たんなるエスノグラファーの日記
エスノグラフィーをつうじて、ふたたび、人間探究の森へと分け入るために
 



7月の末から、O大学およびS大学の学部学生が、サラワクに来ていた。そのうち、O大学の男子学生、Nくん(3年生)とSくん(2年生)の二人が、1ヶ月弱の間、わたしのプナン人の調査村に滞在した。正確には、彼らは現在もプナン人の村に滞在中で、28日に帰路につく。わたしは、マラリアの血液検査のために、一足先にビントゥルに出てきている。

他者(異文化)にゼロ接近し、他者の苦悩と悦楽に寄り添いながら、他者を出発点として、人間を立体的に把握するための糸口を見つけ出すことが、そのフィールドトリップの主な目的である。そんなことが、異文化の短期的な滞在で、はたして可能か?無理だ。それは、そういった傾向性を身につけること、そのような実践を積み重ねていくことによってのみ可能になる。この2年の間、わたしは、ボルネオ島でそんな試みを続けている。その背景には、(やや大袈裟に言うならば)、人類学を教える側が、20世紀の最後の4半世紀の間、表象をめぐる部分的な議論へと自らを縮減するあまり、問題を迂回できる、近場の身近な他者でフィールドを済ませたり、フィールドの成果を「よき社会の実現」のための資材にしようとしたり、問題含みのフィールドに傾注しないことさえもよしとするような、志の萎んだ、不毛で、頭でっかちな、フィールド軽視の人類学を生み落としてきたことを猛省して、人類学教育のなかに、個人的レベルながら、われわれにとってなじみの薄い他者のフィールドワークの実践を積み重ねたいという思いがある。

NくんとSくんの滞在スケジュールは、わたしがビントゥル・ホスピタルでマラリア熱に倒れていた時期と重なった。わたしは、彼ら二人を、先にプナン人の村へと送り込むことにした。彼らに9日遅れて村へと戻ってみると、インドネシア語(=マレーシア語)に力を入れて事前に勉強してきたことも手伝って、とりわけ、子どもたちとうち解けて、良好な関係を築きながら、たくましくすごしているようだった(長袖・長ズボンで防備しているわりには、からだじゅう、蚊や虫に刺されていたが・・・)。プナン人たちは、わたしがいない間にやって来た彼らの暮らしぶりを、親しみをこめて、おもしろおかしく、わたしに語り聞かせてくれた(そのことを、おそらく彼らは知らない)。

彼らの滞在最終週近くになってから、ようやく2回連続で、狩猟キャンプに出かけることになった(2泊3日×2回)。車に乗って出かけた狩猟キャンプ。NくんとSくんは、夕暮れがせまるころ、別々のプナン人について、油ヤシのプランテーションで行われる<待ち伏せ型>のハンティングに出かけたが、あいにく激しい雨が降って、獲物はしとめられなかった。2日目も、同様に、獲物はなかった。プナン人たちは、<ぼやきことば>をつぶやきながら、狩猟キャンプへと戻ってきた。続いて、総勢20人ほどで、船と徒歩で出かけた狩猟キャンプでは、周辺地のジャングルの狩猟行の厳しさを知るプナン人たちから、彼らがハンティングに同行する許可が与えられなかった。しかし、その狩猟行では、プナン人のハンティング・スピリットが発揮された。油ヤシの実を食べに来た40キロほどの大きなメスのイノシシが撃ち殺され、夜の9時すぎに、狩猟キャンプに運び込まれてきた。夜の涼気の中で、体から湯気をあげながら、イノシシは解体され、すぐさま内臓や肉が料理された(写真は、解体作業をするプナン人と、それを見つめるNくんとSくん)。

NくんとSくんは、プナン人の村に滞在中は、センザンコウ、カエル、ヤマネコ、シカ、イノシシなど、食事に出された獣肉は、だいたい何でも、プナン語で「うまい(mi)!」を連発しながら食べていた。他方で、彼らは、プナン人の生活モードや、日本人にとってなじみの薄い強烈な交渉・行動様式にとまどい、「文明」世界を恋しく感じながら、時間とともに、多少疲れてきているように見えることもあった。しかし、全体をつうじて、(隣村の年頃の女の子に気に入られたりして!)うまくやっていたように思う。 彼らは、プナン人の村での滞在をつうじて、いったい何を見た(聞いた、嗅いだ、感じた)のだろうか?このフィールドトリップは、彼らの心に新たな火(世界の別の見方の火?)を灯すきっかけになるだろうか?

----AGAK NYI, N, S!----


コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
ただいま (カワナベ セイジ)
2006-09-16 10:56:50
木曜日に無事、日本につきました。

速攻で、皮膚科に直行しましたが、医師曰くとくに大きな問題は無いようです。飲み薬と塗り薬を処方してもらい治療しています。



その他、体調のほうもとくに異変はありません。

ただ、後一ヶ月くらい夏休みが欲しいです・・・



iyeng puun ukin!

kawanabe seiji
 
 
 
Re: ただいま (プナンの犬)
2006-09-20 15:11:55
RENG KIE AVI TON BINTULU.

"iyeng puun ukin!" ERETI NA "IYENG KUNYI" TON PULAU BALI!

BUAT NYI!
 
 
 
お疲れ様です (カワナベ セイジ)
2006-09-21 01:33:26
あぁ~なるほど。・・・・わかりません・・・。

なんですか? 

tiada cewek di bali....saya tidak bisa cari ukin ですか?

先生、いつか、時間あるときに、なるべく早く、可能な限り、プナン語の辞書作ってください笑!



dan saya mau anda ambil foto kaki JOY. dan tolong kirim saya. karena saya sudah coba itu tapi anak di sana poton FILM saya... mungkin anda tau itu. saya pikir mau pakai foto kaki JOY untuk JAM .
 
 
 
Re: お疲れ様です (プナンの犬)
2006-09-21 12:25:10
> tiada cewek di bali....saya tidak bisa

> cari ukin ですか?



Yes, just like that.



> dan saya mau anda ambil foto kaki JOY. > dan tolong kirim saya. karena saya

> sudah coba itu tapi anak di sana poton > FILM saya... mungkin anda tau itu.

> saya pikir mau pakai foto kaki JOY

> untuk JAM .



First, he recently adopted NYUAK's daughter --- SALLY( Penan Beauty !)'s sister --- and is looking for a Japanese name for her. Second, when I went hunting with him at LONG ALET at night he showed me the shelter you and he stayed in one rainy night. That came to be a kind of historical site! Third, lately he together with SUTAI hunted one more wild boar in LADANG ADAH. Those are some of the news concerning JOI. Well, I try to take the picture.
 
 
 
selamat malam! (Yui Utsumi)
2006-09-22 00:47:37
Apa kabar pak Okuno!?



anda masih ingat sama saya? saya teman seiji.



anda sudah sehat sakit Mararia pak? saya gelisah2 kepada anda kalau dengar begitu dari seiji.



saya sudah di Bali sebulan.saya tinggal di rumah teman saya.Di situ bisa tau banyak tentang orang Bali. saya senang sekali di bali.



saya belajar bahasa bali dan tarian bali. sudah bisa sembahyang!



nanti mau belajar lagi di sekolah.



saya tunggu di jepang kepada anda pak.karena saya mau belajar dari anda! pak!



Terima kasih ya!
 
 
 
Re: selamat malam! (プナンの犬)
2006-09-22 11:51:10
Waooo, you can pray in Balinese, can't you? I am now much interested in Margaret Mead's work. She together with Gregory Bateson published a book on Balinese Characters( you can find the book in Japanese in our library). See you!
 
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