ビールを飲むぞ

酒の感想ばかり

「真田軍記」 井上靖

2018-01-03 17:17:07 | 読書
表題作の「真田軍記」
4つの物語からなる短編だ。ひとつめは、「海野能登守自刃」武田氏の武将である小山田信茂の家臣、海野能登守昌影の話である。そろそろ隠居をしようとしていたのに、ふとしたことから城を手に入れてしまった。そして予想外にも2つ目の城も手に入った。ところが一見人の良さそうな真田昌幸の罠にはまり息子とともに滅ぼされてしまうという話だ。真田昌幸には二心はなかったが、真田昌幸はこの勢いで自分も討たれてしまうのではないかと恐れ、加勢するように見せかけ滅ぼしてしまった。
続く「本田忠勝の女」ここでは一転して真田父子が中心となる。本田忠勝の女とはその娘で真田信之に嫁入りした月姫のことである。関ヶ原では昌幸、幸村の西軍と信之の東軍に別れた話がメインとなるが、戦が始まる直前に、最後に月姫と孫に一目会おうと訪ねた昌幸であったが、敵味方に別れた今となっては会わせることができないと拒む。徳川の重臣の娘だけあって、さすがの気丈さという話。「むしろも差物」真田家家臣の間嶋杢の話。幸村に仕えていたが関ヶ原の時たまたま信之側に配された。戦が嫌になり関ヶ原の時に隊を抜け出した。同じように抜け出した杉角兵衛とともに角兵衛の郷里で百姓になった。大阪の陣の折、幸村を見舞おうとだけ思っていたところ、昔の仲間と盛り上がり勢いで百姓の格好に、むしろの差物で合戦に参加することになる。両者合戦を生き残った。そして信之の息子の信吉の元に現れた。今は敵味方の間ではあるが、幸村の戦死をただ伝えにだけ来たという、そして自分たちはどこぞで自刃すると言って去ろうとしたが、信吉から百姓なら百姓らしく自刃などするなと止められ、生きられるだけ生きようとした。「真田影武者」幸村の息子幸綱の話であるが、幸村同様影武者がいたという話。大阪の陣も終盤を迎えたころ正体不明の幸綱と同年代の若者が付き従う。自分は父親から幸綱の身代わりになるよう言いつけられているとのことだ。結局は身代わりになる機会なく、幸綱は自刃した。生き残り数年後見つけられたとき。幸綱なのかどうか問い詰められたが、どうとでも解釈すればいいと答え、結局幸綱でない(であろう)まま処刑された。
ざっとこんな内容だが、詩情豊かに描かれている。いや、詩情豊かがどういうものかわからないのだが、この話の雰囲気がそういうことであればそれが詩情豊かということなのだろう。井上靖の詩をちらっと見てみたが、これがそうなのかもしれないと思った。散文詩というのだろうか。少ない文字でリズムや表現方法で描くというより、短い文章、超短編と言ったものなのだ。そう解釈すればこの小説が小説とも言えるし、詩とも言える。とにかく「風林火山」や「本覚坊遺文」の井上靖らしく、淡々としていて、川端康成のような多色な情緒さではなく、モノクロームに近い、枯れた味わいの情緒さだ。淡々としているがカズオイシグロとも違う。
こういう風な雰囲気の小説をもっと読んでみたいものだ。
20171230読み始め
20180103読了