。12/29

なに、そのヘッドギアのようなものは? そうかこれを被って寝ると、コードがそっちに伝わって全部記録してくれるのか。なんともまあ便利な機械が出来たもんだねえ。御蔭で今晩からぐっすり安眠できそうだ。健君ありがとう。12/29

町田家の人たちと一緒に歩いていると、どこかからボールが飛んできた。町田まち子が「おじさん、こんなところを散歩してると殺されちゃうよ」と悲鳴をあげたので、周囲を見渡すとそこは国立競技場の中だった。12/30

えいやっ!と捕まえると、ガイガーカウンターだった。

山中の山中家を訪ねたら、ゲンスブールとバーキンの「Je t'aim Moi Non Plus」がガンガンかかっていて、「いまショーで浮かれていた“はくいスケ”を順番に犯しているとこだから、明後日また来てくんろ」という返事だったので、そのまま引き返した。12/30

私はイイネを押し続けたが、その間に国籍不明の敵から爆撃を受けた私たちの船は、あっという間に撃沈され、昏い海の底へと沈んでいった。12/30

百万遍の関西日仏会館辺から、ボロ自転車に乗って東大路を南下していると、急にお腹が減ってきたので、どこか饂飩屋でもないかと探していたが、坊主がお稚児さんをお姫様抱っこしている姿を一瞥して、急に食欲が失せてしまい、気がつけば京都タワーの下にいた。12/31

地元のヤクザに招待され、年忘れパーティでやけ食いしていたら、突如前歯が歯ぐきもろともテーブルに飛び出したので、組員も驚いてのけぞっている。組長が呼んでくれた救急車に乗せられた私がよく調べてみると、それは身に覚えのない誰かの入れ歯だった。12/31


  こんな歌のどこがいいんだという歌を歌壇の大家がこぞりて選ぶ 蝶人



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