[DVDISO][映画](アニメ) クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦.iso 鑑賞
いつもの某レビュー 今回は長いぞ・・・
私が勤めている高校の日本史の授業で、3年生卒業記念に「日本史に関係のある映画を鑑賞しよう」と生徒にリクエストをとりました。するとなんと本作が圧倒的多数で支持されたのです。「もう、高3にもなってクレヨンしんちゃんかよー」と言っていた私ですが、「先生、なめちゃだめですよ。半端なく良いですよ」と生徒たちに諭されOKを出したのです。そしたらですね、やっぱりこれが面白いのですよ。歴史考証がしっかりしているというのは評判になっていましたが、これだけの精度でアニメ画面に当時の家屋だとか城郭だとかが展開して見事も見事。城の入り口の開閉門とか濠とかTV時代劇ではこれだけ本格的に作ってくれませんし、戦闘シーンも派手な流血こそありませんがそれ故にリアルで、火縄銃や槍・刀が飛び交う戦場シーンをよく見ている生徒も「投石」は新鮮だったようです。殺陣も戦闘のモブシーンもスタイリッシュに演出されていますし、クレヨンしんちゃんが本来属しているマンガの記号世界のデフォルメ、オーバーアクションとはうって変わって動きもずっしり本物です。侍たちに炊き出しのおにぎりを出す時に疲れているだろうから塩気を多くするとか、戦争が政治交渉の道具となっているという歴史通好みの設定なんか堪えられません。しかも武士団もそれをわきまえていて、退却の合図が敵方から出たら石垣にへばりついている敵兵に「ほらほら、帰れ」って追撃しない。「戦争にルールみたいなものがあるんだ」と生徒も感心していましたが、確かに現代のスポーツマンシップに近い雰囲気があります。中でも又兵衛の武将としての高潔な感じは最高で、彦蔵と儀助に金子を持たせ(その義に感じて傘下に下った二人が又兵衛とともに本陣に切り込んでいる辺りなんか感興極まります)、真柄直高と「さあ、やれ」「お主は殺すに惜しい」…。その心の強さ、情の篤さ、みんな格好良い! これだもの、最後に銃声が轟いた時に「えっ」という声が上がったし、鑑賞後涙を流している生徒が何人もいたのは当然だと思えました。
思えば今の高校生は完全に平成生まれで、子どもの頃に名作童話や昔話で世界観を作るのではなく、ジブリ作品やドラえもんとかがファンタジー世界の中核になっている世代なのです。そして昨今、本当に素晴らしい邦画が増えてきたのと期を一にして、アニメの世界でもこういう志の高い作品が出来ていたのですね。「子ども向け作品だからと言って子どもに迎合した作品を作る訳ではない。むしろ子ども向け作品だからこそ本当に自分の伝えたい価値をぶつけるべきだ」ウルトラマンシリーズや虫プロ・東映動画に関わっていた過去のクリエーター達の様な意気・気骨の復活を感じるではないですか。「自由に恋愛をし、家族を作り守り、そして自分たちの生まれ育った地域を愛する」「自分の分を守り、その中でベストを尽くし、敵側にも理があって、自分たちの知らない世界もあって、それに柔軟に対応する高邁な精神」そして本作が9.11の比較的直後に制作されたという意義も大きいかも知れません。米国がイスラム諸国に対してどう行動すれば良かったのか、そして日本がどういうスタンスを取るべきだったのか、又兵衛や春日の殿様の選択の方がはるかに賢明な態度だったか知れないのです。
銃声が轟くあの結末はタイムトラベルのパラドックスを整合させる設定として新機軸であると同時にドラマ最大の帰結点で、悲しく切ないけれど本当に素晴らしい締めくくりだったと思うのです。そして殿様が述懐するように「この者達の時代には春日の名もなく、有力な戦国大名すら残っていない」訳で、歴史の大きな流れは変えられませんが、その中で個人は自分の生を精一杯に生きていて、その思いは時空を超え相通じ、お互いの心に清々しい痕跡を残すのです。そして戦国時代にあって争い合う者達も、身分の壁のためお互いの愛を打ち明けられない二人も心通わせる。しんちゃんは彼等にそんな素晴らしいものをプレゼントするために遣わされた天使のような役回りです。だから最後の又兵衛は大好きだった青空のように澄み切った気持ちで…。
これはファンタジーではない。現に我々は今、クレヨンしんちゃんのキャラクター世界を共有することによって素晴らしい価値を本作から分かち合っているではないですか。私も「クレヨンしんちゃんなんて…」と頑なだった心に柔軟性を持たせたお陰で、卒業生達が無意識のうちに共有していた素晴らしい価値と心通わせました。みんなありがとう。私なりに、本作が伝えようとしたその素晴らしい価値が何なのかを言語化しました。でも彼等の持つシンプルかつ純粋な言葉の方が力を持つこともあります。最後になりますが、ある生徒たちが残してくれた、本作の感想を引用して本稿を締めます。
「どの時代でも空は青くて、どこにいてもつながっていて、素敵だなって思いました」
ここまで-----------
涙無くしては・・・ 72点
いつもの某レビュー 今回は長いぞ・・・
私が勤めている高校の日本史の授業で、3年生卒業記念に「日本史に関係のある映画を鑑賞しよう」と生徒にリクエストをとりました。するとなんと本作が圧倒的多数で支持されたのです。「もう、高3にもなってクレヨンしんちゃんかよー」と言っていた私ですが、「先生、なめちゃだめですよ。半端なく良いですよ」と生徒たちに諭されOKを出したのです。そしたらですね、やっぱりこれが面白いのですよ。歴史考証がしっかりしているというのは評判になっていましたが、これだけの精度でアニメ画面に当時の家屋だとか城郭だとかが展開して見事も見事。城の入り口の開閉門とか濠とかTV時代劇ではこれだけ本格的に作ってくれませんし、戦闘シーンも派手な流血こそありませんがそれ故にリアルで、火縄銃や槍・刀が飛び交う戦場シーンをよく見ている生徒も「投石」は新鮮だったようです。殺陣も戦闘のモブシーンもスタイリッシュに演出されていますし、クレヨンしんちゃんが本来属しているマンガの記号世界のデフォルメ、オーバーアクションとはうって変わって動きもずっしり本物です。侍たちに炊き出しのおにぎりを出す時に疲れているだろうから塩気を多くするとか、戦争が政治交渉の道具となっているという歴史通好みの設定なんか堪えられません。しかも武士団もそれをわきまえていて、退却の合図が敵方から出たら石垣にへばりついている敵兵に「ほらほら、帰れ」って追撃しない。「戦争にルールみたいなものがあるんだ」と生徒も感心していましたが、確かに現代のスポーツマンシップに近い雰囲気があります。中でも又兵衛の武将としての高潔な感じは最高で、彦蔵と儀助に金子を持たせ(その義に感じて傘下に下った二人が又兵衛とともに本陣に切り込んでいる辺りなんか感興極まります)、真柄直高と「さあ、やれ」「お主は殺すに惜しい」…。その心の強さ、情の篤さ、みんな格好良い! これだもの、最後に銃声が轟いた時に「えっ」という声が上がったし、鑑賞後涙を流している生徒が何人もいたのは当然だと思えました。
思えば今の高校生は完全に平成生まれで、子どもの頃に名作童話や昔話で世界観を作るのではなく、ジブリ作品やドラえもんとかがファンタジー世界の中核になっている世代なのです。そして昨今、本当に素晴らしい邦画が増えてきたのと期を一にして、アニメの世界でもこういう志の高い作品が出来ていたのですね。「子ども向け作品だからと言って子どもに迎合した作品を作る訳ではない。むしろ子ども向け作品だからこそ本当に自分の伝えたい価値をぶつけるべきだ」ウルトラマンシリーズや虫プロ・東映動画に関わっていた過去のクリエーター達の様な意気・気骨の復活を感じるではないですか。「自由に恋愛をし、家族を作り守り、そして自分たちの生まれ育った地域を愛する」「自分の分を守り、その中でベストを尽くし、敵側にも理があって、自分たちの知らない世界もあって、それに柔軟に対応する高邁な精神」そして本作が9.11の比較的直後に制作されたという意義も大きいかも知れません。米国がイスラム諸国に対してどう行動すれば良かったのか、そして日本がどういうスタンスを取るべきだったのか、又兵衛や春日の殿様の選択の方がはるかに賢明な態度だったか知れないのです。
銃声が轟くあの結末はタイムトラベルのパラドックスを整合させる設定として新機軸であると同時にドラマ最大の帰結点で、悲しく切ないけれど本当に素晴らしい締めくくりだったと思うのです。そして殿様が述懐するように「この者達の時代には春日の名もなく、有力な戦国大名すら残っていない」訳で、歴史の大きな流れは変えられませんが、その中で個人は自分の生を精一杯に生きていて、その思いは時空を超え相通じ、お互いの心に清々しい痕跡を残すのです。そして戦国時代にあって争い合う者達も、身分の壁のためお互いの愛を打ち明けられない二人も心通わせる。しんちゃんは彼等にそんな素晴らしいものをプレゼントするために遣わされた天使のような役回りです。だから最後の又兵衛は大好きだった青空のように澄み切った気持ちで…。
これはファンタジーではない。現に我々は今、クレヨンしんちゃんのキャラクター世界を共有することによって素晴らしい価値を本作から分かち合っているではないですか。私も「クレヨンしんちゃんなんて…」と頑なだった心に柔軟性を持たせたお陰で、卒業生達が無意識のうちに共有していた素晴らしい価値と心通わせました。みんなありがとう。私なりに、本作が伝えようとしたその素晴らしい価値が何なのかを言語化しました。でも彼等の持つシンプルかつ純粋な言葉の方が力を持つこともあります。最後になりますが、ある生徒たちが残してくれた、本作の感想を引用して本稿を締めます。
「どの時代でも空は青くて、どこにいてもつながっていて、素敵だなって思いました」
ここまで-----------
涙無くしては・・・ 72点